まってい貴族とTSキメラの地元復興計画   作:桐型枠

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97.分析と対策

 

 

 ローリエさんと情報共有を行った翌朝、かなり早い時間帯に目を覚ました俺は、それなりに早い時間帯にしか対応できない次兄(あにうえ)に通信を送ることにした。

 マリーに対して安全を確保して埋め合わせをするということをぶち上げ……させられた以上、俺は自分にできる全力でもってそれに応えるべきだ。

 なお、この場合における「全力」とは、必ずしも俺が独力で頑張ることを示さない。ここで用いるのは、たとえ空間魔法の使い手(ユーニス)でも容易には読み取れない程度にノイズの混じる高度な暗号化回線だ。内密の話となればこうした部分でもできるだけ気を配る必要があった。

 

『どうしたレスター? 珍しいじゃないか、お前からこんな風に連絡を送ってくるなんて』

「早朝に申し訳ありません、次兄(あにうえ)。確認したいことがあるのですがよろしいですか?」

『いいぞ。議会が始まるまでだから……すまんがあまり時間は取れそうにないが』

「数日中に対応いただければ問題ありません」

 

 多少急ぐ必要があるので早急にと表現はしたが、こちらの事態が収拾するまでに情報が入ればそれで問題は無い。

 そもそも、村から動くことのできない俺では仕入れづらい情報だ。次兄に頼る以外に今は手がないので多少遅くなることも織り込み済みである。

 

「あの方の件なんですが」

『あの方な』

 

 高度な技術で暗号化されているとはいえ、万が一のことはある。できるだけ固有名詞を出さずにマリーのことを示しておくが……なんか変な組織のやり取りみたいだな。

 でも他に表現のしようも少ないしな。次兄にも伝わるようにしたら、立場的にこういう言い方になってしまうんだよな……。

 

「血縁の方に確認を取ったのですが、ご家族には被害は出ていないそうなのです。となると、別の要因があると推定できます」

『血縁……ああ、お前の同級生にいたな』

「ええ。なので情報は確かなのですが……」

 

 エーベルハルト殿下に確認を取ったことだ。帝室関係者では、マリー以外に暗殺の被害に遭ったような者はいないという。

 まあ、そうなればまず間違いなく大ニュースになっているはずなので、全く情報が入ってこないわけがないんだが……。

 

「そうなると、血筋以外が理由になります。恐らくは技術者であること」

 

 マリーの最大の特徴は、皇帝の血筋であるという点を除けばタブレット開発者ということが挙げられる。

 他にも竜人族の女性、という特徴もあることはあるが、こちらの特徴は他に該当する者が多すぎるので一旦候補から外していい。わざわざ他にいくらでもいるのに、有名人を狙う理由なんて無いはずだ。

 

『そうなるな。で、俺は何をしたらいい?』

「技師の死亡者数と失踪者数について、ここ数年間のデータを送ってください」

『そうか……そうだろうな』

「思ったよりも納得していらっしゃいますね」

『消去法で考えるとな』

 

 ……まあ俺もそういうことは考えてたし、次兄だって同じような考えに至るか。

 マリーに関して分かることはだいたい共有しているし、恐らく父上も似たような考えは持っているだろう。

 

「可能なら、該当者に護衛をつけていただければと思うのですが……」

『だが、分かっているだろう?』

「ええ、データとの相関関係が実証されなければ、公的機関は動けません」

 

 こればかりは仕方ない。次兄も政治家だ。手続きというものを大事にしなければならない関係上、どうしたってできることとできないことはあるものだ。

 一方で俺の方は割合自由に動き回れる立場だが、手勢があまりにも少なすぎるので動きたくとも動けない。証明はこちらでやって、実務をあちらに任せるという形になるだろうか。

 

「逆に言えば、実証さえできれば動いていただくことができるということです」

『それが分かっているならいい。一両日中にデータは送る』

「よろしくお願いします」

 

 ともあれあとは一旦待つだけだ。恐らくマリーが狙われた理由は、技師としての腕のせいだ。同じように狙われている人間がいるなら、傾向を掴んで先回りということも可能かもしれない。

 偽情報を流して追い込んで潰すか……あるいは、そもそもマリーが狙われる理由そのものを先回りして叩き潰すか。

 いずれにせよ、まずは次兄からの連絡待ちだ。それから情報を分析して傾向と対策を練るとするか。

 

 さて、そんなこんなで朝の連絡を終えたのだが、仕事を終えたわけではないのでまたここから色々とやることはある。

 とりあえず朝食の支度と畑仕事を終えた後のこと、俺はクリスを伴って会議のためにギルドの一室に訪れていた。

 ギルド側で出席するのはいつものようにトビーとラシェルさん。トビーは半分くらいその場にいるだけみたいなところはあるが、一応支部長であるためいてくれないと困るのは確かだ。

 ……で、なぜかこの場にはセラフィマさんも同席していた。

 

「……誰だコイツ!?」

「宗教団体『星の子』代表代理のセラフィマ・ジートキフと申します。よろしくお願いします!」

「お、おゥよ」

「事前に村長さんから来られると通達はありましたよ、支部長」

 

 純粋無垢にキラキラした瞳で自己紹介をするセラフィマさんに気圧されるトビー。

 しかしそもそも彼女が来るというのは事前に通達していた話だ。ビックリされても逆に困る。

 

「で、何の用だ?」

「支部長。もう少しちゃんとした態度でお願いします」

「悪ィがこれが俺のスタイルだ。受け入れられねェとしても貫くぜ」

「はい、構いません。これこそがその方の自然な姿ならば、私は受け入れるべきだと考えております」

「お……おゥ」

 

 すごい。トビーが逆に引いている。

 俺とのコミュニケーションでは大概アイツが自由なことをして叱られて、というのが前提になっているから全面的に受け入れてしまう相手なんて想定もしていないんだろう。

 トビーはコミュニケーションを言葉の殴り合いと思っているフシがあるというのは置いといて。

 

「大丈夫なのでしょうかこの会議……」

「わからん」

 

 後ろで聞いているクリスが思わず率直な感想を述べた。

 従者としての態度を貫くことの多いクリスにしては珍しいことである。それだけ変な状況とも言えるが。

 

「話そのものは前に進めてたことと同じだよ。ギルドも職業支援に携わってほしいってこと」

「ンな話あったかラシェル?」

「はい。村への移住者があった時に村長さんから。支部長はハンター志望者との面接で忙しいので私のところで止めておけと仰っていましたが……」

「おい」

「…………」

 

 まさにいつものトビーである。俺も想定してはいたが……なのでトビーひとりが話を聞いていなくても会議が成り立つよう手配してはいる。

 ……何で俺はこんな方向で変な気を回してるんだろうな……。

 

「『星の子』についても説明はした方がよろしいでしょうか?」

「竹の子?」

「……そちらは私の方で後ほど補足しておきます」

 

 ラシェルさんの口から小さなため息が漏れた。

 まあ、どちらにしてもニュアンスで理解しているなら別にいい。コイツとの付き合いのコツはある程度ニュアンスだけで受け流すことだ。

 

「今、私どもの団体には95人が所属しています。その半数ほどが無職なのですが……」

「多くねェか?」

「失職者と求職者もこの中に含んでいます。純粋に無職という方はその半分……20人ほどかと」

「そうか……いややっぱ多くねェか?」

 

 そこら辺の多寡に関しては今それほど重要じゃない。置いといて、と軽くジェスチャーで示すと一旦トビーはそこで矛を収めた。

 

「ギルドにそれを言うっつーことはそいつら、ハンターにでもすンのか?」

「いや、それは流石に考えてない。いきなり全てが自己責任の世界に放り込むことになるし、体の方もついていかないだろう」

「我々としてもそれは歓迎いたしかねます。適性の問題もありますし……」

「原石のひとりふたりはいるかもしれねェがな」

 

 ハンターが気質に合うかもまた別の話だ。日々の鍛錬は欠かせないし、道具の準備に狩猟対象の下調べなどといったこまめさも要求される。

 単に身体能力が高い、という素質だけでやっていける世界でもないだろう。なので俺としては、そもそも志望者以外はハンターを斡旋する気にはならなかった。

 

「そもそも今話したいのは働く気自体が無い人についてなんだ」

「あ? ンなヤツどうしようもねェだろ」

「だが金と食料が無くなればそうも言ってられなくなる」

「食べ物くらいは差し入れてもいいと思いますが……」

「セラフィマさん。甘やかすのは彼らのためにもなりません。申し訳ありませんが少し我慢してください」

「あぅ……」

「人間、お腹が満ちていれば余裕が生まれますからね……」

 

 どこか強い実感に満ちたクリスの発言が妙に心に残る。

 出自を考えると、そうだろうな。サラク村が一度滅びた60年前、クリスはひとりで放浪するハメになってる。食べるものもロクに無い状態で隣町まで助けを求めなければならなかったことだろう。

 空腹と疲労は生半可なものではなく、それこそなりふり構わず生きるための手を尽くしたはずだ。

 ……流石にそこまでのものは求められないし、そこまで追い込むつもりは無いが、金も食べ物もなくなった時の人間が見せるなりふり構わなさは少し出してほしいところだ。

 

「働かないと生きていけない状態になれば、よっぽど……例えば莫大な遺産があるような人でもない限りは働く選択肢を取るはずだ。その時にできるだけ多くの選択肢を用意して応じたい」

「なるほどな。話が見えてきたぜ。ハンターにしちまおうってことじゃなく、ギルドの中で任せられる仕事がねェかってことだな?」

「できれば日雇いで」

 

 ハンターの仕事という括りで見ると魔獣への対処が基本となるが、これがギルド全体の仕事という範囲まで広げるとかなり内容は多彩だ。

 ギルド併設の食堂は言わずもがな、事務仕事もかなり多いしトビーのバンドに代表される広報活動もある。ライブの設営だって立派に仕事として挙げていいだろう。外部の人間に任せられない仕事も多いだろうが、細分化すれば日雇い労働者に任せることで多少省力できることは間違いなく見つかるはずだ。

 

「ったくよォ。自分の責任なンだからほっとけよ」

「今のは聞かなかったことにする。村長(おれ)は村の住人のために手を回すのが仕事だからな」

「ハッ」

 

 それに、わずか100人に満たない程度の住人しかいない現状、ひとりでも放り出せば村の経営に影響するというのもある。

 多少手間であろうとも、今後のサラク村の運営のためにはこの辺の制度をしっかり構築しておかないとな。

 

「とりあえず食堂に事務に……っつゥとこか。とりあえず聞き取りすっか。書類は任すわラシェル」

「たまには自分で書類を作ってください」

「ハンコ押すからいいだろ」

「……村長さん、気安いやりとりとはああいうものなのでしょうか?」

「若干ニュアンスが違うと思います」

 

 先日の件から人と人が仲良くすることに関してちょっと興味を抱いたらしいセラフィマさんが首を傾げた。

 気安くはあるが、割とトビーが一方的に気安いだけなのであれをサンプルケースに含むのは少し抵抗がある。

 ……割と教育に悪い存在だなアイツ。

 

 

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