こちら山海経情報統制部。当方に叛意なし。   作:息抜きのもなか

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ナンバリングの関係上こちらの方がきれいだったので先にこっちを。
カイ論文。カイ文書。怪文書とも言います。


30.百鬼夜行での目撃情報。真偽不明。

 玄龍門での騒動を終えて数日経ったある日。

 シラセは久々に自治区外への遠征を行っていた。

 その理由は対外的には休暇としているが、実際は申谷カイを百鬼夜行で目撃したという情報が潜入員からタレコまれたためである。

 シラセはこの情報を玄龍門ではキサキのみに報告を行い、ある程度のパンデミックも想定して薬をいくつか持ち込んだうえで百鬼夜行の地を踏んでいた。

 

「どうやって潜り込んだのかは知らないけど、まさか勘解由小路家の食客になっているとはね」

 

 リクと呼ばれる噂の人物と、申谷カイを結びつけるのには苦労した。

 だが、話を聞いていくうちに百花繚乱調停委員会に所属する勘解由小路ユカリが話を聞きつけて首を突っ込んできてくれたため、彼女の家に流れの医者が潜り込んでいることが明らかになった。

 どうしてリクを探しているのかという問いに「尊敬する先輩に久しぶりに会いたくて」と流れるように嘘をついたシラセの言葉を信用したユカリによって、勘解由小路家の一室で顔を合わせたのが先程の事。

 カイが以前顔を合わせたときと少しばかり違う空気を宿しているのに気が付いたシラセは、ひとまず話を聞いてみることにしたのだった。

 

「何の用だい? 私はあれから薬の調合は控えている。今の私を咎めることはできないはずだよ」

「君が外を歩いている時点で不安要素しかないんだよ。ましてや他の自治区だからね。様子を見に来たくもなるものさ」

 

 シラセはじっとカイのことを確認する。

 以前のような焦燥はない。毒気が抜けた感じはあるが、未だ迷い続けている状態か。今は彼女も自分を見つめ直す時間なのかもしれない。

 

「少し話をしようか、リク」

「ふん、君と私が話すことなどあったかな?」

「そうだね。例えば……最近自覚したけど、私は結構君に感謝している」

 

 そうシラセが言葉を吐いたとき、申谷カイは眉を上げて怪訝そうにこちらを見た。何を言っているんだこいつはという表情である。

 申谷カイからしてみれば、シラセに感謝される謂れはないのだ。

 自身の敬愛する先輩を傷つけられ、その心身を追い込んだ人間に対して、どうしてそんな感情を抱けるというのだろう。

 だからこそ、候補は絞られる。

 自身とシラセの共通点を脳内に並べて、命題に対して線で結ばれそうなものを一つ拾い上げる。

 

「……錬丹術かい?」

「そ。君が山海経の脅威とならなかったら、私は触れる機会がなかっただろうからね」

 

 だが、そこが分かってもカイからすれば何のことだと聞かざるを得ない。

 元より自分の研究以外を重要視していなかった彼女に、シラセが錬丹術にどういう心を預けているのなど想像がつかないのである。

 けれどもその答えは、すぐにシラセの方から示される。

 カイが向けられたことのないような、真っ直ぐな笑みを向けられながら。

 

「私、卒業したら医大に進むことにしたんだ。将来のことなんて全く想像できなかった私が、錬丹術に触れて未来(さき)のことを思い描けるようになった。どこで私の物語が終わるかはわからないけど、君が居なければこの道を志すことはなかっただろう。だから――」

 

 ――ありがとう。私を錬丹術と出会わせてくれて。私を救ってくれて、ありがとう。

 ふと、カイは思う。そんな言葉を貰うのはいつぶりだろうか、と。

 期待を受けることはあった。一時的な喜びの顔を見ることはあった。だが、揺り戻しの無い純粋な感謝を受けとることはなかったような気がする。

 それは間違いなく自分の行いのせいだと分かっているが、それでも胸に去来するものがないわけではない。だってそれは、彼女自身が諦めてしまったものだから。

 その感情が乗ったカイの揺れる瞳を見て不憫だと思いつつ、シラセはそれでなんだけどね、と自身の鞄の中から丸薬を取り出して、真っ白いその丸薬をカイの方に見せつける。

 

「はい、これ。これが私が造った仙丹。君があの部屋に残してた情報を使って私のレシピの精度を高めたものだよ」

「仙丹だって?」

 

 カイが隠していた、錬丹術研究会の隠し部屋。

 月影祭直前の騒動の後に発見されたその部屋に置いてあったレシピや器具によって萬年参の鮮度を保ったままの抽出ができるようになったおかげで、シラセの個人研究も大きな進歩を得ることになった。

 シラセの錬丹術は、サヤやカイが起こすような奇術に似た効果をもたらさない。

 それはキヴォトスの人間が有する神秘の多寡によるものなのかもしれないが、しかし目指す方向を考えればシラセはそれに特に不足があるわけではないと思っている。

 カイが目指していたような自分自身が絶対の存在になるという目的を志すわけではないのだとすれば、誰にでも再現可能な堅実な方法に頼る方が理に適っている。ましてやシラセの理想は全人類を対象としているのだから、方法論の確立ができる方が彼女の目的には適しているのだ。

 

「君も馬鹿だね。『薬も度が過ぎれば、毒になる』だっけ? そりゃそうだよ。そんなものを、人は薬とは呼ばない。それは悪い意味での『薬物』でしかないよ」

 

 市井に出回る薬物だって、元を辿ればそのほとんどが医療用の麻酔や痛み止めである。

 痛み(苦痛)を忘れるためのものが、現実(苦痛)から逃れるためのものになってしまう。いつだって逃げる選択肢は人の心を惑わせる。一度逃げたら戻れないこともあるというのに。

 シラセは以前の申谷カイは、そういう選択肢になっていたのだと思っている。

 だからこそ、申谷カイを知るということは劇薬だった。そういう選択肢があると知ってしまえばそこに頼りたくなってしまうから。恐らくそれは山海経の人間だけの問題ではないが、山海経の人間は特にそういう選択肢を取りやすい気質はあるのだとシラセは感じている。

 

「副作用の方が多い薬なんてのはただの毒だ。そして表の作用の発現が人を選んだ時点で、それはただの毒物でしかなくなる」

 

 薬物として使われてしまうような薬品も、デメリットを加味してもメリットが大きいから使われているのだ。

 無論、用法を守らなければ中毒者が出てしまうことはあるが、だからこそ医師や薬剤師は知識を求められる。人間を壊さないような使い方と用法を説明し、それに則って使用することを口酸っぱく述べるのだ。

 だから、良い効果の方すら人によっては発現しないなんてのは、話にならない。

 それは最早薬を飲んでいるのではなく、ロシアンルーレットをしているのと変わらない。

 

「君の仙丹の成分を研究したよ。あれはダメだ。毒性が強すぎるし、最終的に中和されて麻薬などと同じ反応しか出てこない。何が言いたいか分かるかい? 君のあれはただの薬物でしかなく、その強化はプラシーボでしかなかった、ということだよ」

 

 カイの目が険しくなる。

 気付いていなかったわけはないと思っていたが、どうやらそれを理解していたわけでもなさそうだとシラセは考える。

 もしかすると、カイは理論を詰めることを途中で捨てたのかもしれない。

 頭では素材同士が反応して別の成分になることを理解してしまったから、それを確かめてしまうことを無意識に避けてしまった。

 最終的に作り出した丸薬がどんな効果を持っているかという部分から目を背けることで、それが仙丹なのだという思い込みでその域に至ろうとした。

 だからこそ、カイは薬の調合を控えているのだろうなとシラセは思う。申谷カイに何より必要なのは、基本に立ち返って冷静になれる時間だったのだから。

 

「そう生き急がなくていい、って、先生に言われて絆されたんでしょ? 意外と青いね、君も」

「黙れ、香主」

 

 図星を突かれたのか語気を荒らげるカイに対して、シラセはどこまでも冷静だ。

 部下が撮ってくれていた先生とカイの会話を見たのは、カグヤと話してからすぐのことだった。

 あのカイがどうやって引き下がったのだろうと思っていたら、先生の直球な言葉にあっさりと絆されていて思わず笑ってしまったほどである。

 でも、それぐらい申谷カイという人間は承認されることに飢えていた。

 自分を諦めないでほしいという言葉に救われてしまうぐらい、誰よりも彼女が自分を認めることを諦めてしまっていた。

 

「不老不死。恐らくそれは、叶わぬ夢だ」

 

 シラセはあの日皆の前で口にしたそれを、ひどく落ち着いた声音で否定する。

 そこにあるのは諦念ではなく、道理を説くような、将来に惑う子供を諭すような現実的な答えである。

 

「だってそうだろ? この世の全ての物が盛者必衰の理から逃れられないのなら、その理の中にある何を混ぜたとて、その理を破るものを作ることはできはしない」

 

 理の中で何をこねくり回しても、その枠から飛び出すことができないのなら、何も変わらない。

 だからこそシラセは神仙に挑むことを端からしなかった。こちらの常識を逸脱して理を飛び越えることができる方法を、シラセは知らないから。

 それでも申谷カイが本気で挑んだからと全力で対抗策をかき集めながら出した結論は、やはり無理だという現実をただ受け入れるしかないという非情なものであった。

 今日シラセがここに来たのは、それを伝えるためと言っても過言ではないのかもしれない。

 

「だから私たちにできることは天命を全うするまでの間、健やかに過ごす方法を探すことだけ」

 

 そういう理念のもとに作ったシラセの仙丹(ただの丸薬)は、そう呼んでいるだけで大層な代物ではない。

 ただいろんな病に対応できるだけで、全ての病に対応しているわけではない。

 

「万能薬だとは言わない。私に君が混ぜた毒は中和できたけど、キサキ先輩の方には少しの効果しか発揮できなかった。結局はその時その時で必要な薬を作ることを、我々の知識を深めることを万能薬にしていくしかないんだ」

「そんなものが認められるとでも?」

「認めるしかないんだよ。それを錬丹術という手段で得ようとするのであれば」

 

 シラセは別に、錬丹術に可能性を感じているというわけではない。

 彼女が面白いと思ったのはどちらかという調剤の方だし、山海経を離れて大学に進学すれば錬丹術という名前ではないやり方を使って薬の研究を続けることになるだろう。

 だが、その本質は変わらないと思っている。

 素材の力と化学反応を借りて、身体の機能を向上させて健康に生きるための身体を作る。

 どんなやり方であれそれを実現できる手段であるならば、シラセは喜んでその方法に手を伸ばすだろう。リスクの少ないやり方で、より簡単にできるやり方で、より人々にその薬を広められるようなやり方で。

 だが、カイの目的は違う。彼女は神仙へと至ることを命題としている。

 どうしてその手段として錬丹術を選んだのか、シラセはその理由については深く問うことはしないと決めている。

 

「君がどうして錬丹術という手段を用いたのかは知らない。けどその手段を怪奇現象(ロア)ではなく現実的な手段(錬丹術)に頼ったのであれば、怪物になることを拒んだのであれば」

 

 恐らくは、彼女は人のままで認められたかったのだと思う。化け物のように恐れられるのではなく、神仙へと至った『人間』として褒められたかったのだ。

 であるならばやはり、彼女の手段は間違っていた。

 

「君はもっと人を頼るべきだったし、もっと穏便な方法で事を進めるべきだった」

「それは弱者の手段だ。私は――」

「――人を頼ることができないというのは、人を信ずることができない臆病者ということの証左でしかないよ。もしかすると、君はそれを含めて自分の功にしたかったのかもしれないけれど」

 

 結局自分の味方を作れるかどうかは、どれだけ自分が他者を受け入れたか以外にない。

 どれだけ他者を見下して逃げ出したとしても、どれだけ自分はその場所に相応しいと思っていても、その場所に既にいる誰かが受け入れてくれないのならば、そこに自分の居場所はない。

 自分を見てくれる人たちを受け入れること。それができないのなら、そこにも居場所なんてある訳がないのだ。

 だって、自分を見てくれる人たちがいる場所こそが、疑いようもない自分の居場所なんだから。

 だからこそ思う。錬丹術研究会は、彼女にとってそこまで悪い場所だったのだろうか、と。普通に彼女の技術を慕ってくれる人だって、彼女の周囲にはいたはずなのだ。

 しかし周囲を受け要られられなかった理由も分かってしまうシラセとしては、どうしようもなかったのかもと思わないこともない。

 

「それは君だって同じこと……、いや、まさか、シラセ、君はまさか、あの愚か者たちを受け入れたと言うのか?」

 

 驚いたように声を上げるカイに、シラセはそこまで頭が固いやつだと思われていたのかと思考を巡らせかけて、違うなとブレーキを踏んでストップを掛ける。

 それから彼女が今放った言葉を反芻してみて、今までの言動も照らし合わせてみて、シラセの疑問はゆっくりとその氷を溶かしていく。

 

「……ああ。そういうこと」

 

 シラセはようやく、カイが自分にちょっかいを掛けていた理由に合点がいった。

 前々からどうして自分なのだろうと思っていたのだ。

 情報統制部に入ってからはシラセがキサキと親しくしていて、かつ立場がある人間だからということで納得ができたのだが、彼女がシラセに対して積極的に声を掛けてきていたのは、初級中学校時代の頃だったのである。

 むしろ高級中学校に入ってからはキサキへの嫌がらせの()()にされるだけでこちらに対して直接何かをしてくるわけではなかったから、その意図を図りかねる部分があったのである。

 だけどもしカイがシラセを見つけた理由がそれなのであれば、今までの全てに納得がいく。

 

「君が私に目をかけてたのは、この山海経の生徒に同じ思いを抱いていたからなんだね」

「そうだ、だからこそ、私は君を……」

 

 それを知った今では、カイが矯正局に向かう時に自分に届けた言葉も、あながち全部が嘘ではないのではないかとすら思ってしまう。

 もしも先に申谷カイに出会っていたら、シラセの未来は錬丹術研究会(そちら側)にあったのかもしれない。

 そうしたらきっと、先生とキサキに倒されたモブの一人として消えていただけだろうけど。

 だからまあ、そんなことは意味のない仮定でしかないのである。

 

「結局、どこまで行っても私たちも山海経の生徒なんだよ」

「…………ッ」

 

 それはあまりにも受け入れ難い、だけど受け入れるしかない本質だ。

 どれだけ見下そうが自分もその中の一人でしかなく、物事の一側面しか見ることのできない愚か者の(さが)を有してしまっている。

 きっとそれはこれからも付き合っていかなければならないことで。

 誰しもが見つめ直さなければいけない悪癖だ。

 

「君が手段を間違えたように、キサキ先輩がその立場を追われかけたように、私がずっと空回っていたように。自分一人でやろうとしたら、我々は上手く行かない運命(定め)なんだ」

 

 申谷カイとて、最初からそうではなかったはずだ。

 恐らくは最初は些細な過ちだったのだろう。だけどその小さなミスで、彼女は山海経の人間を頼ることができなくなった。

 頼らなかったのではなく、頼れなかった。

 だって、悪いことをしてしまったのは理解してしまっていただろうから。取り戻さないといけないと思って誰にも迷惑を掛けないように自分一人でやっていたら、また別の罪を重ねてしまって。

 そうしているうちに、他人に分けられる罪の大きさを超えてしまった。

 だから悲鳴も恨み事も聞こえないふりをするしかなくて、そうしているうちに本当に人のことを気にしない怪物になってしまった。

 だけど、最初から物になりたかったわけではなくて。彼女だって本当は。

 

「キサキ先輩や君ですらそうなんだ。私たちは愚かであることを自覚して手を取り合うほかないんだよ」

 

 我らは皆――凡夫である部分を持っている。

 じゃから、互いに寛大に接するべきではないかという話をしておるのじゃ。

 

 申谷カイは、思い出す。

 結局折りきることができなかった、門主としての役を全うした彼女のことを。

 ようやく彼女が伝えたかった言葉の意味を咀嚼できるようになったカイは、だからこそ彼女と同じことを語ったシラセの方に目を向けて。

 

「代情シラセ。君は――」

「――黙れ、申谷カイ」

 

 シラセはその先の言葉を言わせない。

 たらればに縋ったところで、既に歩いている自分の道が変わることはないのだから。

 

「私の居場所は私が決める。遠回りこそしたけれど、私は今の座についたことが私の適性外だったとは思わない」

「……どこまでも、君たちは凡夫でいるつもりなんだね」

「お互い、向けている感情は同じみたいだね」

 

 シラセは知っている。

 何かを自分の思い通りにしようとするほど、自身が空回りしていくことを。

 だからシラセは我を通さない。結局先の逮捕騒動だって、シラセが勝手に消えようとせずに最初から対話に応じていたら済んでいた話だったのだ。

 だからまあ、どうせ変わらないんだろうなと思っているけど。

 

「「同情するよ、そんな生き方しかできない君に」」

 

 全く以て、似た者同士。

 

「くは、くははははは!!!」

「あーはっはっはっは!」

 

 笑わない方が難しいというものだろう。

 思想は近しいのに全く違う手段を択ぶ両者の道が交差することはなく、ただ真っ直ぐに自分の道を歩くだけである。

 ひとしきり笑って、言いたいことも言い切ったシラセは、用は終わりだと言わんばかりに立ち上がる。

 

「ま、精々足搔きなよ。先生もいるんだしさ」

「君はどうするんだ?」

「私? 私は普通に大学を卒業したらどこかに行くよ。だって――私に二度目はないからね」

「……?」

「ああ、そうか。君は情報統制部のことは知らないもんね」

 

 地下の資料保管室に保管されている代物について口を滑らせたシラセは、しかし混乱の元となるため外に持ち出せない情報なので口を(つぐ)む。

 途中で止めると気持ちが悪いだろうと思って別の話題を脳内データベースに検索を掛けて、良いものがあったとシラセはふすまの近くで足を止め、カイの方へと振り返る。

 

「そうだ、カイ。空が赤くなった日のデータを見たかい?」

「何のことだ?」

「まだ見ていないのなら誰かに、例えば先生に頼んで見せてもらうと良い。天童アリスという少女について、よく話を聞いてみると良い」

 

 アトラ・ハシースの箱舟の概念防御を破った彼女は、彼女の特殊性による要因が大きいとはいえ、しかしそれだけでは為せなかった何かを持っているのは確実である。

 それが何であるのかの解を持たないシラセは、しかしあの時にあの場で起こったことが奇跡に類する何かであることだけはわかっていた。

 

「自分を信じる者の許にしか、奇跡は降りてこない。もしも君がまだ霊薬を作ることを諦めていないのであれば、それを忘れないことだね。君の執念も正しい方向に向き続けるのならば、それはきっと結果(ロマン)として実を結ぶこともあるだろうよ」

 

 もしも申谷カイがこの先も錬丹術に挑み続けるのであれば、仙丹に手を届かせるにはそういったものが必要になるはずだ。

 自身を勇者だと信じ続けた青い髪の少女が起こした奇跡を思えば、あながち自身の身体を神仙へと変えることぐらいは難しいことではないのかもしれない。月影祭の折に彼女(カイ)が準備した儀式のようなやり方を突き詰めれば、ひょっとすると霊薬に力を込めることもできないことではないのかもしれない。

 だが、申谷カイがもし、もしそこに手を届かせることができたのであれば、他に誰が認めずとも自分ぐらいは純粋に誉めてやろうと、シラセは思う。

 

「じゃ、またいつか逢えたらいいね。騒動を起こすなら、できれば私の知らないところでやってほしいかな」

「馬鹿なことを言う。どこで何をしようが、どうせ君には筒抜けになっている癖に」

 

 ひらひらと手を振って返す。

 後ろは振り返らなかった。

 

 

「……宮内カナエ。情報統制部の無い世界、か」

 

 私は知っている。この世界がいつか摘み取られることを。

 

 この物語が、誰かの手によって編纂された紛い物であることを。

 

 だとしても、私にあるのはこの世界だけだから。

 

「あれ? 連邦生徒会長って、空色の髪色してなかったっけ?」

 

 私は全力で、この道を歩くだけだ。




長すぎ。ガチの怪文書やんけ。
次回は本当にエピローグ。
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