泡沫紀行   作:みどりのかけら

1016 / 1190
夜の余白がまだ空に残るころ、私は細い道を歩き出す。
湿った草が足首に触れ、冷たい露が静かに弾ける。
遠い空に、淡く白む影が眠りの名残のように立っている。
胸の奥で、まだ見ぬ星の呼吸がかすかに揺れる。


歩みを重ねるたび、土の匂いがゆっくり深くなる。
掌に触れた石は夜の冷えを残し、静かな重さを持つ。
白い影は遠く、朝の光の中で細くほどけていく。


やがて空が淡くほどけ、風が草を低く揺らす。
その揺れの奥で、白い影は夢の続きを待つように佇む。
足裏の感触だけが確かなものとして残る。
私はまだ名を持たぬ記憶の入口を歩いている。



1016 星を夢見る未来航路の白き塔

白い光が遠くの空に滲み、足取りはゆるやかに坂を上る。

乾いた草の匂いが、夏の奥で静かにほどけていく。

見上げるたび、雲の裏で眠る星の気配が胸に触れる。

 

 

道の脇に積もる砂はやわらかく、踏むたび微かな音を返す。

指先で触れた石の表面は、陽を吸い込み温かい。

風は背の高い草をゆっくり揺らし、遠い潮のように波立つ。

白い影が丘の向こうに現れ、淡い空に溶けかけている。

 

 

汗が額を伝い、まぶたの裏に薄い光が広がる。

草の葉が足首をなぞり、ひやりとした感触を残す。

 

 

丘を回り込むと、空の奥から静かな白が立ち上がる。

細く伸びた影は、昼の底に落ちた古い針のようだ。

足元の砂利が擦れ合い、乾いたささやきを繰り返す。

その白は雲より硬く、光よりも静かに立っている。

見つめるほど、胸の奥で長い眠りがほどけていく。

 

 

坂をさらに登ると、風が少しだけ冷たくなる。

掌で触れた岩はざらりと粗く、粉の匂いを残す。

遠い空の青が深まり、白い影は細く澄んでいく。

 

 

足裏に集まる熱が、歩みのたび静かに移ろう。

影の根元へ続く道は、光の粒をまばらに散らす。

指先に残る砂のざらつきが、なぜか懐かしい。

空は高く、まだ見ぬ夜の気配を淡く抱えている。

 

 

白い影は揺れず、ただ夏の光を受けている。

胸の奥で、小さな星の鼓動が静かに目覚める。

 

 

白い影の足元に近づくと、光は水のようにやわらぐ。

石の肌に触れれば、昼の熱が掌へ静かに渡る。

見上げた先で、空の青が細く巻き上がっている。

その奥に、まだ名を持たぬ星の眠りが漂う。

 

 

影は長く地に落ち、草の波にゆっくり溶ける。

踏みしめた土は乾き、靴底に細かな粒を残す。

白い面をなぞる風が、低い唸りを胸へ運ぶ。

遠い夜の匂いが、昼の底から淡く立ちのぼる。

肩の奥で、知らぬ重みが静かにほどけていく。

 

 

足元の石は丸く磨かれ、掌にやさしく収まる。

陽を含んだ表面が、脈のように温度を伝える。

握ったまま歩くと、指の間で小さく汗が滲む。

 

 

空はいつしか深く、青い器の底を思わせる。

白い影はそこへ細く伸び、静かな針となる。

風が頬をかすめ、乾いた塩の気配を残す。

遠くで草が擦れ、薄い音が波のように続く。

 

 

足裏に集まる砂が、ゆるく崩れて道を変える。

影の根元の白は、昼の光をやわらかく返す。

触れた指先に、粉のような冷たさが残る。

息を吸うたび、胸の奥に静かな高さが広がる。

 

 

ふと振り返ると、歩いてきた道が薄く霞む。

草の揺れが、時間の層をゆっくり撫でていく。

空の高みで、見えない星が静かに息をする。

 




夕の光が傾き、白い影は長く地へ溶けていく。
草の匂いは昼よりも深く、風にゆっくり混ざる。
掌に触れた石は冷えはじめ、静かな温度を失う。


歩き出すと、足裏の砂がやわらかく崩れる。
振り返れば白い影は空の青に溶け、ただ光だけを残す。
遠くで草が擦れ、細い音が夜の方へ流れていく。


やがて空の奥に、小さな星がひとつ灯る。
その光は昼の白をかすかに思わせる。
胸の奥に残る静かな高さだけが、まだ消えない。
私はゆっくりと歩き続け、影のない道へ溶けていく。
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