湿った草が足首に触れ、冷たい露が静かに弾ける。
遠い空に、淡く白む影が眠りの名残のように立っている。
胸の奥で、まだ見ぬ星の呼吸がかすかに揺れる。
歩みを重ねるたび、土の匂いがゆっくり深くなる。
掌に触れた石は夜の冷えを残し、静かな重さを持つ。
白い影は遠く、朝の光の中で細くほどけていく。
やがて空が淡くほどけ、風が草を低く揺らす。
その揺れの奥で、白い影は夢の続きを待つように佇む。
足裏の感触だけが確かなものとして残る。
私はまだ名を持たぬ記憶の入口を歩いている。
白い光が遠くの空に滲み、足取りはゆるやかに坂を上る。
乾いた草の匂いが、夏の奥で静かにほどけていく。
見上げるたび、雲の裏で眠る星の気配が胸に触れる。
道の脇に積もる砂はやわらかく、踏むたび微かな音を返す。
指先で触れた石の表面は、陽を吸い込み温かい。
風は背の高い草をゆっくり揺らし、遠い潮のように波立つ。
白い影が丘の向こうに現れ、淡い空に溶けかけている。
汗が額を伝い、まぶたの裏に薄い光が広がる。
草の葉が足首をなぞり、ひやりとした感触を残す。
丘を回り込むと、空の奥から静かな白が立ち上がる。
細く伸びた影は、昼の底に落ちた古い針のようだ。
足元の砂利が擦れ合い、乾いたささやきを繰り返す。
その白は雲より硬く、光よりも静かに立っている。
見つめるほど、胸の奥で長い眠りがほどけていく。
坂をさらに登ると、風が少しだけ冷たくなる。
掌で触れた岩はざらりと粗く、粉の匂いを残す。
遠い空の青が深まり、白い影は細く澄んでいく。
足裏に集まる熱が、歩みのたび静かに移ろう。
影の根元へ続く道は、光の粒をまばらに散らす。
指先に残る砂のざらつきが、なぜか懐かしい。
空は高く、まだ見ぬ夜の気配を淡く抱えている。
白い影は揺れず、ただ夏の光を受けている。
胸の奥で、小さな星の鼓動が静かに目覚める。
白い影の足元に近づくと、光は水のようにやわらぐ。
石の肌に触れれば、昼の熱が掌へ静かに渡る。
見上げた先で、空の青が細く巻き上がっている。
その奥に、まだ名を持たぬ星の眠りが漂う。
影は長く地に落ち、草の波にゆっくり溶ける。
踏みしめた土は乾き、靴底に細かな粒を残す。
白い面をなぞる風が、低い唸りを胸へ運ぶ。
遠い夜の匂いが、昼の底から淡く立ちのぼる。
肩の奥で、知らぬ重みが静かにほどけていく。
足元の石は丸く磨かれ、掌にやさしく収まる。
陽を含んだ表面が、脈のように温度を伝える。
握ったまま歩くと、指の間で小さく汗が滲む。
空はいつしか深く、青い器の底を思わせる。
白い影はそこへ細く伸び、静かな針となる。
風が頬をかすめ、乾いた塩の気配を残す。
遠くで草が擦れ、薄い音が波のように続く。
足裏に集まる砂が、ゆるく崩れて道を変える。
影の根元の白は、昼の光をやわらかく返す。
触れた指先に、粉のような冷たさが残る。
息を吸うたび、胸の奥に静かな高さが広がる。
ふと振り返ると、歩いてきた道が薄く霞む。
草の揺れが、時間の層をゆっくり撫でていく。
空の高みで、見えない星が静かに息をする。
夕の光が傾き、白い影は長く地へ溶けていく。
草の匂いは昼よりも深く、風にゆっくり混ざる。
掌に触れた石は冷えはじめ、静かな温度を失う。
歩き出すと、足裏の砂がやわらかく崩れる。
振り返れば白い影は空の青に溶け、ただ光だけを残す。
遠くで草が擦れ、細い音が夜の方へ流れていく。
やがて空の奥に、小さな星がひとつ灯る。
その光は昼の白をかすかに思わせる。
胸の奥に残る静かな高さだけが、まだ消えない。
私はゆっくりと歩き続け、影のない道へ溶けていく。