栗花落カナヲのお兄ちゃん   作:龍門岩

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評価バーが赤に戻って嬉しいです。創作意欲に直結しています。


前座

 

 

 

 

 

 鬼舞辻無惨とは、この世に巣食う鬼の首領。故に、己のことは完璧な生物だと心の底から信じている。

 ただの人とは隔絶された、自己という存在。それはまるで大災であると疑わない。天変地異に親や子、友を殺され、誰が憤るというのか。自然の脅威に恐れ戦いたならば、悲しみ、そしていづれ前を向いて歩き出すのが、人という脆弱な生物が出来る最大にして唯一の行動で、弔いだ。

 

 ただ一つの弱点として日光が上げられるが、さして問題にはならないだろう。千年間見つからぬ青い彼岸花を見つけることはまだ叶わないが、己は不死だ。塵芥の如く鬱陶しい異常者集団に邪魔されたとて、必ず見つけてみせる。

 そうすれば晴れて、本当の意味での完全無欠となるのだ。

 

 ――な。

 

 だから己は間違わないし、間違えない。どれだけ人を喰らっても、気に食わないからと殺しても、この世界から天罰が下ることは無い。なぜなら私は完璧な生物だからだ。

 

 ――けるな!

 

 だが、あれはなんだ。なんなんだ。

 

 ――巫山戯るな!

 

 童磨を、腐っても上弦の弐まで上り詰めた鬼を、汗ひとつかかずに、更に無傷で殺した。

 

 鬼舞辻無惨には、その長きに渡る生涯で敵わないと認めた生物が一人だけいる。赫灼の髪に耳飾りをつけた剣士。アレは駄目だ。だがあのような化け物が人間である限り、寿命によって死ぬことは避けられない。だから己の身を徹底的に隠し、戦うことなく勝利を収めた。

 

 しかし、あの化け物のように、世界の理を壊す者がまた現れた。

 

 あの屈辱の夜から一度も忘れることは無い憎き顔とは似ても似つかないし、忌々しい耳飾りもない。日の呼吸も使っていないし、痣の模様も全く違う。

 あの化け物との共通点はない。無いのだ。ある一点――その埒外の強さを除けば。

 

 だがしかし、それとは別に安心できる要素もある。強いは強いが、逆に言えば耳飾りの剣士ほどではないということだ。

 この男がアレの生まれ変わり、もしくはその才覚を存分に受け継ぐ埒外の怪物だとしたならば、童磨の頸など初っ端の一合で既に落とされている。

 

 腸が煮えくり返る思いだった。血が逆流するような、震えるほどの怒りをこの身に覚える。逆に言えばまだ本格的に剣を握っていない今だからこそ、仕留められるやもしれない。

 そう願いにも等しい考えで、まずは下弦の鬼を全て向かわせたが結果は全滅。態々私の血を多く与えてやったというのにこの体たらく。巫山戯るな、この無能共――その言葉を、すんでのところで飲み込んだ。

 この言葉を吐き捨てたとき、私が私を無能であると認めるのに他ならない。そんなこと、断じてあってはならない。

 

 私はもう、十二鬼月には何の期待もしていない。あの男はおそらく殺せるだろうが、何が出てくるか分からない。もう既にあの異常者集団に仲間入りしたようだし、下手に刺激してその剣を研ぎ澄まされても面倒だ。

 硬く連携を取って、こちらとの全面戦争になる可能性すらある。その場合、上弦を一人欠いたこちら側はあの男によって蹂躙されるやもしれん。

 あの男を殺せると断言できぬ己の心に蓋をしながら。気付かない振りをしながら、今後の方針を固める。

 

 無闇矢鱈にあの男を刺激するな。

 

 そうしてまずは、上弦の補充から始めた。猗窩座は何度も黒死牟に入れ替わりの決戦を申し込み、負け続けてはいるがその技の練度はお墨付き。故に猗窩座を上弦の弐に繰り上げた。血も与えたので、これまで以上に強さは練り上げられている。

 参は一度空白としつつ、下弦の鬼は簡単に補充がきく存在だ。もはやいてもいなくても変わらない程度の強さかもしれないが、柱以上に出会わなければ充分にやれるだろう。

 

 そうして約四年間、何度もあの男に刺客を放つ日々が続いた。だが勿論、尽く理不尽なまでの剣技に破壊されただけ。一度百体ほどの鬼を無理やり下弦程度まで力を与え、囲って嬲り殺しにしようと画策したが無駄だった。

 

 私はようやく気づく。

 あの化け物には劣るが同類。この世の理から外れた者である、と。分かっていたつもりではあった。しかし認めたくなかったのだ。

 無闇矢鱈に刺激するなと命令しておきながら何度も刺客を放ったのは、それが原因だ。この完璧な生物である私を超える化け物が、そう何度も生まれてきてたまるか。

 

 だが、もう不可能だ。

 生物としては完璧である私だが、この世の理外に位置する者はどうしようも無い。生物を超える化け物だからだ。腹立たしくて仕方ないが、もう考えるべきではない。

 

 そうして――鬼舞辻無惨は浅草にある人間としての住処のみを残し、完全に雲隠れする。

 己の手でその鬱憤を晴らすかのように、最後の日の呼吸の縁者と思わしき炭焼きの家を破壊して。

 またこの鬼の首領が苛烈に動くとすれば、太陽を克服する鬼が現れたときだろうか。まぁそんなことは千年間一度もなかったので、有り得ないとは思うが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 上弦の弐、童磨を滅した日。

 奴が最後の大技である霧氷・睡蓮菩薩を繰り出した辺りで、しのぶが到着していたのを確認した。そこからは迅速で、急いで応急処置をし蝶屋敷へ急行。最も酷かったのは肺で、壊死しかかっていた程だ。童磨の血鬼術は実に全集中の呼吸殺しと言える。

 ほぼ一日を費やした手術は、やがて終わりを迎える。

 ――カナエの生存をもって。

 

 一番安堵したのはしのぶだろう。己の手で執刀しながら、泣いてたまるかと歯を食いしばる姿は痛々しかった。

 程なくして手術は成功。命が助かり、あっという間に目を覚ましたカナエに抱き着きながら号泣している姿を見て、俺も人生で初めて涙を流した。カナヲと抱き合いながら、大切を守れたのだと安堵する。

 

 

 ――そうして、四年の月日が経った。

 

 カナエは花柱を引退し、現在は蝶屋敷の長として日々仕事に忙殺されている。しのぶはそれからも研鑽を続け、自分だけの呼吸を開発。実績も残し、今では蟲柱として鬼殺隊も蝶屋敷も支えている。

 カナヲもあれよこれよという間に身体が成熟し、日々鍛錬を続けている。鬼殺隊はやめないか?と問うてから一週間口を聞いてくれなかったのにお兄ちゃんは心が折れ、渋々入隊を認めた。その代わり必ず守ると、決意を新たにして。

 現在は蟲柱であるしのぶの継子となり、カナエも型自体の指導は出来るので、実質蟲柱と元花柱の継子ということになる。俺も呼吸を教えてはやれないが、空いた時間はカナヲに稽古を付けてやっている。

 

「あ、熾柱様!!少々お時間よろしいでしょうか!!」

 

 ――ちなみに俺も柱に就任した。

 鬼殺隊士でないのにも関わらず、上弦の弐を無傷で討伐というのはまずかったらしい。戦うことは好きではないとか、そういうことを言ってられる状況じゃなくなったのだ。

 それに、お館様直々に俺の心を癒す期間を設けて下さったそうで、大恩を返すためにも日々鬼を滅している。

 

 今の俺たち柱は計九人。最近台頭してきた若い剣士が柱目前とのことであるが、もうすぐ十人になるのだろうか。霞の呼吸を使う剣士だそうだが、刀を握ってもうすぐ二ヶ月らしい、異例の早さだ。俺も人のことは言えんが。

 柱はその画数に合わせ最大でも九人とされているが、お館様はどうされるのか……そのお考えを次の柱合会議にて聞けるだろう。

 

 初期は度々あった鬼の直接襲撃も、ここ最近は全く無くなった。童磨の頸を切った俺を警戒していたのだろうが、あの程度の鬼たちでは相手にもならない。

 

 最近は、何かの流れを感じる。遂に物語が始まるかのような、そんな荒唐無稽な予感。

 

 ――俺の大切は、誰一人失わせない。

 

 決意を新たに、今日降り始めた雪がしんしんと積もる様を窓から覗く。たとえ薄氷の上を歩む道であっても、この思いは揺らぐことは無い。

 あと、カナヲの作ってくれたきんぴらごぼうは世界一美味い。

 

「兄さん」

「うまい!うま……っ、どうしたカナヲ?」

「今日も、お疲れ様。おかえり」

「……あぁ、ただいま。さ、カナヲも食べよう!」

 

 なぜなら俺は、お兄ちゃんだからだ!!

 






黒死牟による独白はお待ちください。そのうち直接対峙させますので(*^^*)
ちなみに私の一番好きなキャラは黒死牟です。
これから何話か、空白の四年間()にあったことを幕間として投稿していきます。そうしたら原作時空へGoです!

あと、熾の字に意図的にルビ降ってなかったんですが、"し"と読むか"おき"と読むか悩んでます。是非アンケートにご協力下さいm(_ _)m

 大正こそこそ話
皐月は笛を彫り続けて、ようやく形になってきたよ!でも、外れた音しか鳴らないみたい……

熾柱(熾の呼吸)の読みは……

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  • お兄ちゃん
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