遂に装備とご対面だ。
探索者用のアサルトライフル、ピストルにコンバットナイフ。
それから耐刃耐熱の衣服と、その上から着用する軽量外骨格スーツ。
背骨に接着する百足のような骨組みが本体で、人体の急所を守る衝撃吸収プレートと両手両足に連動するようにアームが取り付けてある。
歩行等の非戦闘時の動作で充電、戦闘時には電動アシストで軽快な動きを実現する優れものだ。
軽量かつ軍の型落ちなので性能は最新式とは比べるべくもないが、それでも貧弱な未覚醒者の頼もしい味方だ。
非戦闘時はかさばるし多少重いが、それを補って余りあるメリットがある。
「よしっ」
スーツはフル充電、ヘルメットとスーツの接合を確認。
スーツ背面両脇に小型の鞄2つを取り付け、側面にマガジンをしっかりと取り付ける。
スーツ前面とヘルメットのライトを確認。
ダブルチェックして準備万端だ。
――――――――
更衣室から出て、迷宮に向かう。
今回は比較的近所にある第1級、『紅原』を探索する。
未覚醒探索者の御用達迷宮らしく、難易度も低い為既に複数回完全攻略されているようだ。
講習を終えてから田中さんの教育を何度も受けて、第1級の下層であれば問題ないというお墨付きが貰えた。
加えて、1つ目の講習と3つ目の講習には何度も顔を出して環境への適応を試みた。
今では第2級探索者の威圧を受けたまま自由に動き回れるし、同級の迷宮でも不自由なく動ける。
つまり、第1級の迷宮内で怪物と相対しても闘えるはずだ。
多分、きっと、めいびー。
「行くぞ」
近代装備に身を包んだ未覚醒者達と共に、迷宮の入り口に向かう。
入り口前の人工ゲートを通過すると、銃器のロックが解除される。
万が一にも市街地で使われることがないよう、探索者の銃器にはロックが掛けられているのだ。
アサルトライフルのトリガー横、ランプをタップして緑色である事を確認。
同様にピストルも確認して、迷宮に入る前にスーツに一言。
「
『
――――――――
一面の紅草が広がっている。
白い地面の上に自生する異界植物たちと、紅い空は幻想的だ。
「これが、迷宮……」
迷宮の出入口は安全地帯と呼ばれる非戦闘領域で、そこにいる限りは怪物に襲われることはない。
第2級の幻素濃度に慣れたこともあってか、多少息苦しいくらいの感覚で活動できそうだ。
「よし、行こう」
安全地帯を示す標識の横を通り過ぎて、草原に踏み出す。
視界の殆どを紅色が占めているため、大変目に悪い。
事前に調べた限りでは、この迷宮の下層は真っ赤な体毛で風景に同化して身を隠し、突然襲いかかってくる「レッドゴブリン」が主要な怪物らしい。
奇襲前提な生態もあって正面戦闘には消極的で強くない。
その為、未覚醒者でも早期に発見できれば討伐が容易らしい。
何より、戦闘開始までゴブリンが威圧して来ないので冷静に対応できるのが初心者に優しいポイントだ。
ヘルメットからレンズを引き下ろして、サーモレンズを起動。
右目側の視界に浮かび上がる人形のうち、伏せた小型のものを探す。
「いた」
興奮する気持ちを抑え、アサルトライフルを構える。
こちらが察知している様子に気づいたのか、背を向けて逃走しようとするレッドゴブリンの頭部に一発。
反動を全身で受け止める。
倒れ込んだ標的を見て、油断せずにもう一度発砲。
「ッギャア!!」
案の定死んだふりをしていた奴の首に命中。
よろよろと立ち上がるも力なく倒れるレッドゴブリンの死体が崩れて灰になるのを静観し、その後で周囲に敵影がないことを確認。
銃声とゴブリンの悲鳴に引き寄せられた敵がいないことが分かったので、ようやく戦利品の確認ができる。
「ふぅ……」
灰になった死体の中に、一粒の小石を見つける。
怪物の体内で凝縮された幻素の結晶、幻石だ。
「これが未来の資源か」
水に漬け込むだけで発電する謎物質。
大きさに比例して一定量のエネルギーを無尽蔵に放出するらしい。
この存在によって世界の科学技術は飛躍的に成長した。
「よし、後2匹だ」
今日の目標はゴブリンを3体討伐すること。
そして幻石を協会に売却し、その利益で昼食を食べて帰宅することだ。
一粒あたり500円なので、3粒で丁度昼食代になる。
幻石を拾い、背面の鞄に仕舞って立ち上がる。
辺りを見回して怪しい人影がないか確認、見当たらないのでもう少し奥に向かうことにする。
安全地帯が視界に入る範囲で活動することを心がける。
草原を進んでいくと森があって、その更に奥に上層へ向かう階段があるらしいが、僕には関係のない話だ。
――――――――
目標の3匹討伐を達成したので、今日は退散することにする。
特に問題らしい問題はなく、順調に探索ができた。
安全地帯に向かって歩く。
「坊主、走れぇぇぇ!!」
「へ?」
振り返ると、巨大な白い熊型の怪物に追われている数人の探索者たち。
その光景が目に入った瞬間、僕も全速力で駆けていた、
「
『copy』
電動アシストで加速した僕は一足先に安全地帯の標識内に辿り着いた。
後から続いて到着した彼らが転がるようにして安全地帯に入ってくる。
「な、なんですか、あれ」
息も絶え絶えな様子の彼らが答える。
「いや、すまねぇ、あいつはワイトベアーだ。本来もう少し上層に出るはずの怪物なんだが、最近獲物のゴブリンが減って生息域が下に移ってきているらしい」
僕みたいな初心者が狩り尽くしているんだろう。
迷宮内の怪物は、一定量が居るように自然繁殖する事で調整されているらしいが、今はどうやらゴブリンの繁殖が間に合ってないようだ。
「災難でしたね」
「まったくだ。すまなかった、坊主」
そう頭を下げる彼らを見ると、責める気持ちも湧かなかった。
――――――――
「それで、初探索だったのか」
お詫びに昼食を奢ってくれるらしいので、行きつけのカフェに来た。
「そうです」
今日はハンバーグ定食だ。
これまで高くて食べられていなかったのでありがたい。
今回の報酬で昼食を食べるのはまた次回にしよう。
「どれくらい探索者をされているんですか?」
近代装備なのを見るとまだ未覚醒だろう。
「かれこれ1年だな」
「ずっと紅原で?」
「おうよ」
となれば、参考になる話も聞けるだろう。
「何か、アドバイスとかありますか?」
「そうだなぁ、まずは誤射だな。自分じゃなくて、他人からのな」
なるほど。
余裕のない初心者がサーモレンズばかり当てにして、こちらに発砲してくる可能性は大いにある。
「後は、徒党を組んだゴブリンに気をつけることと、変異種だな」
前者は勿論警戒に値するが、後者は知らない。
「変異種?」
「ああ、一般に周知されてないが、迷宮内では極稀に異常な特徴を持った突然変異個体の怪物が生まれることがある」
自然繁殖している以上、稀にあることなのかもしれない。
「俺らも一度遭遇したが、そいつは身体に不釣り合いなくらい大きな右腕を持ったゴブリンだった」
「強くはなかったですか?」
「やり辛くはあったな。他のレッドゴブリンと違って正面から殴りかかってきたし、右腕の威力はそれなりだった。でも、ワイトベアーのが全然怖かったな」
なるほど、変異によっては戦闘向きな個体も生まれ得るのか。
「逆に弱いってこともあり得るんですか?」
「だろうな。そういう話も聞くが、気をつけるに越したことはない。稀にとんでもなく強い個体も生まれるらしい」
かなり参考になった。
「ありがとうございます」
「良いってことよ。また何かあったら連絡しな」
連絡先を交換して解散した。
疲れたし、今日は帰って休もう。
――――――――
「ただいま」
「おう、帰ったか」
装備を収納したスーツケースを引きずって帰ると、父さんが居た。
「探索はどうだった?」
そう問いかけてくる父さんに、今日の出来事を伝えた。
「初めての探索としては上々だな。予想外に良い体験もできたようで何よりだ」
「父さんは、今回の遠征はどうだったの?」
父さんは未覚醒者のみが所属する、『不屈』というギルドに所属している。
登録探索者である父さんを筆頭に、逆風に負けず地道に功績を積み上げる逞しいギルドだ。
「第2級の中層までは到達したが、それ以降は全く登れる気がしないな」
ガッハッハと笑う父さん。
相変わらず、未覚醒者とは思えない体格をしている。
「まあ、地道にやるさ。お前も、無理せず着実にな」
「うん」
――――――――
さて、本日も探索に行こう。
装備を確認し、迷宮に侵入。
「
『
紅い草原と、安全地帯。
今日の目標は、ゴブリン10体の討伐。
「行くぞ」
僕は標識の外へ、足を踏み出した。