栗花落カナヲのお兄ちゃん   作:龍門岩

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短いです。でも決着です。


熾火

 

 

 

 

 

 

 俺はこの短い十五年の生の中で、背筋が凍るという経験をしたことがない。親からの激しい虐待にも、最初は諦観こそ享受していたが、カナヲを守ると決意してからはそれすらもなくなった。

 己が特別強い身体に生まれてきたのだ、と薄々感じ始めてからは、より顕著だったと思う。正直に、端的に言うならば、調子に乗っていたのだ。

 

 俺は特別でもなんでもない。ただの人だ。大切な人ひとり守れずに、何が特別か。

 

「うーん、出来れば女の子の方を早く食べてあげたいんだけど……君、凄く強そうだしなぁ」

 

 ――俺は今日、人生で初めて背筋が凍ったよ。

 

 上弦の弐への恐怖なんてものでは断じてない。強がりなどではない、事実だ。俺が恐怖したのは一つだけ。

 

「俺の大切な家族は、決して奪わせない」

「家族……あんまり似てないけど、姉弟ってことかな?死にかけの姉を助けに来る弟……感動的すぎて、涙が止まらないよ……っ!」

 

 にこやかでおちゃらけた雰囲気の鬼だが、油断は一切感じない。常にこちらの一挙手一投足に目を配っているし、扇のような武器を展開し構えている。

 カナエの強さは本物だ。女性であるから非力、という常識はもはやない。そんな彼女が手も足も出ないというのなら、この鬼の強さもまた本物。

 

「さつ、き、くん……氷を、出してくるわ……吸うと、肺が、壊死する……」

「っ!ありがとう、カナエ。無理に喋らないでくれ、直にしのぶが来る」

「あ!僕の血鬼術を教えたのかい?酷いなあ、ただでさえ強そうなのに……」

 

 なるほど、氷を操る血鬼術か。

 普通は氷を吸い込むことはないから、霧状にした視認性の悪い氷をばら撒くことが出来るというわけか。

 吸ってしまったが最後、肺は凍てつく……呼吸を扱う鬼殺隊士殺しの力だな、凶悪極まりない。

 

 だがしかし、俺の脳内は澄み渡っていた。並の人間ならば、圧死してしまうような緊張が走るこの戦場でも、俺の心は揺るがない。

 痣の熱が高まるのを感じるほどに、身体の調子も良くなっていくのを感じる。世界は未だ透き通っていて、文字通り、鬼の全てが見えていた。

 初めて握った刀は赫く燃え、ジリジリと大気を焦がす。このような状態は初めて見たが、氷に有用そうだ。

 

「俺の名前は童磨。よろしくね」

「そちらから来ないのなら――往くぞ」

「ちょっとは話さないかい?――血鬼術・粉凍り」

 

 ――これが肺を壊死させる、微細な氷の霧。闇雲に突っ込んでも俺なら大丈夫だろうが、扇で散布されるとカナエが危ない。

 

「借りるぞ、カナエ」

 

 花の呼吸・陸ノ型、渦桃。

 体を回転させながら飛び上がり、渦のような斬撃を発生させる技だ。カナヲに付き合って、二人の稽古をいつも見ていたからな。見様見真似だが何とかなった。

 

「うっそー……その子と全然違くない?剣圧で俺の粉凍りが全部吹き飛んじゃったよ」

 

 本来の渦桃には出せない、風の呼吸が如く剣圧が厄介な氷を吹き飛ばす。実際はそれだけではなく、赫刀の性質もあって全て消え失せていたのだが。

 

「ちょっと本気でいかないと不味いかも……あの方も凄くお怒りだし、なんだが細胞が恐怖してるような気もするし……」

 

 よし、いくよ〜。と、軽い言葉のあとに続いて、激しく鬼は切りかかってくる。ただの扇ではない故、鋭さは刀にも劣らない。

 無数に見える連撃は、凄まじい速度で俺を襲ってくるが、無駄だ。透き通る世界は筋肉の収縮のみならず、内臓の動きや血流までも見せてくる。

 次、どのような太刀筋で、どこに狙いを定めてくるのか。手に取るようにわかる。

 

「あっと……血鬼術・冬ざれ氷柱」

「花の呼吸・伍ノ型、徒の芍薬」

 

 次に繰り出される扇の攻撃を先読みし両手首を切り落とすと、即座に離れて無数の氷柱を落下させてきた。これを九回連続切り技である徒の芍薬にて全て霧散させ、また戦いは硬直状態に陥る。

 

「ホント凄いや、何にも通じないね」

「遊びはもういいんじゃないか」

「あはは!そう言わずにさ、もう少し楽しもう!」

 

 血鬼術・結晶の御子。

 

 奴の腰ほどの高さがある分身体のようなものを六体繰り出してきたが、その圧は鬼本人に勝るとも劣らない。一人では厳しいなら、数を揃えるか。

 

「俺もさすがにこの数を出すのは初めてだけど、容赦しないよ!」

 

 刹那、童磨とその分身体が同時に技を繰り出してくる。

 煙幕のように散布された冷気を、渦桃で弾き飛ばす。同時に冬ざれ氷柱も切り刻むが、間髪入れずに氷の蔓と柱を花の呼吸・弐ノ型、御影梅で防いだ。

 

「血鬼術・寒烈の白姫」

 

 最後に、氷の巫女のような上体像から放たれた氷の吐息を剣圧で霧散させる。

 そして今度はこちらの番だと言わんばかりに、俺も猛攻を仕掛けた。若干の硬直を嫌い、型を使わず分身体全ての頸を一息で落とす。

 

「いやはや、流石に驚いたぜ。これで倒れなかった人は今までいなかったんだけど……」

 

 ならこれだね。と、再び童磨は分身体を六体繰り出した。

 

「血鬼術・凍て曇」

 

 先程の打ち合いで最初に放たれた煙幕が、全員から散布される。何か大技を準備しているような気配がしたので止めたかったが、大量に張られた煙幕を一瞬で突破することは叶わなかった。

 

「血鬼術――霧氷・睡蓮菩薩」

 

 途端に感じる圧倒的な威圧感と共に、巨大な氷の仏像が姿を現す。凄まじい冷気は周囲をあっという間に凍らせ、己の吐息は白い靄となって舞い、あたかも厳冬を感じさせる程だ。

 

 ――これは少し、まずいな。

 

 俺は一瞬の思考を挟む。俺の剣ならば、幾許かの時間を要せば切り刻むことは可能だろう。だが近くには重傷を負ったカナエがいる。少しの猶予もないが、ならばどうするか。

 

 ここで、俺だけの技を作るしかない。

 

 思い出せ。初めて木刀を握った日、あの運命の日。自然と俺の身体は動いていただろう。

 

 感覚を研ぎ澄ませ。

 

 チリチリと、燃え盛る焚き火の如き音を鳴らすこの赫き刀で、最短の活路を。

 

 導き出せ――!

 

 

 

 

「熾の呼吸、壱ノ型――」

 

 ――朱淵。

 その水平切りは、龍の如くうねりながら結晶の御子を全て破壊した。地は焼け、更に周囲の温度が一段階上昇する。

 

「熾の呼吸、弐ノ型――」

 

 ――緋流。

 瞬時に高速回転しながら無数の斬撃と熱の渦を巻き起こし、氷の煙幕を燃やし尽くす。

 

「熾の呼吸、参ノ型――煌穿」

 

 それは最速の突き。刀の鋒に熱を凝縮し、鋭く突き貫く技。刀先に呼吸と熱を集中させ、まるで灼熱の火矢のように敵を貫通する。

 貫かれた巨大な氷の仏像は、内部から炸裂する熱の奔流に耐えきれず爆散した。

 

「決着だ、童磨」

「……君、本当に人間?」

 

 息をつく間もなく童磨へ肉薄し、防御を試みる扇ごと腕を切断する。

 

「(再生しない!)」

「熾の呼吸、壱ノ型――朱淵」

 

 その一太刀は、童磨の頸をいとも容易く断ち切った。

 

「うっそぉ……こんなとこで死ぬなんて、可哀……」

 

 

 

 そして時期到来とばかりに、曙光が地平を満たし始める。日輪は、さも俺たちを祝福しているかのようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 






主人公が強いと、戦闘描写が難しいですね……

 大正こそこそ噂話
童磨は無惨から激しく命令されて、様子見せず戦っていたみたいだよ!
何をそんなに怖がってたんだろうね?
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