こちら山海経情報統制部。当方に叛意なし。   作:息抜きのもなか

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これからは定期更新できるように頑張ります。



06.雷帝失脚の影響調査。雷帝の遺産を要確認。

 代情(よせ)シラセは雷帝の遺産を所持している。

 そのことを誰かに伝えたことはないし、この先も口外する予定はない。

 

 それが故に、玄龍門から命令として雷帝が失脚したことによる影響調査の一環として雷帝の遺産が山海経内に存在しないか確認せよとの命令が下ったときには、流石のシラセも肝を冷やしたものだった。

 自身の敬愛する先輩から辞令を受けた際に白を切り通せたのは、普段の行いの賜物だろう。

 

「……雷帝の遺産。もう失脚したから雷帝の作った物がそう呼ばれてるようになったんだっけ」

「そうさな。噂レベルの物もあるとは思うが、それも念のため確認してほしい。彼の者が作った物の中には、御伽噺に出てくるような代物も存在するようだからの」

 

 そんなやり取りを終えて帰宅したシラセは、カーテンが閉め切られていることを確認して自室のデスクの一番下、鍵がかかった引き出しの中を検める。自分の気付かぬ間に盗まれでもしていたらと僅かばかりの不安が過ぎるが、目的の品は以前その引き出しに錠を掛けたときと変わらずにそこに存在していた。

 シラセが有している雷帝の遺産は、ブラックマーケットで入手した小さな装置である。

 ゲヘナでクーデターの予兆ありという報せを受けた彼女は、もしそのクーデターが成功すれば雷帝の遺産の価値が高くなるだろうと考え、裏社会に出回っている装置の一つを確保したのだ。

 

「まさか、完全タブー扱いされるようになるとはね。あれは誤算だった」

 

 しかし、シラセの思惑とは異なりそれらが『雷帝の遺産』と呼ばれ始め、新たな風紀委員長や万魔殿の手によって回収・破壊されている状況になってしまい、所持することすら忌避される始末。新たな風紀委員長がブラックマーケットで目撃されていることもあり、裏社会でさえそう軽々と扱えるものではなくなってしまった。

 そのため、シラセにできることはその存在を秘匿することだけだ。昨今の風潮では今回の辞令のように山海経でも問題になってしまうため、個人使用も厳しいだろう。ゲヘナの印章が刻まれた品を持つということは、雷帝の復権を望むシンパだと思われてしまうから。

 元々玄龍門にでも売りつけるつもりで手に入れたため、自分で使うつもりはなかったシラセは引き出しの中に閉ざしておく以外に選択肢を持たない。

 

「今の立場じゃもう言い出せないだろうし、リスク抱えちゃったな」

 

 発覚すれば一発退場の爆弾。言い訳は不可能。

 鍵を掛け、開かないことを確認する。鍵を金庫の中に滑り込ませ、その施錠を確認してようやくシラセは息を吐く。

 閉じた瞼の裏に隠された瞳の動きは、誰にも見られることはない。

 

 

 調査の結果、シラセが持っているような小型の機器が二件、大型の工業機械のようなものが一件摘発された。

 シラセが見る限りそれらは通常利用の分には問題ないように見える。だが、誤った使い方を選べば悪用も可能な性能を有しているというのもまた否定できなかった。

 雷帝の遺産にはその類のものが多い。単純に性能が高いが故に、別の使い方ができてしまうのだ。既存のもののマイナーチェンジと呼ぶには些かオーバースペック過ぎる代物たち。それらが必ずしも善性を有した人間にのみ行き渡るわけはなく、むしろ悪用を考える者たちの方こそ手に入れようと必死になっていた。

 

「で、どうするんですか? 回収したはいいですけど、ゲヘナに渡すわけじゃないんでしょ?」

「玄龍門に報告後に破壊処理することになるだろうね。雷帝の遺産はタブー扱いだからね」

「えー勿体ない! こんな性能いいもの、黙ってたらバレないしうちで使いましょうよ!」

「ダメ。ゲヘナのマークが入ってるし、玄龍門に餌を与えるわけには行かないでしょ」

 

 部下の言葉を跳ねのけて、玄龍門へ上げる報告書を書き上げていく。

 普段ならば認めてくれるのに、と口を尖らす部下を無視するのは忍びなかったが、シラセも組織の長として引かなければならない一線があることを認めていた。今までのちょっとした違反は笑って流してもいいが、これだけはダメだ。外交問題になりかねないし、下手すれば吸収・解体もあり得ない話ではない。

 また、政治的な話をするのならばここでしっかりと対処をしておけばゲヘナに恩を売れるという点は見過ごせない。シラセは楽をすることを厭わないが、それはどこまでも山海経に利する確信があるが故。今回について最も益があるのはゲヘナに恩を売り、そのことによって外交的に優位に立てる玄龍門へも恩を売ること。

 それを考えればやはり、シラセは自身の秘密を明かされるわけにはいかなかった。

 

 

「……読心装置?」

「そうじゃ。ブラックマーケットで山海経の誰かが購入した、という噂があるようじゃ」

「それでゲヘナに突っつかれてると。分かった。探してみるよ」

 

 報告書を届けに行ったシラセに、キサキから追加の依頼が下された。

 読心装置。明らかな厄ネタの発覚に息を吐く。

 シラセは自分の記憶を探るが、山海経内ではそう言った噂は流れていなかったと記憶している。それはつまり、自分が先程推測した通りゲヘナ側からの圧力が玄龍門に直接来たという証左。適当な調査をできるはずもなく、シラセは頭を抱えそうになる。

 

「でも、そんなもの本当にあるのかい?」

「どういう意味じゃ?」

「いやさ、読心装置なんて、いかにも玄龍門が欲しがりそうなものじゃない?」

 

 軽口を叩くシラセに、キサキが目を細める。

 無論、シラセが本心からそう思っているわけではない。これはただの確認だ。キサキが、ひいては玄龍門がそういった装置の存在を知って手に入れようとしているのではないか、その意図が少しでも見えれば断る理由付けになるから。

 

「取り調べのために、妾がその装置を欲していると?」

「キサキ先輩がそうとは思ってないよ。でも、他の皆はどうかな?」

「あり得ぬな。ゲヘナの装置など使えば、過激派がうるさいじゃろうて」

「それもそうか」

 

 動揺はない。それを悟らせないように隠す様子も。

 キサキ相手に探りを入れるのはなかなかの難題ではあるが、彼女とて完璧ではない。どこかにボロがでれば儲けものという判断だったが、やはりその牙城を崩すのは一筋縄ではいかないようだ。

 だが、少なくとも崩れるようなやましい部分はなく、あるにしても隠せるほどに計画を練っているということは判った。それだけで十分な収穫である。

 だって、それならば騙されてあげられるから。

 

 

 最終的に、いくつか候補者が見つかるだけで、装置そのものの回収には至らなかった。

 その候補者リストを調査記録と共に提出すると、キサキは何か言いたげな表情をしていたが、特に自身の心の内を語ることなくその報告書の受理を行った。その表情を隠さなかったのは、まず間違いなく疑われているのだろうなとシラセは思う。

 

「間違っていないんだから甘んじて受け入れることね」

 

 部室に戻ってきて愚痴を吐いていたシラセは、先輩からそんなことを言われてしまう。

 彼女にそんなことを言う権利がないとは言えず、シラセはその言葉を受け止める以外に選択肢を持たない。今回の調査で犯人が確定しているというのに候補者を作り出し、報告書を作り上げるところまで手伝ってもらった手前、彼女に対して上がる頭が存在しないのである。

 

「たぶん、僕に伝えた情報以外にも隠した情報があるんだろうね」

「それでも一直線にあなたのところに来なかったのだから、確定情報ではないんでしょうね」

 

 はじめは自分一人で()()()()()()つもりだったが、先輩の手を借りることができて良かったとシラセは思う。自分一人で計画していたらもう少しボロが出てしまっていただろうという懸念があったためである。

 協力の理由を問えばもうすぐ卒業だからと彼女は答えたが、その真意は別のところにあるのだろうなとシラセは推察する。

 彼女はシラセに情報統制部という選択肢を示した人物だった。そしてシラセに雷帝の遺産の購入を勧め、背中を押した人物でもある。今回の件の助力に関しては、まず間違いなく後者の事象が原因だろう。最終的に動いたのは自分なのだから責任を感じる必要などないのにと思ってしまうが、彼女がそれを受け入れられない性格であることも理解していた。

 

「情報統制部だって一枚岩じゃない。上手く切り抜けられたのは、先輩のおかげだよ。本当にありがとう」

「玄龍門に(くみ)したがっているような内通者には悟られないように動いたけど、完璧じゃないわ。まあでもいろいろと、これでチャラにして頂戴」

「もちろん。ここまでで十分助かったよ。後は全部僕の方でどうにかするさ」

 

 もし自分が雷帝の遺産を持っていることが見つかったとて、調査自体は間違いなく行われているのだから。先輩はただ調査の段取りと書類作成の手伝いをしただけで、シラセという身内の罪に辿り着けなかっただけ。そう言い張れる程度には慎重に事を運び、報告者に書いた張り込みや観察記録は実際に部員が張り付いて報告として上げてきた本物のデータである。

 そういうことをするのがキサキに疑われる原因なのだ! とどこかのネズミ耳の少女に指を差される光景を幻視して、シラセは一つ息を吐く。

 

「ま、とりあえずはこれで一件落着かな。今日で破壊作業も正常に完了したみたいだし」

 

 挙がってきた遺産破棄作業の報告書を確認する。作業担当者として記載されている欄に先日雷帝の遺産の処理で口論をした部下の名前が見えて、シラセは少しの逡巡の後に完了済みのフォルダへと報告書を格納する。

 その作業を以てして、今回の雷帝の遺産の調査依頼は完了を迎えた。

 

 

 雷帝失脚の影響調査。雷帝の遺産を要確認。

 現状、山海経内に重大な危険性を有する物品は確認できず。その他の遺産については廃棄処理を完了済み。所持している可能性のある人物については、引き続き監視を続けられたし。




はい、シラセのキサキに話せないことその1でした。その2があるとは限らない。
それでは次回「キヴォトス崩壊論。昨今の治安悪化を案じた陰謀論と断定」でお会いしましょう。
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