湿り気を帯びた空気が肌に触れ、まだ見ぬ奥行きを示している。
わずかな冷えが胸の内に沈み、歩みは自然と緩やかになる。
踏みしめるたび、土は柔らかく沈み、音を吸い込む。
指で掬えば細かな粒がまとわりつき、すぐに形を崩す。
その崩れ方に、まだ名を持たぬ記憶の気配が滲む。
遠くの空は淡く濁り、境界を曖昧にして広がっている。
その下で、見えぬものが静かに重なり合っているように感じる。
乾いた草が擦れ合い、淡い音が足元から立ちのぼる。
低く崩れた石の重なりに触れると、冷えが掌に沈み込む。
斜面を上るたび、土はわずかに湿り、靴底に粘りつく。
風は古い匂いを運び、枯葉の影が肩先をかすめていく。
遠くで鳥が短く鳴き、すぐに沈黙へとほどける。
ひび割れた石の隙間に、細い草が静かに息をしている。
指先で石の縁をなぞると、ざらつきが記憶のように残る。
欠けた角は丸みを帯び、長い時間の重さを語らずに抱えている。
その沈黙に触れるほど、胸の奥にわずかな冷えが広がる。
視線を落とせば、土の色が幾層にも重なり合っている。
足を止めると、空気は薄く揺れ、耳の奥に微かなざわめきが残る。
乾いた枝が折れ、指に触れた瞬間、軽い痛みが走る。
斜めに傾いた石壁の影は、柔らかくも鋭く地面に落ちる。
その縁に沿って歩くと、影は静かに形を変えていく。
足先で小石を押しやると、鈍い音が土に吸い込まれる。
指の腹に残る粉のざらつきが、消えぬ感触として留まる。
風が頬を撫で、冷たさがゆっくりと奥へ染み込む。
見上げると、枝は細く絡み合い、空を細切れにしている。
落ち葉の上に膝をつくと、乾いた感触が衣に移る。
手のひらで地を押すと、内部の湿りがわずかに滲み出る。
その温度の違いが、静かに時の深さを示している。
崩れた段の縁に腰を下ろすと、石の冷えが骨に伝わる。
息を吐くたび、白くもならぬ気配が胸の内でほどけていく。
風がやや強まり、草の波が低く揺れ続ける。
その揺らぎの奥で、見えぬものが重なり合う気配がある。
足裏に伝わる土の硬さが、ところどころで急に変わる。
柔らかな層の下に、固く締まった何かが潜んでいる。
踏みしめるたび、わずかな反発が身体に返ってくる。
斜面の途中で立ち止まると、遠くの空気がかすかに濁る。
掌に残る粉を払い落とすと、乾いた粒が光を弾く。
そのひとつひとつが、長く触れられぬまま眠っていたように思える。
指の隙間から零れ落ちる感触が、妙に鮮やかに残る。
細い枝が頬を掠め、ひやりとした線を引いていく。
その冷たさはすぐに消えず、内側で静かに滞る。
石の並びに沿って歩くと、足音がわずかに変わる。
乾いた音と鈍い響きが交互に現れ、間隔が乱れる。
その不揃いが、かつての形をかすかに示している。
落ち葉を踏みしめると、軽い破れの音が重なる。
その下で湿りがひそみ、音を吸い込むように沈む。
足を上げるたび、異なる重さがまとわりつく。
やがてその感触にも慣れ、境目が曖昧になる。
視線を上げると、薄い光が傾き、影が長く伸びる。
風が止み、草の音が途切れると、周囲は急に深まる。
何も動かぬ静けさの中で、わずかな気配だけが残る。
その気配に触れぬよう、足取りが自然と緩やかになる。
風が抜けた後、草は再び同じ揺れを繰り返す。
その繰り返しの中に、わずかなずれが紛れ込んでいる。
手に残るざらつきを払っても、感触は消えきらない。
指の奥に残る重みが、まだここに繋がっている。
それは形を持たず、ただ静かに留まり続ける。
歩みを進めるごとに、背後の気配は遠ざかる。
それでも完全には離れず、薄く重なり続ける。
振り返らぬまま、足先だけが次の土を確かめていく。