泡沫紀行   作:みどりのかけら

1502 / 1505
朝靄の沈む細道では、濡れた草先が薄い銀色を帯び、足元へ静かな冷えを流し込んでいた。
遠くから漂う甘酸の匂いだけが、淡く閉ざされた空気をゆるやかに揺らしていた。


乾いた葉を踏む音は思いのほか軽く、澄んだ空へ溶けるたび胸の奥へ小さな余白を残した。
薄紅に染まり始めた実は枝影に揺れ、朝露を抱えた硝子玉のように静かに光っていた。
冷えた指先へ息を落とすと、白く滲む吐息が淡い霧へ吸い込まれていった。


低く垂れた雲の下では、赤く熟れた実の香りが湿った土へ静かに沈み込んでいた。
歩幅を合わせるように風が吹き、擦れ合う葉音だけが薄暗い空へ細く続いていた。



1502 紅果の森奏

濡れた落葉を踏むたび、靴裏に薄い冷えがまとわりつき、赤く熟れた実の香りだけが深い霧を押し返していた。

枝先に残る雫は硝子片のように揺れ、薄曇りの空を砕いた光を掌へ静かに零していた。

 

 

細い坂を登るうち、指先へ染みる風が乾いた皮膚を撫で、胸の奥に鈍い甘さだけを残していった。

低く垂れた枝へ肩が触れるたび、熟れすぎた果実の柔らかな重みが衣へ淡く移った。

遠くで鳥の羽ばたきが散り、冷えた空気に細かな震えが浮かんでいた。

 

 

湿り気を含んだ土は歩幅ごとに沈み、足裏へじわりと冷たさを返してきた。

落ちた実の裂け目から滲む蜜は夕暮れ色を帯び、かすかな酸味だけを風へ解いていた。

 

 

谷へ降りる途中、薄紅に染まる葉群が波のように揺れ、静かな音だけが衣の裾をくぐり抜けた。

乾き始めた指先へ息を落とすと、冷気に混じる果皮の匂いが喉奥へやわらかく残った。

曇った空は低く垂れ、白い靄の向こうで細い枝影だけが静かに震えていた。

歩き続けた膝には淡い重さが宿り、その鈍い感覚が不思議な安堵へ変わっていった。

 

 

苔を含んだ石へ腰を預けると、冷えた湿気が背へ滲み、身体の輪郭がぼやけるようだった。

 

 

色濃い実を拾い上げた掌には微かな温もりがあり、硬い皮の奥で秋の匂いが静かに熟していた。

齧った果肉は予想より鋭い甘酸を持ち、舌先へ透き通る冷えを長く残した。

 

 

細い水音が茂みの奥から流れ、淡い陽差しを受けた葉裏が銀色の魚鱗のように瞬いていた。

濡れた袖口は歩くたび肌へ貼りつき、その重みが静かな眠気を誘っていた。

赤黒い実の影は薄霧に沈み、遠くで燻る灯火のようにぼんやり揺れていた。

 

 

斜面に積もる落葉は深く柔らかく、踏み込むたび足首まで沈みそうな感触を返してきた。

甘い香りを含んだ風が頬を撫でるたび、胸の内へ薄い余白だけが広がっていった。

 

 

枝の隙間から零れる夕光は淡い琥珀色を帯び、濡れた実の表面を静かに照らしていた。

その光を眺めるうち、歩き疲れた身体の軋みさえ、どこか遠い波音のように薄れていった。

冷えた掌を衣へ隠すと、指先に残る果汁の粘りだけがかすかな熱を抱えていた。

 

 

霧の深まる林際では、細い幹が幾重にも重なり、遠景を閉ざした硝子壁のように立っていた。

 

 

赤く裂けた果皮へ落葉が貼りつき、濡れた色彩が土の暗さへゆっくり溶け込んでいた。

歩幅を緩めるたび、足元で砕ける枝の音が乾いた余韻となって耳裏へ残った。

夜気を含み始めた風は冷たく、それでも果実の甘い匂いだけは静かに濃さを増していた。

 

 

細い坂道を抜ける頃、雲間の淡光が濡れた葉先へ滲み、白い息をぼんやり浮かび上がらせた。

疲れた脚へ絡む冷気は重かったが、指先に残る果汁の香りだけが静かな灯のように続いていた。

 

 

朽ち葉の匂いを含んだ夜風が頬を撫で、深く色づいた実の影が闇へゆるやかに沈んでいった。

湿った土を踏む音だけが薄闇へ吸われ、掌に残る甘酸の冷えが長く消えずにいた。

 




夜気を含んだ林の奥では、濡れた果皮がわずかな月明かりを返し、静かな影を重ねていた。
歩き疲れた脚へ絡む冷気は深かったが、掌に残る甘い匂いだけが微かな温もりを保っていた。


湿った衣の重さを感じながら空を見上げると、薄雲の向こうで淡い光が静かに滲んでいた。
落葉を踏む乾いた音は夜の底へ吸われ、胸の内へ小さな静寂だけを積もらせていった。
果汁の残る指先には冷えが宿り、その感触が遠い灯火のように長く消えずにいた。


霧に沈む枝影は黒い波のように揺れ、熟れた実の香りだけが静かな余韻となって漂っていた。
濡れた土の冷たさを足裏に抱えたまま、淡い白息だけが闇へゆっくり溶けていった。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。