未覚醒者は『強化再生』で成り上がる   作:傷付 津々木

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第8話

「あり得ない」

 

 観測室に居る影崎が言った。

 影崎がそう言うのも無理はない、あの秤に乗っている幻石はバベル30層守護者のもの。

 

 地上に現存する全てのものの中で最も幻素量の多い物質の筈だった。

 それを、一個人が更新した訳だが。

 

 柴崎徹は思った。

 たった今、日本に超核兵器級の探索者が生まれたのだと。

 一度核の炎で襲われた日本に、それを超越し得る存在が生まれた事は僥倖と言えた。

 そして同時に、戦慄を覚えた。

 

 ――彼にはまだ、成長の余地がある。

 

 ――――――――

 

 どうやら、俺は推定世界最強らしい。

 たった一度迷宮を吸収しただけの俺がこんなに評価されるのは正直腑に落ちない。

 

 ……一つ仮説はある。

 俺の体質とヴェイドの肉が合わさって普通の探索者が吸収不可能な量の幻素を一度に吸収した、という仮説だ。

 

 迷宮を完全攻略した探索者は所有するのがセオリーだ。

 それは吸収を選んだ際に覚醒してしまった場合に、覚醒に必要な幻素以外が消失するからだ。

 それよりも、一定量の幻素を確実に入手し続けられる所有の方が長期的には効率が良いのだ。

 

 しかし、俺は違う。

 一度に大量の幻素を受け止められるだけの「肉」体があり、再生と強化に特化した体質もあった。

 本来迷宮の吸収で得られる全ての幻素を過不足なく吸収出来た訳だ。

 それにしても、異常だと思うが。

 

 俺の幻素蓄積量は、推定120万Lilらしい。

 聞き慣れない単位だが、一覧表を見てなんとなく理解できた。

 

 1級覚醒者: 10Lil〜

 2級探索者: 100Lil〜

 3級探索者: 1000Lil〜

 4級探索者: 10000LIl〜

 5級探索者: 100000Lil〜

 

 最上位探索者は5級の中でも特に上澄み、6度以上の覚醒を経験した者がほとんどらしい。

 5度目以降の覚醒は既に幻素濃度が100%に達している場合が殆どなので、幻素蓄積量が伸び悩む。

 なので、如何に最上位の探索者と言えども幻素蓄積量が30万を超えることはなかったようだ。

 

 これは驚かれる訳だ。

 クアトロスコアじゃ済まないから。

 

 因みに父さんは20000Lilだった。

 濃度こそ4級に及ばないものの、体格がデカ過ぎて蓄積量も相応に多いらしい。

 

 さて、どうしたものか。

 

 ――――――――

 

 俺の実力は秘匿する事になった。

 対外的には、10分の1の12万Lilという計測結果が発表されるらしい。

 

 覚醒を一度経験しただけの探索者としては前代未聞も良いところなので、これでも充分な待遇を受けられるだろうからと会長に説得された。

 特別扱いに憧れはないから都合のいいようにしてくれとだけ伝えておいたら地に頭を付けんばかりに礼を言われた。

 

 それから、海外からのスカウトや暗殺、誘拐が試みられる可能性があるとのこと。

 どんな条件が提示されても、日本政府はそれ以上の条件を約束するし、家族には高位探索者の護衛をつけると政府の高官らしき人間が言ってくれた。

 

 家族の安全は確かに懸念すべきなので、自分でも対応を考えよう。

 ある程度当たりはつけているが。

 

 次に、会長からの個人的なお願いも受けた。

 若き天才(他称)に、新米探索者である孫娘の指導を引き受けて欲しいとのこと。

 正直探索者としての経験はかなり浅いので断ろうとしたが、実戦形式で構わないと言って土下座されたので気まずくて引き受けた。

 

 どうも5級以上の上位探索者たちは、人格的に破綻した人間が多く孫娘の指導を頼めるような人間は居ないようだった。

 俺も大概破綻してる気がするけどな。

 

 以上の経緯で、会長宅にお邪魔している。

 豪華絢爛な客室で香り高い茶を飲んでいると、勢いよく扉が開かれた。

 

「あんた……いや、勘違いかしら?」

「いいや、俺もお前には見覚えがあるよ」

 

 数カ月前とは言え、遥か昔に思える。

 講習でイチ抜けして、探索者を初めて数週間で覚醒し、カフェで再会した俺を鼻で笑ったあの少女だ。

 どうも俺にあまり面影がないので半信半疑だったようだ。

 

「……何食ったらそうなるのよ」

「幻石」

 

 つまらない冗談でも聞いたような表情だ。

 嘘はついてないんだけどな。

 地上に帰還してから知ったが、幻石は覚醒の有無を問わず食べたら全身から血を流して爆散する劇毒だったらしい。

 ……うん、生きててよかった。

 

 と言うか、覚醒して間もないのによく実力差に気づいたな。

 もしかして、もう二次覚醒を終えていたりするのだろうか。

 

「それで、あなたが私の講師?」

「そうだ」

 

 そう言うと、鼻で笑う少女。

 まあ、俺も変だと思うよ。

 

「まず、名前と現状を教えてくれ」

「柴崎薫、一昨日二次覚醒を迎えて現在は2級迷宮を攻略中。ソロで中層までは進めたものの、上層の怪物に敵わなくて進めてない」

 

 少なからず悔しそうな様子で答えた。

 初めから見栄をはらずに答えてくれてありがたい。

 

「薫と呼んでも?」

「お好きに」

 

 ちょっと詳しく見てみるか。

 

「ヒッ」

 

 ……ああ、いきなり目ん玉変形したら怖いよな。

 まあ長い付き合いになるだろうし、そのうち慣れるだろ。

 

「俺の発言した固有能力だ、度々人外染みた変形をするから慣れろ」

「……はい」

 

 母さんの体組織(髪の毛)を拝借して、瞳の模倣を可能にしていたのが功を奏した。

 なんとなくの幻素濃度と蓄積量が分かる。

 

「35%、200Lilちょいってとこか」

 

 2級の平均くらいの数値だ。

 何かしらの能力が覚醒していたり、魔術を習得していれば平均以上の実力を発揮できるだろう。

 

「概ねその通りですが、どうやってそれを」

 

 察しが悪いな。

 説明が面倒なので無視だ。

 指導という本筋に関係ないからな。

 

「能力と、魔術はどうだ」

「……能力は、おそらく直接見た方が理解が早いかと」

「分かった。訓練室の類あるか?ある程度戦闘しても問題ないような場所だ」

「ついてきて下さい」

 

 そう言うので随分と大きな屋敷の中をついて回る。

 庭の納屋にある地下への階段を降りると、そこには50m四方の大きさで頑丈そうな金属製の板が一面に取り付けられた部屋があった。

 

 壁を軽く叩いてみると、大きく凹んだ。

 

「これ、大丈夫か?」

「……あなたが規格外なだけです。3級相当の探索者が本気で戦闘しても耐えられるように作られている筈です」

 

 3級判定の父さんでも一発で崩落させられるぞ。

 実力は4級相当らしいから当然かもだが。

 

「ならまあいいか。よし、やるぞ」

「なにを……!?」

 

 俺の腕から肉が分離して、ゴブリンが現れる。

 前衛の盾と剣を持った三匹と、後衛の弓と短剣を持った三匹の計6匹だ。

 

 分離時に設定した能力と、預けた幻素量に応じた実力を持つ肉人形だ。

 見た目と性能は怪物と遜色ないので訓練にはもってこいだ。

 

「ベーシックなゴブリン6体だ。連携してくるから注意な」

「……明らかにゴブリンを逸脱した威圧感を感じますし、ゴブリンはそんな組織だった動きをしない筈ですが」

 

 さっきから薫、お前間が多くないか?

 ……加減ミスったかな、母さんと父さんの護衛に付けた奴に比べたら比較にならないほど弱くしたんだけど。

 感覚的にはゾウとミジンコくらい。

 

「ゴブリンなんて余裕だったろ、調整だ調整」

「疑わしい」

「うるせぇ、開始」

 

 敵を目の前にして禄に臨戦態勢も取ってない薫は、開始の合図である拍手を聞いて慌てて槍を構えた。

 しかしその頃には後衛ゴブリンの矢は放たれていた。

 槍で落とそうとするも、間に合わない。

 

「あっ……」

 

 肩に矢を受けるも、優秀な防具に弾かれた。

 衝撃で体勢を崩した薫に前衛ゴブたちの剣が襲いかかる。

 

「くそっ」

 

 ラングイッジ(言葉に注意)ですよ、お嬢様。

 薫の反撃の槍は盾に阻まれ、振るわれる剣が防具を切り裂いた。

 

 なんとか身体を反らして直撃を避けた薫。

 近接攻撃を喰らって防具は大きく損傷したが、気に掛ける余裕なんてゴブリンは与えない。

 

 距離をとって息を整えようとする薫を再度矢が襲う。

 舌打ちしながら槍で払い落とし、近づいてきていた前衛ゴブリンの一匹をついでに一突き。

 綺麗に首を貫いた槍を引き戻そうとするも、死に体のゴブリンが槍を掴んで離さない。

 

「はっ?」

 

 槍を持って唖然とする薫に2匹の前衛ゴブリンが襲いかかった。

 ……ここまでかな。

 

解放(リリース)

 

 前衛ゴブリンが吹き飛ぶ。

 舞い上がった粉塵から現れた疾風を纏った薫が、血に染まった槍で後衛ゴブリンの首を纏めてハネた。

 

「おおっ」

 

 なんかカッコいいので少しテンションが上がる俺。

 

 そんな俺を他所に残った前衛たちに突貫する薫。

 顔を見る限り、限界そうだな。

 

「はぁっはぁっ」

 

 案の定、残った2匹の前衛ゴブリンのうち片方を残して地面に倒れ込んだ。

 ゴブリンが首に向かって剣を振り下ろす。

 

 薫は死んだ。

 

 ――――――――

 

「ご説明頂けますかな」

 

 気絶している薫を抱えて地上に戻ると、使用人たちが大騒ぎ。

 騒ぎを聞きつけた徹会長が飛んできた。

 文字通り、空から飛んできて庭に着弾した。

 

 青筋を立てながらこちらを見る会長に俺は説明した。

 約束通り「実戦形式」で2人きり、みっちり教え込んだぞ、と。

 

 その後ノータイムで襲いかかってきた会長。

 凌ぎながら対応に悩んでいると目覚めた薫の弁明で俺は許された。

 

 どうも俺の言葉選びが悪かったらしい。

 思い返せば、着衣の乱れた女性を男が抱えた上での発言であるから、そう捉えられなくもない。

 にしてもちょっと、過保護すぎないか?

 

 ――――――――

 

 ハプニングはあったが、薫は引き続き俺の指導を希望しているらしい。

 指導とは名ばかりの只の戦闘訓練だが、本人が納得しているならいいか。

 

 協会に用意された自宅に帰宅する。

 広大な敷地が最新セキュリティで余す所なく警備されており、部屋も屋敷も大きい上に設備も充実している楽園だ。

 

 しかし、時々前の素朴な一軒家が懐かしくなる。

 やっぱり俺は贅沢が性に合わないな。

 堪能できるものは堪能するけども。

 

 玄関の扉を開ければ、俺の胸に飛び込んでくる影が一つ。

 腕に収まる程度の大きさの小鹿、ディーである。

 

「寂しかったか?」

「キューー」

 

 赤鼻を俺に押し付けてくるディー。

 検査結果を鑑みて俺を殺せる人類が存在しないことが分かったので、この間に俺の身体と分離したのだ。

 

 初めこそ肉による変幻自在の肉体に困惑していたが、今は小鹿の姿に落ち着いている。

 どうも前の姿では身体が大きすぎて甘えられなかったので、悔しかったらしい。

 今や我が家のアイドルだ。

 

「可愛いやつめ」

 

 母さんの瞳で計った感じ、これでも3級相当の実力はあるようなので自衛は出来る程度の力は持っている。

 それから、俺がディーから引き継いだ力は健在だ。

 

 どうも完全に俺の体質と融合してしまったらしく、ディーに返すことができなかった。

 ディーにとっては無限にお腹が減って際限なく身体を大きくする忌まわしき力だったようなので、寧ろ力が戻ってこないことを喜んでいた。

 

 そんなディーを抱えながら、俺は思った。

 そろそろ、約束を果たしに行くべきだろうか。

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