アリストロメリアの小旅行   作:あっきーさん

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第1話

…アリストロメリアは暇をしていた。

 

最近、城の中の生活は刺激が無い。

覇王たる存在に自身の全てを!と喧しく教育をしてくる母親、恨みを持って見てくる癖して姉に怯える小心者の妹。

 

母親の教育は、時代の流れを汲まない前時代のものばかり。そんな愚物に覇業の何たるかを伝えられたところで、何も感じはしない。

 

妹も魔力は劣るが槍の扱いは悪くないのだから、無駄に劣等感を拗らす前に武だけでも越えてみせるといった気力を見せて欲しいものである。

…まあ「リル」と呼んだ時に見せる、屈辱と怒り、劣等感の入り交じった目は中々愉快ではあるので、それはそれで良いのだが。

 

「はぁ…」

 

アリストロメリアはお気に入りのクマのぬいぐるみを抱えると、そのまま窓に向けて歩を進める。

なんとなしに外の景色でもとカーテンを開けると、ベランダの床に小さな鳥が伏せていた。

 

「あら…小鳥さん、結界の中に入ってしまったのね」

 

魔王城の高層の部屋は、居住者の中でもより高貴な者ばかりが住んでいる。その為、暗殺の対策として飛行している存在が外から部屋に近づくと、相手を拘束する結界が起動するのだ。

 

小鳥は必死に体を動かそうとしている。しかし、この結界はワイバーン娘程度ならば容易に拘束する。小鳥が動く事など不可能だ。

 

「…どうしましょう、クマちゃん?」

 

アリストロメリアクマのぬいぐるみを小鳥に近づけると、ぬいぐるみの腹が裂ける様に蠢く。小鳥は怯えるような目をぬいぐるみに向けたと思うと、徐々に近づくその脅威にやがて強く威嚇するかのような目を向けた…様な気がした。

 

「ふふっ、ふふふふ…」

 

何時ぞや母が言った台詞を思い出す。

『貴女は覇王。生まれながらの強者。弱者を喰らいその力を示すことで、やがて全てが貴女に怯え、敬う。そうして世を統べるのです』

 

愚かだ。弱者に勝って威を示そうとも、それはただ衣を纏うに過ぎない。その日その時に衣を纏っただけで、誰が覇王であると認めると言うのか。

 

この小鳥は、圧倒的強者を前にしても最後には怯えを振り切って立ち向かおうとした。着飾っただけの強さなど、目に見えるだけの脅威など、その程度のものが与える恐怖など、弱者でも容易に乗り越えられるのだ。

 

気分が良くなったのか、上機嫌に微笑んだアリストロメリアは、魔術で小鳥を結界の影響から解放した。

小鳥は驚いた様に動けるようになった体を確認すると、今度はぬいぐるみとその持ち主を一瞥し、その後飛び去っていく。

 

自由に飛んでいく鳥を見て、アリストロメリアは今度は部屋にある姿見の前に立った。

鏡に映る自身とその背景にある部屋を見て、今度は小鳥よりも不自由な自分に不満を感じた。

 

下らない教育を受けるよりも、小鳥のように目的も無く、自由に空でも飛んだ方が余程楽しいだろう。

そんな事を考えていると、扉をノックする音が聞こえる。

 

「お、お嬢様…少々宜しいでしょうか」

 

扉の先から聞こえる声は、母の側近のものだった。

どことなく怯えを感じる声で、扉も開けずに返事を待っている。

 

「ええ、なんでしょう?用件だけ聞きますわ」

 

「は、はい。東の地区に住む反逆勢力の炙り出しに成功したようで、魔王陛下直々に出陣なさるそうです。よって暫くは授業や訓練は中止…との事です」

 

「あら…分かったわ。貴女も出るのでしょう?早くお行きなさいな」

 

「…はっ」

 

足早にその場を立ち去っていく母の側近。

地位相応の力を持っていても少女に怯える様子に、あの小鳥を思い出す。

怯える強者と、立ち向かう弱者…覇道を語る魔王の配下が前者なのだからバカバカしい。

 

それにしても、退屈な教育が無くなったとしてもやる事がある訳では無い。何か暇つぶしになるものでもあれば良いのだけれど…。

 

「はぁ…あら?」

 

溜め息を吐き、もう一度窓の外を見ると先程の小鳥が結界の外を飛んでいた。鳥はこちらを一瞥した後、南の方向へと飛び去って行った。

 

「…ふふっ」

それを見たアリストロメリアは楽しげな笑みを浮かべ、ベランダから飛び降りた。

 



 

1時間程経ち、アリストロメリアは魔王城を抜け出していた。

時魔法を併用した高速移動で到着した場所は、レミナ。

ヘルゴンド大陸に唯一存在する大国であり、ある程度の人魔共存を実現した国である。

 

「ふふっ…少しはお小遣いもありますし、自由に楽しむとしましょう」

 

宝物庫から盗…拾った金貨の入った袋を懐にしまうと、出店があるらしい場所へと歩いて行った。

 

 

「案外、食べ歩き…と言うのも楽しいですわね」

 

暫くレミナを散策していると、どことなく憂鬱な気分も薄れてきた。

教会や城には興味が無いので、商業区ばかり歩いていたが服も食べ物も興味深いものばかりだった。

 

「クマちゃんも満足しましたか?」

周りからは見えない位置で、果物をクマちゃんに食べさせる。

色々な店を回ったが、物以外にも色々興味深いことがあった。

子供というのは得なもので、誰も余り警戒しないと言うのも新鮮であったし、何より口が緩むというのが存外良い。

 

『今代の魔王は先代と違って過激だ…女王様も警戒して軍備を整え始めてるらしい』

 

『イリアス大陸の方にも、手が伸びているらしい。彼処は信心深い…揉め事が増えるだろうな』

 

『参るなぁ…取引の都合上、明日は洞窟の安全ルートを抜けたら、商船からイリアス大陸に向かうというのに…』

 

面白い話が聞けた。こっそり商船に潜り込めれば、イリアス大陸に入れるという訳だ。少し外出するだけの予定であったが…ちょっとした旅行になりそうだ。

 



 

 

 

 

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