未覚醒者は『強化再生』で成り上がる   作:傷付 津々木

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第9話

「暫く、訓練はできなくなる」

「何で、どうして、説明して」

 

 食い気味に詰め寄る薫

 こっちにも予定があるんだが。

 

「個人的な用事だ」

「……彼女?」

「いねえよそんなもん」

「そう」

 

 最近は良く絡んでくる薫。

 会長経由で俺のスケジュールを把握してバカスカ訓練の予定を詰め込んでくるのは正直勘弁してほしい。

 

「たまには休ませろ」

「……別に、束縛してる訳じゃないし」

 

 実質束縛と変わらん。

 

「とりあえずお前の課題は、魔術の習得と能力の燃費の悪さ。それから戦闘勘の無さだ」

「……ボロカス言うわね」

「褒めようか?」

「気持ち悪いから止めて」

 

 ご随意に。

 

 薫はとにかく長期戦に弱い。

 覚醒込みでこの体力は正直あんまり近接戦闘の才能が無いとさえ感じるレベルだ。

 一方で身体強化系の能力を発現させているのが良くわからない。

 

 魔術に関しては理論は教えているので、後は感覚を掴んで実践を繰り返すだけだ。

 因みに、俺が妖精に教わった魔術理論はかなり異質らしい。

 念の為薫には他言しないよう言い含めておいた。

 

 戦闘勘に関しては、直ぐにどうこう出来る問題じゃない。

 戦っている内に養われるだろう。

 

 という訳で、難易度別で肉人形を用意して出かける事にする。

 こないだ幻石を埋め込むことでかなり長いこと人形として動けることが分かったので、早速実践してみた。

 

「……勝てる気がしないのだけれど」

「これに勝てたら3級は固いな」

「まあ、鋭意努力するわ」

 

 生成した強化版ミノタウロス君は悪くない出来だ。

 全ての訓練用肉人形は致命的な攻撃を寸止するように設定しているので、事故らない限り大丈夫だろう。

 

 ……本当の本当に緊急用の処置として肉による破損組織の代替、再生を設定しておいた。

 万が一にも発動しないことを祈ろう。

 

「ゴブリン小隊、隠密ヘビ、強化ミノタウロスだ。全部倒したらご褒美やるよ」

「ッ!!言ったわね?」

 

 なんか食い気味なんだけど。

 

 まあ勝てないだろうしいいか。

 約束を果たしに行こう。

 

 ――――――――

 

 四国、『漆雪』。

 第3級で、艶のある黒色の雪が降り同色の雪原が広がるその迷宮には、きっと俺の友達が待っている。

 

 雪に触れると苦痛が伴う漆雪に対策するため、ほとんどの探索者は全身を防水装備で覆うらしい。

 更に、直感に反して迷宮内は蒸し暑いので着込めば着込むほど長期の探索が困難になる劣悪環境だ。

 

 あまりにもギミックが面倒すぎて誰も攻略を試みられない日本有数の不人気迷宮だが、その景色だけは一見の価値ありと安全地帯に留まって景色を堪能する探索者も多いんだとか。

 

 地上のどの交通機関よりも自分で飛ぶ方が早いので、飛んで来た。

 漆雪の正面にある協会支部に入る。

 迷宮に侵入する際は支部へ通達するよう徹会長から頼み込まれている。

 

「あれは……」

「いや、まさか、でもそっくりだ」

 

 騒がしい外野を無視しながら受付の列に並ぶ。

 暫く待つと、ポーンと鳴った受付が次の探索者、即ち俺を呼ぶ。

 

「どうも。鈴木道成、5級探索者です」

「へ?」

 

 硬直する受付。

 早く侵入したいんだが。

 

 慌てた様子で内線をかける受付。

 

「鈴木道成さんがいらっしゃいました。探索証?いえ、拝見してませんが、ですがご本人かと……はい、承知しました」

「支部長室に伺いましょうか?」

「い、いえ、こちらで探索証を拝見します」

「そうですか」

 

 探索証を手渡すと、機械に通して確認される。

 

「ほ、本物……ですね?」

「第5級探索者の成りすましする馬鹿います?」

 

 世界の何処にいようが数分で駆けつけられる存在だぞ。

 成りすましする奴が居たとしたら豪胆すぎる。

 

「へ、返却いたします。確認しましたので、いつでも侵入可能になります」

「どうも」

 

 さて、会いに行くか。

 

 ――――――――

 

 迷宮前のゲートには、全身フル装備の人間たちがひしめいていた。

 観光目的らしい奴や、攻略目的の奇特な奴がいる。

 

 なんの変哲もない私服で侵入しようとする俺を遠巻きに眺める彼らは、俺の身体を下から上に見るに従って困惑、呆れ、驚愕の順に表情が変化していた。

 

 他人からの注目には慣れたが、どうも居心地が悪いので時々リークしたアイツをもう一度締めに行きたくなる。

 

 そんな事を考えながら迷宮に侵入。

 真っ白の空から降り注ぐ艶のある雪、一面に広がる漆器のような雪原が美しい。

 

「漆雪、ね」

 

 まさに名前の通りだ。

 迷宮が人類に与えた数少ない恩恵の内の一つは、この景色だろう。

 異界情緒とでも言おうか。

 

 安全地帯を抜け、降り注ぐ雪を掌で受け止める。

 じんわりと広がる灼熱感が身を焼いていく。

 

「これは確かにキツイな」

 

 とは言え、もう適応したので痛みはないが。

 感覚的に神経毒の類だろうか。

 

 紅原攻略後に耐性をつける為、地上で可能なあらゆる方法で身体を痛めつけた。

 およそ地上にある手段で俺を殺すのは不可能と言っていいだろう。

 

 俺が日本政府に要請した無茶振りを思い出す。

 核保有国でもない日本で核兵器を所望した俺を、彼らは馬鹿でも見るような目で見ていたな。

 まぁ、素材と設計図、それから実物大の模型を取り込んで肉で自作してやったときは死ぬほど驚いていたが。

 

 太平洋のど真ん中で核兵器で自爆したときは死ぬかと思った。

 用意していた大量の幻石を取り込んで一命を取り留めたが、正直二度とやりたくない。

 因みに、周辺被害は万が一にも無いように全力で障壁で囲ったし、障壁内の放射線と放射性物質は全て吸収したので終始非常にグリーンな形で適応は終えられたと断言できる。

 

「威力十倍にして出直してこい」

 

 目の前の一角ウサギが放出したビームを喰らいながら歩く。

 信じられないものを見たように硬直する奴の横を通り過ぎて探索を継続。

 

 奴が角の先端から放つ中性子線は覚醒者でも即座に中枢神経症候群を発症し、数時間で死亡するレベルの100Svだ。

 基本的に危険を感じた際に自衛のため放射するので、刺激せずに近寄らないければ問題ないのだが、俺にとっては特段害がないので敢えて避けなかった。

 

 さて、妖精の気配を探しているが感じられない。

 どうも上層に向かわなければならないようだ。

 分かり易い位置で待ってくれていると思ったが、恥ずかしがってるのか拗ねてるのか。

 

 あいつのお気に入りみたいだし、ついでに攻略して所有しようかな。

 雪山の向こう側にあるらしい階段に向かって、俺は飛んでいく事にした。

 

 ……こっちの方が探すのが楽なことには、飛んでから気づいた。

 

 ――――――――

 

「……完全攻略しそうなんだが」

 

 襲いかかる怪物を倒し、吸収する。

 今のところ有用そうな性質を持つ怪物はいない。

 

 そして、妖精の気配もない。

 迷宮は目安として、等級×20程の階層で構成される。

 つまり3級の漆雪は60層前後の筈で、現在は56層だ。

 

「少し心配になってきたな」

 

 そう言って階層を登る。

 57層に到達すると、漸く気配がした。

 

 空に飛び上がって、気配の方向に向かう。

 直ぐに辿り着いたが、そこには予想外な光景が広がっていた。

 

 雪山の洞窟。

 その奥のひっそりとした水溜りの中に睡蓮の蕾が浮いている。

 しかし、葉や茎が萎れており何だか弱々しい。

 

「……フェイ?」

 

 話しかけると、蕾が弱々しく開いてフェイの姿が現れた。

 ぐったりとして元気がない。

 

「ヤット、キタ」

「待たせた。それよりもどうした、何があった」

 

 焦燥を覚えたのはいつぶりか。

 近寄って小さな身体を掌で掬い上げる。

 親指に顔を預けたフェイが、ゆっくりと目を開く。

 

「アア、ミチナリダ」

「俺だとも」

 

 よく見ると、フェイの背中にあった羽根が一つ欠けている。

 

「……誰にやられた」

「タンサクシャ、ツヨカッタンダ」

 

 別の迷宮に逃げれば助かっただろうが、俺を待っていた為にそれが出来なかったのか。

 フェイは強いから、多少待たせても問題ないと思い込んでいた。

 

 ああ、まただ。

 また俺のせいで、大切な仲間が傷つけられる。

 

「遅くなって悪かった」

「……イイヨ、アエタカラ」

 

 そう言い残して、フェイは眠った。

 魔術で植物を想像して寝床を作る。

 側に俺の分身となる肉人形を置いてから洞窟の外に出た。

 

「そこか」

 

 この階層全体に魔術で索敵をかける。

 幻素の波に強く反発した探索者の集団を発見、捕捉する。

 

 近場で辺りを探ってた奴らの正面に着地。

 突然現れた俺に驚く探索者たち。

 

「……妖精を探しているのか」

「あぁ、見つけたのか?手負いだっただろ、折半でいいぞ」

「……悪いが、俺の知り合いだ。金は払うから羽根を返してやってくれないか」

 

 爆笑する探索者たち。

 

「いやいや。妖精だぞ、妖精。これまで捕らえられた事なんてないんだから値段なんてつかねえよ」

「なんとでも交換してやる。こう見えて最上位探索者の端くれだ」

 

 こいつらは探索者として至極真っ当な動機でフェイを狙っただけだ。

 腸が煮えくり返る余り、衝動的に殺さないのを全力で堪えている。

 

「……いや、知らないな。こう見えて俺等は第5級探索者だが、あんたと面識はない」

「この迷宮に入って長いのか?俺はこないだ国内ランキング7位になった鈴木道成だ」

「……あんたが強いのは分かるが、正直懐疑的にならざるを得ないな」

 

 この状況なら仕方のないことだ。

 ……そう、仕方がない。

 

「そうか、これ以上話し合っても平行線だな」

「そうらしい、潔く諦めてくれ」

「ああ、諦めることにするよ」

 

 ――お前らの命をな

 

 即座に臨戦態勢を取った探索者たち。

 真剣な面持ちのまま頭を地面に転がしている。

 残った胴体から血が噴き出たかと思うと、全身が灰になった。

 

「運が悪かったな」

 

 正直、スッキリした。

 

 ――――――――

 

 洞窟に戻って、奴らの荷物から取り戻した羽根を返してやるとフェイはすっかり元気になった。

 

「オソイ!!!」

 

 そして、キレた。

 さっきまで許してくれそうな雰囲気だったのに。

 

「……悪かったって」

「オソスギテ、シニカケタ!」

「ほんとにすまなかった」

 

 頭を下げる俺を見て、いくらか溜飲を下げるフェイ。

 それでもツンと顔を反らしたまま、こちらを向こうとしない。

 

「……ほら」

 

 そう言って、俺の体内に格納していたディーを出した。

 前から会いたがっていたので、今回連れてくることにしたのだ。

 父さん達にはめちゃくちゃゴネられたが。

 

「……ディー?」

「キュー!」

「ディー、ダァ!!」

 

 取り戻した羽根をブンブンと振って、ディーの周囲を嬉しそうに飛び回るフェイ。

 そんなフェイをトコトコと追いかけるディー。

 微笑ましい光景だ。

 

 ……これが、見たかったのだ。

 

 

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