こちら山海経情報統制部。当方に叛意なし。   作:息抜きのもなか

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うかうかしているとどんどん置いて行かれるので更新ペースアップ。
宮内カナエってやつが悪いんです(圧倒的他責)。


25.七囚人「五塵の獼猴」の帰還の噂。騒動に備え準備中。

 山海経内のとある建物内。

 その応接室で、シラセと申谷カイは向かい合っていた。

 呼ばれたわけではない。シラセが情報統制部の情報を使って潜伏場所を割り出し、訪ねたのだ。わざわざ玄龍門の追手を撒いてまで来たが、以前は頻繁に自治区外に飛び出していたシラセであるから、そんなものはお茶の子さいさいだった。

 

「それで、こうして会って何をするつもりだい? 君ごときが私を止められるとでも?」

「いや? そんなこと思ってないよ。僕が何かをするまでもなく、あんたはキサキ先輩と先生に止められるしね」

 

 もちろんだが、歓迎はされない。

 当たり前だろう。これから山海経を荒らしてやろうとしているというのに、隠れ家に辿り着いたものの数時間後にその戸を叩かれたのだから。

 今もなお情報統制部の地下隔離部屋にいる鼠がそうだったように、カイは情報統制部がどこまでのことが可能であるかについては把握できていない部分がある。だからこそシラセの訪問は予想外の事態だったはずで、実際彼女がその姿を確認した時には目を瞬いたことをシラセは報告を受けていた。

 毒でも混ぜればいいものをお茶も出さない今の姿勢が、カイの余裕の無さを示しているとも言えるだろう。

 

「随分とあの二人を買っているんだね。ああ、もしかして、先生のことも好きなのかい?」

「そういうわけじゃないよ。今までの実績からして、それが妥当ってだけ」

 

 シラセのあっけらかんとしたとした態度に、カイは違和感を抱いたのだろう。カイはいつもの余裕そうな表情から真剣に彼女のことを探るような目を向けていた。

 それもそのはずだろう。シラセとカイが顔を合わせるのは随分と久し振りのことで、彼女は情報統制部に就任したばかりのシラセしか知らないから。あのまま突き進んでいれば拗らせに拗らせて不安定な状態になっているであろうと想定していた少女は、しかしカラッとした態度で自分を相手取っている。

 開き直った彼女に戸惑った周囲の者たちと同様に、敵対者(カイ)もまた彼女の行動を警戒する。

 少なくとも何らか心理的変化があったことしか、申谷カイからはわからない。だからこそ、心理的優位に立つには慎重に情報を選ぶ必要があった。

 そして格好の材料を思い出したとでも言わんばかりに眉を上げて、彼女は心底愉しそうに口角を上げる。

 嘲るような笑みはこちらの試みが上手く行っていないことを期待しているようで、シラセはおやと眉を上げる。

 

「そういえば、最近は君もサヤと何かしているようだね? 研究は順調かな?」

「ああ、うん。仙丹があんたの思っているような代物じゃなさそうなことはわかったよ」

「……何?」

 

 それは暗にキサキへと暗躍を告げ口するぞ、という脅しだったが、シラセはそれをさほど気にすることでもないと言いたげにあっさりと言葉を返した。

 実際、口にしていないだけで隠しているわけではないので、シラセは別にそれが見つかったとしても大した問題だとは思っていない。いろいろ邪推されるのは避けられないだろうが、いかに玄龍門の門主とて、個々人の趣味を咎めることができるわけではないのだから。

 また、研究の進捗については以前新たな反応を見つけた後もシラセは自身の研究を進めている。

 あの反応で得られる成分と効能も検めることができたので、それらを活かして次のステップへと進んでいるのである。

 そしてその研究は着実に仙丹へと近づいていて、その中でシラセは自身の薬が申谷カイが望んでいるような方向には進まないことを段々と理解できるようになっていた。

 だが、申谷カイはそれを知らない。

 故に彼女ができるのはそれがブラフであるかどうかを疑うことだけ。目を細めてシラセの動揺を伺おうと待ちの姿勢を見せていた。

 

「信じないならそれでいいよ。それに、あんたがもしあんた自身が望む仙丹を完成させたとしても、その場合は僕とサヤでそれを再現してあげるだけだから」

「ハッ、あれにそんな力はないよ」

「だから僕がいる。あんたの仙丹が何で出来ているかを分析するために、準備をして来たからね」

 

 べ、と舌を見せつけて、暗に自身の能力を転用したことをカイへと知らしめる。

 それが意味することを彼女も理解したのだろう。少しばかり表情を硬くした後に、取り繕うように笑みを浮かべてこちらを見下ろした。

 

「仙丹のレシピを私が渡すとでも? 君の動きは私が把握しているのに?」

「あんたこそ何を言ってるの? こうしてここにいることが、あんたのシンパの中にも僕の手駒がいる証拠でしょ?」

 

 なんか、随分とつまらなくなったな。

 シラセは目の前にいる白黒の指名手配犯に対して、どこか物足りなさを感じていた。

 昔はもっと、手の届かないような強大な敵だと思っていたのに。こんな小物だったっけ、と。

 元より矯正局に送られる前も彼女(カイ)の器はそこまで大きいわけではなかったが、危険度に目が眩んで必要以上に過大評価を下してしまっていたのかもしれないとシラセは思う。精神が安定したことの方が要因としては大きいかもしれないが、それでもここまで面白くないとは思わなかった。

 彼女が錬丹術研究会に所属していた頃よりは情報収集の手が少なくなっていることは理解していて、その影響でパンチラインが弱くなっていることは織り込み済みだったのだが、もっと言葉の殴り合いができると思ってたのだ。

 情報統制部で場数を踏んだシラセからしてみれば、とんだ期待外れでしかない。

 希代の犯罪者は希代の犯罪者でしかなく、山海経の情報全てを牛耳っているシラセとの情報戦で脅威になるわけではない。

 自分が耳にしている以上の情報を有しているわけではないのなら、これ以上の会話は何の益にもならないと断じてシラセは席を立つ。申谷カイは動こうとしなかったが、それを無視して部屋の扉の方へと向かっていく。

 

「あ、そうだ」

 

 扉に手を触れる直前、後ろから銃に手を触れた気配を感じて声を投げる。

 まだ話していないことがあった。キサキに混ぜ込まれた毒について。玄龍門の内部を部下に洗わせて気が付いたが、気が付いた時には手遅れで進行を遅らせることしかできなかったあの事象についての話。

 振り返れば銃に手を伸ばして中途半端な姿勢になった申谷カイが見えて、しかしシラセは気にせずに続けた。

 

「最近気が付いたけど、私にも毒を混ぜてたよね? こうしてピンピンしてるのが、サヤと私の実力の証明だとは思わない?」

 

 図星だったのだろう。明らかに不服そうな顔をするカイに、良いものを見れたとシラセは背を向ける。

 これで冷静さを欠いて無茶な実験をして勝手に潰れてくれたら楽なのだが。そんなことは望み薄だと思いつつも、最も楽な解決方法に思いを馳せずにはいられない。

 シラセが建物から出た後に、苛立ちをぶつけるような鈍い音が背後から耳に届いた。

 

 

 そんな一幕もありつつ、その日の仕事を終えて日付が変わらないうちにと帰宅している最中。

 道を曲がるときに視界の端に見えた人影に気が付いて、シラセは足を止めずに独り言つ。

 

()けられてる?」

 

 犯罪者(申谷カイ)の手先かと思ったが、今の彼女にそれをする理由はない。現状でシラセの立場を危うくしたところで、彼女が望む状況は得られないからである。得られるとすれば、キサキへの嫌がらせという結果ぐらいか。それでも十分に彼女の動機足り得てしまいそうなところが少し不安を誘いはするのだが。

 しかし、シラセは頭を振ってその考えを払う。

 現状必要なのは彼女に対する対策だけだ。必要以上に恐怖(リスペクト)する必要はないことはわかったが、それでもやはり無対策でやりきれるほど甘い相手ではないことも確かである。自身のガードを確認するより、様々な状況を想定して準備を重ねておく方が重要だ。

 無論、そこを突かれて痛い目を見る可能性もないわけではないが、それでもキサキと先生を無視してこちらを殴りに来るのならば、二人が動きやすくなってそれに越したことはないだろう。

 故にシラセは足を止めない。

 彼女が自室に入っていく姿を見つめる影があることに気付いていても。

 

 

 七囚人「五塵の獼猴」の帰還の噂。騒動に備え準備中。

 以前のプロパガンダの効果もあってか、そこまで大きな混乱は生じていない様子。しかしながら一部の信者たちは積極的な動きを見せているため、引き続き状況を注視する必要あり。

 

 ……やられた。どこか別の拠点があるのかと思ってたけど、錬丹術研究会の建物の中を探るべきだったか。……仕方ない。今は、やるべきことをやらないと。




実は「()ける」という漢字表記は存在しなかったりする。でも架空表現だとしても分かりやすくて好き。
それでは次回、「山海経幼女化事件勃発。カバーストーリー「好奇心」発動を要請」でお会いしましょう。
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