こちら山海経情報統制部。当方に叛意なし。   作:息抜きのもなか

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02.玄龍門門主交代。今後の手腕に期待。

 山海経高級中学校、その中心部にある射撃訓練場。

 その場に一人、周囲と異なる雰囲気を放つ生徒が混じっていた。

 目立つ銀色の髪に加えてその身体に纏っているスーツは山海経の伝統衣装を着ている周囲の生徒からは浮いており、しかしその特徴的な姿は山海経のものであれば誰もが一度は目にしたことがある存在の特徴として知られていた。

 

「あの、香主様!」

 

 その名で呼ばれることにまだ慣れず、シラセは一瞬遅れて声の主に反応してそちらを向いた。

 香主。広報部長を指して呼ばれることがあるその呼称は、部長に交代してから四半期も経過していない彼女にとってはまだ耳慣れぬ呼び名である。日中は普段部室で執務に励んでいて外に出ないことも災いして、彼女は部長である意識はあっても『香主』であるという自覚がまだ薄い。

 

「玄龍門の門主様が交代されるというのは、本当でしょうか?」

 

 耳が早いな、とシラセは表には出さず舌を巻く。

 彼女はその件について玄龍門と調整を終え、報道用のデータを貰ってきたところだった。本来であれば真っ直ぐ部室に戻るべきなのだが、こうして寄り道をしているのは彼女が少しばかり気分転換をしたい心持ちであったからである。

 少し周囲を見て聞き耳を立てられていることを悟ったシラセは、すぐに発表するからいいかと割り切り、話しかけてきた彼女の問いに肯定を返すことにした。

 

「事実だよ。これから新しい門主様からコメントを貰って公開するから、もう少しだけ待ってくれるかい」

「本当だったんだ……。ありがとうございます香主様!」

 

 それだけ聞いて離れていった生徒を送って、シラセは自分の訓練に戻る。

 ちなみに山海経内での一般認識では、シラセは『玄龍門の広報部』の部長という扱いである。

 情報統制部という名称自体も所属する本人たちか玄龍門、そしてその主要人物と関わりの深い一部の生徒以外は知らされていない通称のようなもので、外からの認識では『山海経の内外から集めた情報を一元管理し、発信する部活』という程度の認識となっている。それに加えて執行部と似たようなスーツを制服としているが為に、情報統制部もとい広報部は玄龍門の下部組織のような扱いを受けているのである。

 発足当初はその扱いに異を唱える生徒もいたようなのだが、今では『いざとなったら玄龍門に矢面に立ってもらえばいいか』ぐらいの温度感で、ちょうどいい隠れ蓑に身を預けているような状態である。権限的にも独立した一つの部活が持っているというより玄龍門がその権限を分割しているという方が対外的に見ても違和感がなかったこともあって、いつからかすっかりその立ち位置に甘んじていた。

 

「お、最高記録だ」

 

 シラセは一セットの訓練メニューを終えて表示された点数を見て、長らく更新されていなかった点数が更新されたことに驚きを口にする。

 最後に更新したのはキサキ先輩と会った頃だろうかと新たな門主になった自身の友人との記憶を思い返して、先程玄龍門で話したときのことを思い出してしまう。

 無心で銃を撃っていたところにそれが差し込まれて、シラセは大きく息を吐いた。

 ハンドガンをその場に置いて下がり、一歩後ろに並べられた休憩用の椅子に腰かける。

 心を落ち着けようと目を閉じれば、先程のことが瞼の裏に鮮明に浮かび始めた。

 

 

 

『なるほど。そちらで処理は終えたんだね。わかった。公開する情報は単純に『不祥事』で良いかい?』

『いや、それだけでは納得せぬだろうよ。そうさな、『癒着』ということにしておいてくれるかの』

『わかった。そうしておくよ』

 

 手元の端末にキサキから聞いたことを書き込み終えて、シラセは端末の画面を落とした。聞きたいことは全て聞けたので、これ以上メモを取ることもないと判断したのである。

 その様子を見てこの場が役目を終えたことを理解したのか、会議に参加していた玄龍門の他の生徒は席を立って各々の業務へと戻り始める。シラセも広報部門の生徒にデータを共有して先に席を立たせ、幹部の面々にも同じ内容を送っておく。

 そんなことをしているうちに、その部屋の中に残ったのは情報統制部の代表者であるシラセと玄龍門の門主であるキサキ、そしてその護衛の執行部員たちのみとなっていた。

 これなら多少私的な会話をしても問題ないかと判断し、シラセはキサキに話しかける。

 

『年度中の交代なんて異例中の異例だ。これから大変だね、キサキ先輩』

 

 その言葉に黙って視線を返したキサキの様子を見て、やはり警戒されてるな、とシラセは思う。

 先の言葉にシラセは特段感情を乗せていなかった。あくまでも事実ベースの話題振りとしての意図しか彼女にはなかったのだが、キサキはいつかのような隙を見せずにただただ感情を乗せない瞳でこちらを見るだけだ。

 少し言い方が嫌味っぽくなってしまっただろうかと考えて、シラセはそんなことを考えても仕方がないとばかりに頭を横に振る。

 

『他意はないよ。本当さ』

『……どこまでお主の目論見通りかの? この結果になって満足か?』

 

 今度はシラセが黙る番だった。

 キサキはずっと以前話した時の言葉をずっと覚えていたのだろう。だからこそ、誘導紛いの事をしたシラセの事を疑っている。

 あれは自分の口から出た煽りに対して理由付けを行っただけなのだが、どうもキサキはそちらの言葉の方を彼女の心として真正直に捉えてしまっているようだった。

 

『目をこちらに向けた以上のことはやっていないよ。一方的にこちらを疑う相手に、お互い様だと突き付けるぐらいの意趣返しは許してほしいな』

『妾を門主に仕立てあげたのは、お主に都合が良いからか?』

『そこは私も驚いたよ。まさか玄龍門の伝統を破ってまでキサキ先輩をその席に押し込むとは思ってなかったからね』

 

 もともと、シラセは次の門主にキサキが推されるであろうことは予測していた。

 最近の玄龍門の生徒はあまり門主になりたがらないからだ。昔から責任を避け、他の誰かに押し付けようとする気質は見られたが、最近はその傾向が顕著な気がしており、キサキの代では他に引き受けそうな生徒がいないと感じていたのである。

 しかしそれはあくまでも来年、キサキが三年に上がった後の話をしていたつもりだった。

 伝統として一年生から部長をやらせることになっている情報統制部とは組織からして違う玄龍門でそんなことは起こらないだろうと高を括っていたのである。だからこその軽口だったし、軽口のままにしておかなければならなかった。

 故にこのタイミングでのキサキの門主への就任は、どちらかといえばシラセにとって都合が悪い状況であった。

 

『シラセ……いや、香主よ。お主が何か良からぬことを考えれば、たとえお主と妾の仲であろうとも容赦はせぬぞ』

『わかっているつもりだよ。そんな役目をキサキ先輩にはさせないさ』

 

 昔馴染みだからといって温情はないと言い切るキサキに、彼女の性格を知るシラセはその内心が揺れていることを悟る。

 突然門主に就任されられて、伝統を破ってその席に座った彼女は批判を(かわ)すためのいわばスケープゴートにされたようなもの。来年手順通りに門主になっていればこんな目には遭わずに済んだのにと、貧乏くじを引いた友人に同情する。

 ここに自分の不祥事なんかが加わってしまえば彼女の心労は計り知れない。

 キサキは感情を隠すのが得意としているが、決して感情がないわけではない。そこに確かに情を有していて、親しい者を裁けば間違いなくその心は掻き乱されるのだ。

 それを理解しているシラセはやましいことをするつもりなど一切なかったが、改めて気を引き締める。

 

『そうだ、キサキ先輩が門主に変わったから改めて伝えておくけどさ、錬丹術研究会、と言うよりは申谷先輩の方かな。あれ、なんとかしないと不味いよ。こっちにも大量に被害報告が届いてる』

 

 だからこそ、直近で一番の問題を偽りなく伝えた。

 それは自分の事をあくまでの情報統制部の長として見ようとするキサキへの意趣返しの側面もあったが、単純に自分たちが把握している問題の中で最も緊急性が高いものを共有するというシラセなりの誠実さのつもりだった。

 

 

 

「あ、部長発見!」

「まさか射撃訓練場が当たりだとは」

 

 見知った声が聞こえて、シラセは(まぶた)を持ち上げる。

 声がした方に目を向ければ、部下たちがこちらに近付いてくるのが見えた。先の言葉を聞く限りどうやら自分の事を探しに来たようである。

 そこまで時間が経っていたかと時計を見れば、なるほど確かに玄龍門での会議の終了時刻から一時間半が過ぎていて、いつもなら既に土産を持って部室に戻っているような時間であった。それに先ほど自分が休憩を初めたときと訓練場にいる顔ぶれも変わっていて、シラセは自分が思っていた以上に目を閉じていたことを悟る。

 

「部長が訓練なんて珍しいですね!」

「まあ、ちょっと気分転換にね」

「シラセが訓練なんてしてももう意味ないでしょ?」

 

 実際点数が頭打ちになっているとはいえ、他人(ひと)にそれを言われるのは癪だった。

 不貞腐れたシラセの頭を、先輩であり部下である部員にわしゃわしゃと撫でられる。それを見た他の部員からも揉みくちゃにされそうになって、シラセは「ほら帰るよ」と立ち上がった。

 

「香主様の実力は聞いていたけれど、まさかここまでとは……」

 

 背後からの声にそういえば点数を消してなかったなと思いつつ、しかし噂になっているぐらいの話なので別にいいかと放置して訓練場を出る。

 そうして部下と共に部室に戻り、情報発信のための準備を整える。

 キサキから最終版の文言が届いていることを確認したシラセはそれを山海経内部用と外部発信用の内容に調整したものを広報部門に回し、予定通り発表が為されたことを見届けた。

 

 玄龍門門主交代。今後の手腕に期待。

 なお、前任者は癒着により失脚。年度内に二年生が門主へ就任する異例の事態が発生しており、玄龍門の対応を疑問視する声も挙がっている。新たな門主の最初の仕事は、この事態の収拾から始まることになるだろう。




こんな感じで、原作と妄想を反復横跳びしながら進んでいきます。
序盤は妄想多め、後半は原作多めで最後は妄想で畳む予定。
それでは、次回「錬丹術研究会部長失脚。情報漏洩の回避は困難。」でお会いしましょう。

以下、懺悔。
広報部長の香主様のことをすっかり忘れてたので捻じ込みました。
正直プロットへの影響はほぼないので外から見てどうなのかだけ改めて整理した形になります。
広報部については情報が無さすぎますが、ミナが執行部長なのに玄龍門所属扱いなんでこういう感じだろうなと思ってます。
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