まってい貴族とTSキメラの地元復興計画   作:桐型枠

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99.特異個体の動向を予測しよう

 

 

 ところで、新たに住人となる「星の子」信徒も重大な問題だが、それと並んでかそれ以上に今考える必要があるのは村の主要産業……災禍の洞窟の整備とそれにかかる諸問題についてだ。

 この日、午前の作業を終えたところで俺はクリスとリンデを連れてギルドの方に訪れていた。

 

「あれ、レスター様ではありやがりませんか?」

「本当だ。おーい、村長さーん」

「こんにちは」

 

 入り口に差し掛かったところで、訓練場から声がかかる。ニネット嬢たちだ。

 片手を挙げて応じて改めて彼女たちの姿を視界に治めると、小脇に抱えた雨タヌキがまず目についた。

 以前のように追いかけっこでもしていたのか、4人の額には軽く汗が浮いている。

 

「何かご依頼でもあるのですか?」

「いえ、洞窟の作業についての打ち合わせで参りました。皆さんの方は……」

「はい。今回も訓練でございます」

「今日はようやくこいつを捕まえられたんだぜ!」

 

 ローラン少年は雨タヌキを抱え上げてこちらに示した。

 思わず感心で息が漏れる。半年くらい前まではついていくどころか翻弄されっぱなしでいたものだが、捉えられるようになったのならかなりの進歩と言えよう。これで中位魔獣の動きくらいなら対応できる可能性はあるはずだ。

 なお雨タヌキ自身は何を考えているのか分からないくらいぽけーっとしていた。

 

「やるじゃない」

「むふー」

 

 暇な時に度々一緒に外で遊……訓練していたリンデがサムズアップして讃えると、ノエラさんが得意げに胸を張った。

 いや、しかし結構な進歩だ。村に来たばかりの頃はガリガリで動けるのか心配するくらいだったしな。気付けば次の昇格試験も内定してるくらいに成長してちゃんと食べたおかげで背も伸びつつあり……。

 トビーの目指す次世代の育成がちゃんと成立している証と言えるだろう。

 

「そういや何でリンデも一緒なんだ? クリスさんは分かるけど」

「屋敷で組手をするわけにいかないので、訓練場を使わせてもらうことになっているんだ。よければ場所を貸してもらってもいいだろうか」

「無論です」

 

 普段は簡単な話し合いならクリスだけを連れているのだが、今日はクリスも言った通り体術の訓練をするためにリンデも一緒にいる。

 前々から、高すぎる身体能力を制御するために頑張っていたのだが、最近ようやく外でやっても大丈夫だろうとお墨付きをもらったためだ。もっとも、万が一のこともあるためまだクリスとしか組手のようなことはできないのだが……こちらもかなりの進歩だな。

 

「じゃあ俺はトビーと話があるから行ってくる」

「はっ。どうかお気をつけください」

「何を気をつけ……」

「レスター様? いかがいたしやがりましたのです?」

「何か問題が……?」

「……いや……問題というか……あまりに想定外のことがポンポン起きるものだから否定しきれなくなってきたというか……」

 

 突然空から飛行型の魔獣が強襲、なんてことも無いとは言い切れないし……なんなら実例もあるし……。

 何であるんだろうな、実例……。

 ともかく、なんとなく若干視線が生温かくなるのを背中で感じながら俺は扉を押し開いた。

 受付で挨拶を済ませ、支部長室へ向かう。ノックの返答を待ってから入室すると、トビーはいつものようにギターを弾いて待っていた。ついでに横に目を向けると、椅子に座ったまま迷惑そうにしているフェデリカさんの姿もあった。

 

「村長さん、なんとかならない? 待ってる間ずっとこの調子なんだけど」

「なりませんね」

「即答……」

 

 どうやらトビーはひたすら歌の前奏部分を弾きまくって、フェデリカさんに「歌え」と圧力をかけていたようだった。打ち合わせの場すら練習会場にしたいらしい。

 一方のフェデリカさんはステージや練習部屋の外で歌うことに関しては抵抗があるようだ。外に聞こえるのも恥ずかしいように見える。

 所構わずやるトビーがおかしいだけとも言えるか。

 

「おいトビー。仕事の話終わらせてからにしろ」

「嘆かわしいぜ。お前もバンドの正式メンバーなンだから説得してくれよな」

「誰が正式メンバーだよ」

「お前」

 

 臨時で入っただけなのにいつの間にか正式メンバーにされている。

 まあこのアホのこういうところは今に始まったことじゃないから一旦置いとくとしてもだ。

 

「洞窟の件、今日はそっちが呼び出したこと忘れてないか?」

「忘れてねェよ。興が乗ったのが今はこっちなだけだ」

「タチ悪」

「一旦コイツ放っておいて先に情報共有だけしましょう」

「賛成」

 

 悲しげな旋律がギターから聞こえてきた。

 被害者ぶってるけど10割自分のせいだからなこの状況。

 

「ここのとこ村長さんたち新しい住民の対応に忙しいからさ、今開拓と整備が終わってる場所の周辺を改めて調査してみようって話になったんだよね」

「お手数おかけしております」

「これも仕事だから別にいいんだけど……ちょっと例の、洞窟の模型みたいなの、出せる?」

「お望みとあれば」

 

 流石にいつも出しているものと同じサイズでは支部長室に出すのに大きすぎるため、大きさは適度な程度に留めることとなった。

 更に、わかりやすくするために既に整備が済んだ場所は別に色を塗っておく。これでひとまず準備完了だ。

 

「今回発見したのは?」

「特異個体……が、4種」

「……4種……」

 

 マジかよ、と内心毒づく。

 ギルドの方では「無制限の狩猟許可」を示す5つ星にならない限り特異個体の単独狩猟は認められない。現在の村において該当者はフェデリカさんとクリスのみだ。

 チームを組めばその限りではないにしろ、それでも多大な被害が出かねない相手だ。場合によっては街ひとつが滅び去る可能性だってありうるのでたいていは軍が対処することになる。それこそ神器継承者が動員されかねないほどだ。

 そんな怪物が4種類。正直肝が冷える話だ。これまで被害が出ていなかったのは幸運だが、いつまでもそんな幸運が続くとは限らない。対処の有無はともかく、どういう存在かは把握しておかないとまずいだろうな。

 

「相手の詳細は?」

「雷甲虫、水泡龍、溶岩亀、落葉鹿のそれぞれ変異種だ。どうも洞窟の異常な環境はコイツらが作ってるみてェでな、環境の中心に居座ってやがる」

「アタシが確認してきた」

「環境の中心……生態系の頂点」

「桁が違うバケモンだ」

 

 洞窟の生態系の頂点か。

 そういう奴がいることは想定していたが、こうして改めて示されるとなんとも地獄みてえな環境である。

 そもそも滅多にいないから「特異」なんだ。災禍の洞窟がいくら広いとはいえここまで集中して生息しているなんて異常だ。

 60年もの長きに渡って閉鎖環境で熾烈な生存競争を繰り広げた結果、とも言えるが……。

 

「それで……こいつらは今の時点で確認できた魔獣であって、これが全部じゃないの」

「おおよその領域を示すからそこの色変えてくれ」

「わかった」

 

 フェデリカさんとトビーが資料とにらめっこしながら位置を示し、俺はそれに応じて模型の組成を組み替えていく。

 こうやって見ていくと思ったよりも特異個体の影響が出ている区画は多い。クリスの通り道になったおかげで安全が確保されたような場所を除くと大部分がそうだった。

 

「この区画はクリスが一度侵入して映像魔道具を設置してる。ちょっと前まで低温の環境だったはずだ」

「っつーと……」

「5種類目だね、多分……」

 

 洞窟の魔獣は環境を塗り替えるのが得意技だ。争いによって特定の環境が別の環境に書き換えられることはよくあることだが、元々が低温の環境だったのなら、まず低温に適応した魔獣がいなければおかしい。

 その特徴がこれまでに挙げた4種類に該当しないなら……考えられるのは、更なる新種だ。

 

「で、問題はこっからだ。こいつらは潜在的な脅威じゃあるが……」

「こういう特異個体が複数匹で互いに影響しあってるってことは、それを前提にバランスが保たれてる可能性が高い……つまり」

「……現状で釣り合いが取れてて下手に倒せない、と」

「溶岩亀を倒したら水泡龍が勢いづくし、雷甲虫を倒したら多分落葉鹿が進出する。本気で全部倒す気なら……全部同時にやらないと」

 

 思わずため息をつきかける。

 人里に近付いてきたら脅威として対処する必要があるというのに、倒してしまうと洞窟内の勢力図が激変してそれまでより危険な状態になりかねない。

 なんとかして止める必要があるが、殺さず食い止めるにしても村に入れないだけにしても、特異個体というのはそれだけ強いから「特異」なんて名前を冠しているんだ。難易度は極めて高い。

 

「監視するにも魔獣の分布図作るにも重要な情報だと思うからさ、できるだけ早く教えておこうって……言ってたんだけど」

「助かりました。できれば余計な前置きや茶々が入らなければなお良かったです」

「だよね」

 

 2人してトビーを見るが、どこ吹く風だ。

 一応、分からんでもないよ? 今はバランス取れてるし60年間小康状態が続いてて、何か起きるならもっと前に起きるし前触れもあって然るべきだろうから、急いで報告しなくとも……って。

 でもそこ判断するの俺だかんな。知らなきゃ判断のしようもないんだよマジで。

 

「ギルドも対応できるチームの育成を目指すが、今すぐどうこうできねェ。いざとなりゃフェデリカたちに任せるぜ」

「それはいいけどさ、師匠……どこまで想定して動くの」

「連中はそれぞれの環境の主であり中心だ。特異個体が動けばそれだけで勢力図は動く。生態系の頂点同士が激突してもつれ合いながら村までやってくるなんてこたァまずありえない。イレギュラーが起きねェ限りは出現すンのは一匹ずつだろうよ」

「まあ一匹ならクリスとフェデリカさんで十分対応できると思うが……」

「だから急ぐことじゃねェってンだよ。心配しすぎだぜ」

 

 まったく、付き合いが長いせいで、この辺のこと俺がどう思うか分かってるのがタチ悪い。

 けど村長(おれ)は心配して備えるのが仕事ということは判断に乗せておいていいんじゃねえかな。

 ことが差し迫ってから今初めて聞いたぞ、では対応の遅れを招くことになる。

 

「……あのさ、村長さん」

「なんです?」

「イレギュラーは?」

「起きるもの」

 

 示し合わせたように言葉を繋げた俺たちは、揃って渋い顔になった。

 

「そういうこと言ったら現実になるからよそうや……」

 

 遅れて気付いたトビーも切なげな音色をポロロンと爪弾く。

 変な話だが、「まずこんな変なこと起きないだろ」は起きるのだ。天災にしろ人災にしろ。

 そんなバカなことをするものか!? と思うようなことでも人間やるし、そんな偶然あるものか!? と思うようなことでも起こりうることはなぜか起きる。

 例えば目の前にいるこの男のように、村に来るなり来客が突然ゲリラライブを始めるなんてこともありえない話ではないのだ。

 

「それより前向きな話しようぜ。例えば……おい、外見てみろよ。すげェぞ」

「何?」

 

 トビーに示されて外を見れば、クリスとリンデの組手が行われているところだった。

 怪我をさせないためにクリスの方から手出しはしないが、リンデの側からはバシバシと攻撃を繰り出していく。踏み込みだけで恐ろしいまでの重量感を感じるほど……なのだが、アイツ手加減の練習という趣旨を覚えているのだろうか。

 まあいいか。体術を覚えたら手加減のやり方も自ずと身につくだろう。それよりも、トビーが言っているのはその力強さや威力の方か。種族から違うので当たり前と言えば当たり前なんだが、同年代どころかハンター全体から見ても頭ふたつくらい抜けてるくらい強い。

 

「アイツをハンターに勧誘できねェもんかな」

「あの子が自分から望まない限り許さんからな俺は」

「……お前リンデに対しちゃ案外過保護だよな。普段ちょいちょい扱い雑なのに」

「雑なのはアイツがアホなことしてる時だけだ」

 

 表面的にはエロに興味津々でだらしないところがあっても、根の部分ではいい子だから当然俺もそれに応じてやりたくなるだけのことだ。

 俺たちが忙しくしてるのを見て、何か手伝えることは無いかと自分から言ってくれる子なんてそうはいないぞ。

 

 

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