落葉を踏むたび乾いた音が生まれ、遠い拍子の影のように静かに消える。
胸の奥には、まだ聞いたことのない太鼓の余韻がゆっくり広がっている。
風は何も告げないまま、仮面の眠る気配だけを淡く運んでくる。
その匂いに導かれるように、足は深い山の静けさへ入りはじめる。
山あいの細い道を踏むたび、乾いた葉が足裏で低く鳴り、遅い秋の匂いがゆっくり立つ。
薄い霧の奥から、太鼓の気配だけが脈のようにゆっくり揺れて胸の奥へ届く。
どこかに仮面の眠る夜がある気がして、冷えた息を整えながら歩き続ける。
夕暮れの冷えが足首にからみつき、湿った土の匂いが急に濃くなる。
古びた板の軋みに似た風が、遠い稽古の影のような気配を運んでくる。
指先で触れた落葉は紙片のように軽く、触れた途端に静かに砕け散る。
見えない舞台が山の奥で息を潜め、長く忘れられた拍子を待っている。
太鼓がひとつ深く沈むたび、胸の奥にある水面がゆるやかに揺れる。
仮面の裏に溜まる闇へ、淡い月の気配だけがにじみながら落ちていく。
細い坂を登りつづけると、背に滲んだ冷えた汗がゆっくり乾いていく。
風に混じる獣革の匂いが、古い面の内側に残る長い時間を思わせる。
掌で触れた木のざらつきが、まだ誰かの温みを抱いて離さない。
見えぬ誰かの足拍子のような震えが、柔らい土を伝い足裏へ届く。
暗い林の隙間では、灯のない舞の形だけがほどけては漂っている。
夜露を吸いこんだ草が裾にまとわりつき、歩みをゆっくり重くする。
鼓の余韻に似た風が、耳の奥を丸く巡りながら遠くへほどけていく。
仮面の笑みだけが熟した実のように、闇のどこかで静かに深まる。
乾いた板を踏んだ記憶の感触が、足裏の奥に薄く残りつづける。
指でなぞった節目は、長い歳月が刻んだ溝のように深く沈んでいる。
太鼓の響きは遠ざかりながらも、山の腹で幾度も柔らかく返る。
月明かりが白い息となって、胸の奥からゆっくりこぼれ落ちる。
立ち止まると、落葉の海が夜気の中でかすかに波打つ。
見えぬ仮面たちが、闇の奥でゆっくりこちらへ向きを変える。
太鼓の余韻が山肌を撫で、冷たい空気がゆっくりほどけていく。
湿り気を帯びた風が頬をかすめ、微かな土の味が舌に残る。
見えない舞の足取りが、落葉の下でまだ小さく震えている。
夜露を含んだ苔を踏むと、柔らかな沈みが足裏へ静かに返る。
遠い拍子に似た風が、胸の奥で丸い波紋をひとつ広げる。
指先に触れた枝は冷たく、長く眠る木肌のざらつきを伝える。
闇の奥では、仮面の影だけがゆっくりと角度を変えている。
雲の切れ目から落ちた淡い光が、落葉の端をかすかに濡らす。
湿った香りが立ち上り、古い板を打つ掌の記憶を呼び寄せる。
山の斜面を渡る風が、乾いた拍子の残響を連れてくる。
耳の奥では太鼓の低い揺れが、まだ小さく円を描き続ける。
掌で触れた石は夜露を含み、鈍い冷えをゆっくり渡してくる。
落葉を払う足の動きが、見えぬ舞の型をそっとなぞっていく。
深い闇の底で、仮面の微かな笑みが熟していく気配がある。
足を止めると、山里の空気が胸の奥まで静かに満ちる。
遠ざかった太鼓が、土の奥でかすかな鼓動へ変わる。
指先の冷えがほどけ、落葉の柔らかな温みだけが残る。
薄い霧がゆるやかに流れ、林の奥へ舞の影を連れ去っていく。
頬に触れる風は穏やかで、遠い拍子の気配だけを残している。
歩みを進めると、乾いた葉がまた低く鳴りはじめる。
その音だけが、消えた舞台の続きを静かに受け継いでいく。
山を離れても、落葉を踏む音が耳の奥で長く揺れている。
遠い夜に沈んだ太鼓の鼓動が、胸のどこかで静かに息づく。
掌には古い木肌のざらつきが残り、指先へかすかな温みを返す。
振り返る道の奥で、仮面の影だけがゆっくり霧にほどけていく。
歩みを重ねるほど、あの幻の舞台は土の匂いに溶けて深まっていく。
やがて風がすべてをさらい、静かな山の気配だけが残りつづける。