退学になったから自分で学校建てる   作:タオンガ

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メイドクライシス

 メイド服、それは読んで字の如く、メイド、あるいはメイドサーヴァント────清掃、洗濯、炊事などの家庭内労働を行う女性の使用人────の纏う服装。

 主に特徴的なエプロンドレスやホワイトブリムを指して用いられる事が多く、近現代においてはこれらの服飾がいわゆる『萌え』の一種として用いられることも多い。

 

 そんな服装に身を包んだクリーム色の髪を持つ少女は、キョトンとした顔でオレたちを見ると、今度は訝しげに惨憺たる有様の倉庫内を見渡した。

 勿論、手に持ったミニガンは構えたままだ。

 

「……ふぅむ、アレですね、一足遅かった、って感じですかねぇ? もしかしてですけど、全員ノしちゃいましたか? 天帝シャクさん。……それと、そちらに居るのは鬼方カヨコさんですね?」

 

「……うわ」

 

「知ってんのか」

 

「当然ですよ、有名ですのでね。……あ、そういえば退学したと聞きましたが、何をやらかしたのですか? ゲヘナで退学なんて、よっぽどの事がないと起きないですよ?」

 

「ちょいとやり過ぎたって所かな? オレたちとしちゃあ降りかかる火の粉を振り払った程度の感覚だったんだが、向こうからすりゃあ違ったらしい」

 

「はぁ、成程、それはそれは……」

 

 こくこく、とメイドが頷く。

 銃口は、真っ直ぐにこちらへと向けられたままだ。

 

「……で? そっちは? そっちだけオレたちの名前を知ってるってのも、フェアじゃねぇとは思わないか?」

 

「おや、これは失礼。では僭越ながら自己紹介をば」

 

 そう言って初めてメイドはミニガンを下ろし、恭しくお辞儀をした。

 

「私、ミレニアムサイエンススクール、C(Cleaning)&C(Clearing)所属、コールサイン13、加倉(かぐら)ヒメカと申します」

 

「C&C……?」

 

「わからない。わからないけど、多分、ミレニアムのエージェント部隊。ミレニアムには掃除屋がいるって噂があるから、多分それ」

 

「……成程、道を塞ぐ邪魔な不良グループを、早めに掃除に来た、ってか」

 

「はい、その通りですが……先にお掃除はされてしまったようですね。いやはや、困ってしまいました」

 

「……困るような事は何一つとしてしてないと思うんだがなァ。オレたちは正当な防衛として連中を返り討ちにしただけ。アンタは掃除しようと思ったらもう掃除済みだったってだけ。不都合なんて、どこにもないと思うが?」

 

「それがですね、あるのですよ」

 

 がちゃり、と。

 再びメイドはミニガンを構える。

 

「こう見えて私、掃除が好きなんです。唯一の娯楽なんです。だから今日も、思う存分掃除を楽しもうと思ったのですが……まぁ、このような状況になってしまいまして……」

 

「……そうかよ、そりゃあ残念だったな」

 

「……シャク」

 

「分かってる」

 

 銃を構えたカヨコが叱咤するようにオレの名を呼ぶ。

 それ応えるように、オレは銃のマガジンを交換した。

 

「ですので────」

 

 メイドの瞳が怪しく煌めき、口が三日月状に裂ける。

 来る。そんな確信を持って、オレとカヨコは左右に飛び退いた。

 

「お二人には少々、お掃除に付き合って頂きたい」

 

 メイドの指が、トリガーを引く。

 鼓膜を激しくノックするような破裂音と打撃音が倉庫中に響き渡る。

 瞬間、刹那の手前までオレたちの真後ろにあったトラックの運転席がひしゃげて、潰れた。

 

「うっはははは! 何つー威力だよ!」

 

「私の弾丸は『重い』と評判でしてね。チャチな障害物に隠れた程度ではどうしようもありませんので、悪しからず」

 

 彼女が銃口を移動させれば、その軌道に合わせて倉庫の壁に穴が空く。

 その穴から光が差し込んでいる所を見る限り、どうやらしっかりと貫通しているらしい。

 

「あ、シャク、これ鉄筋まで貫通してる」

 

「『重い』で済ませるには威力があまりにも過剰じゃねぇか!?」

 

「そうなのですよ、ですのでC&Cの中でも私だけ番外(13)ですし、任務から外される事が多くて多くて。最近ではこのような破壊してもいい単独任務にしか出していただけないのです。私だけ仲間外れとか、酷いと思いませんか?」

 

「それに関しちゃ問題は威力だけじゃねーだろ!」

 

 主に性格とか性格とか性格とか。

 戦わなくていいはずのところを欲求不満だからって理由で戦い挑んで化け物銃ぶっ放すとか、任務以前の問題だぞそんなモン!

 

「ところで、先程から何故反撃して来られないので?」

 

「テメェらに『正当な防衛』って言い訳が通用するかわかんねぇからだよ!」

 

「……必要ですか? それ?」

 

「必要なんだよ! こちとら新しい学校を創るつもりなんだ! 犯罪者になっちゃマズい!」

 

「え、新しい学校って何ですかそれ」

 

「何もクソもねぇよ! 退学になったから新しい学校創って、そこで卒業すんの!」

 

「へぇー、どんな学校なんです?」

 

「傭兵学校だ! まだ正式な名前は決めちゃいねーがな!」

 

「え、何それ。面白そう」

 

「そりゃどうも!」

 

 そんな会話をしながらもミニガンを連射する手を一切止めようとしないメイドに、オレは自らの愛銃をぶっ放したいと言う衝動に駆られるが、しかし理性でそれを抑える。

 ちなみに先程から黙っているカヨコはと言うと、不良どもを1箇所に集めて証拠の写真を撮ろうとしていた。

 

 あのメイドを倒す事は不可能である以上、オレたちの勝利条件は、『証拠の写真を撮り終えた後に脱出』と言うことになるが、そこで難しいのはやはり証拠写真の撮影。

 そして、あのメイドの注意がオレに向いている今が、その条件を達成するにあたって最大のチャンス。

 なので、ここでオレが時間を稼がなければならないのだ。

 

「開校の目処ってどれくらい立ってます?」

 

「全くだ! 生徒も金も校舎も設備も何も揃ってない! 現在は資金集め兼勉強期間!」

 

「ああ、成程、だからこんな木っ端不良集団の退治に来たんですか」

 

「そうなる!」

 

「ところでつかぬことをお聞きしますが、生徒募集ってもうしてます?」

 

「まだだよ! まぁ入ってくれるってんならいつでも大歓迎だがな!」

 

「へぇ、そうなんですか。じゃああなたが私に勝てたら入ってもいいですよ」

 

「はぁ!?」

 

 思わぬ申し出に驚愕する。

 見れば、カヨコの方も驚いて目を見開いていた。

 

「ミレニアムって入ったはいいものの、正直特にやりたい事も無いんですよねぇ。作りたいって思ってたのは上から開発禁止喰らいましたし。任務とかは楽しいんですけど、私だけ仲間外れってなぁんか癪なんですよ。あと私より強いのがいないんですよねぇ」

 

「いや、入ったはいいものの、学校の雰囲気が肌に合わないって感覚はまぁ分からんでもないが……」

 

「何て言うんでしょうねぇ、張り合いが無いって言いますか。それこそ楽しみがこんな掃除くらいしか無くて」

 

「で? 新しい学校を創るってのが楽しそうだと?」

 

「それもありますし、私より強いのが居るのなら、それを超すのを目標にしてもいいかなぁと」

 

「……へぇ、じゃあもう一度聞くが、オレが勝ったらお前、オレらの仲間になるんだな?」

 

「ええ、無理矢理にでも退学を勝ち取って来てやりますよ」

 

「よーし言ったな? 吐いた唾は飲めねぇからな? 覚悟しろよ?」

 

 急にやる気が出て来た。

 オレはのホルスターから、2丁の拳銃を取り出す。

 

「シャク!」

 

「カヨコ! 幸運だぞ! 早速1人目ゲットチャンスだ!」

 

「そうじゃなくて! 相手はミレニアムのエージェント! ミレニアムがそうそう退学を認めるとは思えない!」

 

「あ、大丈夫ですよ。私、セミナーから嫌われてるので。辞めるって言ったら嬉々として辞めさせてくれます」

 

「……えぇ?」

 

 つまり、そう言う事らしい。

 

「んじゃあ……行くぜ?」

 

「どうぞ」

 

 まずオレが放つのは、『シャクラ』の二発。

 的確に射撃され、回転しながら飛翔するそれらを、メイドはひらりと躱す。

 ミニガンを持っていると言うのに、何と言う身軽さだろう。

 

 そして直後、お返しと言わんばかりに叩き込まれるのは薙ぎ払い。

 左右への回避は不可能で、上下どちらかに回避するしかないが、地面をスライディングして躱そうにも難しそうで、ギリギリジャンプして躱せそうな、中途半端な高度を的確に狙われている。

 洗練され、研ぎ澄まされている事がよくわかる攻撃だ。

 この攻撃で以って、彼女は機動力のどうしても下がる空中へと誘き出すのだろう。

 だが、そんなことに付き合ってはやらない、

 

「おや」

 

 伏せだ。

 スライディングして躱すのは確かに難しい。

 だが、完全にぺったりと地面にくっつけば不可能でもない。

 そうして完全に銃弾が過ぎ去った事を確認して、オレは寝そべった体勢のまま『シャクラ』の引き金を引く。

 確実に当たる軌道だ。薙ぎ払いの直後で姿勢の崩れている彼女に、回避は不可能。

 直撃する。

 

「おっと」

 

 そう思っていたが、しかし彼女はより体勢を大きく崩し、半ば転ぶようにする事で無理矢理銃弾を回避した。

 そして、そのまま地面を転がり、射撃体勢を取り戻す。

 

「マジかよ」

「……想定以上ですね、流石です」

 

 互いに、笑顔が深まる。

 そうして始まるのは、互いに一歩も譲らぬ銃撃戦。

 撃っては避け、撃っては避け、互いに一発の銃弾も当たらず、背後の壁だけが崩れてゆく。

 

「……決め手に、欠けますね……! よくもまぁミニガンの連射をこうも避けるものです……!」

 

「ゲヘナじゃあ多対一の戦闘ばっかやって来たからなぁ。大量の自分を狙う銃弾ってのに慣れてるのかも知れん」

 

「成程、そうですか……ならば、これ以上撃ち続けるのも無駄ですね」

 

 ですので、切り札を切ります。

 額に汗を浮かべながら、メイドはそう宣言した。

 

「……へぇ? 切り札、ねぇ?」

 

「えぇ、切り札です。どうか、耐えてくださいね」

 

 ガチャン、と。メイドがミニガンについていた謎のレバーを操作する。

 瞬間、ミニガンの銃口が大きく開く。

 

「!!」

 

 そして放たれるのは、不可避の弾幕。

 大きく開かれた銃口から飛び出した銃弾は大きく散り、弾丸の壁を作り出す。

 

 どこからどう見ても、回避は絶対に不可能だ。

 となれば────

 

「正面突破しかないよな」

 

 雷を思わせるような爆音が倉庫内に轟く。

 オレのもう一丁の愛銃、『ヴァジュラ』から放たれた弾丸が、周囲の空気をも巻き込み、弾丸を散らして、向こう側の倉庫の壁を粉砕したのだ。

 

「……っ!」

 

 遅れて、倉庫内に突風が吹き荒れ、メイドのクリーム色の髪が舞う。

 

「……参り、ました」

 

 ミニガンの弾倉は、既に空っぽだった。

 




(評価バー)オレンジ……オレンジかぁ……(不服)
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