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窓の向こうに浮かんだ太陽が傾き始める直前、ウェイターが木製のトレーを私達が座っているテーブルに運んだ。
「お待たせしました。ミルフィーユです」
それに乗せられたスイーツが4つ、眼前に並べられる。何層にも積み上げられたパイ生地はその余りの細やかさによって一種の一体化した構造を作り出しており、間に挟まったイチゴとホイップも相まってパウンドケーキのようにも見えた。
「わぁ〜、美味しそう!」
真っ先に嬉しそうな声を上げたのはアイリだ。彼女は両手の腹を合わせ、宝石のようなキラキラとした眼でミルフィーユを見つめている。嫌味っぽく聞こえるかもしれないが、私はアイリのこういう能天気さが大好きだ。……特に今みたいな状況では。
「で、どうしたの?話したいことがあるからここに呼んだんでしょ?」
ヨシミが配膳されたフォークでアイリを指しながら疑問を投げかける。するとアイリは、
「あ、うん!そうなの!」
と再び調子の良い声で返し、スカートのポケットからスマホを取り出した。
「これ、何か分かる?」
彼女は私達にスマホの画面を見せる。そこに映っていたのは、犬とそれを追いかける奇妙な存在だった。
「……いや、分かんないけど」
特に嘘を吐く理由もないから、私は正直に答えて他の面々を一瞥する。
「あんた達は分かる?」
「私は知らないわよ?そんな意味分かんないヤツ。」
「ナツは?」
単純に聞いていない可能性を考慮し、再び丁寧に質問をする。ナツは私の言葉に深々と頷き、ゆっくりと述べた。
「『仮面ライダー』……だね?」
「何それ?」
「闇に潜み、人知れず巨悪を狩る──物言わぬロマン。ついに私達はその足跡を見つけ出し、私達もまた見果てぬ旅に出るんだね」
「いや、だから何それ?」
ヨシミが呆れた顔でナツを見る。しかし、いつもはあるはずのアイリからのフォローが来ることはなかった。
「つい昨日、この『仮面ライダー』に関する情報が突然上がったの。あんまり詳しいことは分かってないんだけど……行方不明事件に大きな関係があるかも、って」
それを聞いた瞬間、頭が理解するよりも先に身体が動き出した。つまり、気付けば私は机に大きく身を乗り出していた。
「それ、ホント?」
「ホントっていうか……この人がどんな人なのかは分からないけど、調べてみる価値はあると思う」
アイリが私の目を真っ直ぐに見据える。目は口ほどに物を言う、とは正にこのことだろう。
「……ありがとう」
私は座り直し、コップの水を一口飲む。それは私の頭を冷やし、多少は元の調子に戻してくれた。
「これでやっと、掴めるかもしれないんだね──宇沢の行方が」
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「……おい!」
激しく肩を揺さぶられ、私は目を覚ました。いや、無理やり覚まされたと言うべきか。とにかく、眼前に広がる光景の全てが私にとっては予想外だった。
「大丈夫か?うなされてたけどよ」
私を起こした張本人が心配そうに声をかける。黒いマスクに灰色の制服、左肩に付いた夜露死苦の4文字。本来ならば天地がひっくり返っても手を取り合わない、そんな相手。
「……スケバン?」
私が呟くと、彼女はそれが来ると分かっていたかように深く頷いた。
「一応先に言っとくが……別にあんたに危害を加えるつもりはないぞ、宇沢レイサ。」
「私の名前を!?」
「当たり前だ!ここいらで長くやってりゃ嫌でも知るわ!」
彼女は私の驚きに対してそれ以上の熱量で捲し立てる。有名になるレベルのすごいことは何もしていないはずなのだが……長い人生、不思議なこともあるものだ。まだ15歳だが。
「あたしはヤヒコ。筋元ヤヒコだ」
「ヤヒコさんですね、よろしくお願いします!……ところで、どうして私はこんな所にいるんですか?」
言いながら辺りを見回す。どうやらここは建物に挟まれている薄暗い空き地のようで、至る所に存在するスプレーでの落書きから治安の悪さをひしひしと感じられた。
「近くであんたが倒れてたんだよ。まだ死んでなかったから、とりあえず連れてきたって訳」
「ということは、助けていただいたってことですか!?」
「んな驚くことじゃねーだろ……いつもとは違う状況なんだ。困った時はお互い様だよ」
ヤヒコさんは側に置いていたカバンを漁りながら「今からやるってんなら容赦しねーけどな」と付け加えた。
「ほら、食えよ」
こちらを見ずに袋が放り投げられる。慌てて掴んで確認すると、それはマシュマロが入った菓子袋だった。
「これは……?」
「この前やった集会の残りだ。要するに残飯」
言われてからもっと顔に近づけて見てみると、確かに少し開けられているし、内容量が減っている。具体的には残り3割と言ったところだが、元々の袋がそこそこ大きいために私1人なら十分な量だ。
「ありがとうございます!ちょうどお腹が空いてまして……では、いただきます!!」
空いている部分に指を入れ、中にあるマシュマロを1個取り出す。強い弾力を持ったそれに少しざらざらとした肌触りと妙な温かみを感じ、頭の中が早く食べたいという衝動でいっぱいになった。
口を開け、マシュマロを放り込む。それが湿った舌に触れると、先程までの凹凸をなくしてグミのようにつるつると滑り始めた。少しずつ表面が溶けるにつれ、じんわりと甘味が伝わる。
「ん……!」
舌が、お腹が、心が満たされていく。頭脳労働は糖分の補給が大事だと知ってはいるが、それでもこうやって身体に取り入れる度にこれほどの効果があるのかとびっくりしてしまう。糖分によって活性化された感覚神経が更にそれを強く認識させるから時間が経つほど甘くなるというのも、不思議な感覚で面白い。
舐め始めてからそこそこの時が流れた。もうそろそろいいだろうとマシュマロに歯を挿してみると、想像以上に柔らかくて簡単に2つに分かれる。その断面からも肉汁のように込められていた甘味が放出され、私の舌に追い打ちをかけた。
「ふわふわで甘くて……美味しー!!」
「そりゃ良かった。助かるんだわ……甘いもんは沢山食えなくてな」
ヤヒコさんが髪をくしゃくしゃと乱しながら目を逸らした。その時、私のガヴに電流のような感覚が走る。タイミングが良いなと思いながら、私はそこを押さえた。
「そうだったんですね。だったら、残りも全てもらえたり……?」
「もちろんだ。食いたいヤツに食われる方が、食べ物も嬉しいだろ」
「ありがとうございます!!」
私は彼女に背を向け、菓子袋を結ぶフリをしながらその中に生まれた眷属を入れていく。窮屈で悪いけど、少し我慢してもらおう。
「お前、今まで何してたんだ?」
「えっ!?えーっと……言えない、です」
「言えないって、お前……まさか」
眷属を入れ終わった直後、ヤヒコさんに肩を掴まれ無理やり正面に引き寄せられた。
「うわぁ!?」
「矯正局に行ったのか?だったら、栗浜アケミって名前に聞き覚えはねぇか!?」
その顔は今まで見せられたことのない鬼気迫る表情だった。荒い発声だし、力任せに掴まれている。私は真剣な質問なのだと直感した。
「いや、矯正局に入っていた訳ではないですよ!その名前はどこかで聞いたような気もしますが……」
「……そうか。姉御の話が聞けると思ったんだが」
私の答えを聞くと、彼女は肩から両手を離した。少し前までのヤヒコさんと同じような優しさを孕んだ雰囲気に戻っている。
「ごめん。乱暴だったな」
「いえ、全然大丈夫です!!……その、姉御っていうのは?」
「ああ、まずはその話からしなきゃだな」
彼女は再び私から視線を外し、今度は上を向いた。私も真似て空を見上げると、細長い雲が洗濯板のようにびっしり並んでいる。
「栗浜アケミはあたしの姉御……つまり、あたしが所属してる不良グループのリーダーだ。すごい人でさ、警備車両でも戦車でもたった1人で簡単に潰しちまう人なんだよ」
「それは……規格外ですね」
「それでいて仁義もある。あたしの尊敬する人なんだ」
「でも、そんなにすごかったらヴァルキューレが捕まえられないはずですが……」
「そうだ」
ヤヒコさんが腕を後ろに組み、地面を背にして寝転がる。それはリラックス出来る体勢のはずなのに、彼女の瞳が一層濁っていた。
「姉御は、あたし達のせいで捕まったんだ」
「……それは」
「ヘルメット団の企みを止められなかった。あいつらはうちの下っ端を唆し、それで姉御がケジメをつけなきゃいけなくなったんだよ」
彼女の語気が強くなっていた。それがヘルメット団への怒りなのか、自分への怒りなのかは分からないが。
「だから、あたし達は姉御が帰ってくるまでこの場所を守らなきゃなんねぇ。ひねくれ者なりに夢を追える場所を。居場所を失ったヤツらの居場所を。それを出来る力があるなら──その全てを賭けて果たすんだ」
その言葉を、意思を、青い願いを、私はとても他人事には思えなかった。だからこそこうやって真っ直ぐに突き進む彼女の姿が眩しくて……少し羨ましいと思ってしまった。
「……カッコいいですね、ヤヒコさんは」
「カッコいいっつーか……やりたいことやってるだけだよ」
そう言うと彼女は立ち上がり、荷物が入ったカバンを片手で持って背負った。
「捕まってた訳じゃねぇってことは、お前も自分の意思で何かしてたんじゃねーのか?それを全力でやってりゃ、そのカッコいいになれんだろ」
「そう、なんでしょうか……」
「そうだ」
俯く私の肩にヤヒコさんが手を置く。優しくて温かい手だった。
「小難しいことを最優先で考える必要はねぇ。自分の心に嘘を吐かない、それだけ忘れんなよ」
「……はい!」
「よし。じゃ、あたしはヘルメット団のパトロールに行くから。またな!!」
「また会いましょう!!!」
彼女は大きく手を振り、路地の向こうに消えていった。風のような人、というか……なんだか不思議な体験だった。
「……私も、パトロールに行きましょうか」
菓子袋を持って立ち上がり、彼女とは違う方向に歩き出す。その足取りは、昨日よりも少し軽かった。
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「すみません。筋元ヤヒコさんですか?」
「……あ?」
不気味な声を突然聞いて振り返ると、そこには1人の高校生がいた。防弾チョッキを着ており、白いシャツに青いスカートと帽子、胸にK.S.P.Dの4文字。誰がどう見ても彼女は警察──ヴァルキューレ警察学校の生徒だった。
あたしは彼女を睨み、腰を落として構える。
「何だ?お得意の得点稼ぎか?」
「いえ、そういうことではなく……」
しかし、彼女はヴァルキューレ特有の高圧的な態度を取ることもなく、ポケットから1通の封筒を取り出した。
「連邦矯正局で収監中の栗浜アケミが貴方に宛てた手紙です。」
「……は?」
その言葉を聞いた瞬間、あたしはヴァルキューレ生に近づいて封筒をふんだくった。
「待て待て待て待て……!!そんなことがあって良いのかよ!!!」
封を開け、中に入れられていた紙を取り出す。それには鉛筆で気品のある文が書かれており、筆跡からして間違いなく姉御だった。
「……姉御……!!!」
ヴァルキューレ生の前だというのに、私は感情の爆発を抑えられなかった。顔を歪ませ、目を力任せに瞑り、それでも止まらない涙が目尻から流れ落ちた。
「こんな、こんな幸せなことが──」
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眷属に伝えられた場所に到着すると、そこには情報通りの容姿をした人がいた。手にはヒトプレスを握っており、見てくれだけでは隠しきれない邪悪な気を放っている。
「貴方ですね、人を攫ったグラニュートは!」
「……あ?なんだお前は、俺を知っているのか。知られちゃあ、生かしておけないなあ?」
その子が服をたくし上げ、人形を外して正体を現す。紺と黒が混ざったような色で、肥大化した頭部と両腕はモーニングスターのような棘付きの球体になっていた。暴虐に手足が付いた、と表現するのが適切だろうか。
「全ては闇菓子のためだ。俺の辞書に容赦なんて文字はない!!」
「私だって、絶対に負けません!!」
私はパーカーに付いたジッパーを開いて、ガヴに眷属をセットした。
《Gummy!》
《Eat gummy! Eat gummy! Eat gummy!》
ガヴの上顎を閉じ、レバーを回す。回す度にグミ型のエネルギーが生まれ、周囲を浮遊した。
「──変身ッ!!!」
左手でボタンを押し込み、エネルギーを一気に取り込む。身体の構造が根本から組み替えられていると直感する程に激しい衝撃を受け止めて、そうして私は生まれ変わった。
《Poppin’gummy! Juicy!》
「はぁぁああ!!!」
変身した直後に地を蹴り、グラニュートへ向かって走り出す。効果的な飛び道具を持っていない今の状況では、どんな攻撃をするにしてもまず距離を縮めなければいけない。
「近接攻撃か。ならば、この腕で全て叩き潰してやろう!!」
グラニュートはそう言うと、近づいた私に向かって刺々しい右腕を勢いよく振り下ろした。
私は左腕の装甲を突き出すことでそれを受け止め、力強く地面を踏む。
「──貫け!!!」
その瞬間、ガヴから剣が射出された。グラニュートは突然の奇襲に対応できず、守られていなかった腹部に重い一撃が入る。
「なッ……なんだと!?」
私は直撃した剣を右手で握り、左から右へと素早く振った。しかし、その攻撃は振り抜く直前で左腕に阻止される。ガキンッ、と金属がぶつかる音が戦場に響いた。
「分かったぞ……お前は懐に入れちゃあマズいヤツだな!?」
その言葉と同時に、彼は私の胴体に強く蹴りを入れた。体勢を崩され、追撃を入れるのがほぼ不可能となる。
「ぐッ……」
このまま劣勢になって致命傷を喰らうことを警戒し、私は後ろに跳んで彼と距離を取った。この判断は間違っていないだろうが……正直、今のチャンスを逃したのはそれでも痛い。
「畳み掛けられるヤツってのは怖えよなぁ、頭の使い方を分かってやがる。」
「ありがとうございます!!」
「だが……手札で勝てなきゃあ意味ねぇよな?」
瞬間、グラニュートの頭部から生えている無数の棘が射出された。それらはかなりの速度を保ちながら、一斉に私を狙って飛び込んで来る。
「なっ──ああッ!!」
着弾、爆発、着弾、爆発……剣1本では捌ききれず、私は棘ミサイルをモロに喰らった。装甲があっという間に弾け飛び、爆風で転がされることで更に距離が離される。
「……そんな攻撃を隠してたんですか……!!」
「どうした?まさか、これだけで近づけないのか?だったらよぉ、同じ攻撃をするよなぁ!!」
グラニュートは叫び、再び生えた棘を射出した。
私は被弾に間に合うよう、急いで眷属をセットしてボタンを押す。
《Poppin’gummy!》
グミの装甲がギリギリで復活し、ミサイル群の攻撃を受け止めた。しかし、やはり耐えきれずに弾け飛んでいく。
「うぐッ……このままじゃ」
グミの装甲があればダメージを防ぐことは出来るが、すぐに弾け跳ぶために眷属の消費が激しいのだ。このままでは、いつ供給が途切れて負けてもおかしくない。
「何か……他の手段は……!!」
「お前、さっき負けないとか言ってたよなぁ……え?口程にもねぇヤツだなぁおい」
彼は私を挑発し、しかし決して近づかない。本気なのだ。願いを叶えるために、彼は戦いにおいて決して手を抜かない。でも……それは、私だって同じだ。
「……まだ、負けてませんから……」
「あぁ?」
「私は……皆さんの平穏な生活を守るんです!!」
私はふらつきながらも立ち上がり、グラニュートを視界の中心に据える。
「それを出来る力があるから──その全てを賭けて果たすんです!!!」
その時、視界の端に1体の眷属が現れた。青い身体に白い顔……マシュマロの眷属だ。
私はそれを手に取り、ガヴにセットしてレバーを回した。
《Eat marshmallow! Eat marshmallow!》
私の身体から、グミの時とはまた違う、白いエネルギーの粒が放出されていく。ボタンを押してそれらのエネルギーをガヴから取り込むと、たちまち身体が白に包まれ、それはやがて身体の至る所で大きな塊を形作った。その姿はまるで、隆々とした大きな筋肉のようだ。
《Fuwamallow! Fuwafuwa〜》
「すごい……力が沸いてきます!!」
先程まで感じていた身体の重さがすっかりなくなり、内側で押さえつけられていたエネルギーがぐんぐんと膨張する。試しに軽く跳んでみると、いとも容易く宙返りが出来た。
「身体が軽い……!」
「作戦を変えたか。だがな、姿が変わろうがやることは同じだぁ!!」
グラニュートによって3度目の一斉発射が行われる。これまでの結果を考えると防御が最も安定した選択肢だが、それでは優勢な立場に立てないだろう。賭けに出るのは今しかない。
私はグラニュートに向かって走り出し、棘ミサイルが地面に着弾する瞬間に跳び上がった。
「軽いのなら……このままぶっ飛んで、貴方に近づきます!!」
直後、背後から凄まじい爆風が私を殴りつけた。私の身体はその風に乗り、放物線を描いて彼に飛び掛かる。
「とりゃあああ!!」
「な、なんだとぉ!?」
私は彼の大きな頭に飛び付き、更にもう1体の眷属をガヴにセットした。
《Marumallow!》
ボタンを押し込むと、私の身体により一層大きな塊が装着される。質量が大きく増し、今の私は言わば白い巨人だ。
「と、突然重っ──ぐはッ!!」
私はグラニュートの頭を拳で何度も何度も殴る。その度にズンと重い衝撃が走り、戦況に対して確かな手応えを感じた。
5発ほど殴った所で、彼を掴んでそばに放り投げる。
「がッ!?ぐっ、ぐぅぅう……くそぉ……!!」
《Charge me!Charge me!Charge me!》
「どうしますか?二度と闇菓子に関わらないか……この場で私に倒されるか!」
「俺の辞書に諦めの2文字はない……あるのは闇菓子の3文字だけだぁ!!!」
「──分かりました」
私はガヴのボタンを押し、両腕を大きく横に広げた。直後、さっきも体積が大幅に増えたというのに、それとは比べ物にならない程の装甲が形成される。数秒を経て、巨大なローラーとなった。
全身全霊を賭けて、グラニュートへ転がり出す!
《Marumallow Rolling!》
「たぁぁぁあああ!!!」
彼はここで終わるまいと、必死に棘ミサイルを射出する。しかし、
「ぐぎャッ──!?」
そのどれもが私の身体に傷1つすら付けられず、抵抗虚しく下敷きとなった。グラニュートはぐるぐると転がり、撹拌されている感覚を凄まじい速度で味わわされる。
「ぐッ、あああああ!!!」
私は巨大ローラーから抜け出し、彼から離れる。その直後、激しい轟音と共にこの戦いが幕を下ろした。
『シアワセー!』
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グラニュートから取り戻したヒトプレスを左手で持ち、右手で握った剣で赤い帯を慎重に断つ。すると、眩い光を放ったそれは人間へと戻った。
「──あっていいのかよ!!!……あ?」
彼女は──ヤヒコさんは、いきなり変化した状況に困惑した後、私をじっくりと見た。
「お前……化け物か!?最近聞いてんだ、やべぇヤツが誘拐してるかもってよ!!」
彼女は腰を落とし、臨戦態勢を取る。
「相手がなんだろうが、あたしは容赦しねーぞ。ここを守るって約束してんだからな!!」
「……願い、叶うといいですね」
「は、はぁ?お前、今なんて──」
これ以上この場にいれば、ヤヒコさんの迷惑になるだろう。私は彼女に背を向け、バギーに乗って走り出した。
「おい、待てよ!!!」
彼女が呼ぶ声がする。だが私は振り返らない。振り返ってはいけない。今の私は、恐怖を生む姿なのだから。辛くない訳ではないが……それでも、彼女も戦っているんだと思えば不思議と気持ちが軽い。
全てが終わって自警団としてのパトロールを再び始めた時、きっと戦うこともあるだろう。だが、真っ直ぐに進む貴方の姿は、私にとっては間違いなくヒーローだった。
「……ありがとうございます、ヤヒコさん」
日はすっかり暮れていて、街は静謐に眠っている。雲ひとつない、突き抜けた夜空だった。