未覚醒者は『強化再生』で成り上がる   作:傷付 津々木

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第6話

 フェイが放った炎の矢を半透明な盾で防ぐ。

 続けて襲いかかってくるワイトベアーの腕は、サスマタ状に変形した肉種が止める。

 空から降りてくるストーラーに向かって肉種を撃って追い払う。

 

「ニク二、タヨリスギ」

「便利なんだよなあ」

 

 一旦停戦。

 協力してくれた怪物たちに身体から分離した肉を与えて帰らせる。

 気分は空飛ぶアンパンだ。

 

 最近は魔術とヴェイドの扱いにも慣れてきて、殴る蹴るといった直接攻撃が禁止された上で模擬戦を行っている。

 

「魔術より燃費良いのが悪い」

 

 先ほど打ち上げた肉種が滑空して帰ってきたので吸収。

 ……いよいよ人外になってきたな。

 

「モウ、ホトンドニンゲンジャナイヨ」

「やかましい」

 

 分かってるんだよ、分かってる。

 ……それに、ヴェイドの習熟を優先しているのには理由がある。

 

「ディーの分離は、本当にできるのか?」

「ゲンセキト、ジュウブンナニク、アレバネ」

 

 その充分な肉ってのが分からないが、最奥のヴェイドを全て取り込めば足りるらしい。

 俺の体内で魂だけの状態のディーに肉体を与えて外に出す。

 

 魂の器になる幻石と、幻石の器になる肉体。

 この2つが揃えば復活可能とのことだ。

 

 問題は、幻石だ。

 ディーの幻石は俺が目覚めた時点で奪われていた。

 

「幻石は、どうすればいい」

「メイキュウ、タベル?」

「吸収するかって話か?そのつもりだが」

「……ナラ、カクノヌケガラ、ツカエバイイ」

 

 迷宮の核、幻素が抜けた状態なら魂の器になるらしい。

 目処は立った。

 

 実力も充分だろう。

 フェイ曰く、敗北から一月経った。

 その間に幻素も蓄え、魔術とヴェイドも習熟した。

 

 ……覚醒する気配はないが。

 まぁ、いい。

 

「よし、そろそろ行ってくる」

「……オワカレ、ダネ」

「また別の迷宮で会えるんだろ?」

「ウン」

 

 ここ最近はずっと一緒に居たから、寂しいらしい。

 妖精は怪物と違って迷宮に囚われているのではない。

 いつだって好きな迷宮に現れる。

 

「そうだな、次は『漆雪』にでも行こうかな」

「ッホント!?」

 

 フェイが最も好きだと言っていた迷宮。

 四国にあるので都内住みの俺には遠いが、それも良い。

 

「だから、フェイ。またな」

「ウン、マタネ」

 

 手を振って別れる。

 階段の手前に差し掛かって振り返ると、池は無くなっていた。

 

 ――――――――

 

 宮殿。

 中にはヴェイドが居る。

 

 こちらを見るが否や、強烈な威圧を放ってくる。

 一度フェイを怒らせた時を思えば、屁でもない。

 ……いや、本当に。

 あの男より全然怖かったからな、笑えない。

 

「久しぶり」

 

 挨拶代わりに飛んできた肉種を掌で受け止めて吸収。

 敵の幻素を排出して掌握する。

 

「ぶっつけ本番だが、できたな」

 

 これができるのなら、話は早い。

 

「隔離、圧縮、運搬」

 

 敵ヴェイドを半透明の障壁で包んで、変形できないように圧縮。

 俺の側に引き寄せる。

 

「……こんなに簡単なのか」

 

 蓄えた幻素と、磨いた技術。

 1ヶ月で、俺と奴の間には大きな実力差がついたようだった。

 

 ウネウネと動き、障壁の内側から押して抵抗する敵ヴェイド。

 何度か抵抗して、一度諦めたタイミングで障壁に穴を開け、直ぐに閉じる。

 

 押し出されて飛び出した肉の一部を、掌で受け止めて吸収。

 開いて、吸収を繰り返す。

 

 ――ピゥ……

 

 殆どの肉を失って、すっかり元気のなくなった敵ヴェイドが情けなく鳴く。

 残ったのは幻石とそれを包む僅かばかりの肉だけだ。

 

「外のお仲間も直ぐに会わせてやるよ」

 

 魔術で燃やすと、幻石だけが残った。

 それも噛んで吸収していると、宮殿中央に現れる台座。

 その上には、迷宮核が乗っていた。

 

 これを取り上げて迷宮を吸収するか、それとも血を垂らして所有するか。

 勿論、吸収する。

 

 台座と核を繋いでいた触手を引き千切って取り上げる。

 すると、全身に全能感が満ちた。

 

 凄まじい幻素の奔流が全身に降り掛かる。

 欠片も取りこぼさないように吸収する。

 

「ぐっ、うおおおっ」

 

 身体に蓄積される幻素がこれまでと比較にならないほど高密度になる。

 受け止めきれずに自壊しだした肉体を、幻素と肉種が補って再構成していく。

 これまで肉体を構成していた物質が失われ、全てが幻素と肉種に置き換わる。

 

「はぁっ、ふぅ……」

 

 幻素の供給が止まった。

 

 何かが変わったという、明確な感覚があった。

 膝立ちの状態から立ち上がろうとすると、脚が溶けて直立した状態に再構成される。

 脚を動かして立ち上がると言う過程を無視して、変形することで立ち上がったのだ。

 

 崩壊していく迷宮の状態を見ようとすると、全身に湧いた目から膨大な視覚情報が送られてくる。

 そして俺の脳はそれを正常に処理し、全てが感覚的に理解できた。

 

 壊れた宮殿の屋根は、いつの間にか発生していた障壁に受け止められていた。

 魔術や身体変形が、無意識に操作可能な領域まで進化している。

 

「魔法とまでは言わないが、割となんでもできそうだ」

 

 今の俺は、何級相当なのだろう。

 外に出れば分かるか。

 

 翼を生やし、飛翔。

 崩落してくる階層壁を避けながら、地上へ向かう。

 

 この感じ、敵ヴェイドが他の生物から奪い取ってきた構造的知識を継承してるな。

 ミノタウロス、蛇、ストーラーにディアー、ゴブリンまで模倣できそうだ。

 

「……蛇毒と翼ぐらいしか使い道なさそうだけど」

 

 降り注ぐ岩石を避けて地上に辿り着くと、そこには大量の探索者が待ち構えていた。

 完全武装で威圧してくる彼らの前に着地する。

 

「……こいつだ!!こいつが迷宮を破壊したんだ!!」

 

 俺は思わずそう話す探索者を訝しげに見てしまった。

 

「いや、攻略して吸収しただけだ」

「あり得ない、俺が所有していた迷宮をどうやって吸収するんだ!」

 

 あ、こいつが外に出たヴェイドか。

 自分の存在が露呈する前に俺を殺しに来たみたいだな。

 

 というかこれ、堂々巡りになるな。

 俺は奴が怪物だと言うし、奴は俺を怪物だと言うだろう。

 なんなら、ぽっと出の俺よりも実績のある3級探索者の言を信じる可能性の方が大きい。

 

「……いやに必死だな、響」

 

 探索者たちの中央に佇む男が、冷静に言った。

 まぁ、傍から見てもちょっと変だよな。

 ヴェイドに食われた探索者、響とやらはあんまり賢い人間じゃなかったらしい。

 

「何を言ってるんですか支部長、早く討伐しなくては!!」

「俺に言わせれば、お前が怪物だけどな」

 

 話し合いが出来る時間的余裕がありそうだ。

 横槍を入れてやろう。

 

「うるさい!!黙ってろ怪物!!!」

 

 いや、せめて否定しとけよ。

 

「響、前からお前の立ち回りは妙だと感じていた。しかし、今回は特にそうだ。ダンジョンの崩壊を事前に察知して協会に協力を呼びかけ、半信半疑で集まった俺らの前で、所有されている筈のダンジョンが崩壊した。この一連の流れ全てが前代未聞だ」

 

 ……このヴェイド、本当に俺が戦ったのと同じ個体か?

 知能面で明らかに差を感じる。

 もしかして、俺が戦った守護者は変異種だったのかもしれない。

 

「……そ、それは、所有者だからこそ迷宮の状態も分かる訳で」

「俺も幾つか所有してるが、そんな感覚全くないぞ」

 

 だろうな。

 響の周辺にいる探索者が、明らかに警戒し始める。

 

「……響、お前は本当に迷宮を完全攻略したのか?」

「してないし、そいつは人間の皮を被った怪物だ」

 

 なんか話してるだけで終わりそう。

 

「クソ、クソが、上手くいくと思ったノニィィィ」

 

 人間の模倣をやめて膨張したヴェイドが、破裂して肉片を四方八方に飛ばした。

 

「逃がすな!!」

 

 支部長が周囲の探索者に指示を出す。

 初めからそのつもりはない。

 複眼になった両目で全ての肉片を捕捉。

 魔術で捕らえて俺の前に引き寄せる。

 

「グゾォォォ」

 

 地面でウネウネと這いずって抵抗する奴に、思い切り拳を突き立てる。

 土煙が上がって周りから視界が遮られている内に肉を吸収、残った肉塊を燃やして幻石だけ取り出した。

 

「これで、信じていただけますか?」

 

 幻石を片手で持ち上げながらそう言うと、支部長がため息をついて答えた。

 

「話を聞く前に、服を着て貰おうか」

 

 ――――――――

 

「……つまりだ、鈴木道成。お前は未覚醒者であったが、迷宮内で友好的な怪物諸共悪質な探索者に殺害されかけ、覚醒によって回復。その後は復讐の為に自己研鑽に励み、迷宮を攻略。ヴェイドとか言う守護者の性質から人間に化ける可能性を危惧していたら、迷宮脱出後に早速遭遇、討伐した。そういう訳か?」

 

 概ねその通りだ。

 頷くと頭を抱える支部長。

 妖精や俺自身の体質、ディーが特異種であったことは秘密にしておいた。

 

「情報量が多すぎる」

「喫緊の問題は紅原完全攻略を自称する者たちの拘束、排除かと」

 

 ソファに腰掛ける支部長の隣で立っている秘書が言った。

 

「……だなぁ、情報統制もしないとな」

「先ほど、騒動に関わった当事者全員に通達致しました」

 

 優秀すぎるだろ、何者だよ。

 確かに探索者の間で疑心暗鬼を呼ぶよりかは、秘密裏に対応した方が良いのは自明だろうな。

 

「次に、悪質な探索者とやらについてだ」

「近接格闘型、3級相当で遠当てらしき技術を習得。身長は2m半ば、特徴的な篭手を装備していました」

「……雪村か。そいつは死んだ」

 

 は?

 

「いつ、どうやって、何に?」

 

 無意識に威圧が漏れ出る。

 冷や汗を垂らす支部長。

 秘書は支部長の正面に立ち、臨戦態勢で短刀を構えていた。

 

 プレッシャーを押し返そうと必死に威圧する秘書の姿が涙ぐましくて、抑えることにした。

 

「失礼しました」

「いや……いい。迷宮内での事故死という形で片付いているが、報復という見方が強いな」

 

 目で続きを促す。

 

「鈴木義通、お前の父親だよ」

 

 予想外の返答に、俺は暫し硬直した。

 

 ――――――――

 

 詳しく話を聞くと、こういう事らしい。

 

 以前より、雪村とか言う探索者には悪い噂が絶えなかった。

 自分に劣る実力の探索者を囮にしたり、気に入った女性探索者を付け回して迷宮内で暴行を働いたりしていたらしい。

 

 嗅覚に優れるようで、支援部隊の臭いを嗅ぎつけると逃亡するらしく、これまで現行犯で捕らえられなかった。 

 迷宮内は基本的に治外法権で、支援部隊のみが現行犯で拘束可能な権利を持っているのだ。

 

 とにかく、雪村は非覚醒者にとって怪物と変わらない脅威だった訳だ。

 

 そんな中、俺が迷宮内で消息不明になった。

 父さんは捜索を試み、血に染まった地面と破壊された装備を確認。

 現場に残ったDNAから、俺と雪村が居たことが判明。

 明らかに致死量の血痕と装備の損傷具合を見て、俺が死んで灰になったと思い込んだ父さんが激昂したと。

 

「と言うか、父さんは未覚醒者だった筈じゃ?」

「……もう違う」

「覚醒したんですか?」

「おそらく、雪村との戦闘中にな」

 

 雪村の存在を容認できないと、父さん含め義憤に駆られた数名の未覚醒者が宛名で雪村に依頼を発注。

 報酬金額に釣られてまんまと人気のない迷宮に現れた雪村を嵌め殺しにしたらしい。

 

「エグいな、父さん」

「現場は凄惨極まってたらしいな」

 

 ……1級相当の父さんたちが3級の探索者に勝つとは。

 一体どんな手を使ったんだろう。

 

「幻素爆発の反応があった。現場から遠く離れた場所に落下していた雪村の片手を見るに、待ち伏せして爆殺しようとしたんだろう」

 

 満身創痍の男相手に奮闘、討伐したと言う訳か。

 

「だが、まぁ……雪村の死体を見るに、覚醒後の義通は雪村を圧倒したらしい」

 

 全身ミンチになるまで叩き潰されていたとのこと。

 

 突然、執務室の扉が吹き飛んだ。

 現れたのは、巨大な足。

 

「道成!!」

 

 現れたのは、身長3mに届く偉丈夫。

 只でさえ濃かった顔の彫りが益々深くなり、探索者特有の威圧感が滲み出ている。

 そして、こめかみから生えている謎の角。

 

「……ただいま、父さん。てか、何それ」

 

 数カ月ぶりに見る父さんの目は……

 怒りに満ちていた。

 

「馬鹿野郎がっっ!!!」

 

 振るわれた拳に吹き飛ばされ、床を貫通。

 協会施設を斜め下にぶち破った俺の身体は、協会横の道路に着弾した。

 

「えぇ……」

 

 クレーターから起き上がりながら驚く。

 不意打ちだったとは言え、ちょっと痛い。

 

「強くないか?」

 

 明らかに1級覚醒者の強さじゃない。

 雪村をボコせたのも納得の強さだ。

 

「覚醒までの期間と覚醒時の実力って関係あるのかな?」

 

 横から襲ってくる拳を受け止めて考える。

 続けざまに繰り出される脚がこちらの頭部を捉えるが、俺は微動だにしない。

 

「……お前、強くねえか?」

「いや、父さんも大概だよ」

 

 そう言って立ちっぱなしの父さんに前蹴り。

 吹き飛んだ父さんが協会施設に突っ込んだ。

 

「……あ」

 

 ――――――――

 

「と言う訳で、あなた達には弁償費用を支払っていただきます」

 

 執務室で正座をする俺と父さんを見下ろすのは、例の秘書官。

 因みに支部長は一階受付までの直通通路が出来たと喜んでいた。

 

「「すみませんでした」」

「言っておきますが、人的被害が出なかった事は奇跡ですからね」

 

 反論のしようもない。

 

「……それから、あなた達はちゃんと話し合いなさい。拳以外で」

 

 ……反論しようもないのだ。 

 

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