早苗の幻想列車旅   作:hironeco33

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書ける時に書いていきますが不定期投稿ですので悪しからず...
評価もありがとうございます(* ˊ꒳ˋ*)



寝台列車の旅

列車のドアが閉まった瞬間から早苗の動きは早かった。

窓にスマホを押し当ててカーテンを閉め、スマホとカーテンの隙間に適当な詰め物をしてガタつきを無くし、有線マイクをスピーカーに近づけてマスキングテープで固定する——

 

その徹底ぶりは側から見たら不審者だろう。

その不審者は車内放送を録音するために息を殺してその瞬間を今か今かと待っていた。

 

(後々のためにもチャイムだけは先に記録しておきたい....!)

 

列車が動き始めてから1分経ったかというところで、先ほど列に並んでいた時に流れてきたのと同じ美しいメロディーが流れてくる。これはサンライズ号の285系と関空特急の281系でしか流れない特別な曲らしく、普段神奈川県に住んでいる早苗はとても新鮮に感じる。

 

【寝台特急サンライズ瀬戸号および、サンライズ出雲号をご利用くださいましてありがとうございます.......】

 

女性の声の自動放送が流れ、一通りの車内案内、停車駅案内の後に車掌さんの肉声による案内も入る。放送によると、最近部屋のSOSボタンを呼び出しボタンと間違えて押してしまう事例が多いらしい。どうしてそんなことになってしまうのか.....

 

困惑していると放送が終わり、列車は横浜に向けて加速を続ける。スマホの録画を止めて、ゆっくり深呼吸をする。

 

「ふぅ......やっぱりいいですねぇ〜.....。ひと段落しましたしご飯にしましょうかね!」

 

先ほど購入した駅弁を袋から出して、味わうのもそこそこにさっとかき込む。

 

(完全に混む前にシャワー入りたいから早く食べないと...)

 

弁当を食べ終わり、ゴミを片付けてシャワーの支度をする。

 

「えーっと....シャワーカードとタオルとー....着替えは備え付けの浴衣でいいかな。あとスマホ!保湿はー...化粧水だけでいっか!」

 

全て手提げに雑に入れて部屋を出る。乗車録用の映像を撮りながら揺れる車内をゆっくり歩く。

 

左右に振られながらレールの繋ぎ目が「カタン、カタン」とリズミカルな音を奏で、ここは列車の中であるとより実感できる。

 

通路を上がったり下がったり進み続けるうちに10号車のラウンジに到着した。

 

「昔はラウンジだけじゃなくて“ロビーカー”っていうのがあったんですよね....。これが丸々1両分あったなんて贅沢な時代もあったんですね...。えっと、シャワー室は右の突き当たり、これかな?」

 

運よくシャワー室は空いていた。早苗はさっそく中に入る。大柄な人だったら身動きが取りにくそうな大きさの脱衣所だ。後がつかえてると申し訳ないので記録と見物もそこそこに身支度をする。

 

「思ったより狭い...おっとっと....!揺れるから手すりが無いと全身打ち付けますね。揺れる中だと結構脱ぐのも難しいし.....ぐっ......ふんぬっ...!」

 

揺れる車内と格闘しながら、なんとかシャワーを終えて部屋を出る。しかし、早苗の頭にはしっかりとタンコブができていた。

 

(しばらく動くシャワーは入りたくない...)

 

部屋に戻る前に自販機で飲み物を買ってラウンジで休憩しているとスマホに通知が入る。

 

[台風接近による運行情報のお知らせ 台風5号は3日後に東海地方に最接近する予報です。天候により、列車に大幅な遅れや運休が発生する可能性があります。最新の情報にご注意ください。]

 

「台風かぁ....帰りに響かないといいんですけど....」

 

そのまま一息ついてから部屋に戻ると宇佐見から電話がかかってくる。

 

『お疲れ〜、サンライズはどう?』

 

「快適ですよ〜!もうシャワー入って駅弁も食べたので寝るだけです!」

 

『早いわね、明日はどうするの?』

 

「着いたらすぐ出雲大社行って、温泉入って、そのまま夜のサンライズで帰ります! 台風も近いらしいので、泊まりプランは中止にしました。」

 

『そうでしょうね.....まぁ詰まないようにだけ気を付けなさい。それさえ守れば、とりあえずは大丈夫よ。』

 

「はーい、そういえば宇佐見ちゃんは今どこにいるの?」

 

『私は今仙台のホテルよ、牛タンお腹いっぱい食べてもう眠いわ〜...明日はなんも考えてない!どうにかなる』

 

「えぇ......まぁゆっくり寝てくださいね、明日も楽しみましょ!」

 

『はいはい、早苗もね〜!それじゃ』

 

宇佐見の明るい声と同時に通話が切れる。全くあの子は元気すぎないか?

 

なんだかなんだもう次は静岡。眠気も襲ってきたので寝ることにした早苗は、宇佐見のアドバイス通りに部屋の電気を全て消して窓を開けて外を眺めていた。

 

「綺麗……これぞ寝台列車の醍醐味ですね……」

 

窓の外には、高速で過ぎ去る煌びやかな家々の明かりや街灯、そして——満天の星空が広がっていた。

聞こえるのは列車の走行音と、たまに遠くで鳴る踏切の音だけ。ベッドに横たわり、星空を見上げながら、早苗は確信した。

 

「明日からの旅も楽しみだな……」

 

星空と夜景、列車旅の幸せを噛みしめながら、早苗はゆっくりと目を閉じた。

 

 

 

 

-------

 

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-

 

どのくらい時間が経ったのだろうか、どこか懐かしい雰囲気を感じた早苗は朧げな意識の中、目を開けようとする。しかし思うように体が動かない。

 

(ん.......なんだろう....この音)

 

スピーカー越しに聞こえる男性の声、内容までは聞き取れないが車内放送のようだ。

 

(何かあったのかな.....事故じゃ無いといいな......)

 

ぼんやりと思考を巡らせる早苗の耳に、次の瞬間、鉄道ファンなら誰もが知る懐かしいメロディーが響いた。

 

 

—「汽笛一声新橋を はや我汽車は離れたり♪」

 

 

 

(......え?どうして!)

 

布団を跳ね上げるように飛び起きた早苗は、耳を澄ませる。しかし、部屋には走行音だけが静かに響いている。

 

(今、鉄道唱歌のチャイムがはっきり聞こえたはず……夢だったの? あの放送は……?)

 

困惑しながら外を見ると、列車はちょうど京都駅を通過していた。流れる景色をぼんやりと眺めていると、どこかで汽笛のような音も聞こえた気がする。

 

思考を整理した早苗は、静かに結論を出す。

 

(......寝よう......)

 

時刻は午前4時。

寝台特急サンライズ号の旅はまだ終わらない。




寝台列車の独特な雰囲気を描写したくて長ったらしくなってしまいました...
これでもかなり端折ったので往路のサンライズで残りの描写をしたいと思います。
翌日の話は駆け足にならないようにがんばります....

さて、今回の話は上野から仙台間の特急ひたち車内で書いたのでちょっと描写が怪しいかもしれません、おかしなところがあれば修正したいと思います。
それはそうと乗車電がE657フレッシュイエローだったんです!今はこんな色あるんですね...
全く鉄道旅は最高だぜ!
ではまた次回、早めに投稿したい....
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