まってい貴族とTSキメラの地元復興計画   作:桐型枠

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96.嘘にできないものと嘘を暴くもの

 

 

「外に出られなくって暇なんですけど~」

 

 さて、何はともあれ山積みになっている仕事がひと段落ついた後、俺は地下でマリーに全力でダル絡みされていた。

 異教の宗教団体「星の子」が村に移住を始めて数日。その間、暗殺に警戒するためにマリーは外出を制限されている。当然ながらやることは今までよりもガクンと減ってしまっているので、暇だと考えてしまうのも致し方ないことだった。

 その辺りはこちらも承知の上なのである程度意識して仕事を割り振っているのだが、そもそもマリーの手を必要としないことも多いからなぁ……。

 とはいえ時間は既に夜の9時近く。暇と言われても今から遊びに行くわけにもいかないのでちょっと困る。

 

「と、言われてもな……」

 

 しかしだからと言って、外に出ていいと言い切るわけにいかないし、やれることを今からすぐ増やすというのも難しい話だ。

 そうなると、できることというのは限られるわけで……。

 

「本くらいなら買ってくるぞ」

「ものの1時間で読み切っちゃうからいいよ。いや買ってくれるならありがたいけど」

「そんなに暇なら一旦侯爵家(うち)に移るか?」

 

 元々、マリーがサラク村にいるのは領都などと比べて人が少なく情報が漏れる危険性が少ないからだ。

 クリスとパトリシアさんによる警備もまさに鉄壁。中途半端に軍に守られているよりかはよっぽど安全だ。

 ……が、こうして宗教団体が村の中に入り込んでいる現状だと、万が一がありうる。領都に身柄を移した方が今は安全な可能性はあった。

 

「それはいいよ。ボクがこっちにいなきゃ困るでしょ?」

「それは……そうなんだが。マリーの安全より優先することじゃないだろう」

 

 正直、少なくとも世界で五指に入るレベルの優秀な魔道具技師がいないと超困る。

 村の中で……というか、多分領内、聖王国内を探してもあれだけ自由自在に物品に術式を刻むことができるのはマリーだけだ。

 ただ、それを命よりも優先してはいけない。必要があるなら俺はパトリシアさんに命じてマリーを領都(エウテルペ)へ送るしかなくなるだろう。

 

「っていうかぁ……ほら……俺が守る! くらいのこと言ったりしない?」

「俺より圧倒的に強い人材がいるのにそんなん言っても虚しくなるだろ」

「そだね」

 

 そりゃやろうとする気持ちはあるよ。けどクリスがいる以上そっちに戦闘などを任せる可能性は高いわけで、俺がどうこう言っても結局嘘くさく聞こえてしまうことだろう。なので余計なことは極力言わない。

 何ならフェデリカさんだとかトビーだとか普通に強い人材もいるのでそちらを雇ってもいい。

 

「でも一応? ほら? ボクらって……一応ほら……」

「一応何だよ」

「こここ、婚約してるような……ものじゃない?」

「…………お、おう」

 

 恥ずかしさをごまかすためか、やたら珍妙なポーズで俺を指差してくる。

 こう改めて言葉にされると気恥ずかしいが、シムゾニア皇帝陛下から話が出た時点で……というのはマリーにとっても共通認識のようだ。

 俺の方も多少ならず顔が赤くなっているかもしれない。掌で隠しながら応じる。

 

「これでボクを遠ざけちゃったら本国から抗議が来るかもなー……とか思ったりしない?」

「う……それは、そう……だな……」

 

 場合によっては、それこそ皇帝陛下本人が覆すようなことがあれば取り消しになることもありうるが……双方の実利を考えても、安易に覆ることはないだろう。

 それに、その話は既に父上に伝わっている。いくら皇帝陛下の方が立場が上だからって言っても、あちらの都合で一方的に断られたら外交上の問題に発展したっておかしくない。

 で、逆にこちらにとっても、マリーを軽く扱うことは許されない。元々軽く扱う気は無いが、マリーが実家にひと声かければ抗議文が実家に届いて大変なことになるだろう。

 

「というわけで、近いうちに暇な分の埋め合わせを要求します」

「というわけでって何だよ。それに埋め合わせってどういうことだよ」

「というわけでっていうのは……そういうわけだよ」

 

 ゴリ押しやめろ。

 

「埋め合わせは、ほら、簡単だよ。この件が終わったら村の中でくらい外に出られるようになったらいいなって」

「どこが簡単だよ」

 

 無茶苦茶言いやがる。

 ……だが、そう望むことも理解できる。サラク村に来て以降、マリーはずっと外にも出られずフラストレーションを溜め続けてきた。「星の子」が来て以降は実質的に軟禁状態だ。

 できればどうにかしたい、という思いは確かにあった。が……さて、どうしたものだか……。

 

「ダメかな……」

 

 上目遣いで問いかける姿を見ていると、どうにもこうにも否定する気が失せてしまう。

 こっちとしても後ろめたい気持ちはあるから、どうにもな……仕方ない。

 

「分かったよ。できるだけのことはする」

「へへっ。そういうとこで力を尽くそうとしてくれるのやっぱりレスターだよね」

「どういう意味なんだか……」

 

 ちょっぴり気恥ずかしくなり、俺は顔をしかめながら部屋を後にした。

 と、そんな感じで部屋の外に出たが、そこで俺が目にしたのはクリスとパトリシアさんと対峙するリンデの姿だった。

 

「だから今からあたしが斧の継承者になってこの部屋をちょっとえっちな雰囲気に作り変えるってのよ!」

「いったい何を言っているんだリンデ……!? まるで意味が分からないぞ!」

「そもそも『斧』は現在行方不明でございますよ」

「ええい、じれったいわね!」

「何やってんの……?」

「兄さまの焦らし名人!」

「何言ってんの……?」

 

 ある意味いつもの光景だった。

 今日も俺の妹分の脳細胞はドピンク色である。

 

 


 

 

 さて、色々と新たな約束を終えた俺だが、仕事は待ってくれない。

 深夜。皆が寝静まった頃合いを見計らい、俺たちは会議室に集まっていた。

 

「森」

「川」

「なあ(ボン)、なして毎度毎度報告会するんに変な合言葉言い合うんや?」

「俺が聞きたい」

 

 そして後輩は毎度の如く入室にあたって合言葉のやり取りを要求していた。

 形から入りやがってこいつはよぉ……今そういうことしてる場合じゃないっていうのに。

 なんて思いつつ微妙な表情をしていると、横から侯爵領政務官の制服を着用した金髪の女性が小さく息を吐いた。

 

「わざわざ合言葉なんて作ってしまったら密談をすると丸わかりでしょう。減点ですねぇ」

「げえっ、ローリエの(ねえ)さん!?」

 

 その人物こそ現在、「星の子」に潜入捜査中のローリエさんである。本来なら普通の衣服を着用しているが、わざわざ政務官の服を着用しているのはこれが村と領都との政治絡みの話と誤認させるためである。

 俺にとっては数年ぶりに会う元上司であり、現在の麻偵のナンバー2。後輩から見ると頭の上がらない上司と言えよう。

 

「大声を出さない。減点です」

「うえぇ……パイセン……この減点姐さんなんとかしてくださいよ……」

「俺も内心減点してんだよ」

「嘘でしょ」

 

 10割マジである。

 というか何度も注意受けてるんだから改めろよいい加減。

 ……という話をしてしまうと、今日の目的が達せられないので一旦置いておく。

 この場に集まっているのは俺とメレディスにローリエさん、後輩の4人だ。クリスは警備係として外で待機しており、誰かが盗み聞きしたりしていないかと警戒している。

 多分マリーは起きててこの会話盗聴しているだろうが、まあいつものことだしマリー本人にも関わる可能性もあることなので放置している。

 

「話進めてええやろか?」

「頼む」

「今日集まってもろたんは宗教団体『星の子』ん内偵で追加報告お願いしたいからっちゅー話やけど、どないやろか?」

「問題ありませんよ。ではレスター様、ご報告の方させていただきます」

「よろしくお願いします……先輩にこれ言うのなんか変な気分だな」

「うふふ、慣れてください。今は昔と違ってレスター様の方が上の立場ですから」

 

 イタズラっぽくローリエさんが微笑む。

 俺は父上から麻偵の権限について一部委任してもらっている。組織を動かす権限があるという意味では、上の立場と言って間違いないんだが……なんというか、昔の感覚がまだ離れないんだよな。麻偵在籍当時は直属の部下だったし。

 

「事前に伺っておりました通り、違法薬物の『取引』でなく『単純所持』に絞って内偵を続けました。実物はまだ確保できておりませんが、おおよそご推察の通りだと思われます」

「根拠は?」

「代表者であるオズワルド氏の写真を入手しました。こちらが現在の風貌。対して、こちらは4年前です」

 

 ローリエさんが提示したオズワルドさんの写真を見比べる。睡眠不足と栄養失調で目が落ちくぼみ、頬もこけている現在のそれと比較すると、血色も良いしちゃんと肉もついている。

 普通はここまで大きな特徴が出ることはあまり無いのだが……だいぶ症状が進行しているな。末期症状とまでは言わないが、見る人が見れば分かる程度の違いがある。

 

「確定とまでは言えないんじゃないっすか?」

「だが可能性は高い。無視はできそうにないな」

「治療とかしないんっすかね?」

「できるもんなんか?」

「難しいだろうな。まず本人に治す気が無いと……」

 

 薬物治療というのはかなり難しい。何より本人が治す気にならない限りちゃんと薬物を断つということができないし、仮にできたとしてもちょっとしたことで元の木阿弥になる可能性がいつでもつきまとう。

 他の治療と明らかに異なるのはこういう、どうやっても本人の意志の力が関わってくるあたりだ。

 

「神器のレプリカは確保できそうですか?」

「セラフィマさんが肌身離さず持っていらっしゃるので厳しいですね」

「なら仕方ないのでそちらはサブプランに回してください。基本は薬物の単純所持から突きましょう」

「承知しておりますよ」

「背後にいそうなものについては?」

「すみません、繋がりが途絶えておりますのでまだ何とも。しかし彼らの信奉する『神』についてはある程度の情報が得られました」

 

 できれば背後関係を洗いたかったが、そういうわけにもいかなそうだな。

 ただ、そこに絡みがありそうな部分について分かるなら収穫だ。促すと、ローリエさんは少々首を傾げながらも続けた。

 

「正教の信奉する神とは別の神ですね。『飢餓』を憎み、万人の飢えを満たす神と称されておりますが……正式な名前などは無く、ただ神とだけ称しているようです」

「何や、お題目だけ見ると悪ないんやな」

「神器のレプリカはその神に与えられたもの、などの由来があるとかは?」

「そうですね。とはいえ正教と対立するような考えがあるわけでもありませんので……そこまで問題視はされておりませんでした」

「ふーん……」

 

 万人の飢えを満たす……ねぇ。

 炊き出しをしていたのはまあ、確かに教義の通りだ。間違いなくそれで救われている人がいると確信できるくらいには。

 正教としても、別に異教徒を弾圧したりはしない。むしろそれで救われる人が増えるなら別にいいと推奨しているくらいだ。

 そうした観念のもとで育っている人間としては、確かに別段問題は無いような気もするんだが……しかし、だとすると神器のレプリカ、その出処が気にかかる。

 俺たちは、「槍」のレプリカらしきものを先に見ている。「斧」のそれは教義に適うものと言えるにしても、そちらは飢えを満たすための道具とは到底言えないだろう。

 

「そちらの線を一度洗ってみていただけますか。俺も少し気になる部分がありますので」

「承知しました。どこと繋がっているか、せめて書面くらいは見つけてみせましょう」

「よろしくお願いします」

 

 マリーを狙う暗殺者どもと由来が同じだと仮定すると……神から与えられたなんて大ホラの可能性が高い。

 ……セラフィマさんたちは善良に見えるんだがな。暗殺組織を飼ってる連中と由来を同じくするのであれば、話はまた変わる。

 せめて利用されてるだけとかであってほしい、と思うんだが……こうやってちょっと贔屓目で見てしまっているのは、ある意味籠絡されてると言うのかな……。

 

 

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