こちら山海経情報統制部。当方に叛意なし。 作:息抜きのもなか
大体合ってる気もするけど湿度と名前と髪色と服装と設定が違いますねぇ……(大体全部違う)
長らく沈黙を保っていた百花繚乱調停委員会は解散宣言をしたかと思えば、その数日後に復活を宣言した。
副委員長である御稜ナグサの復帰が大きいらしく、その復帰には燈籠祭で発生した大事件とその解決に尽力した先生が大きく影響を与えたようだ。
「ほんっと出張ってくるなこの先生。花鳥風月部? も何でわざわざ先生がいるときに事を起こしたんだろう。いや、そこは天地ニヤの手腕ってことかな」
今年に入ってから、いや、正確には連邦生徒会長の失踪と
結果的に良い方向へ転がっていることの方が多いので感覚がマヒしがちになるが、事件なんて起きない方が良い。事件の解決において信頼できるのは確かだが、呼び込むことで事件が起こる可能性が上がることを無視できるだろうか。
シラセは自身の思考がオカルトや陰謀論に振れていることを自覚して、その瞳に移る情報をリセットする。
今確認すべきはお隣さんの治安が改善に向かうであろうことだ。百花繚乱が活力を取り戻したのであればその方向への歩みは想像に難くなく、山海経の治安維持への負担を考えても素直に喜べる内容である。
「でも、改めて見ると薄氷の上を歩いているようにしか見えない……。どれも一つの過不足があるだけでとんでもないことになってるんじゃないの?」
それでも先生が歩んできた道を見ていると、そこに自分たちが重なることに不安を覚えないかと言うと嘘になる。
これまで重要視していなかったミレニアムでのセミナーの管理施設に忍び込んだ不正行為がこのキヴォトスを救う一つのカギになっているなんて、ゲームの攻略情報を知ってからプレイしていたとしか思えない所業だから。
あの天童アリスとかいう少女が特別だということが分かっていたからこその行動であれば理解できないわけではないが、あの先生にそういう気持ちがあったかどうか。少なくともそこで美甘ネルと天童アリスの面識と因縁を築かない限り、その後の調月リオが引き起こしたエリドゥの一件で世界が終わっていた可能性があるし、先の色彩事件での活躍はなかった可能性が高い。
その行動をネタバレなしで決めているとすれば、シラセが今まで培ってきた経験など何の意味も為さなくなってしまう。
失踪した連邦生徒会長であれば同じようにやれた可能性も考えられる気はするが、今どこにいるともしれない人間のことを考えても何の益もないだろう。
先生を呼んだのもあの水色の髪の才女らしいと聞くし、もしかしたら彼女は未来視が可能で先生に後を託してどこかに逃げ出してしまったのかもしれない。それで上手く行くのだということを見越した上で。
「……だとすれば、もしかして大事なのは『経験』じゃなくて『選択』?」
仮定に仮定を重ねた妄想。
しかし、先生の行動から思想や理念を読み取れば、同じ状況で同じ選択することは容易に想像がつく。であれば、案外未来を観測するのに『先生』という軸足を頼るのは合理的な判断なのではとさえ思えてしまう。
そこまで無駄な思考を積み重ねて、シラセは思う。
「芯を持っているから、揺らがない。先生の強さは、どっちかと言うとそこなのかな」
自身がミナとの会話後に精神的に安定したように。
自身が精神的に安定した後に吹っ切れて結果を残せるようになったように。
その生き方は極端で真似するには到底
自身の大切な友人を預けるのに不足はない。
変態的な行動を彼女の前で取るのは控えて欲しいと思わずにはいられないが。
レッドウインターとの交流会を正式に公表してから数日。
自治区内の反応は思っていたよりは大きくない。玄武商会がある程度観光客を呼び込んでいる影響で最近では他自治区の生徒の姿を見ることも増えてきていたからだろう。
だが無論、批判の声が無いわけではない。
玄武商会の呼び込みは民間の組織が勝手にやっていることとして受け入れられても、玄龍門がやるのはこれまでの伝統を壊すことだと主張して許容しない層も一定数存在している。
その中には申谷カイの手先も含まれているのだが、それ以外からの声があることもまた否定できない事実であった。
故にこそ、程度を超えたことをし始める輩も出てくるもので。
「君たいな人は『自分は正しい主張をしているから、何をしても良い』って思ってるんだろうね。法律も条令もある以上、そんなわけないのにさ」
山海経の自治区、大通りから少し入ったところにある路地裏で、スーツの生徒に囲まれた生徒が背の高い銀色を睨んでいた。
両脇を固められて逃げられず、しかも周囲に控えている人員が正面に立つ彼女への攻撃を許してくれそうにない。
だからこそ、逃げ場を塞がれた少女は吠える以外の抵抗手段を持ち出すことが叶わない。
「違う! あれはただふざけて言ってただけで! 本気じゃ――」
「――本気じゃないから許されるって? それ、門主様に銃を向けて撃つ気が無かったって言ってるのと同じって、分かってる?」
どこまでも冷えた声音が自分の激情さえも冷やしていくような錯覚を覚える。
そしてひどく呆れた表情の彼女のが懐から銃を取り出してこちらに向けたことによって、背筋が凍るような感覚に支配され、そこまで行ってようやく自身の行いに理解が及んだのだろう。
自身が銃を向けた相手が何であるかを認識した生徒には、ただ現状を打破する手段を求めて目を彷徨わせる以外にできることはない。
彼女はSNS上でこう発言したのだ。『こんな交流会やる価値ないから先回りしてめちゃくちゃにしてやろうぜ』と。
「扇動、テロ未遂、要人襲撃計画。君のあの投稿だけでも軽くそれぐらいは罪に問える」
「なっ!? 違う……! そんなつもりじゃ……!」
「そんなつもりかどうかなんて関係ないよ。口では何とでも言えるし、僕たちの仕事は、何かが起こる前にそれを止めることだから」
情報統制部は玄龍門と犬猿の仲である。
それは内部にいる人間であれば周知の事実ではあるが、しかし互いに相手を潰そうとしないのにはそれ相応の理由がある。
情報統制部が存在する理由は山海経内に広がる情報を限定することでそこで生きる生徒たちに安寧をもたらすためである。そのためであれば何人とも手を組むし、それが達成できないのであれば何人とも手を組まない。
そして情報統制部はあくまでも情報を取り扱うプロフェッショナルではあるが、できるのは精々が対外交渉程度で、政治という部分においてはノウハウが足りていない事実は否めない。
故に、玄龍門という組織が自治区の維持に置いて必要不可欠であることを認めている。
「治安維持組織、生徒会組織、あるいは自治組織なんて言い方もあるけど、僕たちの本質はマフィアなんだよ。昔から変わらず、自分たちに目障りな人間は省くことに躊躇が無い」
利害関係が一致するのならば、共通の敵を排除することに躊躇する理由はない。
玄龍門を害そうとする敵は、情報統制部にとっても山海経の平和を乱す敵なのである。無論その中には無能な門主も含まれていて、この二組織間に武力衝突が発生するのはその首を狙ったときがほとんどである。基本的にはそれが達される前に玄龍門が自浄することがほとんどであるのだが。
先述の話は逆もまた然りだ。情報統制部の頭が機能しなくなった時点で玄龍門側からその首を獲らんとすることがあり、これもまた情報統制部が自分で頭を挿げ替えることで事なきを得ているのが常である。
そうやって互いの頭を潰そうとしてきたからこその犬猿の仲であるが、実情は両の組織が山海経の安寧を追い求めた結果に他ならない。
つまるところ、お互いが敵になることはあるにしても、一方の敵は基本的にもう一方にとっても敵として見做されることがほとんどだということなのである。
「今代の門主様が優しいからって、僕たちまで優しいと思ったら大間違いだよ? あの人が寛大なだけで、僕たちの目が光ってるのは変わらないんだから」
銃を突き付けられたままそんなことを言われ、自身の辿る先を悟った少女は力なく
その様子を見てこれ以上の抵抗はないと判断したシラセは、銃を収めて部下に指示を出した。
「連れて行きな」
その言葉に頷いて、両脇を固めていた情報統制部の部員が少女を連れてその場を去っていく。
今日だけで既にこういった手合いを五人も相手にしたシラセは、山海経の民度の低さに辟易してしまう。考えなしに発言をする生徒の割合が多い気がするのは、自分で会話する機会が多いが故の錯覚なのかどうか、シラセにも正しいところを把握できているわけでない。
しかし他自治区を見てもトップに対する言論が原因で投獄される件数に関しては間違いなくキヴォトス有数であろうことは調べるまでもなく明らかだった。
「もう少し続けるか」
レッドウィンターとの交流会は近い。
そこまでに申谷カイに関与しない不穏分子はできるだけ潰しておこうとシラセは息まいて、次の現場へと向かっていく。
百鬼夜行の治安改善。正式発表あり。
百花繚乱調停委員会の復帰により治安維持に大きな改善が見られる。一方で祭での事件については二十年前と同様に勘解由小路家へ批判が殺到しており、その際に見られた怪物の目撃情報についてはその影響範囲の確認を行うべし。
これで実害がありそうな山海経の内部の膿みは出せた。あとは玄龍門内部。……先生。頼むから、上手くやってね。
宮内カナエ! 実にお馬鹿! アホの子! 安楽椅子探偵!(悪口)
代情シラセ! 誰だこいつ!(お前が始めた物語)
それでは次回「交流会の実施と演劇部の謀反。交流会は成功裏に終わる」でお会いしましょう。