未覚醒者は『強化再生』で成り上がる   作:傷付 津々木

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第1話

「という訳で、また明日講習行ってきます」

「前途多難ね、まったく」

 

 そう話す母は、ため息を吐いて食事を再開した。

 

「父さんは凄いよ」

 

 父さんは、第1級中位探索者だ。

 それも、未覚醒ながら登録された例外。

 

 鈴木義通。

 持ち前のフィジカルと戦闘センス、最新式の近代武装で迷宮を探索する『未覚醒者の星』だ。

 

「あの人、色々とおかしいから」

 

 違いない。

 

「迷宮黎明期、ゴブリンを素手で殺してたらしいもの」

 

 化け物だ。

 未覚醒の身で、そこいらの覚醒者が見劣りするくらいの体格なのだから笑えない。

 

「すごいなぁ」

「……あなたも大概だと私は思うけれど」

 

 母はそうジト目で言うのだった。

 解せない。

 

 ――――――――

 

「……前回の講習はお気の毒でしたね」

 

 再度講習の予約をする為、受付嬢に話をするとそう言われた。

 それなり以上に前回の僕のやらかしは広まっているらしい。

 まあ、10人以上の証人が居れば納得か。

 

「あいつが……」

「沖田さんの革靴、100万超えの特注品らしいよ」

 

 そりゃあ怒るわ。

 ごめんなさい、沖田さん。

 

 ――――――――

 

 昼食を例のカフェで済ませる。

 食後のアイスコーヒーが堪らない。

 今日は他の客がいないので、店内は静かだ。

 

 落ち着いたクラシックも相まって、僕のQOLは爆上がりしている。

 カフェとはこうでなくては。

 

 ドアベルの音が鳴ったので、思わず入り口に目がいった。

 するとそこには、何処かで見たような女性が立っていた。

 

「……」

 

 じっとこちらを見つめる彼女は、つり上がった目尻と高身長が相まってそれなりの威圧感がある。

 先日の講習を思えば、なんてことないが。

 

 コツリコツリとハイヒールを鳴らしてこちらに歩いてくる女性。

 近くで見ると、人間離れした美貌が強調される。

 

 服装は大人びているが、表情や雰囲気からして高校生くらいかと思われる。

 

「あなた、この間の講習にいた?」

 

 居ましたとも。

 頷く僕を見て、顎に手を当てて思案する彼女。

 

「あなた、パートナーを探していない?」

 

 悲しいかな。

 

「講習、まだ通過していないんです」

 

 そう話すと、彼女は鼻で笑った。

 

「ふんっ」 

 

 そうして店の奥のテーブルに立ち去っていった。

 なんだか悔しい。

 

 ――――――――

 

 1つ目の講習はすんなり終えられた。

 前回と違って講師が第1級だったのも大きな要因だろう。

 

 という訳で、2つ目の講習だ。

 

「お、1人目の通過者か」

 

 2つ目の講義室が1つ目よりもかなり大きいのは外から見て分かっていたが、まさか屋内に演習場があるとは思わなかった。

 

 迷宮内を模した雰囲気の部屋は、とんでもない大きさで的と銃器が多数並べられていた。

 それにしても大きい。

 

「ああ、部屋か。迷宮由来の技術で外観より部屋の中が広いんだよ」

 

 なるほど。

 

「よし、早速始めるぞ」

 

 そう話す2人目の講師。

 胸元のタグを見ると、田中と書いてある。

 

「まず、お前の獲物を決めよう」

 

 田中さんの案内に従って、並べられた銃器の正面に立つ。

 

「迷宮内は広い。洞窟型の迷宮もあるが、ほとんどは開放型でだだっ広い空間の中で上層に向かう階段を探すことになる」

 

 そのような話は聞いたことがある。

 頷く僕を見て、田中さんが続ける。

 

「多くの探索者は、中距離向けのアサルトライフルと近距離用のハンドガン、それから至近距離でのやむを得ない戦闘時に使用するコンバットナイフの3つを持っている」

 

 合理的に思える。

 おおよそどの距離感でも戦える堅実な構成だ。

 

「協会としてもこの構成を推奨しているが、どうする?」

 

 正直、こだわりはないのでそのままで構わないのだが、ふと端に置いてあるスナイパーライフルが目に入った。

 

「これは?」

 

 田中さんが苦い顔をする。

 

「SRは正直おすすめしないが……。だが、まあ見てみるか?」

 

 スナイパーライフルを地面から取り上げた田中さんが、弾薬を持って的に歩き出す。

 

「銃には詳しいか?」

 

「いえ、全然」

 

 家にある銃器を、父さんは触らせてもくれなかったのだ。

 

「細かいことはいいか。まずこれはセミオートマチックと言って連続で引き金を引くことで連射ができる」

 

 地面に横になり、銃を構える田中さん。

 2脚を立てて、銃床を肩にしっかりと当てて頬を食い込ませるように銃に当てる。

 

「照準は1倍から6倍までの可変式で、横のツマミで調整できる」

 

 照準を調整。

 深呼吸して、吸った息を止めた。

 

 そして、発砲。

 パスッという空気質な音が響く。

 かなりうるさい。

 100m先の金属製の的の中心で火花が散った。

 

「おおー」

 

 パチパチと拍手する。

 照れくさそうに立ち上がった田中さん。

 

「装弾数は10発、有効射程は600mだ。サプレッサーを付ければある程度発射音は軽減できるが、それでも近ければ聞こえる」

「消音器があっても、かなり音が大きいですね」

「亜音速弾を使えばかなり静かになるが、有効射程が半減するし威力もかなり落ちる。急所以外に当たれば相手が生き残る可能性も高い」

 

 なるほど、遠距離から好き放題撃てる代わりに、相応に射撃の腕が必要だと。

 さらに銃声が大きいから周りから敵が集まりやすい。

 

「……難しくないですか?」

 

 肩を竦める田中さん。

 だから言ったろってか。

 

「まぁ、やろうと思えばサプレッサーやマガジン単位での弾薬の使い分けもできるが、初心者が戦闘中にそんな余裕を持てるとは思えないな」

 

 でしょうね。

 素直に諦めます。

 

「おすすめの構成でいきます」 

「それがいい」

 

 うるせえやい。

 

 ――――――――

 

 という訳で、同じ要領でアサルトライフルとハンドガンの解説を受けた。

 ナイフに関しては最低限の扱い方を教えてもらった形だ。

 

 使う状況にならないのが一番らしい。

 

 何にしても銃の反動が思っていたよりも大きくて、立って試射した時は後ろに仰け反りそうになった。

 構え方、反動の受け方、狙い方まで多くのことを教わった。

 

 事細かに銃器の扱いの解説を受けると、父さんが触らせなかった理由が分かった気がした。

 

 講習をすべて終えると、この演習場は自由に使えるようになるらしい。

 田中さんはここに常駐しているようなので、またお世話になることもあるだろう。

 

「よし、最低限の知識は叩き込んだ。これ以降は反復して身に着けろ」

 

 田中さんがそう言うまでに、丸一日掛かった。

 正直自分としてはまだ物足りない気がしている。

 

「まあ、物足りないならまた来い。教えてやる」

 

「お世話になりました」

 

「3つ目の講習はまた明日だな。受付にはこっちから伝えておくから」

 

「ありがとうございます」

 

 そう言って部屋を出る。

 そう言えば、今日は俺以外に通過した人いなかったみたいだな。

 

 ――――――――

 

 翌日、3つ目の講習室へ。

 

 今日はカフェで誰とも出会わなかった。

 静かで心癒された。

 

「ここか」

 

 講義室に入る。

 

 違和感。

 

「……!?」

 

 異質な空気感で、身体が震える。

 扉を通った瞬間から頭の中で警笛が鳴りやまない。

 

 なんの変哲もない無機質な部屋がなぜこれほどまでに恐ろしいのか。

 

 扉を閉じずに、ゆっくりと廊下側に戻ろうとする。

 

「なんとも感のいいガキがきたの」

 

 そう話す老人は、僕の背後に居た。

 

 蹴り飛ばされ、講義室に倒れ込む。

 思わず荒くなる息、吹き出す汗。

 

「ここは迷宮内部を再現した、模擬迷宮」

 

 ペタペタとサンダルで部屋に入る老人は、全く堪えた様子がない。

 

「通過条件は、わしが満足するまでこの場で問答すること。話が支離滅裂だったり、要領を得ない返答があった場合は失格じゃ」

 

 幻素とやらがある空間は、居るだけでこれだけ負担を感じるのか。

 

「……わかり、ました」

 

 言葉が詰まる、息が詰まる。

 まとまらない思考の中、なんとか会話を試みる。

 

「まあ、ちょっとしたら慣れるわい」

 

「そうは思えないのですが」

 

 息も絶え絶えに返答する。

 

「こないだの嬢ちゃんは10秒くらいで慣れたがの」

 

 あの子か。

 態度が尊大な訳だ、それだけ才能がある。

 

「まあ、よい。では聞こうか」

 

 問答とやらが始まるらしい。

 

「お主、父親は好きか」

 

 困惑。

 

「探索者として尊敬してますし、父親としても好感を持っています」

 

 真っ白な顎髭を撫でる老人。

 頭皮に蛍光灯の光が反射して少し眩しい。

 

「そうか、わしは嫌いじゃ」

 

 クソジジイめ。

 

「理由を……伺っても?」

 

 危ない、言葉が途切れかけた。

 多少慣れてきたとは言え、コンディションはまだ正常とは程遠い。

 

「よくない。次、母親は好きか?」

 

「……はい」

 

 この偏屈爺を殴りたい気持ちを抑えて返答する。

 

「そうか。なら、自分のことは好きか?」

 

 自己愛なんてもの、持ったことがない。

 

「いいえ」

 

 そう答える僕をつまらなそうに見る老人。

 

「なんじゃ、お主も自己陶酔型の拗らせ自殺願望持ちか」

 

 一発ぶん殴ってやる。

 立ち上がろうとするも、上手くいかない。

 

「……違いますが」

 

「なら、なぜ探索者を目指す。愛する両親がいて、不自由しない生活。その中で敢えて危険を選んで彼らを悲しませる理由が、お前の薄っぺらいエゴ以外に何がある」

 

 真剣な表情でこちらに問いかける老人。

 

 確かに、探索者を目指すことは僕のエゴに違いない。

 命の危機も経験して、場合によっては死ぬこともあり得るだろう。

 

 だけど、

 

「恵まれた環境を見限って、両親を悲しませることになっても、それでも僕は探索者になりたい」

 

「つまり、死にたいんじゃな?」

 

「違います。僕は消極的な自殺願望や漠然とした未来への期待感から探索者を目指しているんじゃない」

 

「しかし、エゴに違いはあるまい」

 

「そうです、エゴです。僕は僕の明確な意思でもって、残りの人生を賭けるに値すると判断した上で、探索者を目指します」

 

「……」

 

 無言でこちらを見、続きを促す老人。

 

 震える膝を腕で支えながら、なんとか立ち上がる。

 

「死ぬために探索者になるんじゃない。死ぬ気で探索者になる為に今ここにいるんです」

 

 老人が鼻で笑う。

 

「つまんらんの、全く」

 

 背を向けた老人が、扉を開けて廊下に出ていく。

 よたよたと歩いて僕も扉を通ると、開放感に全身が満たされた。

 

「はぁ……」

 

 廊下の壁に背を当て、滑り落ちるように座り込む。

 

「おめでとう」

 

 いつの間にか正面に立っていた田中さんが、水を手渡してくる。

 

「……ありがとうございます」

 

 蓋を開けてペットボトルを傾ける。

 水が全身に染み渡る。

 

「殆どの受講者は、3つ目で挫折して諦めるか探索を断行して亡くなるんだ」

 

 横に座り、そう話す田中さん。

 

「あの空間は、第2級迷宮の幻素濃度が再現されている。それに加えて1つ目の講習のような怪物独特の威圧感も合わさるから、講習を乗り越えられない人の多くは探索すらままならないんだ」

 

 あの2つが合わさるのか、堪らない。

 

「君なら大丈夫さ。なんせ3つの講習を突破できるのは全受講者の1割にも満たないからね」

 

 それはキツイ訳だ。 

 

「とにかく、これで君は正式に講習通過だ。受付で装備貸出の申請を出して、受け取ったらいつでも探索に出れる」

 

 登録探索者じゃないから、第1級しか行けないんだけどね。

 

 とにかく、これでようやくスタート地点だ。

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