退学になったから自分で学校建てる   作:タオンガ

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必要なモノ

 パクパクと、まるで金魚のように口を開閉するカヨコがようやく意味のある言葉を発したのは、オレの発言からおよそ10秒後の事であった。

 

「が、学校を作るって……そんな急に出来るわけがないでしょ」

 

「ああ、出来るわけがない……短くても数ヶ月、長くて年単位の時間がかかる……」

 

「それに、それだけの時間をかけたところで、本当に学校が建てられるかなんてわからない」

 

「だろうな……だからオレもこれを最後の最後まで取っておいた……!」

 

「そんな事をやるくらいなら、不良校か半廃校に入って、そこを改造した方がいいんじゃない?」

 

「いいや、ダメだ! それらの学校は圧倒的なマイナスからのスタートになっちまう! ゼロからスタートした方が、まだまともに卒業できる可能性がある……!」

 

 そう、問題なのは、マトモではない学校が少なからず抱えているだろう問題の数々だ。

 それは莫大な負債であったり、腐敗し切った環境であったりと、様々な形を取っているが……共通して言えるのが、それらが全て『マイナス』の要素であることだ。

 

 数学の世界においてマイナスからプラスに戻す事は簡単だが、現実ではそうはいかない。

 犯罪をして捕まった人間が、社会復帰に凄まじい苦労を必要とするように。

 大した量ではなかったはずの借金を返済するのに、利息で苦労するように。

 現実世界においてマイナスをプラスに戻す事は、非常に大変な事なのだ。

 

「だから、ゼロから始める。ゼロからだ。そっちの方が、可能性は高い」

 

「…………本気?」

 

「お前ならわかるだろ?」

 

「……まぁ、ね」

 

 はぁ、と。

 カヨコは小さくため息を吐く。

 

「それで? 学校を作るなんて一口で言っても、具体的には何を用意すればいいの? 生徒と、校舎と、生徒会は必ず必要として……」

 

「学校の名称、学校の目的、あとは諸々の必要情報をまとめた寄附行為って書類と……最後に、連邦生徒会からの承認だな」

 

「ふぅん、よく知ってるね」

 

「調べたからな」

 

 もしかしたらあり得るかもしれない、と。

 転入の申し込みのメールを打ってる合間を使って軽ーく調べておいたのだ。

 

「まぁ、名称とかその辺は別にいいとして、用意するのが大変なのは、やっぱり生徒と校舎と資本、それと明確な収入源だな。んで、この辺が足りないと連邦生徒会は学校として承認してくれないっぽい」

 

「ふぅん、具体的にはどれくらい必要なの?」

 

「生徒数はだいたい30人前後。校舎は学業にあたって最低限の建物さえあれば何でもOK。資本はゼロでもワンチャンあるが、1000万前後もあれば確実。収入源は……まぁ、読んで字の如くって感じだ」

 

「……やっぱり、起業に比べれば難しいね」

 

「そりゃあまぁ、新興とはいえ一応は学校だしなぁ。公的機関として扱われる以上は、そりゃあ条件も難しくなるだろ」

 

「それで、一応聞いておくけど、集めるアテは?」

 

「無い!!」

 

「まぁ、そうだと思ったけどさ」

 

 そりゃあそうだろう。

 だってそれが無いから最終手段ってことにしておいたんだもん。

 

「だが安心しろカヨコ! アテはないが、明確な目標と簡単なフローチャートは用意してあるぞ!」

 

「むしろそれが無いと困るんだけど。……はぁ、まぁいいや。一応の計画があるってだけマシでしょ」

 

「その通り! 一応の計画があるだけで大分マシ! よく分かっているな! さすがカヨコ!」

 

「……大体シャクのせいだけどね」

 

「お黙り!」

 

 誰が行き当たりばったりの猪頭じゃ!

 こっちにも相応の考えがあっていつも動いてるんですぅ! 

 行き当たりばったりなんかじゃないですぅ!

 

「そんな事より! 早速ですがこれからの目標とフローチャートを発表します!」

 

「うん」

 

「……いや、ここ盛り上がるところだぜ? 盛り上がれよ」

 

「そういうのいいから、早く」

 

「はい」

 

 カヨコの眼光鋭すぎワロエナイ。

 眼光で人一人か二人くらい殺せるんじゃないですか? ってくらい鋭い目してる。

 

「えーとですね、まず生徒数は30人を目指します。具体的にどこで集めるかはまだ検討中ですが、とにかく30人集めます」

 

「うん、まぁ、妥当なラインかな」

 

「そして校舎ですが、まぁ、小さめでも中古でも何でもいいのでビルを一棟買います」

 

「……ビルが幾らくらいするか分かってるの?」

 

「D.U.近くなら3階建てで1億五千万は下らないって感じ。まぁ、ちょっと離れればウン千万のがゴロゴロ転がってるし、最悪アビドス辺りのタダ同然のヤツを買おっかなって」

 

「ふぅん、アビドスあたりの相場って幾らくらい?」

 

「10階建てで100万行けば高い方」

 

「……よくそんな値段で売れるね」

 

「なんか不動産屋側も処理に困ってるっぽい。全然売れないクセに砂のせいで無駄に維持費がかかるからって。だからむしろ何でもいいからとにかく買ってくれって感じ。それでも買い手がつかないからほとんど放置されて不良の溜まり場になってるっぽい」

 

「……ああ、そう。まぁいいや。それで、資本は?」

 

「まぁ、3000万円は欲しいよね。収入源の方がうまく行けば億も狙おうかって思ってるけど」

 

「へぇ、それじゃあ収入源は?」

 

「傭兵業」

 

「は?」

 

 カヨコの表情が酷く訝しげなものに変わる。

 正直怖い。怖いが、これでも真面目に考えた結果だ。

 恥じることなど何一つとしてない。なのでオレは堂々と胸を張って答える。

 

「……ごめん、よく聞こえなかった。もう一回言ってくれない?」

 

「だから、傭兵業だよ、傭兵業。雇うに、兵隊の兵で、傭兵」

 

「……本当に言ってる? 正気?」

 

「正気も正気だが?」

 

「学校全体の収入を、まさか傭兵としての仕事で賄おうって考えてる?」

 

「おう」

 

「……もしかしてだけど、馬鹿?」

 

「おう、喧嘩か?」

 

 オレはこれでも真面目に考えてるつもりなんだが?

 ちゃんと考えがあるから傭兵で食ってくって言ってるんだが?

 舐めないでもらっていいか?

 

「……傭兵なんて職業で、収入が安定するとは到底思えない。学校って名目で仕事を受ける以上、ただでさえ稼げる仕事が限られるのに、このキヴォトスにはPMCや、不良崩れの傭兵達が沢山いる。それらを差し置いてクライアントが信頼に欠ける私たちを雇う意味がない」

 

「信頼が無きゃあ作ればいい。幸いな事に、オレ達は実力だけは確かなんだから、上手い事それを宣伝すればいけるはずだし……そのためのチャートだ」

 

「……………………それじゃあ、教えてよ。そのチャートとやらを」

 

「ふっふっふ……いいだろう。それではとくと見るがいい、オレの考えた最強のフローチャートを!」

 

 と、そう言って、オレは念のために用意していた簡易メモをカヨコに見せた。

 

『①寝床を用意し、バイトや賞金稼ぎをして金を稼ぐ。

 

↓1000万円用意完了

 

②D.U.近郊に拠点を確保し、本格的な傭兵業をスタート、SNSを利用して広報活動を開始する。

 

↓生徒数10人以上

 

③賞金稼ぎと傭兵業で分担しつつ、更に稼ぎを伸ばす。

 

↓生徒数20人以上 and2000万確保

 

④裏方役を5人選出し、育成を開始。設備投資に使用1000万。

 

↓生徒数25人以上

 

⑤校舎を確保。残高5000万以下……アビドスの廃ビル。残高5000万以上1億円以下……適当な市街地のビル。残高1億円以上10億円以下……繁華街のビル。残高10億円以上……D.U.のビル。

 

↓生徒数30人確保and残高3000万円以上

 

⑥学校完成!!        』

 

「…………何コレ」

 

「フローチャート」

 

「馬鹿にしてる?」

 

「数分で考えたやつだから仕方ない。でも無いよりはマシだろ」

 

「……まぁ、そこは百歩譲っていいんだけどさ。これ、本当にやるつもりなの? 信頼をSNSで稼ぐつもり?」

 

「そうするのが一番確実だった。だからやる。やるしかない」

 

「…………無茶苦茶」

 

「分かってる。だけど、多分コレが一番確実だ。そしてこれを達成するには、お前の助けがいる。だから、着いてきてくれ」

 

 無茶苦茶な事を言ってる自覚はある。

 馬鹿な事をやろうとしてるとは分かってる。

 でも、それでも、妥協してマイナスからスタートするよりかは、やっぱりよっぽどマシだ。

 

「………………はぁ」

 

 カヨコが、今度は大きく溜息を吐く。

 そうして軽く首を横に振ると、真っ直ぐにこちらを見つめた。

 真剣な光を纏った紅色の瞳が、ジッとオレの目を見据える。

 そして数秒の後、諦めたように瞑目した。

 

「……わかった。どうせいつもと何も変わらないし、いいよ。やってあげる」

 

 にぃ、と。

 その言葉に、オレの口角が吊り上がる。

 

「ありがとな、カヨコ! やっぱりお前はオレの相棒だ!」

 

「流れで勝手にそうなっただけだけどね」

 

「それでもだ! ありがとう!」

 

「ああ、そう」

 

「これからも頑張ろうな! な!」

 

「……うん」

 

 そっぽを向きながら、カヨコは小さく返事をした。

 

「……よし!」

 

 パァン、と手を叩く。

 

「それじゃあまずは早速寝床探しだ! もうあと3日後にはここを出てかなくちゃ行けないからな!」

 

「……はぁ、全く。わかりきってることだけど、大変な事になりそうだね……」

 

 そうして、オレ達は二人して不動産のサイトを漁り始めるのだった。

 

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