ブルーアーカイブ-教鞭のスザク-   作:それいゆ

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暗闇が広がる虚空。枢木スザクの意識は、浮遊するガラスの破片に囲まれていた。それぞれの破片は、鋭く輝き、過去の記憶を映し出している。まるで砕け散った鏡のように、断片的で、痛みを伴う。スザクは身動きが取れず、ただそれらを眺めるしかない。心臓の鼓動が、静かな闇の中で響く。

 

最初の破片が近づいてきた。幼い頃の記憶。父、枢木ゲンブの顔が浮かぶ。日本の首相として、ブリタニア帝国の侵略に抵抗する父の姿。幼いスザクは、父へと必死に訴える。しかし、ゲンブの目は冷たく、国民国家を背負う決意に満ちていた。幼い癇癪を払い除けた瞬間。父の体へと切っ先が深く刺さる。血が広がり、父の息が絶える。

枢木スザク。10歳の少年が犯した罪。日本の政情降伏を招き、ブリタニアの植民地化を加速させた行為。スザクの罪悪感が、破片の白いフチを赤く染める。あの時から、彼の人生は贖罪の道となった。間違った手段で得た結果は、虚しく無意味だと。

 

破片が天に登っていき、次の記憶が現れる。日本がエリア11と呼ばれる植民地となり、ブリタニアの軍靴が土を踏み荒らす。

スザクは名誉ブリタニア人として軍に入り、毒ガス回収任務に就く。

シンジュクゲットーで、テロリストと思われたルルーシュと再会する。

ガスのカプセルから現れた少女を見たことを親衛隊に詰められ、”テロリスト”を殺すよう命じられるが、スザクはルルーシュを庇い背中に銃弾を受ける。

父の懐中時計が命を救われた。

皇子クロヴィスの殺害容疑で処される危機をゼロに救われながら、スザクは思う。

「システムを変えるのは内側からだ。暴力は新たな憎しみを生むだけ。」

植民化された日本で、彼はブリタニア軍の兵士として生きる。差別され、蔑まれながらも、正義を信じて。

アッシュフォード学園でのルルーシュとの再会、再び見れたナナリーの笑顔。

ルルーシュは鋭い視線を持つようになった、過去の友情を喜びつつも、互いの道は交差しない。

スザクはランスロットの操縦者となり、戦場を駆け抜ける。ゼロの反乱に立ち向かいながら、人死にを嫌いながらも、軍人として敵を撃つ事を選んだ。

 

ガラスの破片が輝きを増す。ユーフェミアの優しい顔。第三皇女。スザクを騎士に任命し、彼女の傍らで過ごす安らぎの日々。

スザクは彼女に絆された。抑圧から逃れた瞬間、スザクの心に初めての平穏が訪れる。

父の罪を忘れ、未来を信じる日々。だが、それは脆いガラスだった。

 

破片が砕け、喪失の痛みが襲う。行政特区の式典。ゼロの登場。ユフィの目が曇り、彼女は日本人を虐殺する命令を下す。スザクはユフィの手を握りながら彼女の最期を看取る。心を裂さかれ、憎しみが爆発する。ゼロを追うスザクは、V.V.から真実を知る。ルルーシュがゼロだと。ユフィの死が、ギアスによるものだと。

 

破片が移り、ナイトオブセブンの地位。ゼロを捉えた功績として皇帝シャルルから授けられる称号。欧州へ、忠誠を誓い、内なる葛藤を抱えながら、「侵略者」として戦場で無慈悲に敵を倒す。

 

次は重く、鋭く突きつけてくる破片。

フレイヤの焔。第二次ブラックリベリオン。東京決戦。スザクはフレイヤ弾頭を搭載したランスロットを操る。カレンに討たれる寸前。「生きろ」のギアスが目覚め。寸分の迷いもなく弾頭発射のスイッチを押す。爆発の光。1000万の命が一瞬で消える。政庁は塵となって崩壊し、東京が炎に包まれる。地殻が剥き出しになった大地でスザクは狂ったように笑った。

「結果がすべてだ!」罪悪感すらも自分の許しを請う我儘だと捉えるようになった。

ユフィの理想を踏みにじり、ナナリーを死なせた自分。それでもルルーシュと再び会い、皇帝達の過去を否定し、血の上に立つ明日を求めた。

 

ガラスが砕け散る音。ゼロレクイエム。新生する世界。スザクはルルーシュの剣となった。憎しみの連鎖を断つため、ルルーシュが皇帝となり世界を支配し、全ての憎悪を自身に向けさせた。

覇王にして悪逆皇帝ルルーシュの前にゼロは現れる。剣をルルーシュの胸に突き刺す。「そのギアス…確かに受け取った…」涙が零れる。友情の終わり。2人の贖罪の完結。

 

最後の破片。ゼロとしての自分。仮面を被り、復活したルルーシュとの再会。ジルクスタンでの戦い。ナナリーを取り戻し、ルルーシュは永遠の命を持ったが故にスザクから去る。「お前はゼロとして生きろ。」スザクは頷く。永遠の贖罪者として。

 

夢が揺らぐ。ガラスの破片が全て砕け、背景と同化して風景が変わる。

 

景色に色が付く。

 

列車の中。揺れる車体。窓から見えるのは、朝焼けと青空。

向かいに座る見知らぬ少女。長い髪、凛とした表情。彼女の目が輝く。

光輪が頭上に浮かぶ少女は微笑み、語る。

 

 

「先生、あなたの選択…選んだ明日はきっと――――」

 

 

 

 

 

 

 

「…起きてください」

 

 

「先生!!」

 

 

「…」「…?」

 

声が響く。

 

スザクはゆっくりと目をこすり、視界をクリアにした。オフィスのような部屋。白い壁に囲まれ、窓からは見慣れない都市の景色が広がっている。高層ビルが立ち並び、空には光の柱と光輪がくっきりと見える。ブリタニア本国の都市とも、日本とも全く違う。

 

「…ここは…どこだ?」

 

声が掠れた。スザクは体を起こし、目の前の女性を改めて見つめた。長い黒髪を垂らし、制服のような服装。眼鏡越しに凛とした視線と態度をこちらに向けている。いやに大人びた雰囲気を纏っているが、どこか少女のような清純さも感じる。彼女はスザクが起きたことを確認すると話を続ける。

 

「申し訳ありません。来てもらって早々に寝ていらっしゃるなんて…お疲れだったのでしょうか?」

 

ここに来るまでの記憶が全く無い。薬か、ギアスの影響? 頭が痛い。拘束はされていないがスザクは警戒しつつ周囲を見回した。デスクの上にPC端末が置かれ、壁には「連邦生徒会」と書かれたプレート。馴染みのない言葉だ。

 

「いや…それはいいんだが…」

「!!」

 

戸惑いが声に滲む中。スザクは自分の服装を確認してハッとする。いつものゼロの衣装ではない。シンプルなシャツとズボン。仕込んでいた暗器の感触もない。何より仮面も無くなっており、素顔を晒して眠りこけてしまっていた。

 

しかしながら彼女の表情に動揺はない。スザクの顔を直視しているが、驚きや恐れの色がない。

それがさらにスザクを困惑させた。

 

枢木スザク。

 

「売国奴」「白い死神」「裏切りの騎士」

 

日本国首相の息子でありながらブリタニア軍に身を置き、開放を願う日本人に向けて刃を向け、皇帝ルルーシュの臣下として世界中に悪意を振りまいた者。

顔を見ただけで、世界の人々から憎悪されるはずだ。なのに、この女性は平然としている。

 

「君…自分の顔を見て、驚かないのか? 」

 

スザクの声に苛立ちが混じる。自分でも意外だった。普段は冷静を保つが、今の状況が異常すぎる。虚空から目覚め、見知らぬ場所、見知らぬ女性。

彼女は軽く首を傾げ、眼鏡を直した。

 

「驚かない?と言われましても…。あなたは連邦生徒会長が招聘したお方ですし。」

「確かに大人の男性というのは物珍しさはありますが…」

 

「………はぁ」

よほどの世間知らずか、それとも本気でしらばっくれているのか、本意がわからず呆気に取られる。

まるで異世界にでも来たような感覚だったが、自戒する。あり得ない。ブリタニアの科学力でも、そんなことは不可能だ。だが、過去の経験からスザクは知っている。ギアスという力は、人の認識を歪め、現実に影響を与える。ルルーシュのギアス、シャルルのギアス……もしかして、自分はまた何かの力に巻き込まれたのか?

 

 

「私の名前は七神リンです。連邦生徒会の執行部で、副会長を務めています。よろしくお願いします、先生。」

 

リン、と名乗った女性の言葉に、スザクは眉を顰めた。先生? 何の冗談だ。俺はそんな存在ではない。アッシュフォード学園で生徒ではあったが、それももう数年前のこと。

 

「キヴォトス…? 連邦生徒会? 先生って…何の話だ? 自分はそんなものじゃない。」

 

言葉が混乱する。スザクは拳を握った。心臓の鼓動が速くなる。もしかして、自分は死んだのか? ジルクスタンでの戦いの後、ルルーシュが去り、再びゼロとしての役目を全うしていた筈、何か事故が? いや、記憶が曖昧だ。

 

リンは静かに立ち、言葉を続ける。

 

「先生、一旦落ち着いて聞いてください。ここは学園都市キヴォトスです。数多くの学園が集まる、自治都市のような場所。生徒たちが主導で運営されていて、連邦生徒会がそれら学園の全体を統括しています。」

「私はその執行部の一員で、生徒会長から招かれた客人の事を頼まれていました。」

「あなたは『先生』として、シャーレという組織の顧問に任命されました。シャーレの仕事としては…生徒たちの指導や、問題解決をお願いすることになると思います」

 

リンの説明は簡潔で、論理的だった。

だが、スザクにとっては意味不明だ。学園都市? 生徒たちが運営?

ブリタニアの軍事アカデミーとは違う。日本には地名としての学園都市はあるがそれとも違う。

彼女の口ぶりから、キヴォトスは独立した国家や世界のようだ。

 

「生徒会が連邦を…」

ミレイ会長ならそんな突拍子もない事を言いそうだが、馬鹿げた話だ。と漏らしかけたが、リンの目は本気だ。

スザクは戸惑いを抑え、冷静になろうとする。過去の経験から、未知の状況では情報を集めるのが先だ。

 

「(俺がそんな役目を引き受けるはずがない。一体どういう事だ…)」

 

悪名高い自分を、平然と受け入れる彼女の態度が不気味だ。

もしかして、ギアスの影響で記憶が操作されている?

少なくとも彼女の目にはギアスの兆候がない。リンはじっとスザクを見つめ、軽くため息をついた。

 

「私たちは、あなたの経歴を知っているわけではありません。ただ、生徒会長が選んだ以上信頼するほかありません。」

「キヴォトスには、さまざまな生徒がいます。生徒たちの中には素行不良な者もいます。」

「ここでは、先生のような大人が必要なんです。」

 

彼女の視線は真剣で、嘘の気配がない。スザクは椅子から立ち上がり、窓辺に近づいた。外の景色を確かめる。広大な都市。学校のような建物が連なり、空にはドローンらしきものが飛んでいる。

 

「見知らぬ土地でしょうし戸惑われるのも理解しています…」

「落ち着いて話をするためにも、やっていただきたいことがあるのです」

「ついてきてください」

言われるがままにリンについていく、エレベーターに乗って下の階に移動する最中。エレベーターの窓から都市の遠景が見える。

 

「……」

無言で景色を見つめるスザク。景色自体は発展している都市、という感じで特別違和感は無いが、空にまで伸びる光の柱のような物と、空に浮かぶ光輪の様な物は違和感があった。

 

そのまま目的の階に着いたのかエレベーターが止まり、扉が開く。

 

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