◇
「……では、特に襲われたりはしなかったと?」
手帳の上でサラサラと動かすシャーペンを止め、彼女に──聞き込みの相手であるヤヒコさんの顔に視線を向ける。
「そうだな。……むしろ、アイツは変なこと言ってやがった」
ヤヒコさんが腕を組み、その瞬間を辿るように目を伏せた。その姿の毅然さと言ったら、ここを守る門番だと名乗られればそうかそうかと信じてしまうくらいなもので、だからこそこれから知る情報の確実性に期待が持てる。
「変なこと……というのは」
私の急かすような問いに対し、彼女はゆっくりと目を開いた。
「『夢が叶うといいですね』つったんだ。会ったことなんてある訳ねぇのに、あたしが夢を追ってるって知ってたんだよ」
「……確かに。それは変ですね」
「だろ?」
彼女は左手を軽く前に出して同意を示した後、頭の後ろで腕を組む。
「ま、アイツについて知ってるのはそんくらいだ。これ以上は他んヤツに聞いてくれ」
「分かりました。ありがとうございます」
私が頭を下げると、ヤヒコさんはひらひらと腕を振りながらこの場を離れていった。
「……夢、ね」
気の赴くままに、整理途中の思考を口に出す。
宇沢が突然いなくなった原因である可能性が高い連続行方不明事件。その重要な手がかりとなりうる『仮面ライダー』についての聞き込みを始めてから数週間が経ち、ある程度の目撃情報が私の元へ集まってきていた。
内容はどれも似たようなもので、突然カラフルな化け物が現れてはすぐにその場を去るという話。どうしてそんな行動を取るのか、その詳しい動機を知ることは出来ていないが……しかし、どう考えてもこれらの話の裏には何かが隠れている。その裏こそが、恐らくは別の化け物だ。
「今までの話から推測するなら……化け物を狩る化け物、ってところかな」
状況から判断すればそれ以外の結論はない。私達を守っている可能性が高いのだ──にわかには信じがたいが。
「でも、もうそれに賭けるしかないし」
スイーツ部の面々には会う度に無理をするなと口酸っぱく言われるが、今こそが無理のしどきに決まっている。
「仮面ライダーを探そう。会って、何が起きているのかを聞こう」
トリニティ自治区で何が起きているのか。誰が、いつから、なぜ住民を攫っているのか。謎ばかりなら自らの手で明かすしかない。
希望を抱いて……立ち向かうしかない。
「……今、あいつは何してんのかな」
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◆
仮面があって良かったと思う。
変身している間、私は紛れもなく化け物だ。グラニュートから皆を守るために戦っているが、その手段として用いる力は軒並み恐ろしいものだから。そんな化け物が近くにいれば、皆が恐怖を抱くのは当然のこと。
分からない。それは根源的な恐怖だ。対処法を知らなければ逃げることしか出来ないし、逃げ方についても常に不安が付き纏う。つまり──変身している私は人を幸せにしないのだ。命を救うだけで、心に立ち込める霧を払うことはできないのだ。
それは大きなアドバンテージとなる。不用意に幸せを振り撒かないのだから、それどころか不安を煽るのだから、闇菓子にされる人数は確実に減っていく。そのまま行けば──最も効率的に皆を守れる。
『アッチ、ヒトリ!』
「……ありがとうございます」
私は耳をそば立てないようになった。困っている人の声を聞きたくないから。
報告に上がった1人を避けるように踵を返し、よたよたと歩く。最近は食欲が湧かないからご飯もろくに食べていない。
「……ぅあっ」
爪先が段差に引っ掛かり、思わず地面に両手をついた。情けない。こんな体たらくでは──命すら拾えない。
「……間違ってない、間違ってない、間違ってない」
物分かりの悪い自分に言い聞かせる。これは決して嘘を付いている訳ではないのだ。皆を守ることが願いなのだから、それを叶える正しい道に慣れようとしているだけだ。
「皆さんは皆さんで幸せを掴めるんです。私がそこに無駄な介入をする必要はないんです……っ」
両腕に力を入れて立ち上がる。顔を上げると、眷属がビニール袋を掲げて立っていた。
『イート!イート!』
「……わかりました」
いくら食欲がないと言っても、眷属の好意を無下にしたりはしない。私は袋からポテトチップスを取り出し、封を開けて1枚口に入れた。
パリパリと噛む。味はしない、というより分からない。ガラス片を食べているようだった。
「ありがとうございます」
精一杯の笑顔を作り、元の袋に残りを戻す。パトロールに戻るために眷属から視界を外すと、
『キテ!キテ!』
とまた別の眷属が私の右肩に跳び乗ってきた。水色の顔──ソーダグミの眷属だ。
「案内を……」
私の言葉を聞き、その子が前方へぴょこぴょこと跳ねる。今度は転ばないよう、私は壁に手をついて慎重に歩き出した。
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眷属の背を追って辿り着いたのは、トリニティ総合学園から少し離れた所に位置する教会だった。いくら周囲に石造りの建物が立ち並ぶこの自治区と言っても、大きく飾られたステンドグラスはやはり存在感が強いものだなあと思う。
玄関扉に付いた窓から中を覗くと、ずらりと並べられたチャーチチェア、その奥に荘厳な祭壇が見えた。左右の窓から差し込む明かりが部屋を十分に照らしているが、特に人影は確認できない。
「……失礼しまーす」
扉に体重をかけてゆっくりと開きながら、静寂を破らない程の小さな声で最低限の礼儀を示す。こういった空気は嫌いではないのだが……どうにも落ち着かないものだ。
私は足元を確かめるようにそっと内側に踏み入り、それから周囲をぐるりと見回した。先程死角になっていた入口の横にも人はおらず、その事実が空間の神秘性をより一層強くさせる。
やはりこの教会には誰もいない──そう考えながら奥に少し歩いていると、入って右手の窪んだスペースに電話ボックスのような部屋が見えた。そこには2つ扉があり、『在室』と書かれた木の板が提げられている。
「……告解室ですか」
どうやらこの教会に誰もいないというのは単なる勘違いだったようだ。耳を澄ませば、壁1枚を隔てた向こうから話し声が少し漏れるのを聞き取れる。
「利用者がグラニュート……というのは、考えづらいですね」
告解室の中では、罪または悩みの告白をする者と聞く者が1人ずつ存在する。いわばお悩み相談室のようなものだ──本来はそういった使い方ではなかったはずだが。
いずれにしても、利用者は入れ替え形式のために人間を攫いづらい。逆に言うと、告白を聞く側、つまりシスターフッドが入る部屋なら一定の成果が見込めるかもしれない。利用者の告白を赦し、幸せにしてから捕まえるという手口は実に理にかなっている。今相談をしている利用者が部屋から出てこなければ、その可能性が高まるだろう。
中にいるのはシスターか、それともグラニュートか。出来れば分かりやすい行動をしてくれると助かるのだが──
「ありがとうございました!」
「ひっ!?」
その瞬間、あまりの驚きに全身が激しく脈打った。弾かれるように動いた私の背中はチャーチチェアを盛大に軋ませる。
元気な声を上げながら利用者が扉を開けたのだ。視線を告解室へ戻すと、ティーパーティー所属と思われる生徒が中から現れていた。
「大丈夫ですか!?」
その子は驚いた様子で私に駆け寄って来る。しかし私は思わず右腕を突き出した。
「い、いえ!大丈夫です!大丈夫ですから!」
彼女が私にこれ以上近づかないよう、腕をふりながら体勢を立て直す。
私は変身をしていない。話を聞く分には最適な姿だが、同時に心の距離が縮まる姿でもある。今はそれが、それこそが凄まじく恐ろしい。もしまたあんなことが起こったら。私のせいで、この人が危険な目にあったりでもしたら──私はもう耐えられない。
「安心してください!見ての通り、私は元気ピンピンです!」
笑顔を作る唇がわずかに震えているのを感じながら、それでも私は胸を張った。何かを誤魔化すように、何かを吹き飛ばすように、わざとらしいほど明るい声色を保つ。
「そう……なんですね?」
彼女はちらりと周囲を見回してから、私の言葉に対して分かりやすく気遣った相槌を打った。そうして数秒の間を置き、そっと一歩後ろへ下がる。
「すみません、待ってもらって。次どうぞ!」
それからそう言って、私が先程入ってきた扉から外へと向かった。
私は息を吐き、扉が開かれた告解室を見る。
シスターは間違いなく利用者を幸せにしているが、人間を捕まえることをしなかった。つまり、シスターがグラニュートという線は考えなくてもいいはずだ。壁の向こうの彼女は、きっと人を幸せにすることに対し何の疑問も抱いていない。
「……いいなぁ」
再び静謐のベールに包まれた教会の中、私は彼女の無知を羨ましく思った。
信じられる観念があるというのは幸福だ。その観念が必ずひっくり返らないと妄信できれば尚の事。幸せになった人から運命を弄ばれる──そんな世の仕組みを知ってしまった私にはもう2度とは出来ない、無防備な所作だ。
彼女なら、暗い使命を抱えた私ですら幸せにしてくれるのだろうか。
私は扉が開かれた部屋に近づき、ゆっくりと視線を這わせていった。簡素な椅子と向かい合う机、格子で隔たれた小さな窓がある。どこにも不審な点はなく、告解室と呼ぶにふさわしい、整った清潔さだ。
内側に入って扉を閉じると、世界から切り離されたような密閉感が私を包む。私は息苦しさから逃げるように椅子に腰を下ろし、少し背を伸ばした。
明かりがないためにわずかではあるが、格子の隙間から修道服に身を包んだ人が見える。光を帯びたような銀色の髪がふわりと揺れていた。
私は声をかけることもなく、ただじっとその髪を見つめる。言葉にできない緊張が、何かを試されているかのような感覚が、じわりと胸の内に広がっていく。
すると、格子の向こうからくぐもった声が響いた。
「回心を呼びかけておられる神の声に、心を開いてください」
その声は驚くほど柔らかかった。
優しく、温かく、心にするりと入り込む。
「『もしもあなた方が人々の過ちを赦すならば、あなた方の天の父もあなた方を赦して下さるであろう。もしも人々を赦さないならば、あなた方の過ちを赦して下さらないであろう』。……神の慈しみに信頼して、貴方の罪を告白してください」
私は呼吸ひとつさえも慎重になりながら、どうすべきかを迷っていた。
この場で告解をせずに単刀直入に質問をぶつけるという手も、もちろん頭に浮かんでいる。私がここに来た目的は調査だ。グラニュートに関する情報を引き出す必要がある。ならば、最初から回りくどい形式など省いた方が早く核心に近づけるだろう。当たり前のことだ。
──でも。
「……1週間くらい前のことです」
どうか、この胸の苦しみを聞いてほしい。
「困っている方がいたんです。キーホルダーを失くしたっておっしゃっていまして……一緒に探して、見つけることができました。自分で言うのは良くないかもしれませんが、私はその方を幸せにしたんです。……でも」
あの日が、私の内側でずっと渦を巻いていた。
正しさが分からなくなって、何もかもが苦しくなって。その全てを、誰にも言えずに抱え込んで。
「私はそのせいで、彼女を危険に晒してしまいました」
もう限界だった。
「奪われるんです。皆さんが幸せになればなる程、取り返しがつかなくなるんです。そういう仕組みなんです。幸せにしたいとか幸せになりたいとか……そんなの、関係ないんです」
声が震えた。喉の奥が焼けるみたいに痛くて、息が続かなかった。
「だから、私、皆さんと話すのが怖くて。どうすべきなのか、分からなくなっちゃって……私、皆さんを守らなきゃいけないのに……あの方達にだって、怒りに任せて向き合っちゃいけないのに」
唇をぎゅっと噛みしめる。しかし、どんなに必死に抑えようとしても、その感情の奔流は止まることなく押し寄せた。
「守るために、諦めなきゃいけないのでしょうか?私が誰かを笑顔にするなんて……もう叶わないことなのでしょうか?」
涙が静かに頬を伝い、やがてぽとりと机に落ちる。その一滴は小さなものだったが、確かなシミとなって表面に浮かび上がった。
「貴方の苦しみは、とても深いものなのですね」
再び格子の向こうから温かな声が聞こえる。顔は見えないが、私の苦しみに寄り添う眼差しだ。
「幸せにしたい、守りたいという想いがあるからこそ、ここまで追い詰められてしまって……そのような窮地の中で、それでも逃げずに戦っている」
その時、木の床が軋む音がして、シスターが少し姿勢を変えたのが分かった。格子越しに彼女の髪が揺れる。
「皆様を守るために自分を諦めなければならない。そんなことは、決してありえません」
彼女の声は決して強くはなかった。しかし、私の心を寸分の狂いなく射止める揺るぎなさがあった。
「世の中には数え切れない程の『べき』がありますが、それは世界をより良くすると信じられているからです。少なくとも今回の場合においては、信じるに値しないものでしょう」
「……でも、私がそれを信じていなくたって、皆さんを更なる危険に巻き込むことは変わりません!私の心に嘘を吐かないだけじゃ──」
「なら、その危険から皆様を守ればよいのです」
その言葉には、あまりにも当然だと言うような、確信に満ちた強さが宿っていた。
耳を通して心へ届くよりも早く、何かに深く突き刺さる感触。彼女の声が、力が、否応なく世界の姿を変えてしまう。
「皆様を危険に晒す仕組みだと言うのなら、抜け出して丸ごと変えてしまいましょう。そのせいでまた皆様が危険に晒されるのなら──その度に抜け出し、より良い仕組みを探せばよいのです」
それは、迷路の壁を壊して進むような、文字通り型破りな発想だった。
「……仕組みを、抜け出す」
同じ言葉を続けて呟く。
気付かなかった。私はいつから、与えられた道を歩くしかないと割り切っていたのだろう。
「難しいことではあります。しかし、真剣に皆様のことを考えている貴方であれば、きっと叶えられると。私は信じております」
姿も見えない私に対する、真っ向からのエール。
皆に怖がられてばかりの私に伝えられた気がした。
「……ありがとうございます!!」
震える声が自分でも驚くほどに大きく響いた。どうしても言わずにはいられない、涙まじりの叫びだった。
「全能の神、憐れみ深い父は、罪の赦しのために聖霊を注がれました。神が教会の奉仕の務めを通して貴方に赦しと平和を与えてくださいますように。私は父と子と聖霊の御名によって、『あなたの罪をゆるします』……では、ご退室ください」
「はい!!」
私は勢い良く立ち上がり、ドアノブに手を掛けて回す。扉を開けた先は当然礼拝堂なのだが、入ってきた時とは別物のように感じられた。
高い天井から降り注ぐ光が、まるで祝福のように床へと伸びている。色とりどりのステンドグラスが、祭壇やチャーチチェアに優しい彩りを添えていて、それが静けさの中で輝いて見えた。
つい先程まで感じていた、心の中を締めつけるような重みはもうない。代わりに、2本の足で地面に立つ重みを感じる。
私は静かに息を吸い、光の中へと足を踏み出した。
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「……あぁ!?そういえば、グラニュートについての聞き込みをしてません!!」
軽やかな足取りで外を歩いて数分。私の心には先程までの晴れやかな気持ちが嘘のように、あっという間に暗雲が立ち込めていた。
「えぇと、とりあえず教会に戻ってシスターさんとお話を──」
言いながら振り返った瞬間、待ってましたと言わんばかりに右肩に何かが跳び乗る。
驚いて見れば、見覚えのある水色の顔──そう、ソーダグミの眷属がいた。
『グラニュート、イナイ!イナイ!』
「……はい?」
あまりにも予想外な報告をされ、私の身体は見えない壁にぶつかったかのように急停止する。
「ど、どういうことですか!?グラニュートがいないって……」
『デタ、イッテナイ!キテ、イッタ!』
「え、え?まさか、グラニュートがいる所に案内していた訳ではないんですか……?」
私の問いに対し、ソーダグミの眷属は小さな身体を上下にぶんぶんと振った。彼は私をグラニュートの元へ導いていたのではなく──
「綺麗なステンドグラスで私を元気付けたかった……なるほど。そうだったんですね」
『ゲンキ、ナッタ!シアワセ!』
眷属はそう言うとすぐにひょいと物陰に潜り込み、ビニール袋を器用に引きずって現れた。
『イート!イート!』
それを私の足元に差し出し、いつもの言葉を何度も繰り返す。
その袋の中身に、私は瞬時に気が付いた。
「それは……朝のポテトチップスですね!」
眷属に貰い、しかしほとんど食べられなかったポテトチップス。あの時はガラス片のようにも思えたが……今は違う。
私は再びポテトチップスの袋を開け、その中に入っていた1枚を2本の指で挟んだ。ふわりと立ちのぼる香ばしいじゃがいもの匂いが、私の食欲を優しく刺激する。
「いただきまーす!!」
もう待ち切れないと言うように、私は乱雑に口に放り込む。まず最初に感じるのは、サクッという軽やかな歯ごたえだ。無駄な油っぽさがなく、軽快な心地良い食感が口の中で奏でられる。
次に噛めば噛むほど旨味がじわじわと滲み、自然な甘みとほどよい塩味が絶妙なバランスで溶け合った。素材そのものの味わい、と表現するのが適切だろうか。
あっという間に1枚目を食べ終えたが、舌の上にうっすらと残る塩の余韻が心地良くて、ついつい手がもう1枚へと伸びてしまう。気がつけばまた1枚、さらにもう1枚と、際限なく口へ運ばれていた。
「う〜ん、美味しぃ〜!!」
ポテトチップスが喉を通る度に、身体の奥から甘く痺れるような感覚が広がっていく。それは電流のように私の身体を巡り、眷属となって現れた。
その様子を見てか、私の周りに多くの眷属が集まってくる。
『ゴシュジン、ゲンキ?』
『ゲンキ、ナッタ?』
『マエ、ナイテタ』
誰もが一様に私を心配し、今にも泣きそうな目でこちらを見つめていた。
「……皆さんには、いっぱい心配をかけてしまいましたね」
健気で、愛おしくて──とても私にはもったいない存在だと思う。
「ですが、もう大丈夫です!大切なことに気付きましたから!!」
そう、私はようやく理解した。
皆を幸せにすることは決して間違いではない。夢見た平和な世界を──楽園を望むことには、何の罪もないのだ。
私達は自分の手で「こういうものだ」と定義した世界の中を漂い続ける。それはまるで不変のルールかのように振る舞い、実際にそのように見えるものだ。
しかし、その定義は本当に世界の全容を余すことなく含んでいるのだろうか?その不変のルールとやらは、不変の根拠を以てして結論付けられたと言えるのだろうか?
答えは否。
最もダメなこととは、してはいけないと思わせる環境に屈することだ。妥協を最終手段にせず、前提とすることだ。
「抗ってみせます……出会った笑顔が消えない、そんなおとぎ話をリアルにするために!!」
幸せになった人が襲われるなんて仕組みは私が許さない。皆を幸せにして、絶対に皆が幸せなまま守るんだ。例えその道が茨の道だったとしても、そんなことは関係ない。なぜなら──その茨の道だって抜け出してみせるのだから。
「さぁ、パトロールに戻りますよ!!」
夕陽でくすんだ街の中、弾けるように動いた私の身体は、とっくに迷いを置き去りにしていた。
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「止まれ」
今まさに走り出した所だと言うのに、私の背中に語気の強い命令が投げかけられた。高い声だが……聞いたことのない声。いずれにしても間が悪いし、よろしくないタイプの勧誘ならばその中でも最悪レベルかもしれない。
一応粗相のないようにと思いながら振り返る。
「えーっと、どうかしまし──」
その瞬間、私は安直な判断を後悔した。
頭に強い衝撃を受け、後方に背中からどすんと倒れる。熱い。痛い。殴られた?
「報告が上がってんだよ。バイトが不自然に消えてる、ってさぁ」
高い声がキンキンと響く。確信を持ったような話し方をする彼女に対し、私はひたすら疑問を抱くだけだった。
「何の……話、ですか……?」
「あぁ?まさか、知らないでやってんのか」
彼女が地面に横たわった私に近づいてくる。黒いジャケットとショートパンツ、白いタイツに身を包んでいるのが見えた。その格好は優雅な貴族を思わせるが、握り拳に散っている血がそれらを否定している。
「なら教えてやるよ」
「ぐッ……ぁあ、あああ!!」
上半身をブーツでぐりぐりと踏まれ、苦悶の声が漏れた。
「俺はシータ・ストマック。お前が日夜潰してるバイトの雇い先──ストマック社の仕入れ担当だ」