栗花落カナヲのお兄ちゃん   作:龍門岩

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需要があれば続きます




運命の夜

 

 ———クソ!畜生!!なんで!!

 

「何でこんなところに、柱が!」

 

全速力で逃げるのは、この世に巣食う人ならざるモノ———すなわち鬼である。

 

時は大正。この現代において彼ら鬼は人々に認知されていない異物だ。もちらん警察や軍、ましてや一般人すらもその存在を知らない。そして彼らを殺さなければ、人類はとっくの昔に滅んでいるだろう。

ならばその鬼たちは誰が倒すのか?

 

「全集中・熾の呼吸」

「ひぃいい!?来るな、来るなぁ!!俺はまだ死ねないんだぁぁああ!!!」

 

「壱ノ型———朱淵(しゅえん)

 

炎、炎、炎。真紅に煌めく焔が鬼の顎を穿った。その剣筋には竜が通ったかの如く、焼き焦げた地が残るのみ。

 

さて。鬼は、誰が倒すのか?

 

 答えは一つ——鬼殺隊。政府非公認である鬼を滅殺することを目的とした集団が、日々鬼を殺すため日本各地を奔走しているのだ。

 

そしてたった今、鬼を殺したこの男も勿論鬼殺隊。だがただの鬼殺隊員ではない。

 

 鬼殺隊最高戦力———柱。その中でも歴代最強、はたまた始まりの剣士の生まれ変わりでは、とさえ謳われるこの剣士は、その魂は、強く輝き燃えている。

 

 白地に金と青が散りばめられた羽織りに、黒曜石色に赫灼の混ざった長髪を後ろで一つ結びにしたその姿は大変目立つ。その刀は先程まで赤々と空気を焦がしていたが、今は見る影もなく漆黒へと変化していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま〜」

「あら、皐月くん!おかえり〜!」

「おかえりなさい皐月」

 

 鬼を滅し、我が住処である蝶屋敷——本当は医療施設なのだが、細かい事情は後で語るとして——に帰ってきた俺を、すぐさま出迎えてくれたのは二人の女の子。

 

「ありがとう。カナエ、しのぶ」

 

 鬼殺隊元花柱、とある鬼にやられて今は呼吸は使えないものの、実質的蝶屋敷の長とも言うべき存在の胡蝶カナエ。

 そして鬼殺隊現蟲柱で、頸を斬る筋力はないが鬼を殺せる毒を開発したすごい人な、蝶屋敷の医療従事者筆頭である胡蝶しのぶ。

 よく美人姉妹と口々に噂されるこの二人と俺は、今も昔も一緒に住んでいる。それには湖よりも深い理由があるのだが。

 

「今日も任務が終わるの早かったわね〜、先にお風呂に入りたいかしら?」

「違うわよ姉さん。どうせ任務はすぐ終わらせて帰ってくるだろうからって、もう夕餉の支度は終わってるんだから!」

「あらあら、でもきっと汗はかいてるはずだし身体は洗いたいんじゃないかしら〜。なんだったら私がお背中を……」

「姉さんはすぐそうやって!そ、それに、そんな二人でなんて、破廉恥だわ!」

「んもう、しのぶは可愛いわね〜」

「論点をすり替えないで!!」

 

 ガミガミガミガミ、あらあらうふふ〜。この姉妹はこうなると永遠と言い争ってしまうのではないかと錯覚してしまうほど間髪入れずに言葉を捲し立て合うのだ。しかし今はそのようなことをしている場合ではない。

 

「しのぶ。今日の夕餉当番は?」

「だから姉さんはいっつも……え、っと、アオイとカナヲよ」

「すぐに食卓へ!!!」

「あらあら〜、カナヲの勝ちみたいね」

「どんだけカナヲ大好きなのよ…」

「うふ、嫉妬かしら??可愛いわねしのぶったら〜」

「そ、そんなんじゃないってば!姉さんも早く行くわよ!」

「うふふ、待ってよしのぶ〜」

 

 風呂か、飯か。どちらを先に取るかの二択を先程まで迫られていたが、僅差で風呂だった。たしかに雑魚鬼で微塵も疲れは無いとは言え、今は夏。季節的な暑さにより多少隊服の中が蒸れていたのである。

 さすがに汗は早く流したいので風呂に行こうと思ったが今日の夕餉当番にはカナヲがいる。そう、カナヲだ。最近まで日輪刀で胡瓜を切ろうとしていたくらいの子ではあるが、アオイやカナエなどの指導により何とか一人で一品だけは作れるようになったらしい。

 

「あ、皐月、おかえりなさい。今日は———」

「うん、カナヲとアオイが夕餉を作ってくれたんだろう。いつも通りいい匂いでお腹が鳴りそうだ」

「……ぁ、ありがとう」

「あれ、カナヲは?それにきよもすみもなほも」

 

 急ぎ駆け足で食卓にたどり着いたのだが、アオイの姿しか見えない。どうしてだろうと疑問符を浮かべるが、扉の方からなんだか声が聞こえるような……?

 

『大丈夫ですよカナヲちゃん!自信もって!』

『とっても美味しそうですから!』

『頑張れ!頑張れ!』

『……うん。ありがとう』

 

  そして意を決したらしいカナヲは俺の前まで来て、顔を赤らめモジモジしている。天使か??天使なのか??

 

「……頑張って、作ったの。きんぴらごぼう」

「それ、俺の好物……好物だから練習して作ってくれたのか、カナヲ?」

「う、うん。美味しいかはわかんないけど…」

「美味しいよ、もう美味しい。カナヲ初めての手料理ってだけでお米十杯は食べられるね」

「…………」

「「「カナヲちゃん照れてるね〜、可愛い〜」」」

「皆揃ってるわね、ご飯にしましょっか〜」

「ほら、カナヲも皐月も座って」

「うふふ〜。はい、それじゃあせーの」

 

『いただきます』

 

 まず手をつけるのは言わずもがな———カナヲが作ってくれた俺の好物、きんぴらごぼうだ。前は料理と言ったら日輪刀でまな板ごと切りつけてたのに、今ではこんなに綺麗にごぼうをささがきして……!人参の細切りも全部均一で、どれだけ練習したんだカナヲ……!!

 

「……うまい!」

「っ!!……よかった」

「うまい!うまい!うまい!」

「さ、皐月が煉獄さんみたいになっちゃったわ…」

「うふふ、みんな可愛いわ〜。あら、この鯖の味噌煮もとっても美味しい!アオイまた腕を上げたかしら〜」

「い、いえそんな…!」

「ほんとね……この豚汁もすっごく美味しい」

「ぅ……き、きよすみなほ、お釜にまだまだお米はあるから、お代わりしてもいいからね」

「「「はいー!今日も全部美味しいです!」」」

 

「兄さん」

「うまい!うま……っ、どうしたカナヲ?」

「今日も、お疲れ様。おかえり」

「……あぁ、ただいま。さ、カナヲも食べよう!」

 

 ———そう、カナヲと俺は、兄妹である。

 

 詳しく語るには、あの運命の日。胡蝶姉妹が俺たちを引き取ってくれた日まで話を遡る必要があるだろう。

 

 

 

 

 

 

 俺たちの親はろくでなしだった。

名付けすらされず、暴力を振るわれる日々。数人いた他の兄弟達は、様々な責め苦によって、順々と息を引き取っていった。

 息絶え、死体となった兄弟だった体はそのまま放置される。すぐに蝿と蛆が集るようになり、辺りに酷い悪臭を撒き散らした。

 

 そんな地獄のような日々ではあるが、俺と末の妹はひたすらに耐え忍び続けていた。何か希望があるからと、それに縋っていた訳ではない。幸せになるんだと意気込んでいた訳でも、誰かの助けを求めていた訳でもなかった。

 生きているから。ただそれだけだった。

 

 特段、俺は殴りやすかったのだと思う。生まれながらにして、頬から首にかけて痣があった。どれだけ傷つけたとしてもあまり目立つことはないので、あるかも分からない世間体を気にすることが出来たのだと思う。

それに加えて妙に頑丈だったのもある。どれだけ殴られても痛みは少ないし、水責めされても止めた呼吸が切れることはなかった。

 だからだろうか。俺は兄である、と自覚を持ち始めてからは、代わりに俺をやれと親に直談判をしたのは。末妹はなんてことはない、普通の女の子で、暴力への耐性なんて微塵もない。加えて過度な栄養失調により、およそ十一歳には見えないほどに衰弱していた。

 俺が末妹を守り始めてからは彼女も俺を兄であると認識したようで、夜は二人で肩を寄せあい、硬い土の上で共に寝ていた。

 

 しかしある日、転機が訪れる。

 

 珍しく朝から親が外出していたその日、俺たちはいつぶりかも分からない安寧に心を安らげていた。良くないことではあるが、他の家屋から飯を盗み、末妹と二人で分け合う。久々に口にした固形物に二人で喉を詰まらせながら、だが美味いと笑い合いながら食事をした。

 ――幸せだった。このささやかすぎる幸せは、俺の脳を覚醒させるには充分だった。

 

 俺は、末妹を連れて逃げ出した。

 

日々の苦しさ、辛さに、いくら俺が励まそうと、肩代わりしようとも、度を超えた暴力は、確実に末妹の精神を蝕んでいく。段々と受け答えの声が小さくなり、簡素になっていく様を、今の俺は認められなかった。認めるはずがなかった。

 飯を食い、笑いあえた幸せは。日だまりのような幸福は、誰にも奪わせてやるものか。

 

 誰もいない貧民窟を、末妹と手を繋ぎながら走り抜ける。腰には俺を叩きつける為、親が買ったと思われる木刀を携えて。

時折息を切らした末妹をおぶりながら、なんとか近くの森まで抜け出した頃。陽は既に落ち、夜の帳がそっと世を包んでいた。

 

「もう大丈夫、ここなら見つかることは無い」

「うん……」

 

 これから、どうするの?

そんな無垢で、切実で、不安に満ちた問いに、不謹慎だろうが、俺は嬉しくなった。だってそうだろう。

 今日を生きるので精一杯だった子が、未来に目を向けているのだから。

 

「なんだ、また獲物を見つけたと思ったが、貧相なガキ二匹かよ。ついてねェ」

 

 夜の静寂を打ち破り、嗄れた声が聞こえた。急いでそちらに目を向ける。星の瞬きが照らしたその風貌は、異形そのものであった。

 四本の腕、そして二つの頭。爺のような顔と、端整な青年の顔、と言ったところだろうか。筋骨隆々なその身体は脈打ち、その存在感をまざまざと見せつける。

 

「お前は、なんだ」

「あァ?俺は鬼だ。知ってるか?知らねェか!」

「やめなよ、爺。無知な子供にそれは可哀想だ」

「ンだよ、なら逃がすってか?あァ!?」

「それは僕らが可哀想だろう。貧相とはいえ大切な食料、食べてあげなければ」

「……おめェも中々イカてやがんなやっぱりよォ!気が合うなァ!」

「僕も爺も同じなんだから、当たり前でしょう」

 

 一人……二人?いや青年の顔が同じと言ったのだから、二つの人格で一つの体を動かしているのか。さらに爺の方が最初、鬼といった。それは人ならざる者の証明であり、薄ら寒いこの感覚に間違いはないのであろう。

 

「俺たちを、食うのか?」

「だからそう言ってんだろうが!最近のガキは会話も聞けねェのか!?」

「まあまあ。君たちは見たところ兄妹かな?食事は好きだろう?」

「……あぁ」

「そうだろう!君たちが生きるために動物を食うように、僕たちも人を喰うんだ。古来よりこの世は弱肉強食で出来ている」

「なるほど、わかった」

「君たちは兄妹だ、どっちかを残すなんて野暮な真似はしないよ。美味しく頂くさ」

「その通りだぜガキ共!肉はついてなさそうだが、無いよりはマシだぜ」

 

 多少の会話をもって、俺は確信を得た。

 此奴が異形で、人ならざる者であると。

 

「ならば、抵抗しない訳にはいかない」

 

 こちらとて、ただ喰われるのは御免こうむる。ようやく未来への希望が光り始めたところなのだ。邪魔をしてくれるな。

 

「お……おに、ちゃ」

「心配することはない。俺に任せて、そこの木の影に隠れてるんだ」

 

 涙目になりながら、無事を祈る末妹の姿をみて、尚更負けられないと体が奮い立つ。

 

「俺に任せて、だァ?ヒャハハ、笑わせんなよガキ!こちとら下弦の壱、宿儺様だ!貧相で戦いのたの字も知らねェテメェに何が出来るって!?」

「概ね同意見だね。何も必要以上に苦しむ必要はないのに」

「こちらにも、それなりの矜恃がある」

「そうかい。――残念だ」

 

 そう言い、鬼――宿儺は、こちらに駆け出してきた。

 おそらく末妹は見えてすらいないだろうその突撃。拳を四つ振りかぶりながら、爺も青年も、醜悪な笑みを浮かべている。

 

 だが、何故だろうか。

 全てが見えていた。

 

 生まれてこの方、一度も戦いなどしたことはない。血の気が多かったなら、すぐに親に反撃していただろう。人を傷つけるという行為をする親に対し力を奮ったのなら、それは同族だと認めることに他ならないと考えていたのも確かだ。

 だが、全て、見える。

 全身を奮い立たせてから、妙な感覚がある。生まれた時からあるという痣は今まで、末妹を守るという役割しか持ち合わせていなかったが、何故か、今は熱を持っている。

 さらに相対する鬼の身体が透き通って見えるのだ。骨から内蔵、血管、筋肉に至るまで、全て。

 あとは勝手に身体が動いた。己の呼吸が自然と深いものになるのと同時、突撃してくる鬼の腕四本を木刀にて両断した。

 

「……は?」

「なに、が……」

 

 確実に捉えたと喜色満面であった鬼は、何も成せぬまま、それどころか全ての腕を無くすことに成功した。

 

「むっ……」

 

 しかしその腕はすぐさま生え揃った。鬼は尋常ならざる再生力を持っているのか、と思案し、ならば斬り続けるのみだと己を鼓舞する。いつかは再生しなくなると信じるしか、道はなかった。

 

 それから五つ刻ほど切り刻んだ。首を切っても死なないのにはさすがに驚いたし、血鬼術、とかいう摩訶不思議な手品にも対応を余儀なくされたが。途中でバケモノめ、と声を荒げる鬼に、お前には言われたくないと少々頭にきたりもした。

 

 そうしていつしか東雲の空に、陽が差し初めようとしていた。

 

「……これは、一体……」

「どういう、状況なの?」

 

 突然二人の女性が現れた。妙な服を着て、派手な羽織を身につけている。どうやら鬼の仲間では無さそうで、安心した。

 

「鬼、とやらが襲ってきた。切っても死なないので、切り続けていた」

「切っても、って……それ、木刀じゃない!」

「あぁ」

「あぁって……嘘でしょ!?」

「あらあら、でもしのぶ……信じるしかなさそうよ」

「それで、どうしたら鬼は死ぬ。あなた達は知っているのか?」

「ええ、私たちは鬼を滅するための組織――鬼殺隊の一員なの」

「その中でも姉さんは、柱と呼ばれる最高戦力なのよ!つまり一番強いの!」

「しのぶ、それは言い過ぎよ〜」

 

 どうやら女性たちは姉妹であるらしい。更には鬼を滅する鬼殺隊、というのも気になる話だ。このような鬼がうじゃうじゃといるなら、この国はかなり危ないのかもしれない。

 俺と末妹の世界はあそこだけだったから、これから初めて知ることばかりだな。

 

「それで、鬼だけれど……私たちのもつ特殊な刀、日輪刀で頸を切ることで滅することができるわ」

「なるほど……なら、木刀では死なないのは道理だな」

「そしてもう一つ、最大の弱点があるの」

 

 それは〜、と、間延びした話し方をする女性が続きを紡ぐより先に、朝日が完全に世を塗り替えた。刹那――

 

「「がァァァァァァァ!!!クソ、クソ、クソ!!お許しください、ぐ、ガアア!!」」

 

 ――激しい断末魔を残し、鬼はその身を焼かれた。

 

「なるほど、日光に当たるとすぐさま灰になるのか」

「えぇ、そうよ〜。だから鬼は夜の間しか活動しないの」

 

 鬼の体質に納得していたところ、突如横から飛んできた末妹に抱きつかれた。その顔は涙と鼻水でぐちゃぐちゃで、普通の人ならば嫌悪しそうではあるが、俺はそんな末妹を抱きしめ返す。

 

「だから言ったろ、お兄ちゃんは大丈夫だって」

「うっ……ん……ひぅっ……」

「あらあら、妹さんもいたのね〜、って、しのぶ?さっきからお口を閉じてどうしたの?」

「……姉さん、さっき、滅した、鬼…」

「えぇ、それがどうかしたかしら?」

「ひ、瞳に、下弦の壱、って……」

「……え?」

 

 

 

 

 

 

 

 そうして、俺たちは身の上話をした後彼女らに引き取ってもらい、蝶屋敷の人員による厳正な話し合いの結果。

 

 栗花落皐月と、栗花落カナヲの名を貰ったのである。

 

 






感想たくさん貰えると頑張れるタイプの人間です!!

大正コソコソ噂話
 カナヲはお兄ちゃんのおかげで、心を失ってないよ!また過去のお兄ちゃんは現在よりも心が豊かじゃないから、ぶっきらぼうな話し方をしているみたい!

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