退学になったから自分で学校建てる   作:タオンガ

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バイトグラップラー・シャク

 ジリジリと太陽照りつける炎天下。

 陽炎が揺らめくコンクリートの海の上で、帽子を被って作業着に腕を通し、両の手に軍手を嵌めた男が積み重なった段ボールを軽々と持ち上げていた。

 頭上には、太陽と見紛うような金色のヘイローが輝いている。

 

 そう、その男の名は、天帝シャク。

 どんなに過酷な現場でも文句の一つも漏らすことなく圧倒的な身体能力で黙々と作業を続け、着々と金を稼ぐその男こそ、この数週間で一気に名を上げた、今話題の生徒。

 人呼んで『バイトグラップラー・シャク』である。

 

 バイトグラップラーの働く現場を見たことのある男は、インタビューにこう語った。

 

『イヤぁ、ありゃあとんでもないですよ、ええ。人間業じゃないって言いますかねぇ、流石はキヴォトス唯一の男子生徒って感じでしょうか。まさかアレだけの荷物をいっぺんに運ぶなんて……』

 

『ああ、ただの荷物じゃあないですよ? その人の自宅、だいぶトレーニング好きの人っぽくてですね、こう……あるじゃないですか、ダンベルとか、バーベルにつける重りとか、ああいうの』

 

『それをですね……こう……なんていうんでしょう、ホラ、よく見るじゃないですか。ファミレスとかで、そんな所にまでお盆乗せて落とさないの? って感じの運び方』

 

『アレですよ、アレ。アレで全部運んじゃったんですわ。遠目だったんでよくわからないですけど、大きさから考えりゃあ、一回の運搬ごとに何百キロって重さを運んでますよ……そう、それこそお盆でも運ぶみたいに』

 

『ありゃあ相当な力の強さしてますね。キヴォトス全体で見ても相当ですよ。喧嘩は売らない方がいいですね』

 

『……え? もし喧嘩を売ったら、どうなるかって? そりゃあ、もう────』

 

 ────間違いなく。『片付け』られちまいますよ。軽ーく、捻り潰すみたいにネ……

 

 

 

 

 

 

 

「……いや、何だ今の。ってかバイトグラップラーって何だ」

 

 確かにバイト漬けの日々は送ってるけどさ。

 自慢の無尽蔵の体力で毎日のように引越しとか荷物下ろしとか、力仕事を繰り返しまくってるけどさ。

 それにしてもどういうネーミングなんだよバイトグラップラーって。

 バイトは別に格闘技でも何でもねぇんだけど。

 

「お疲れ様ー! 今日の作業はこれで終わりだよー!」

 

「あ、はーい!」

 

「いやー、お疲れ様シャクくん! やっぱり君がいると作業効率が段違いだねぇ! まだ日がこんなに高いよ!」

 

「まぁ、ハイ! 鍛えてますんで! 余裕っすよこんくらい!」

 

「筋肉すごいもんねぇシャクくん! ベンチプレスとかどれくらい上がるの!?」

 

「やった事ねぇんでわかんねぇっす! ただバランスにさえ気をつければ、ロードローラーまでなら持ち上げられます!」

 

「ロードローラー!? ロードローラーってあのロードローラーでしょ!? 何トンくらい!?」

 

「多分ですけど10トンくらいっすかね!」

 

「うぅん! バケモンだねぇ!」

 

「鍛えてますから!」

 

「それじゃあこれ今日の日当ね! また次もよろしく!」

 

「うす! ありがとうございました!」

 

 親方から日当の入った封筒を受け取って、オレは帰路を辿る。

 歩きながら少し開いて確認してみれば、今日も変わらず13000円。

 うん、いい調子だ。安定して稼げている。

 

「うぃーっす、ただいまー!」

 

「ん、おかえり」

 

 玄関の鍵を開け、もう既に住みなれたアパートに帰る。

 するとどうやら先にカヨコの方が帰っていたようで、部屋の方から返事が返って来た。

 

「どうだった? バイトグラップラー」

 

「その呼び方やめろォ! ……まぁ、いい感じだよ。今日も今日とて日当13000円」

 

「……ま、順調かな。この調子だと1000万円なんて相当遠そうだけど」

 

「大丈夫大丈夫。賞金首2、3人も捕まえればすぐ貯まるよ1000万円なんて」

 

 賞金首にかけられている懸賞金の額はピンキリだが、200万円、300万円程度の連中はブラックマーケットあたりを探せばそこらにゴロゴロしてる。

 オレ達がその気になって、相当運が良ければ、1日で1000万を稼ぐ事だって不可能じゃない。

 

「ま、その賞金首を今まで一人も捕まえられてないんだけどね」

 

「いいんだよ今はまだこれで! 早めに稼いでおくに越したことはねぇが、今の期間が重要なんだ!」

 

「……ずっと思ってるんだけどさ、私たちってバイトする意味、ある? 賞金首を探すのに全力になった方が早くない?」

 

「あるんだな、それが」

 

 カヨコの言わんとしている事はよーく分かる。

 確かに、オレ達ほどの実力の持ち主なら、賞金首をとっ捕まえた方が手っ取り早く金が稼げる。

 それこそ、こんなチマチマとバイトなんかするよりも、賞金稼ぎの方にリソースを全振りした方が確実だし早いと言うのも、確かな事実だ。

 では、何故このようにして賞金首を休日のみ探して、その他の日をバイトに当てているのかというと……

 

「そう、社会勉強のためだ!!」

 

「…………うわぁ」

 

「……何だその反応は」

 

「いやまぁ、言ってる事はまともって言えばまともなんだけど……まさかシャクからそんな言葉が出てくるって思わなくて」

 

「前々からずっと思ってるが、もしかしなくてもお前オレの事を馬鹿だと思ってるだろ」

 

「逆にそうじゃないと思ってたの?」

 

「思ってなかったけど!?」

 

 ンなもんお前の表情見てりゃ分かるわ!

 事あるごとに馬鹿を見る目をしやがって!

 

「……まぁいい! ……とにもかくにも、オレは今の時期を社会勉強に当てたいんだよ。いくら実力があるとは言え、オレらは政治とはほぼ無関係な、ただの学生だった。それがいきなり為政者の立場に回れるとは思わねぇ。だから、この期間に出来る限り『学ぶ』。勿論時間は限られてるから、悠長にずっと勉強してるわけにもいかねぇがな」

 

「……ふぅん、ああ、そう。そういう考えがあるんならいいや。確かに勉強は大事だしね。いきなり調子に乗りすぎて大コケするよりはマシか」

 

「そういうこった! オレはこう見えても慎重な男なんだよ! 順調に! 確実に! 学校設立、ひいては円満な卒業に向けて一歩づつ、着実に進んで行くんだ!」

 

「まぁ、このペースで行くとどう足掻いても一年は留年確定だけどね」

 

「うぐっ!」

 

 いきなり言葉のナイフでぶっ刺された。

 痛い。具体的には脇腹と胸のあたりがとても痛い。

 

「し、仕方ないって割り切るしかない……! 留年は2年目まではまだギリギリセーフだ……!」

 

「そうだといいんだけどね……あ」

 

 フローリングに膝と手をついて呻くオレを尻目に、カタカタとノートパソコンを弄っていたカヨコが、不意に声を上げた。

 

「んあ? 何があった?」

 

「……シャク、これ見て。いい賞金首、見つけたかも」

 

 そう言って、カヨコはオレにノートパソコンを見せて来る。

 

「どれどれ……? ああ、成程、いいじゃん」

 

 にぃ、と。口角が上がる。

 さて、丁度いい事に、明日は土曜日。

 この生活が始まってから数週間が経って、ようやく纏まった収益が得られそうだ。




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