こちら山海経情報統制部。当方に叛意なし。   作:息抜きのもなか

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07.キヴォトス崩壊論。昨今の治安悪化を案じた陰謀論と断定。

 もうすぐキヴォトスは終わりを迎える。

 そんな噂が(まこと)しやかに囁かれ出したのは、今月に入ってからだったか、はたまた先月の終わりごろだったか。

 いずれにせよ荒唐無稽と切り捨てるべき噂に自治区の生徒が踊らされている現状を受けて、情報統制部はその対応を迫られることとなった。一部の部員はなぜこんな眉唾物の調査をするのかと呆れているようだったが、正直シラセも同意見だった。

 

「いや、別に息抜きに調べるには良いと思うんだけどさ、流石に手を広げすぎじゃない?」

 

 幹部会議で多数決を取って通ってしまったが為に黙認した手前、あまり文句を言うのも良くないとは思っているのだが、しかしシラセが想定した数倍力を入れて調査を行っている様子に困惑を隠せない。

 やってもSNS調査と自治区内の聞き取り程度だと思っていたのが、蓋を開けてみれば他の学園の潜入員も巻き込んで本格的に調べ尽くしている。この手の話は陰謀論だと判りきっているのに何をやっているんだとシラセは頭を抱えた。

 そして他の業務が滞り始めているのが進捗管理で明らかになったために、幹部を呼び出して状況を問いただすことに相成った。

 

「いや、最初は息抜きだったんですけど……」

「興が乗ってしまってな……」

「意外と尻尾を掴ませてくれなくてちょっと意地になったと言いますか……」

「楽しくなっちゃいました☆」

 

 SNS、ひいては陰謀論とはそういうものだ。否定しようとすればするほど()()()()()()いく底なし沼。物事の確定していない事象を切り出して誇張し、捻じ曲げ、そしてその否定するには材料が乏しい風説を流布する。

 情報を確定させることが仕事である自分たちにとっては相性が悪い劇物。いくら探そうと情報源(ソース)などなく、各々が考えた妄想を発信しているのが常なのだから。

 提案が上がってきた時点で見えた結果ではあったのかもしれないと、シラセは独断で止めるべきだったかと先日の自分の判断を反省する。

 

「で、そんなに調べたんなら何か見つかったの?」

 

 そのシラセの言を受けて、各自待っていましたとばかりに後ろ手に隠していた書類を取り出す。

 既に報告用の書類を用意してあったならさっさと持って来いと思わないでもないが、もしかしたら昨日呼び出しを掛けた後にこの件だと気付いて急いで作ったのかもしれない。誇らしげな顔をしている一人は確実にそうだろうとなと思いつつ、その無駄な努力に免じてそこを咎めるのはやめておく。

 各人が持つそれらの枚数を一瞥してみれば調査結果は明らかだったものの、ひとまずは一人ずつ調査結果(言い訳)を聞いてみることにした。

 

「私のは出回っている陰謀論の種類ですね。隕石が落ちてきて全部めちゃくちゃになるだとか、キヴォトス全土を巻き込んだ戦争が起こるだとか、我々は既にウイルスに感染していて、遠隔起動で全員化け物になっちゃうとか、その他にも説はいろいろありましたけど、有名どころはこの三つですかね」

「陰謀論の種類を調べろとは言ってない。はい次」

 

「我が調べたのは戦争の気配だな。ゲヘナ・トリニティ間の一触即発状態はあれど、現在進行形で戦争の準備をしているような学校は見受けられなかった」

「ちゃんと調査しているのはえらい。ハイ次」

 

「こっちも似たようなものかな。流行りの感染症を洗ってみたけどキヴォトス全土に広がりそうな勢いのものはなかったね。あ、一応新しい病気っぽいものを見つけたから既にファイルに格納してまーす」

「ありがと。後で確認しとくね。次、最後」

 

「はいはーい、実際にキヴォトス全土を脅かしそうな厄ネタを洗ってみたけど、どこまで行っても都市レベルかな。さすがに連邦生徒会とか、三大学園が動けば止まるレベルの話ぐらいしか出てこなかったよ」

「だろうね」

 

 四者四様で調査を行ったようだったが、資料が薄いことからも予見できていた通りまともな調査結果は無し。

 まあ、一人目以外はそれなりに有用な調査をしているので、シラセが思っていたよりも壊滅的な内容ではなかった。息抜きでやったというのはあながち嘘ではなく、息抜きだからこそ時間が掛かって、単純に息抜きする人を増やした結果が調査規模の拡大という結果を招いただけなのかもしれない。

 しかし、やはりここは情報統制部。

 こんなどうでもいいことに時間をかけて貰っては困るのである。

 

「僕も一応潜入してる皆に聞いたけど、どこもそういう予兆みたいなものはないって。つまり、現状キヴォトスにその全土を巻き込む崩壊を招くような具体的な脅威は存在しない」

 

 そもそもが陰謀論なんだから当たり前なんだけどね、とシラセは嘯く。

 四人が出してきた調査結果を考えても、現状は具体的にキヴォトスという集合体が崩れる予想はできず、陰謀論として結論付けるしかないだろう。

 であれば、この騒動の元凶は何なのか。発信源はどこなのか。その部分の方が重要だとシラセは考える。

 もしもこの陰謀論を流したのが悪意のあるユーザーであるのならば、それはキヴォトスの集団心理を誘導できるような技術を持っているということになる。それは今回のような陰謀論を垂れ流すだけならば問題ないのかもしれないが、一歩間違えれば山海経の脅威となる可能性を孕む警戒対象であることは間違いない。

 故にシラセはこの陰謀論がどこから出張ってきたのか、その一点に絞って調査を行っていた。

 

「これが、今回の原因」

 

 シラセは調査の結果浮かび上がった大元の発信をモニターに表示して四人に見せる。

 そこに映っていたのは、なんてことないSNSでの呟きだった。

 

『最近ウチの自治区でゲヘナの雷帝の遺産が見つかって一大事になってびっくり。他人事じゃないんだってわかって怖かった。今月に入ってから治安も悪くなってきてるし、今までの平和が壊れそうで不安』

 

 雷帝の遺産が身近に存在したという驚愕と不安、そして昨今の治安の悪化を案じた普通の呟き。

 この返信欄も至って普通の共感して自分語りをする肯定と馬鹿にするような否定の呟きがほとんど。その中に異物として紛れ込んでいるのが、過剰反応して妄想を垂れ流す活動家や不安を掻き立てられて錯乱した一般人。

 それを見てネタが出てきたと思ったのか便乗して自分の呟きとして陰謀論を展開していくものが出始めて、大本の呟きよりもそちらに注目が集まるようになってしまった。

 それが今回のキヴォトス崩壊論が広まった発端だった。

 

「ま、だから根も葉もない噂話だよ。いつも馬鹿なこと言ってるやつの呟きがたまたまバズった。そいつと似たような題材で似たようなことを言ってるやつがいたからそいつもバズった。それが連鎖していった結果が今の状態ってわけ」

 

 だからこれで調査は終わり、とシラセは皆に見せていたモニターを自分の方に戻す。

 既に独自で調査を終えていた部長に対して、呼び出された四人は顔を見合わせた。思うところは同じである。

 ちょっと遊びすぎたかも。

 そんな四人の思考をキーボードを叩きつつも察したシラセは、画面を見たまま問いを投げる。

 

「じゃあ、調査は終わったけど、次はどうする?」

 

 四人は再び顔を見合わせる。

 そして、息が合っているだろうと思ったのか一斉に答えを発した。

 

「放置」「拡散」「訂正」「通報?」

 

 全くもって息が揃わなかった部下たちに、シラセは一つ大きく息を吐く。

 苦笑いしつつそれを受け止めた四人の方を向いて、シラセは自身が考える正解を伝える。

 

「今回は、第三アカウントを使って元ネタを引用して晒すのが正解かな」

 

 その答えを聞いて四人は目を瞬き、その手があったかと言うように眉を上げた。

 第三アカウント。それは情報統制部が管理しているSNSのアカウントの内、情報統制部であることを隠して一般ユーザーを装って運用されているアカウントのことである。公式アカウントとして正式な情報発信を行う第一のアカウント、担当者の人格を出した広報部という外面の広報用アカウントである第二アカウントとは異なり、その役割はプロパガンダや情報誘導を主としている。

 無論あまりにも態度を変えすぎると同調しているユーザーに違和感を与えてしまうため、この第三アカウント以外にもいくつか主義主張を変えたアカウントを有してはいるのだが、部内の便宜上の呼称でそれらを総称して第三アカウントと呼んでいるのである。

 

「どう? 異議があればここで言っちゃって。なければ運用班に任せちゃう」

 

 シラセの問いに、四者は首を振って彼女の意に同ずる構えを見せる。

 それを同意と見做した彼女はそのままキーボードを叩いてその旨をSNSの運用班へ依頼を出して、申請とタスクの振り分け、そして対応の議事録の作成に移行する。

 そうやって彼女が仕事モードに入ったときにはもうこの場を離れていいタイミングだと理解している面々は各々で少しばかり視線を交わし、軽く頷いてその場を辞した。シラセに突かれた時点で対応しないといけない案件が他にあることを思い出してしまっていたためである。

 息抜きの案件が終わっても、彼女らの仕事は終わらない。

 自分たちが遊んでいた分、その日は日付が変わってもまだ情報統制部の建物には明かりが消える様子が見られなかったという。

 

 キヴォトス崩壊論。昨今の治安悪化を案じた陰謀論と断定。

 なお、第三アカウントにて引用して発端を明示することにより、一定程度の噂の鎮静化を図るものとする。




普通に仕事してるだけのお話ですが、たまにはこういうのもいいですね。次があるとは言わない。
それでは次回、「ミレニアム研究発表会の噂。自爆機能あり。」でお会いしましょう。
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