退学になったから自分で学校建てる 作:タオンガ
我々の目指す学校の正式名称が『マルト傭兵学校』に決定してから、おおよそ2週間。
梅雨も明けて日が照りだし、いよいよ本格的に夏が始まろうとする頃には、もう既に我々の貯金は700万を越えようとしていた。
勉強も取り敢えず必要最低限は行えたと思うし、そろそろ次のステップへと進む頃合いか、と朝食を食いながらそんな事を考えていた時である。
「シャクゥゥゥゥゥウウウウ!! シャアアアアアアクゥゥゥゥウウウウウウ!!」
朝早いのにバカが来た。
何やら必死の形相で、オレの名を叫んでそこらを駆け回っている。
オレは一瞬、自分自身の耳と目を疑ったが、しかしあの白い髪と特徴的な角、それに加えて
確実にあのバカ、即ち
「どこだ!? どこにいるんだシャク! お前がここにいるのはわかってるんだぞ! さっさと出てこい!」
いやまぁ確かに居るが。合ってるが。
しかしどうやってここを見つけたのだろう。
一応、雷帝から追われないよう、出来るだけ足の付かない方法でこの家を選んだというのに。
隣を見れば、やはりと言うか、カヨコがすんごい顔をしている。
「……どうする?」
「放っておいても面倒になるだけでしょ。この辺を永遠にうろつかれるよりは、話を聞いた方が早い。まぁ何を言って来るか大体予想は出来てるけど」
「……まぁ、そりゃあそうだが」
「取り敢えず家に上げよう。これ以上外で騒がれても近所迷惑」
「仕方ねぇ……おい! おいマコト!」
窓から身を乗り出し、右往左往するバカに声をかける。
するとバカはとんでもない速度でこちらを振り向いた。
「おおシャク! やはりここにいたかシャク! 何をしているんだシャク!? 貴様何故ゲヘナを退学になっているのだシャク!? 貴様がいなければ、このマコト様の完璧な計画が達成されないではないかシャク!?」
「色々まとめて話してやるから取り敢えずウチ上がれ! 近所迷惑だから!」
と、そんなこんなで部屋にマコトを呼ぶ。
マコトは何でこんなボロっちいところにマコト様が入らねばならんのだと散々に愚痴っていたが、仕方がないので我慢してもらう他ない。
勿論カヨコはとんでもなく微妙な顔だ。
「ほぉ、外から見ればあからさまなボロ屋だったが、こうして見てみると中々立派ではないか。もちろん未来のゲヘナトップたるマコト様には相応しくない事に変わりは無いものの、しかしここより他に適当な場所がないのも事実だ。我慢してやろう」
と、そう言うや否やマコトは無遠慮にテーブルの上座に座った。
「少々歩き疲れてしまったのでな、水をよこせ! 無論、水道水などと言うケチなマネはしてくれるなよ! キキキッ!」
カヨコのこめかみに青筋が浮かぶ。
気持ちは分からんでもないが、せめて話し合いが終わるくらいまでは我慢してほしい。
「……天然水でいい?」
「……フン、まぁそんなものだろう。仕方あるまい」
どこからも上から目線のマコトに、更にカヨコの青筋が一つ追加される。
頼むから余計なこと言わないでほしい。切実に。
「で? 一体ウチに何の用だ? もう大体用件はわかってるが」
「そう! そうだシャク! 貴様、何故退学になどなっているのだ!?」
「雷帝に退学させられたんだよ。あのクソ野郎、どうにもオレの力を脅威だと思いやがったらしい。何とも行動の早いヤツだ」
「はぁぁあああああ!? 何だそれは!? 私にはそんな話、全く届いていなかったぞ!?」
「お得意の強権発動だろ、そう驚くようなことでもねぇ。今のゲヘナは、あまりにも雷帝に権力が集まり過ぎている」
「ええいっ! 雷帝め……! そこまでして権力の座を開け渡したくないか……!」
「そりゃあお前だって権力の椅子の座ればそうなるだろ」
「このマコト様こそあの椅子に相応しいのだから、当然だ!」
マコトが拳を振り回して叫ぶ。
こりゃダメだ。ダブスタもここまで来れば清々しい。
カヨコももはや怒りを通り越して呆れの領域に入っている。
「……んで? 何だってお前はこんな所にまで来たんだ? 何で退学になったのかだけを聞きに来たってわけでもねぇだろ?」
「ああ、そうだ! そうだった! シャク! 今すぐにゲヘナに帰って来るのだ! 貴様がいなければ、マコト様の計画が頓挫してしまう!」
「いや無理だろ」
「何故だ!?」
飛び跳ねて驚くマコト。
飛び跳ね過ぎて椅子から滑り落ちそうになった。
正直マコトが頭を打とうがそれのせいでバカになろうが、元からバカなのでどうでもいいのだが、それでも椅子だけは壊さないでほしい。
「何故なのだシャク! 貴様の武力とこのマコト様の知略さえあれば、あんな女すぐに引き摺り下ろせる! お前だってあの女のことは嫌いだろう!」
「確かに嫌いだが、しかしどうしようもねぇ。あの野郎、絶対にオレをゲヘナに帰すつもりねぇぞ。カヨコまで巻き込んだのがその証拠だ」
「何……? あーっ! そうだ! どこかで見覚えがあると思ったら、お前ではないか!」
と、オレがそう言って、ようやくマコトはカヨコを思い出したらしい。
「……………………シャク、私もうこのバカ嫌なんだけど」
「頼む、あともう少し我慢してくれ」
オレももうそろそろつまみ出してもいいかなって思ってるが、そうしたらそうしたでやっぱり面倒なことになるんだ。
「ぐぬ、ぬぬぬぬぬぬ……仕方あるまい……ではもういっそのこと現状のままで構わん! 私が事を起こす時、貴様も一緒に」
「だから無理だって」
「何故だ!?」
飛び跳ねて驚くマコト。
今度はちゃんと滑り落ちた。
ゴチンと音がした。どうやら床に頭をぶつけたらしい。
別に頭をぶつけようがやはりどうでもいいんだが、角で床を傷つけないように気をつけてほしい。こちとら敷金を払っているのだ。
「何故だシャク!? 貴様の力さえあればどうにでもなるだろう!?」
「無所属になって、もうゲヘナと無関係になっちまったオレがゲヘナに武力行使しようとすると連邦生徒会が介入して来るんだよ! 内乱やクーデターなら連邦生徒会も静観せざるを得ないが、外部の関わる戦争やテロってなると話は変わる!」
「な、何ぃぃぃぃいいいい!? で、ではどうすれば良いのだ!?」
「だからどうしようもねぇんだよ! オレじゃなくて別の協力者を今から探せ!」
「う、うぎぎぎぎぎ……! バ、バカな……こ、このマコト様の、完璧な計画がががが……」
頭を抱えて突っ伏すマコト。
「……まぁ、雷帝に恨みを持っている連中なんざ、それこそそこら中に掃いて捨てるほど居るだろうからな。そういう奴らを集めて使え」
「……ち、ち、ち……!」
「ち?」
「畜生メぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえええええ!?」
と、そう叫ぶや否や、マコトはとんでもない勢いで部屋を飛び出て行ってしまった。
そして何やら意味不明な事を叫びながら、道を爆走して行った。
「…………変わらないね、本当に」
「……まぁ、アイツはバカなだけで意外と求心力と行動力のあるヤツだし、オレが手を出さずとも色々と上手いこと雷帝を引き摺り下ろしてくれそうな気がするがな」
それはそれとして、雷帝は一発ぶん殴るが、と。
心の中でオレは付け足した。
現在の生徒数:2(+1)人。
預金残高:約700万円
次のステップまで、残り約300万円。