まってい貴族とTSキメラの地元復興計画   作:桐型枠

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95.個人情報を頭に入れよう

 

 

 さて、ある程度の行動指針が定まったことで、俺のやるべきことも定まった。宗教団体「星の子」の集める信仰心を削ぎ、ただの慈善団体としてそのあり方を再定義することだ。

 ブチ壊すなんてちょっと過激なことこそ言ったが、別に俺は新興宗教に対して偏見があったり、あの宗教団体を破滅させたいわけではない。あくまで俺が目指すべきなのは運営の健全化、それに伴って村へ平和的に引き入れることだ。

 そのためには強引な手段を用いることはむしろ避けなければならない。その上で俺がやるべきことは――。

 

「パイセーン、どうにかこうにかまとめ終わったっすよー……」

「ありがとう。そこに資料置いといてくれ」

「ういーす。じゃ、もちょっと調査行ってきます」

「ああ、頼む」

 

 後輩が山積みにして用意してくれた、「星の子」信者の資料を全て読み込んでおくことだ。

 住民票や職歴といったデータだけでなく、聞き込みなどを通して得られたこれまでの経歴を頭に入れておかなければならない。結構踏み込んだ個人情報ではあるが……そもそも俺はサラク村の村長だ。公的機関に属する人間である以上はその管理も仕事の内なので問題はない。漏洩したら問題だが。

 

「うげぇ……兄さま、この量どんだけ読み込むのよ……」

「全部頭に入るまでだ。じゃないと対策も組み上げられない」

「これ全部……」

 

 横で流し見しているリンデにとって、山のように積まれたこの資料の量はちょっとうんざりするほどのものらしい。

 実際俺もうんざりしているが、これも仕事だ。このために他の仕事も今はあまり手についていないくらいには。

 頭の上でフローが退屈そうにあくびした。同席しているだけのクリスは文章量に辟易しながら問いかけてくる。

 

「これを見て何がどれほど分かるのですか?」

「……そうだな、まずあの団体に所属している人がどういう傾向が多いのかを把握できる」

「傾向っていうと?」

「色んな見方があるが……そうだな」

 

 俺は二枚ほどのデータをピックアップしてその場に掲げて見せた。

 

「例えば独身者が多いか、既婚者が多いか。有職者が多いか、無職が多いか……どういう層に対して訴求力が高いのかを知るんだ。そうすれば特定層に関心を惹くための手を考えられる」

「元々何か仕事してたなら、それに関連した仕事を紹介するとか?」

「どちらかと言えばそれは失職者に対しての話だけど……そんなところ」

 

 単に職業の斡旋だけでなく、イベントや交流を通して心を掴む施策をする必要がある。

 そもそも、人は仕事だけに生きるわけではない。むしろそれ以外の占める割合の方が圧倒的に多いんだ。仕事を紹介すればいいという話ではない。こうしたデータはその塩梅を見極めるための一助にもなりうる。

 

「こうして見ると、なんというか……彼らの手伝いをしてあげているように見えるのですが……」

「それも大きく間違ってるわけじゃない」

「え……!?」

「大人しく村に移住してくれるなら敵じゃないんだ。それどころか労働力として村の助けになってくれる。無闇に圧力をかけても逆効果なんだよ」

「なるほど……」

「良い印象を持ってもらうに越したことはないってわけね」

 

 これが異教でなく、治安を乱す邪教の類ならば俺も容赦せず隙を見せたら捕縛してしまえ、と言うかもしれないが。

 困ったことにそういうことはないので、俺も今苦労しながら色々と頭に入れることになってるわけだ。

 

「明日から面談もしていくつもりだ」

「……一人あたりの時間を管理しないと大変なことになりかねませんが」

「それは理解してる。もっとも、問題はそれだけじゃなくてだな……」

「何かございましたか?」

「いや、これは改めて対面してみないと分からないことだから断言するわけにもいかない」

 

 ……俺の思うような人がいないといいんだけどなぁ。

 いるんだろうなぁ。

 いてほしくねえなぁ……。

 

 ともあれ後日、一通り個人情報に目を通すのが終わったので面談を始めたのだが、最初に面談の要請に応じてくれた人はそれだけモチベーションも高く、あまり問題も起きることは無かった。

 元々仕事をしていた者に関しては継続して同じような仕事を希望する者が多く、失職者に関しても本来やっていた仕事に再就職を希望するケースが多い。村の中でそうした仕事ができるかはともかく、似たような仕事ができるように手配することも俺の役目だ。これは喫緊の案件として議題に挙げることが決まった。

 そして、俺が憂慮していた件だが……。

 

「俺に合った仕事が無い以上仕方ないと思いませんか?」

「はあ……」

 

 案の定と言うべきか、慈善団体であるが故に当然にと言うべきか……仕事することそのものを望まない人もいるわけである。

 元々「星の子」は無償で炊き出しを行うなどの慈善事業を行ってきた団体だ。これに目をつけ、手伝う()()だけしてタダ飯にありつこうとする者も当然現れる。

 流石に危険地帯と名高いサラク村まで同行してくる人というのはちょっと気合入りすぎだが、セラフィマさんの力を見た上で考えるとリスクはそれだけ軽減されているかもしれない。

 彼らの立場になって考えると……「こんな危ない場所までついてきたのだから報酬があって当然だろう」と言ったところか。

 横目で見ると、明らかにクリスが苦々しい雰囲気を出している。真面目だしこういう相手は苦手だろうな……。

 

「大人なのにそんな仕事に選り好みしてちゃダメでしょ。生活できないわよ」

 

 リンデは男に対してそんな率直すぎる感想を述べた。

 ……正直それは思うが。思うけども! 多分その理屈が通用しないんだよ……。

 

「君は知らないのか? 『星の子』ではセラフィマ様がいくらでも食料を作り出してくれるんだぞ?」

「はぁ?」

「……なるほど」

 

 推察するに、セラフィマさんはどうやら神器のレプリカを食料の増産に用いているらしい。

 環境改変による急成長か何かと言ったところか。野菜の類しか作れないだろうが、なるほど、これなら度々炊き出しをしていたのも納得がいく。

 

「承知しました。無理強いはしませんのでお好きなようになさってください」

「理解していただけて結構です」

 

 いいの? とばかりにリンデが顔をしかめた。

 よくはないが……仕方ないだろう。俺たちも忙しいんだ。こういう頑なな人に対してあまり時間を長く使ってはいられない。

 男が退室した後に、俺はひとつ息を吐いた。

 

「ああいう手合いが紛れているのは予想できたが、想像よりも早く見つかったな」

「想定していらしたのですか?」

「一応領主の息子だから自ら望んで無職で居続ける人の割合は知ってる」

 

 分かりやすい異邦人(ストレンジャー)由来の言葉で言えばニートである。

 傷病者でもないのに働かず、公的保障の世話になっている人も……数だけ言えば少ないわけではない。先程の男も、家を追い出されたけど食っていくに困らない場所に身を寄せたということはありうる。

 ……無職だった者の何割かはこういう人間だ。こういう人が多くいてほしくないというのが正直なところだが、仕事をする、しないというのはあくまで当人の自由意志だ。少なくとも公的な立場にある人間がそれを押し付けるわけにはいかない。

 

「なるべく皆がちゃんと職について助け合いをして……っていうのは理想的だが、あくまで理想だ」

「そういう人ってどうすればいいの? ほっとくしか無いの?」

「保護者がいなくて金が無くなれば働くしかなくなるから、それを待つか……本人が自発的にやりたいことを見つけるか、だろうな。根本的な対策は難しいよ」

 

 働けない人への社会保障は十全に行われるべきだけどな。

 問題は……セラフィマさんがそういった人を見捨てられそうにないというところか。善意で炊き出しをしていたのなら、なおさらに。

 

「まあこの件に明確な解決策は無いからこのくらいにしとこう。次の人は?」

「ハンター志望のクジマ・マルキンという方……あの片刃剣を使っている者のようです」

「分かった」

 

 その人物の名前を俺に告げると、クリスは立てかけていた槍を手に取った。

 恐らくは牽制のつもりだろう。クリスの立ち居振る舞いは、見る人が見れば確実に強者と推測できるほどに研ぎ澄まされている。仮に彼が何らかの刺客だったとしても行動に移すことはできないだろう。

 少し待つと部屋の扉が開き、クジマという男は廊下で正座して俺達を見据えていた。

 うわぁ……変な人だ……。

 

「お初にお目にかかる。拙者マルキン家のクジマと申す者! 一宿一飯の恩義に報いるために『星の子』に同道しておる」

「やたら濃い人よ」

「言葉を控えなさい」

 

 濃い人なのは間違いない人である。

 年齢は30前後だろうか? 稲わらを編んだらしい編笠を着け、東国の方で流通しているらしい衣服……着流しを着用している。髪は黒く、瞳はフェデリカさんと同じく、雷の魔力適性を示した薄紅色。明らかになんというか周囲の風景から浮いている。

 しかし、彼の姿には一分の隙も見られない。下手に踏み込めば一瞬にして首を刈られるのではないかという冷たさすら感じるほどだ。

 俺以上は確実、下手をするとトビーと同格……こんな人が一宿一飯の恩義だけで泡沫宗教団体に所属してるってマジ? どうなってんの?

 

「義理堅い方のようですね。ハンターを志望していらっしゃるとお聞きしましたが……」

「うむ、他に思い浮かぶ仕事が思い浮かばぬ故にな。拙者、東国の文化に合わせて用心棒というものになりたいと思っておるが」

「護衛ということでしょうか?」

 

 護衛の概念に過剰反応するんじゃない。

 

「いや護衛ではなくてなぁ……何と申せばよいのか……」

「では傭兵のような?」

「概念としては似ておるのかもしれんな。ともあれ、主君を定めることなく多くの人を守りたいのよ」

「軍ではいけないのですか?」

「ひとつ所に留まりたくないのでな」

 

 難儀な癖の持ち主だな。

 別に悪事を企んでる風でないからいいけど……クリスも嘘を感知していないし……。

 

「ではハンターとしてギルドに登録をお願いしましょう。近く試験もあると思いますので、手続きなどはギルドの方に行っていただければ対応致します」

「うむ、感謝いたす」

「何かご不満などありますか? 村長として何か対応できるならさせていただきますが」

 

 さて、面談と言う以上は仕事の件以外にも色々と対応すべきことをピックアップする必要がある。

 対応のためには色々と手間がかかるが、「星の子」信徒の心を掴み、村に対して関心を向けてもらうには必要なことだ。

 

「では……住居についてなのだが」

「あ、はい」

「拙者、あのような可愛らしい家というのはいささか馴染めんでな……何か別な建築物があればそちらに移りたいのであるが……」

「そっすね」

 

 でしょうね。

 ちなみにこの人で住居に関する文句は10件目である。

 

 

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