同じような展開にならないように気をつけなくちゃ。
復讐は虚しい…そんな言葉を良く巷で耳にする。
そんなことをしても何も変わらない、復讐したとしてもその人は喜んでくれないし生き返ってもくれない、ただ悪戯に罪を重ねるだけで誰も幸せになれない…そんな言葉全てを引っくるめて、復讐は虚しいと誰かが言うのだ。
…果たして、本当にそうなのだろうかと俺は思う。
確かに意味は無いのかもしれない、そんなことをしたところで帰ってきて欲しい人は絶対に帰ってきてくれないし、そんなことをしたところで誰かが幸せになってくれるわけでもない…あるのはただ、他者の人生を終わらせたという血塗られた罪だけ。
けど…けど、もしもその死んだ人間を嘲笑うような人間が居たら? 自分が引き金を引いた癖にそれを棚に上げて、今尚ものうのうと幸せに笑っている人間が居たのだとしたら? …その幸せを奪い、壊すことは…果たしてその誰かの中で無意味と言えるだろうか。
他人の幸せを壊しておいて、他人の幸せを踏み躙っておいて…どうして自分が同じ目に遭わないと言えるだろう、どうして自分の幸せが同じように壊されないと言えるだろう。
誰かの幸せを奪うとはそういうことなのだ、誰かの幸せを壊すということはそういうことなのだ……だから俺は───
───俺から幸せを奪った奴等の『幸せ』を、壊すことに決めた。
日差しが、眩しかった。
焼け付くような太陽の光、夏場特有のカラッとした空気感と温度が肌を焦がす、そこに吹き込んでくる爽やかな風が嫌に心地良かった。
視線の先に広がる大海原、憎らしいくらい澄み渡る蒼を体現した自然の風景は心の汚れを根こそぎ洗い流してしまいそうな程に美しくて…そんな美しさを持ったその光景が、今はどうしようもなく嫌に思えた。
逃げるように歩き出す、目の前の光景から目を逸らすように背を向けて決して振り向くまいと歩き出そうとする…そんな俺の前を、元気な子供達が走り抜けようとしていた。
「───おっと」
ぶつかりそうになるのを咄嗟に躱す、目の前を通り過ぎていく大柄な子供とそれを追いかけるように待ちなよーっと子供特有の高い声でその子供を呼び止める二人の子供…その後ろ姿に何処か微笑ましさを感じながら、俺は止めた足を動かそうとして…また止めた。
視界に映ったのは、二人の子供だった…一人は眼鏡を掛けた将来有望そうな男の子で、もう一人は何処か大人びた雰囲気を持った茶髪の女の子…何やら二人して話し込んでいるその光景を、俺はジッと見つめてしまっていた。
自分で言うのもなんだが、とても怪しいことをしていると思う…だって、大の大人が二人の子供をジッと見つめているのだ、そういう趣味の人間と思われても可笑しくはない…ないのだが、どうにも目が離せなかった。
「……?」
ふと…目が合った。
ふとしたように此方へと視線を向けた眼鏡を掛けた男の子、ジッと見つめていた俺を含めて互いが互いを見つめる形になる。
何処か困惑したような表情を浮かべる男の子、それに釣られるようにして俺の方へと視線を向けた女の子は訝しんだような表情を浮かべていた、そりゃそうだろうと思った。
視線を外そうとする…のだが、自分の身体だと言うのに中々外れてくれない、どうあっても二人の子供に…いや、正確に言うなら男の子の方に視線が向いてしまう。
まるで、こいつから目を離してはいけないと本能が囁くように、ピタリと俺の視線を男の子に釘付けになっていた…そんな俺へと、男の子はとてとてと駆け寄ってくる。
「…ねぇ、お兄さん…ボク達に何か用?」
「───えっ?」
「ずっとボク達を見てたから」
掛けられた言葉に、思わず素っ頓狂な返事が飛び出してしまった、不思議そうに俺を見上げるその子供の姿に何を言えば良いのだろうと口が詰まった。
どうしてそう思ったのか聞いてみれば良いのだろうか……馬鹿か、ジッと見てたのはこっちなのにそんな質問が通るかと自分自身にツッコみを入れる。
何故だろう、別にそこまで困った質問をされたというわけでもないのに、どうしてか言葉に詰まる…まるで、口に出す言葉を間違えたら後は無いと…そう認識しているかのように。
言葉に詰まっている俺を見てか、男の子の困惑が深まったのを感じた…なんで黙っているんだろうとか、そういうことを考えているのかもしれない。
何か言わなきゃいけないと思った、黙るのはマズイからせめて何かしら言葉にしないとって…そう思った俺は何でも良いからと言葉を吐き出そうとして───
「…君は、誰なんだ?」
自分自身でも心底から頭の具合を心配してしまうような、そんなトンチキな言葉が口から飛び出てしまっていた。
えっ…と木霊する子供の声、困惑と言うより心底から驚いているかのような子供の表情にハッとする…直ぐ様ごめんっと謝罪の言葉を口にした後に姿勢を屈めて子供と目線を合わせた。
何を言ってるんだ俺は…意味の分からない言葉を口にした自分自身に罵倒を吐き捨てながら俺は言い訳するように言葉を重ねる。
「ごめんね、変なこと言っちゃって…君達を見てたのは……そう、君達が昔の弟妹に良く似てたからだよ…失礼だとは分かってはいたけど、あんまりにも似てるものだから…つい…」
本当にごめん…そう付け加えて、今度はきっちりと頭を下げた。
…苦しい言い訳だと、自分でも思う。
何だ昔の弟妹に似てたって、言い訳にしてはあまりに適当過ぎるだろう、もっとマシな…それこそオーソドックスなモノがあっただろうとやはり自分を罵倒する…そんな内心は露ほども出さずに、俺は深く頭を下げたままの体勢でいた。
そんな俺に対して男の子はハッとしたように気にしてないから大丈夫だよと俺に頭を上げさせた…その表情には先程の問いかけに対する困惑が未だ色濃く残っていた。
当然のことだと思う…いきなりあんなこと言われて、その後すぐに謝られたって、意味の分からないことを言われたと言う困惑と疑問は早々に消えてはくれない。
しかも相手は子供なのだ、もしかしたら言葉の意味を勘違いして傷ついてしまったかもしれない…考えすぎと言われるかもしれないが、子供ってやつはそんな簡単なことで傷ついてしまう程度には繊細なのだ。
申し訳ないことをしてしまったと、心の底からそう思った。
そんな俺の心情を察してしまったのかもしれない、何処か焦ったように本当に大丈夫だからとワタワタと手を振る男の子に、流石にこれ以上は過剰かと態度を通常のものへと戻して立ち上がる…そして、迷惑を掛けたことをこれまた謝りながら俺は足早にその場を立ち去った。
背後から視線を感じるが振り向かない、変な人だったなぁとか思われてたら正直ショックだが…確実にそう思われるだろう行動を取ってしまっているので、そうだった時は甘んじてその評価を受け止めておこうと思う。
…因みにだが、俺に弟妹が居るというのは本当の話だ。
先程の子達とは似ても似つかないが…兄という贔屓目を抜きにしてもとても可愛らしい子達だったと思う。
俺が親元から自立してからはそこまで頻繁に会ってはいないが、それでも仲は良好であると言えるだろう…確か、今は二人とも別の高校に通っていて、其々の夢を追いかけているという話だった。
思わず和みそうになる、兄弟姉妹全員で揃った時に自慢するように笑顔であれしたこれしたと言ってくる、そんな弟妹の話を俺と姉の二人で穏やかに聞く…そんな温かい光景が、脳裏を過った。
良い思い出だ、大切な思い出だ…だけど、そんな宝石にも近い大事な思い出が、今ばかりは煩わしかった。
通路を歩く、特に何を意識するでもなく差し込む太陽の光を眩しく思いながらただ足音を立てて歩く…そんな俺の前から、柄の悪い男が一人歩いてくる。
ギシリッと通路の板が軋んだような気がした…きっと気の所為だろうと思う、人間一人が歩いた程度で軋むような作りならとっくに改善されていなければ可笑しいはずなのだから…だからきっと、その音は俺の気の所為なのだ。
ドンッと、肩をぶつけた。
音を立ててぶつかった俺と男の肩、すれ違いざまに衝撃と共に響いたその音と感覚に男は苛立ったように此方へと振り向いてくる。
「おい、何処見てやが───」
何やら捲し立てるようとする男へと振り返る、分かりやすく冷たい笑みを浮かべてゴミでも見るように男の姿を見る…そんな俺の姿に男の吐き出していた言葉は勢いを失い、次いで信じられないものを見たとでも言うようにその瞳を大きく広げていく。
「テメ───」
何か言おうとしたのだろう、何かを叫ぼうとしたのだろう…そうして口を開こうとした男の首を、俺は当たり前のように圧し折った。
乾いた音が小さく辺りに響く、出血すら起こさず首を圧し折られた男は息を吸うことも出来ずに声にならない声を出すだけ…そんな男を、俺はこれまた当たり前のように…海へと捨てた。
汽笛が響く…船の音だ、男が海へと落ちるのと同時に鳴り響いたその音は男の痕跡を完膚無きまでに消し去っていた。
息を吐く…手すりへと体重を預けて大海原へと視線を投げる。
大海は、本当に憎らしいくらい…青く澄み渡っていた。
炎が燃え広がる、ガラガラと何かの崩れ落ちる音が聞こえる…そんな音なんて眼中に無いと言わんばかりに、俺は響いた足音へと振り向いた。
「───よう…
笑いながら、確かな笑みを浮かべながら、俺の前へと姿を現した幼子へと俺は世間話でもするかのように問いかけた。
表情は鋭く俺を睨みつけていた、真っ直ぐと俺を見据えるその瞳は正義に燃えていて…だからこそ俺は心底愉快と言わんばかりに嗤うのだ。
名探偵と復讐者…まるで劇か何かだなと…そんなことを思いながら。
復讐とは何処までが復讐じゃろな?
主人公について
やってることが完全にAmongUs。