未覚醒者は『強化再生』で成り上がる   作:傷付 津々木

5 / 11
第4話

 振るわれた腕で吹き飛ばされ、木に叩きつけられる。

 

「……ワイトベアーか」

 

 衝撃で折れた腕の向きを戻しながら、立ち上がってワイトベアーと向かい合う。

 ゴキリと組み合わさった腕の調子を確かめる。

 

「グォ?」

 

 妙なモノを見る目だ。

 

「なんだよ」

 

 立ち上がっているワイトベアーの脇腹に、拳を振るった。

 分厚い外皮にいくらか衝撃が吸収されたが、確かに内側に届いた。

 

「グウッ……」

 

 腹を押さえて這いつくばるワイトベアーの顔面を蹴り上げる。

 上に持ち上がった頭を地面に叩きつけるように殴る。

 

 衝撃で白い土が舞い上がる。

 

 沈黙したワイトベアーの身体が灰になって崩れ落ちるのを見届ける。

 残った幻石を、噛み砕いて飲み込んだ。

 

 ――――――――

 

 ディーの死亡からどれくらいの時間が経ったのか分からない。

 

 確かなのは僕が覚醒したことと、異常な回復能力を得たこと、そして回復する度に強くなることだった。

 

 一度覚醒した探索者は一次覚醒者と呼ばれ、登録探索者として活動できるようになる。

 その状態から更に幻素を蓄積することで、二次覚醒を迎え、更に三次覚醒と何度も覚醒することによって探索者は強くなる。

 

 因みに、二次以降の覚醒は一次のように数年間覚醒しないといった事態は起きない。

 強力な怪物を討伐できるようになり、効率的に幻素を獲得できるからというのが現在最も有力な仮説だったはずだ。

 

 僕の見立てでは、講師の沖田は二次覚醒者だ。

 基本的に、探索者は等級と覚醒数が比例する。

 

 問題は、あの男がどの段階に居るのかという事だ。

 少なくとも三次覚醒は終えているだろう。

 対等以上に戦うために、四次覚醒を迎えなければならない。

 

――ゴキリ

 

 身体から異音がする。

 再構成の過程で強化されるので、定期的に骨や筋肉の配置が代わり異音がするのだ。

 

 ワイトベアーの胴体に突き刺さった腕を引き抜く。

 潰れでグチャグチャになった指先が治っていく。

 

 現れた幻石を口に入れて噛み砕く。

 空腹が紛れるのは勿論、効率的に幻素が手に入ってとても効率的だ。

 

 最初は幻石に負けて砕けた歯も、今は強靭になった。

 腕力はワイトベアーに引けを取らず、脚力は木を飛び越えられる程に、体格も良くなっていると思われる。

 

「1人じゃわかんないけど」

 

 いくつか階段を登った覚えがあるので、ここはもしかしたら中層かも知れない。

 まだ見ぬ怪物を警戒しなければならない。

 

 だが、能力の仕様上怪我は歓迎すべきだ。

 

「……死ななければいいか」

 

 湿地帯に変わった景色を見ながら、僕はそう言った。

 

 ――――――――

 

「この能力、難点があるな」

 

 巨大な蛇からもぎ取った頭を地面に投げ捨てながら、そう一人ごちた。

 

 覚醒したのか良くわからないのが、この能力の欠点だった。

 本来、人間は覚醒によって身体機能が向上したり、未知の能力が発現する。

 

 しかし、この能力によって僕は常に身体機能が向上しているので、覚醒の有無がはっきりしないのだ。

 分かり易い新たな身体器官が生えたり能力が発現すれば良いが、単純な身体機能の向上であれば、よほど大きな変化がない限りおそらく気づけない。

 

「攻略してから考えるか」

 

 当座の目標である、紅原の攻略。

 これを成し遂げるまで、僕は地上に帰るつもりがなかった。

 

 全20層のこの迷宮は、単独でクリアするのに3級探索者相当の実力が必要になる。

 つまり完全攻略を終えた時点で、3級相当の実力である事は分かるわけだ。

 

「その次に、第2級迷宮に向かえばいい」

 

 第2級を完全攻略する程の実力が身に着けば、流石にあの男にも勝てるだろう。

 

「シャアッ」

 

 大きな紅色の物体が凄まじい速度で襲いかかってくる。

 

「初めは驚いたけどね」

 

 変則的な軌道で翻弄しながら襲いかかる奴の動きは、容易に目で追える程度のものでしか無かった。

 毒耐性を手に入れる為の丁度いい戦闘相手ではあるが。

 

 捕まえた頭部を持ったまま、腕に押し付けて噛ませる。

 押しつぶさんばかりに絞って全ての毒液を体内に注入させると、引き千切って頭上に放り投げる。

 

 落ちてきた幻石を灰ごと口で受け止めて食べる。

 

 全長2m近い、常人の腕ほど太い蛇。

 こいつがそこかしこの茂みや木の枝に隠れていて、中々厄介()()()

 

 頭上に気配。

 目前に迫る鉤爪を正面から受ける。

 瞼を貫いた爪が眼球に引っかかり、引き出されて持ち逃げされる。

 

 飛び去った怪物の方向を向く頃には、既に目は回復していた。

 

「……目はやっぱり慣れないな」

 

 痛いは痛いし。

 確かあいつは、『ストーラー』と呼ばれる鳥だ。

 致命的な攻撃はしないものの、上空からの奇襲で視界を奪ってジワジワと対象を殺す怪物だ。

 

 いや、目玉が抜き取られたら致命傷か?

 

「その辺りの感性もあやふやなんだよな」

 

 視界を奪ったと思い込んで正面から堂々と襲いかかってくるストーラーの胴体を掴んで地面に叩きつける。

 潰れて灰になった奴の残骸から幻石を取り出す。

 

「後で食べるか」

 

 一度に沢山食べると気持ち悪くなるからな。

 

 なんて思っていると、新しい怪物が現れた。

 

「……でっか」

 

 6m近い体高の人形。

 盛り上がった筋肉と異常に広い肩の上には、牛頭が乗っかっていた。

 

「ミノタウロスかな?」

 

 紅原上層から現れる怪物。

 第2級相当の近接戦闘能力を持つという話を聞いたことがある。

 

 ――ブルルッ

 

 鼻息荒くこちらを見るミノタウロス。

 巨大な両手斧を前に構えて、間合いを測っている。

 

「ブオオオオッ」

 

 威嚇。

 確かな圧が全身に襲いかかる。

 

 しかし、

 

「まあまあかな」

 

 あの男のものに比べれば、どうということはない。

 こちらも威圧を返す。

 

「ブルッッ」

 

 気圧されたように一歩引くミノタウロス。

 

「……なんだ、そんなもんか」

 

 臆せずにこちらから近づいていく。

 間合いの内側へ。

 

「ブルルルゥア!!!」

 

 向かって左から振るわれる両手斧。

 直撃すれば戦闘不能になりかねないので、屈んで避ける。

 

 勢いをそのままに回転斬りを試みるミノタウロス。

 

「舐めすぎだろ」

 

 背を向けたミノタウロスの膝を蹴る。

 バランスを崩しながら強引に斧を振り下ろそうとしてくる。

 

 バックステップ。

 地面を強かに叩いた斧。

 

 舞い上がる土埃に隠れて、ミノタウロスの背後を取る。

 地面に突き刺さった斧を捨て、拳を構えている奴の脇腹に手刀を突き刺す。

 

「ブヒィッ」

 

 悲鳴を無視して、適当に掴んだ臓物を引き出した。

 紅色の血液が白い地面を染め上げる。

 

 背中越しに襲ってくる拳を避けて、振り返る奴の背中に追従するように背後を取り続ける。

 攻撃。追従。攻撃。追従。

 

 何度か繰り返すと、背中がズタボロになったミノタウロスが倒れた。

 失血かな。

 

「ブッルゥ……」

 

 卑怯者め、と言わんばかりの目だ。

 

「勝ちゃいいんだよ、勝ちゃ」

 

 正面からの殴り合いでも勝てたろうが、わざわざリスクを取る必要はない。

 トドメに思い切り頭を蹴飛ばしてやると、灰が舞い散った。

 

 ――――――――

 

 その後何度も遭遇したミノタウロスによって、単純な斬撃や打撃はかなり耐性がついてきた。

 蛇毒以外の毒や刺突、魔術的な攻撃への耐性をつけなければならない。

 

 何日経ったのかも分からないが、確実に自力はついてきている。

 二次覚醒の気配はないが、既に2級上位の実力はあるだろう。

 

 今が何層か分からないが、おそらく迷宮の最深部は近い筈だ。

 大気中の幻素が明らかに濃くなってきている。

 

 森を歩いていると、少し開けた位置に池があった。

 ……そう言えば、水も暫く飲んでないな。

 

 池の水に顔を突っ込んで飲むと、全身が痺れ始めた。

 麻痺毒か?

 

 池の底から表面に浮かび上がってきた植物。

 掌ほどの開いた花弁の中央に座る紅色の妖精が、こちらを指さして笑っていた。

 

「イヒヒヒッ、イヒヒッ」

 

「いたずら好きの、紅妖精」

 

 ランダムな迷宮のランダムな階層で現れるという不思議な怪物だ。

 気に入った探索者について回る奴も居れば、探索者を治療したり、或いは騙して怪物に襲われるように仕向けたりもする。

 

 この場合は、毒を盛ってきた訳だ。

 

 敵だという事が分かれば十分だ。

 妖精の身体を掴んで拘束する。

 

「エッ」

 

 呆然としている妖精は、俺が動けることに驚いていた、

 手の中でジタバタと暴れて抜け出そうとする妖精。

 

 能力が未知数だし、さっさと殺すに限る。

 

「マッテッ、マッテッ」

 

 涙目で必死に何かを訴えかけるそいつを無視して、握り潰す。

 

「ディー、ディー」

 

 ……そうしようとした所で、止めた。

 

「が、どうした」

「バショ、オシエル、バショ、シッテル」

 

 妙なことを。

 ディーは死んだ。

 

「マダ、イキテル、ソコ、ソコニイル」

 

 そいつが指差すのは、俺の胸。

 背後を振り返っても何も居ない。

 

「俺の中で生きているなんて、ベタなセリフ抜かしたら殺すぞ」

 

 いや、どうにもいけない。

 ずっと迷宮の中に居て心が荒んで来ているのか、いちいち刺々しくなってしまう。

 一人称も、いつから俺になったんだか。

 

 オロオロする妖精。

 返答に困っている様子だ。 

 

「……悪い、説明してくれ」

「ホントウニ、イル、ソコ」

 

 何度も胸を指差す。

 

「アナタ、モウニンゲンジャナイ」

 

 ……人外じみた能力を持っている自覚はあるが。

 この場合は、どう捉えたものか。

 

「俺とディーは一緒か?」

「ソウ、マザッテ、イッショ」

 

 まともに身体が動かなかったあの状態から復活したのは、てっきり覚醒したからだと思っていた。

 

 だが、やっと分かった。

 

 俺は覚醒などしていなかったのだ。

 

 ――――――――

 

「つまり、俺はディーの能力を引き継いだってことか?」

 

 んー、と悩んでいる妖精。

 どうも敵対的な様子が無くなったので、池の花の上に戻してやったのだ。

 

「マザッテ、カワッタ」

 

 確かにディーは成長こそ異常だったものの、俺のように再生能力があった訳じゃなかった。

 俺の持ち前の体質か、或いは覚醒前の能力がディーの能力と混ざった結果が今という訳か。

 

「俺は今後、覚醒するのか?」

 

 現状このペースで成長するなら、正直覚醒は必須ではない。

 が、この状態で覚醒したらどれだけ強くなるのかも興味がある。

 

「……ムズカシイ、スゴク、ジカンカカル」

「一般人の覚醒とは条件が違うから、それだけ多くの幻素が必要になるのか?」

「ソウ、ゲンソ?タクサンイル」

 

 なるほど。

 逆に言えば、その労力に見合うだけの力が手に入ると言うことだ。

 

「いや、そもそもどうやって俺とディーは混ざったんだ?」

「……ディー、トクベツ」

 

 あの男も、特異種だと言っていた。

 特異種ってなんだ。

 

「どう特別なんだ?」

「……ハナセナイ」

 

 何でもかんでも教えてくれる訳じゃないらしい。

 

「お前らは、何だ?」

「ヨウセイ?カイブツ?」

 

 怪物と妖精、どちらの正体を聞いているのか尋ねたいらしい。

 

「どちらもだ」

「カイブツ、タテ、メイキュウ丿タテ」

 

 防衛設備みたいなものか。

 にしたって有機的で、感情があるようだが。

 

「ヨウセイ、ベツ」

「別?」

「デモ、イエナイ」

 

 ……迷宮が生産する怪物とは別口なのか。

 だが、どうも怪物が単純な防衛設備とは思えない。

 ディーしかり、防衛をするなら全ての怪物は人間に敵対的であるべきだ。

 

「待て、怪物は何から迷宮を守っているんだ?」

「……イエナイ」

 

 つまり、人間以外の何かから迷宮を守るために創られたのが怪物な訳だ。

 これ以上聞いてもおそらく答えられないだろう。

 

「そうか、助かった」

「モウ、イイ?」

「ああ、もういい」

「イタズラ、ゴメンネ」

 

 妖精はそう言って池の底に帰っていった。

 ……奴らにとって、毒を盛ることは悪戯の範疇らしい。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。