転生者はセキレイへ   作:マルラ

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第九話

「わぁ、広いお風呂ですね!」

 

お風呂である。もう一度言う、お風呂である!

 

ささっと荷物整理を終えて、焔さんが仕事に出かけて、夕食前のお風呂である。時間が経つのは早いな。

 

つい何度も風呂だと言ってしまったが、俺も皆人も一緒に入る気はない。セキレイでは定番のお色気シーンだからといって、そんなことしたら美哉さんが怖すぎるし。

 

「冬華も入るのか?」

 

「うん、そのつもりだよ。……翔クンはどうするの?」

 

「いやいや、俺は遠慮しとく。女の子達で仲良く入ってくるといいよ」

 

「そっか。じゃあ秋津ちゃんも呼ぼっかな」

 

今のは遠回しに一緒に入ろうって言ってくれたんだろうか。恥ずかしそうにしてたし、そうだと思いたいところだ。

 

「おーい皆人、俺達は退散しよ、う……あれ?」

 

皆人はどこに……?

 

「皆人さんなら急いでどこかへ行っちゃいました。お背中流したかったのにな……」

 

ああ、逃げたのか。うん、まあ賢明な判断だろう。結ちゃんだけならともかく、冬華もこれから入るわけだし。

 

「じゃあ俺も退散しようかな。二人とも、ごゆっくり」

 

 

皆人と二人、縁側で熱冷まし中。いやあ、あんな美少女達と一緒に住んでるとどうしてもな。変態言うなし。特に結ちゃんやらうずめちゃんやら、セキレイ達はガードが緩いから色々と思うところがあるんだよ、男としては。

 

「今更だけど、よく無事だったよなぁ俺。かなり高いところから落ちたのに」

 

「どうしたいきなり?」

 

皆人が空を眺めながらそんな言葉をこぼす。一瞬何のことだと思い、出雲荘に降ってきた時のことかと納得する。

 

確か、くーちゃんが助けたんだったか。まだ出会ってもないのに互いのビジョンが浮かぶってのは、やっぱり皆人が特別な奴なんだって思う。具体的に言うと、主人公補正。

 

ああでも、それって結ちゃんの時にはなかったんだっけ? 俺もそうだし、確か原作のユカリちゃんもそうだったはずだし、そういうビジョンとかはセキレイを一度羽化させたからなんだろうか。葦牙の能力もランクアップするとかそんな説明があったような気がするし。

 

どっちにしても、複数のセキレイとキスする皆人は色んな意味で普通じゃない。いや、悪い意味じゃないよ?

 

「ここに来た時のことを思い出してさ。えーっと、確かこの木だったっけ……」

 

皆人が立ち上がって、木を触りに行くのをぼーっと見つめる。くーちゃん救出、どう動こうかな……。全く動かないってのは流石にないだろう。皆人の味方だとセキレイ達や他の面々に認識させるためにも、動く必要はあるだろう。

 

何より、自分に余裕があるのに困ってる友人を助けないのは人としてどうかと思うしな。

 

「えっ……!?」

 

皆人がいきなり驚いて尻もちをついていた。俺からするとかなり滑稽な状況なんだけど、これどうしようか。放っておこうか。

 

そういえば、秋津を先にこっちに引き入れたから、原作とはもう展開が違うのか。最悪皆人がくーちゃん救出に失敗する可能性もないわけではないのか。それはマズイ。

 

俺一人で行こうかとも思ったが、予想以上に展開が変わる可能性があるっぽいし、セキレイも連れて行くべきだろう。

 

冬華は一緒に連れて行くとして、秋津はどうしようか。留守番は可哀想かな。後で本人に聞いてみようか。それと、大学……まあ大丈夫か。ついこの間皆人が落ちた合格発表があったくらいだから、まだしばらくは休みが続くし。

 

「何だ!?」

 

不意に、ガラスの割れるような音が響いた。俺も皆人も慌てて立ち上がり、辺りを見回す。ついでに気配を探ってみると、結ちゃんとうずめちゃんと冬華が暴れてるのが分かった。誰かが襲ってきたとかじゃなくて、ちょっと安心。

 

っていうか、うずめちゃんが窓ガラスを割って飛び出してきたんだけど!? しかも裸にタオル一枚という格好で!

 

「ちょっとお兄さん、あんたあの子のマスターでしょ。あたしやる気ないんだよね」

 

うずめちゃんが俺達の前に飛び降りてくる。苦もなく着地しているところを見ると、流石はセキレイといったところか。普段のうずめちゃんからは考えられないな。

 

……残念ながら、タオルで隠れて見えなかった。

 

「うずめちゃん、何て格好してるんだよ」

 

「あ、翔ちゃん。だってさー、あの子お風呂でいきなり襲ってくるんだもん」

 

「えっ、ええっ!?」

 

皆人混乱中。俺は恐怖中。いやだって、美哉さんが怖いんだよ! 何か恐ろしいオーラ放ってこっちに来てるのが気配で分かるんだよぉ!

 

「ああーっ! 皆人さんから離れなさい!」

 

「うずめちゃん! 翔クンに近づきすぎだよっ!」

 

結ちゃんと冬華がうずめちゃんが割った窓ガラスから飛び降りてきた。二人ともタオルを巻いているとはいえ……ぶっちゃけエロい。

 

うずめちゃんは二人を煽るように俺達にしなだれかかってくるし、それに反応して結ちゃんと冬華の気配が刺々しくなっていく。更に美哉さんがどんどん近づいてきて……これが天国(裸とか裸とか胸の感触とか)と地獄(これからくるであろう恐ろしい制裁)か。

 

「皆人さんから、離れなさーい!」

 

と、半ば現実逃避気味に考えていると、結ちゃんが勢い良く殴りかかってきていた。こんな状況でもちゃんと皆人には当たらないようにしているようで、流石というかなんというか。

 

「ちょっ、結ちゃん!?」

 

そういうのが分からない一般人なヘタレ皆人くんならまあそういう反応になるのは理解出来る。まあ安心しろ、ちょうど来たらしい美哉さんのフライパンガードで止められたから。

 

「こらっ、はしたないですよ」

 

「あぅ」

 

っていうかあのフライパンすげえな。壁殴ったら壊れるような威力のパンチを受けても凹むだけで済んでるぞ。

 

おたまで叩かれて叱られている結ちゃんを横目に、冬華に話しかける。しかしまあ、タオル一枚だけとは大胆だな。セキレイは皆羞恥心がないんだろうか。原作でも何だかんだそういう展開多いし。

 

「で、冬華まで何してるんだよ」

 

「うっ……だってうずめちゃんが翔クンと仲がいいって聞いたから」

 

ああ、まあ確かにおかしな関係ではあるもんな。契約もしてない葦牙とセキレイが知り合いっていう。その辺りはまた今度説明してもらおうか、うずめちゃんに。だって俺はセキレイに詳しくないことになってるから、説明出来ないし。

 

「この出雲荘での暴力沙汰は私が許しません。分かりましたか?」

 

っとと、美哉さん怖い怖い。ただ、さっきまで感じていた威圧感はほとんどなくて俺としては一安心だ。何故か見える般若の顔は怖すぎるが。

 

「はい、分かりました!」

 

「よろしい。お夕飯もうすぐ出来ますからね」

 

そう言って笑いながら戻っていった。

 

「……美哉さんって、怖いな」

 

この場にいる全員の意見が一致した瞬間だった。

 

 

夕飯を皆で美味しく食べた後、部屋に戻って冬華と秋津の二人と軽く話をしていると、ケータイが鳴った。どうやらメールが来たらしく、よく見てみるとメールの送信者はMBIだった。

 

「……これって」

 

この時期にMBIからとくれば予想はつく。案の定内容は予想通りで、くーちゃんに関することだった。

 

タイミング的にはちょうどいいと思い、服を着替える。とりあえず見に行くだけにする予定だ。

 

「翔クン、どしたの?」

 

「……散歩行ってくる。二人はどうする?」

 

出来れば二人は来ないでほしいと思う。もし仮に他の葦牙やセキレイが来ても、俺一人なら十分逃げられるだろうし、主要勢力は監視にきているだろうからな。特に氷峨と御子上は要注意だ。その二勢力はまず確実に敵対するだろうからな。

 

「……行く」

 

「えーっと、ボクは遠慮しておこうかなー、なんて」

 

秋津はともかく、冬華が来ないのは意外だ。秋津を見つけた時みたいについてくるかと思ったのに。

 

「そっか。じゃあ俺は美哉さんに伝えてくるから、秋津は着替えを……あー、冬華は秋津の着替えを手伝ってあげてくれるか」

 

原作みたいにノーパンとかマジ勘弁。他の奴らに見られたらどうするんだよ。

 

「うん? いいけど……秋津ちゃん一人でも着替えくらい大丈夫でしょ?」

 

「……いや、な。最初に会った時の服装がアレだったから、ちょっと気になっただけだ」

 

「あ、ああ、うん。そうだね。じゃあ秋津ちゃん……ってちょっと!? まだ翔クンいるんだから脱いじゃダメだってば!」

 

「じ、じゃあ俺は美哉さんに伝えに行ってくるから!」

 

秋津が無表情に服を脱いでるのが一瞬だけ見えて、慌てて部屋から逃げ出した。

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