___は諦める。 作:匿名冷ボウ
「た、助け…ッ」
「はァ」
さっきから出っ放しに感じる溜息の回数を憂鬱に思いながら、こちらに走り寄って来る女性(真)の首根っこを掴んで指先で背後に投げ飛ばす。気の抜ける悲鳴が妙に口角を上げさせる。
さて、まずはこのハイ・ゴブリン。要はゴブリンの上位種だ。ゴブリンよりも知能が高いし膂力も高い。
しかし初心者ダンジョンの主程度に収まる程度なので雑魚である。胸辺りを狙って離れた距離から拳を振るえば簡単に拳圧で風穴を開けられる。
「…ぇ?」
後ろから掠れた声が聞こえるが無視。塵と化すハイ・ゴブリンの死体から目を離して階段方面に目を向けると、丁度魔物が降りてきたらしい。
「キシュルルルッ」
爬虫類を思わせる鳴き声を上げるソイツは、『エリミネーター』という名で馳せるダンジョンの掃除屋…みたいなものだ。主に私がやったように短期間での魔物の全滅を行った者を排除する為に生まれる。
一体何の為に? とは常々囁かれている噂だが、私が思うにダンジョンとは生き物であるという仮説が私の中にはある。内部は体内で、その体内を構成する
無論根も葉のない根拠だし、私自身可能性は薄いと思っている。ただこういうあり得ない仮説の方が辻褄合うよなっていうだけだ。
さて、運がいいのか悪いのか初心者ダンジョンということもあり、このダンジョンで産まれる白血球は比較的弱い魔物だ。露骨に「切るぞー」って感じの両手鎌の存在感、既視感しか感じないカマキリ仕様の魔物で、デカい複眼が一斉にこちらを見据えるのが目に見える。
「キシュルっ」
とはいえ関係なく拳圧で頭を吹っ飛ばすのだが。
頭という司令塔を失った身体は虫を模倣して作られた為かがむしゃらに暴れ回るが、目もなく耳もなく匂いも感じられない体で獲物を捕捉することなく弱々しく動きを鈍くさせ、最終的に動きを止める。
「え…えぇ…!?」
まだいたのかと思いつつ、演技を開始する。
「オイ」
「は、はい!」
振り返り女性(真)を見下ろす。何故か緊張した様子だ。しかし舐められないように演技は続ける。
「とっとと失せろ」
主を倒した時のみ出てくる帰還用の魔法陣を腕を組み親指で指し示してそう指示する。
女性(真)は魔法陣を見ると喜色の表情を浮かべて、尻餅を付いた体勢から大きく動いて走り出し、魔法陣に向かう。
そのままの勢いで飛び乗るかと思いきや、急にブレーキを掛けてこちらへと振り向いた。
「あ、ありがとうございました!」
お礼を言って、そのまま魔法陣に飛び乗る女性(真)。
魔法陣の光に包まれた彼女はそのまま姿を消し、魔法陣は光量を落として待機状態になる。
…帰るか。戻って。
私は踵を返して階段へと向かう。
愚かな事に、既に塵となった魔物がいた所に、砕けたカメラのレンズがあった事にも気付かずに。