転生者はセキレイへ   作:マルラ

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第十話

秋津と一緒に、楽しい楽しい夜の散歩中である。目的地は植物が異常繁殖したらしい植物園、くーちゃんがいるところだ。

 

「……主。どこへ行く?」

 

「植物園だよ。緑の少女がいるんだってさ」

 

いつの間にか、秋津は俺を主と呼ぶようになった。ありがたいことに、俺のことを主だと考えてくれているらしい。原作であのお坊ちゃんに従ってたように、捨てられたくないから、とかだろうとは思うが。

 

「……セキレイ?」

 

「いるらしいね。ただ、今回は戦う気はないから、気楽にいけばいいよ」

 

「気楽……」

 

ぶっちゃけ今回はくーちゃん目当てというよりも、焔さんに会うためだったりする。原作では毎日見張っているとか言ってた気がするし。あの厨二っぽい黒マスクを見てみたい。

 

ちなみにだが、秋津と話す時はどうも喋り方が普段と違うものになってしまう。ほら、小さい子に話しかけるのと同じような感じでさ。こう、穏やかになるよう心がけてるんだよ、多分。秋津の反応が子供っぽいのも原因なんだろうな。

 

「おおう……すごいなこれ」

 

まあそんなわけで植物園前に到着したわけだけど。もう既に植物園は中が全く見えないほどに木々に覆われていた。なんというか、これだけのことをあのくーちゃんがやるとは、やっぱりセキレイってすごいと思う。

 

「君は……。ここに何の用だい、葦牙」

 

「……敵。主、下がって」

 

全身黒ずくめの焔さんが声をかけてきたのと同時に、秋津が俺の前に出て守ろうとしてくれた。焔さんは俺の姿を見て驚いた顔になってる辺り、本当に隠す気があるのかと思ってしまう。ぶっちゃけ原作知識がなくても分かるくらいバレバレである。

 

「今日は散歩に来ただけだよ、黒ずくめの厨二野郎」

 

「……用事がないなら帰りなよ。今ならまだ手は出さないから」

 

とか言いながらもピクピクと顔が震えている焔さん。煽り耐性はあまりないようで、あと少しでも煽ったらその瞬間に炎が飛んできそうだ。敵対はしたくないし、これ以上ふざけるのはやめておこう。

 

「それがそういうわけにもいかなくてな。大事な用事があるんだ」

 

そのために多少無茶をしてでもここに来たわけだ。この無茶というのは色々あるが、焔さんに敵対される危険性もあるし、何より氷峨に俺がセキレイを持つ葦牙だとばれてしまう可能性がある。

 

氷峨にばれてしまえば、うずめちゃんと同様に千穂という弱点のある俺は逆らえなくなってしまう。原作通りの展開になってくれれば皆人が助けてくれるわけだが、難易度が急上昇するだろう、主に俺のせいで。最悪皆人がやられるという可能性だって出てくる。

 

まあそうなった場合は内側から喰い尽くす勢いで暗躍しまくってやるつもりだ。それに、くーちゃん救出に介入する時にはまず確実にばれるだろう。確か原作でも各勢力が見ていた、とかだった気がするし。一応最低限の変装のようなことはするつもりだが。

 

だから、今回はばれても仕方ないと思っている。ぶっちゃけどっちでも良いとも言う。

 

 

とまあ、そんな感じで色々と考えてはいたわけだが、幸か不幸か、気配を探った感じではまだ誰もいないんだよな。だから今、余裕のある態度で焔さんとこうして会話が出来ているわけだ。

 

「用事? それは、この緑の岩戸の中に行くことかい?」

 

「いいや、違う。正直言って、その中にいるセキレイには興味ないんだ」

 

「興味がない?」

 

どうせ皆人のセキレイになるだろうし。皆人とそのセキレイ達は主人公補正という名の運命に定められているわけだからな。それに、俺ロリコンじゃないからくーちゃんとキスするのはちょっとないわー。

 

っていうか緑の岩戸って分かりにくい。普通に植物園って言えばいいじゃないか。前は皆人達の中では常識人だって思ってたけど、彼が厨二病だとするとあいつらの中に常識人はいないんじゃなかろうか。

 

「なら、なぜここに来たんだい?」

 

「MBIの社長に近しい人物と連絡が取れるセキレイに頼みたいことがあるんだ」

 

「……何だって?」

 

つまり、皆人のお母さん、佐橋高見さんに連絡が取りたいわけだ。皆人に頼んでも良いんだけど、それやると説明が面倒だからな。出雲荘で焔さんに頼まない理由もだいたい同じだ。

 

「君は、何故それを知っている?」

 

「その人とは知り合いだからだ。連絡先は残念ながら知らないけどな」

 

ちなみにだが、さっきから言ってることは全部本当である。高見さんとは皆人の家に遊びに行った時に知り合った。ユカリちゃんと知り合ったのもその時だ。

 

向こうは皆人の友達、くらいにしか思ってないだろうけど。俺的にはあの社長とどう行為に至ったのかを知りたかった。あの特殊な二人の馴れ初めとか、すごく聞いてみたい。……いや、当然そんなことは聞けなかったが。ちょっとだけ父親の話題をだしたら空気が凍ったしな。触れちゃいけないと察した。

 

「それを僕が信じると思うのかい?」

 

「本人に聞いてみれば良いじゃないか。こっちは今戦う気はないからな」

 

と言っても、秋津がさっきからずっと焔さんを警戒してるから電話なんてしてくれなさそうだけどな。

 

実際、今も焔さんは秋津を見て警戒してるし。それを見て更に秋津が警戒を深めて……と、見事な悪循環である。二人ともちょっとだが炎と氷が出てるし。そのせいで今俺は寒くて暑いという奇妙な感覚を味わっているところだ。とはいえ秋津が守ってくれるだろうから、多少の余裕があるけども。

 

 

とりあえず、二人の警戒を解かないと話もできない。話を聞いてくれそうな秋津から先に説得しよう。

 

「秋津、下がっていいよ」

 

「……主?」

 

「さっきも言ったけど、今日は戦う気はないからさ。何かあったら前みたいに逃げるから、逃げる用意だけしてたらいいよ」

 

「……分かった」

 

俺の言うことに納得してくれたのか、秋津は素直に後ろに下がってくれた。

 

よし、説得完了。羽化もしてなくて能力が不安定な秋津に戦わせるつもりはあまりないからな。最悪の場合、焔さんみたいに自滅っていう可能性もあり得るわけで、そういう対策もできない事態になるのは絶対に避けなきゃいけない。

 

秋津と出会った時に上手く逃げたのがあったからか、逃げるって説得も簡単に納得してくれたみたいだし、一安心だ。

 

「僕が君たちを逃がすと思うのかい?」

 

「むしろ戦うメリットがないだろ。後ろの植物園にいる羽化前のセキレイを守ってるんだろうし、俺達が逃げた方がそっちとしては助かるんじゃないのか?」

 

「……」

 

「そんなことより、早く連絡をして欲しいんだが。帰りが遅くなると、怖ーい大家さんに怒られるからな」

 

何故かは分からないが妙に俺に対する警戒が強いので、遠回しに焔さんも怒られるだろう、と言ってみる。いくらなんでも、美哉さんに逆らえはしないだろう。

 

「ゔ……分かったよ」

 

やっぱり美哉さんは最強。自分が怒られるところを想像したのか、若干冷や汗が出ているようにも見える。というか、既にその反応からして自分が篝だと言ってるようなものだろう。

 

「ああ、そうだ。俺の名前は日高翔だ。彼女も名前を聞けば多分分かるだろう」

 

一応焔さんに気を遣って名乗っておくことにする。もはや意味がない気もするが、一応な。

 

焔さんは俺を一瞥して懐からケータイを取り出して、誰かへ連絡を取る。まあまず確実に高見さんだろうけど。むしろ高見さん以外だと困る。

 

 

さて、とりあえずここまでは上手くいった。高見さんは当然俺が色々知っていることを知らないだろうから、事情を聞くために電話を代わってくれるだろう。その辺りの説明は適当に誤魔化すとして。

 

わざわざこんな面倒な手段をとってまで高見さんに連絡しようとしたのは、千穂の件について話をするためだ。

 

当然ここで言ったところで即解決が出来るとは思っていない。ただ、くーちゃんをセキレイの攻撃から自身を盾にしてまで守るような優しいあの人が千穂やうずめちゃんのことを知れば、何かしらの行動は起こすだろう。社長に文句を言うとか。高見さんの言うことならあの社長は話を聞くぐらいはするだろうし。

 

今回は主にそれが目的だ。まずは社長と高見さんに千穂とうずめちゃんのことを認識させる。確か社長は氷峨と仲悪かったはずだし、上手くいけば今回のことだけで成功する可能性もなくはない。そうでなくとも、後々楽になる、かもしれない。

 

「それで、どうだった?」

 

「……ほら、ケータイ」

 

無事高見さんと話が出来るようで、焔さんから渡されたケータイを受け取る。

 

『それで? わざわざこんなことしてまで私に何の用だい?』

 

「いや、すいません高見さん。俺の妹に関することで話がありまして……」

 

 

 

「ただいま帰りましたー」

 

「ただ、いま」

 

無事話も終わって出雲荘へ戻ってきた。とりあえず色々と何とかなりそうな感じにはなってきたと思う。

 

「おかえりなさい二人とも。あら、日高さん……何か良いことでもありましたか?」

 

「はい、色々悩んでいたことが一歩前進したので。このまま順調にいけばいいんですけど」

 

「そうでしたか。ですが、あまり危ないことはしないでくださいね」

 

「……気をつけます。もう遅いので俺達は寝ますね。お休みなさい、美哉さん」

 

ところで、何で美哉さんはこんな時間まで起きていたんだろうか。俺が帰るまで起きてたっていうことなら申し訳ないな。

 

「ええ、お休みなさい」

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