早苗の幻想列車旅   作:hironeco33

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いざ出発!サンライズ号

スマホのアラーム音で目が覚めた。時計を見ると7時ちょうど、朝日が心地よい。

7月の半ばということもあり、太陽はすっかり高くなり、日光が活動を促している。

 

「んー.....もう朝ですか......」

 

ベッドから起き上がると洗面所へ向かう。慣れたルーティーンで顔を洗って歯を磨きながら今日の予定を確認する。

 

(今日のサンライズ号は21:50に東京駅出発、ということは21:30までには東京駅に居たいな)

 

どの駅弁を買うか、考えを巡らせつつ情報収集を続けていると着信音が鳴る。

相手は宇佐見だった。こんな時間にどうしたんだろう?

 

『おはよー早苗、今日出発でしょ?何時頃に東京駅に着くつもり?』

 

「おはようです~、一応東京駅21時半くらいに着ければいいなって思ってますけど...」

 

『あ~...電話かけてよかったわ、もし買い込むものがあるならシャワーカードを買ってからのほうがいいよ。売り切れるのは一瞬だから入線前の21時20分にはホームにいた方が安心かな、10号車の乗車口に並んでおきなさい。あと330円をピッタリ握りしめてね。』

 

「相変わらず情報が細かい....一度じゃ覚えきれないので、あとで文面でもらえます....?」

 

(早口すぎて付いていけない、私もそれなりに鉄道関係の知識はあるつもりだけどシャワーカードは盲点だったな....やっぱり宇佐見ちゃんは凄い...)

 

『はいはい、注意点とか景色がいい場所とか送っておくからちゃんと見なさいよ?』

 

「ありがとう~!助かります!他は何かありますか?」

 

『んー....帰りもサンライズの予定?』

 

「その予定です!まだ切符は取れてませんが...」

 

『それなら今日は早めに寝た方がいいかも、明日の6時27分に岡山で瀬戸との切り離しがあるのは知ってるでしょ?出雲は後から発車だから見物出来るはずよ』

 

「あー!そういえば切り離し作業ありましたね、ありがとうございます!」

 

宇佐見の情報量に関心する早苗を置いて、突然宇佐見が声色を変える。

 

『あと車内探索は良いけど真夜中に早苗みたいな可愛い女の子が一人でフラフラしてると変な人に襲われちゃうかもよ?』

 

「え......」

 

突然ぶっこまれた話題に固まる早苗、それを察して大笑いする宇佐見。

 

『冗談冗談!でも危ないこともあるから気を付けてね~、私もこれから仙台まで行ってくるからお互い楽しみましょ!あ、言われた通りメール送っておくわ!それじゃ!』

 

「はーい!ありがとうございました!そっちもお気を付けて!」

 

はいはーいという声が聞こえたと同時に切られる電話、他にも色んな話をしてたらかなり時間が経っていたようで時計を見るともう9時になろうという所であった。

 

初めての寝台列車ということで期待と興奮が頭の中を入り乱れる中、いつもの旅行と同じ様に荷造りを始めていく。

着替え、化粧品、消耗品、財布、身分証、保険証....一つ一つ確認しながらリュックに詰め込んでいく様子は、まるで子供が遠足の準備をしている様子にそっくりである。

 

「そういえばカメラ充電してたかな.....あー.....急いで充電しないと、危ない危ない」

 

そう言いながら充電器を引っ張り出してバッテリーをセットしてコンセントに差し込む、カメラが好きな父のおさがりである一眼レフを愛用する早苗、最近スマホのカメラも優秀であるが静止画の撮影では未だにこのカメラを普段使いに使っている。

 

(いつも充電忘れちゃうな...SDカードはまだ大丈夫だしいっか)

 

身支度や情報収集を続けているとあっという間に出発の時間になってしまった。

余談だが早苗が親元を離れて神奈川県に住んでいるのは、都心に近く旅行に行きやすいからという理由であったりする。

 

「さて!行きますか!」

 

家のカギを掛けたのを何度も確認して最寄り駅まで歩く、スマホから伸びる伝統の有線イヤホンで好きな音楽を聴きながら興奮を抑えて進む。

 

駅に到着し電光掲示板を見ると特急が一番早く横浜駅まで着くらしい

まだ切符を受け取っていないので東京駅で受け取らないと。

 

ホームに降りた瞬間接近放送と同時に滑り込んでくる濃紺の電車に乗り込む、流石に20時台に横浜方面だと逆方面に比べてまだ空いているようだ。空いた座席に座って目を閉じる。

 

(明日は着いたら大社に行くのは決定としてその後はどうしようかな......)

 

まだ見ぬ土地へ思いを馳せながら思考を巡らせていると、一斉に人々が席から立ちあがりドアの前に並んでいる。顔を上げるともう横浜駅のホームドアが車窓を流れているところだった。

 

(あれ?もう横浜か....すぐ乗り換えだから急がないと)

 

同じように立ち上がり列に並ぶと少しの衝撃と共にドアが開いた。一斉に走り出す人々に続いて小走りでJRのホームへ急ぐ、乗り換え先の東海道線は今の時間非常に混みやすいので、リュックを前に抱えたまま移動する。

東京駅で一度切符の受け取りのために改札を出ることを考え、6号車に乗る。

 

(やっぱり混んでますね~...でも座れないから寝過ごす心配はなさそう...)

 

軽く憂鬱になる早苗であった。

 

 

満員電車に揺られ30分弱

東京駅に到着した。

 

【東京、東京、ご乗車ありがとうござい〈東京に到着でーす。お忘れ物なさいませんようご注意くださーい。東海道線からの高崎線高崎行き発車しまーす。お近くの空いているドアからご乗車ください。〉番線、ドアが閉まりm〈お下がりくださーい、閉められませーん〉.....】

 

(自動放送かわいそうに.....)

 

賑やかな駅の放送と切られる自動放送に同情しながら改札に向かう。

 

歩きながら駅弁屋の位置を確認し、改札を抜けてJ〇東海の指定席券売機で予約していた切符を発券する。

 

「ん...?あ、そっか!他社だから受け取りに番号とクレジットカードが必要なんですね!」

 

いつもと違う操作方法に困惑しながらもなんとか発券に成功した。

 

「おぉ...これが寝台券.....18切符と同じくらいの大きさかな?」

 

なかなか見ない大きさの切符に、興奮が抑えきれない。しかし宇佐見に言われた時間も迫っていることから切符を大事にしまって改札へ向かう。

 

(この瞬間がたまらないんですよね、また今から旅が始まるんだ...)

 

興奮しながら乗車券を改札口に投入し、すぐに返される。日頃何気なく使っている改札機だが、日本では1967年に導入が始まっていたのを考えると凄い技術力だと思う。

 

そんなことを考えながらホームに向かっていると放送が入った。

 

『現在東海道線内での安全確認の影響で列車に遅れが出ております。サンライズ号の到着にも遅れが見込まれます。定刻での発車を予定しておりますので停車時間にご注意ください。』

 

どうやら宇佐見に教えて貰った早めにシャワーカードを買ってから駅弁を買う作戦は難しそうだ。

 

「まぁこの程度のハプニングは想定内ですかね、遅れたり運休よりよっぽどマシですし...」

 

そうと決まれば駅弁を買うべくホームへ続く階段を引き返す。

まだまだ帰宅のサラリーマンが目立つので、迷惑にならない様な歩き方を心がける。

 

駅弁屋に着くと21時になっているのにまだ旅行客で賑わっていた。

 

(混んでるな~、この中で何人がサンライズの乗客なんだろう....)

 

店内に入ると売り切れも目立つ中、とんかつ弁当と深川めし、どちらにしようか10分ほど悩んだ末、早苗は結局」牛肉弁当を買ったのであった。

 

そして21時26分、サンライズ出雲・瀬戸号は東京駅に入線した。

 

ベージュ色の車体に赤いラインが入った列車は、帰宅ラッシュの東京駅でひときわ異質な存在感を放っている。最後の定期寝台列車としての意地か、デビューから28年の特急列車の貫禄なのか、その姿には思わず息を呑んでしまう

 

「おー!これが....サンライズ!車庫に止まっているのは見たことありますけど営業列車として見るのは初めて....!」

 

興奮しながらその光景をカメラに収めているとドアが開き、10号車の待機列が動く。

車内に入り、前の人に続いてシャワーカードの券売機に並んでいると美しいメロディーと共にアナウンスが流れる。

 

【寝台特急サンライズ瀬戸号及び、サンライズ出雲号をご利用くださいましてありがとうございます。この列車は寝台特急サンライズ瀬戸号、高松 琴平行き・サンライズ出雲号、出雲市行きです。止まります駅は...】

 

停車中なのにこんなに長い放送があるのか...と驚いていると券売機の順番が回ってきた。

 

(なるほど、これが330円なんですね!)

 

宇佐見に感謝しながら6枚の硬貨をゆっくり券売機に入れると、シャワーカードが出てきた。

後ろの人に荷物をぶつけないように方向を変え、自分の部屋がある8号車へ向かいながらシャワーカードを見つめる。

 

車両の前面が印刷されたシックでお洒落なカードで、使うのに躊躇ってしまう。

戻ってくるとはいえ、使用済みの印が付いてしまうのが惜しい。

 

そんなことを考えながら通路の階段を上がって少し歩くと、自分の個室の前に着いた。

 

スライド式の扉を開け室内に入ると、綺麗に整えられたベッドとコンパクトなテーブルが目を引く。

ベッドの脇に荷物を押し込み、扉とカーテンを閉めて個室を形成する。

 

「はー!これが寝台車!いいですね~...この秘密基地みたいな感じが最高です.....」

 

ひとしきり内装をカメラに収めたところで、ベッドに横になりながら少し休む。発車まであと5分程度なので車窓の記録準備をしながら宇佐見からのメールのことを思い出しスマホ確認する。

 

ウサ『お疲れー、この前話した通り注意点と景色がいい所ね!

  注意点

 ・部屋を出るときにパスワードの設定と番号を忘れないこと!

 ・車掌さんが検札に来るからそれまで寝ないこと!

 ・シャワーは入れるときに入ること!

 景色がいい所

 ・宍道湖周辺!進行方向右側が綺麗だよ!

 ・岡山以降の山間部!緑と時々見える小川が綺麗!

 ・明石海峡大橋周辺!海が綺麗!

 ・走行中、部屋の電気を全部消して横になって空を見てみて!』

 

ウサ『こんな感じ!見てみてね~、私は今山形にいるよ。明日は秋田の方で遊ぶつもり!』

 

箇条書きではあるものの、初心者に回収できる最大限の情報をくれた。やはり宇佐見は凄い...

でも行き先が決まっていないのにフラフラしているのはなぜだろう.......そして早苗は考えるのを辞めた。

感謝の言葉を送信した瞬間、列車は静かに動き出した。早苗の長い旅は今始まったのだ。




一日で区切りたかったので欲張ったら前回の二倍の文字数になってしまいました...反省...
初めて個室に入った瞬間の高揚感は一生忘れられないと思います。
次回はサンライズの車内からになります。蛇足が多い文章だと思いますがご容赦ください。
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