泡沫紀行   作:みどりのかけら

1202 / 1203
淡い靄が視界の奥でほどけ、まだ触れたことのない気配が静かに漂う。
足裏に伝わる柔らかな湿りが、これから始まる揺らぎを予感させる。


風は名を持たぬまま頬を撫で、遠い記憶の輪郭をかすかに揺らす。
指先に触れた空気がわずかに震え、見えない何かの存在を知らせる。
私はその震えを追うように、一歩を踏み出す。


光はまだ弱く、影は深く折り重なっている。
その狭間に身を置くと、重さのない静寂が胸へと満ちていく。



1202 夢紡ぐ精霊たちが迷い込む幻創の回廊

淡い風が指先に触れ、まだ名を持たぬ色を運んでくる。

湿った土の匂いが靴裏にまとわりつき、記憶の底を静かに揺らす。

 

 

柔らかな光が枝葉の隙間でほどけ、私の影を細く引き延ばす。

足裏に伝わる小石のざらつきが、歩みを確かに現へ繋ぎ止める。

遠くで揺れる気配が、形になりかけてはまた溶けていく。

 

 

壁のようでいて、どこか息をしている面に触れる。

 

 

指先に触れた表面はひやりとして、すぐに温度を返してくる。

その反応は生き物のようで、私は思わず呼吸を浅くする。

薄く剥がれた欠片が掌に残り、粉のように崩れていく。

かすかな甘い香りが、春の奥に潜む別の季節を呼び覚ます。

 

 

細い通路を進むたび、光が屈折して違う顔を見せる。

目の奥で揺れる像が重なり合い、現と夢の境が曖昧になる。

 

 

柔らかな何かが足首に触れ、草でも布でもない感触が残る。

それはすぐに消え、代わりに温かな余韻だけが皮膚に留まる。

微かな震えが膝へと伝わり、私は歩幅を少しだけ狭める。

視界の端で、淡い影がほどけては再び結ばれていく。

胸の内側に、小さな灯がともるような錯覚が広がる。

 

 

幾重にも重なる面が、互いに隠し合いながら揺れている。

その奥からこぼれる光は、どこか懐かしく、指先を誘う。

触れようとするたび、距離だけが静かにずれていく。

 

 

やがて足元の感触が変わり、柔らかな層に沈み込む。

温もりを含んだその地面は、私の重さを受け入れながら微かに脈打つ。

 

 

柔らかな沈み込みが足裏に広がり、歩みは波紋のように揺れる。

指先で触れた空気はかすかに甘く、舌の奥に淡い余韻を残す。

遠くで何かがほどける気配が、胸の内に静かな震えを落とす。

 

 

光は次第に層を増し、幾つもの影を私の周りに置いていく。

その影は重なるごとに形を変え、見覚えのない輪郭を生み出す。

触れれば崩れそうな不確かさが、かえって確かな存在として迫る。

 

 

壁の奥から微かなざわめきが伝わり、耳の内側をくすぐる。

それは言葉にならない調べとなり、歩調を静かに導く。

 

 

足元の層はさらに深く、やわらかな繊維のように絡みつく。

歩くたびにわずかな抵抗が生まれ、体の輪郭を曖昧にする。

膝裏に残るぬくもりが、どこか懐かしい感触を呼び起こす。

指先にまとわりついた粒子が、光を含んで微かに輝く。

 

 

重なり合う面の隙間から、淡い影がいくつも滑り出す。

それらは触れることなく寄り添い、私の周囲を巡り続ける。

視線を向けるたびに輪郭を変え、決して同じ姿を保たない。

 

 

胸の奥で小さな灯が揺れ、その明かりが外へと滲み出す。

光に導かれるように、私はさらに奥へと歩みを進める。

 

 

やがて面はひとつに収束し、静かな壁となって行く手を包む。

その表面に触れると、微かな振動が掌から腕へと伝わる。

温かさと冷たさが交互に流れ、境界の感覚を失わせる。

 

 

薄く開いた隙間から、柔らかな光がこぼれ落ちる。

その光は静かに広がり、私の影をやさしく溶かしていく。

 




薄れていく光の余韻が、掌の奥で静かにほどける。
触れていたはずの感触は消え、かわりに柔らかな空白が残る。


足裏に感じていた温もりは遠ざかり、地面は再び確かな硬さを取り戻す。
それでも歩みの奥には、かすかな揺らぎが残り続ける。
振り返ることなく、その余韻だけを抱えて進む。


風は再びただの風となり、頬を過ぎていく。
それでも指先の奥には、ほどけきらない光の粒が留まっている。
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