泡沫紀行   作:みどりのかけら

1521 / 1523
私は白い海霧の縁に立ち、潮の冷えが頬に触れるのを感じた。
足元の砂は湿り、沈むたびに微かな重さを返した。


遠くの波は音を薄め、白い粒となって岸へほどけていた。
呼吸の内側にも塩の気配が滲み、歩みは静かに誘われる。


海の光は硝子の欠片のように揺れ、触れれば崩れる透明を孕んでいた。
私はその奥に、名のない旅の入口を見ていた。



1521 白霞殻の海晶焼紋

私は白い海霧の縁を踏みしめ、海岸の細道を歩いた。

足裏には湿った砂の冷えが残り、波の呼吸だけが遠くで続いていた。

白い粒の光が砂に混じり、音もなく崩れていく気配だけが残った。

 

 

私は潮の匂いが舌の奥に滲むのを感じ、海の底の静けさへ沈んだ。

風は肩の上を滑り、濡れた布のような重さだけを残していく。

歩みは押されるように、緩やかに前へと溶けていった。

 

 

私は白い海の記憶が殻となり、白えびせんべいの脆さで砕けるのを見た。

岩肌には海晶のような焼紋が走り、淡い光を浮かべている。

その模様を辿るうち、海と陸の境が静かにほどけていった。

 

 

私は砂が指の間で崩れ、冷たい湿りが皮膚に残るのを確かめた。

歩くたび重さは変わり、足首へ静かな抵抗が返ってくる。

その繰り返しが海辺の時間をゆっくり形づくっていた。

 

 

私は風が刃のように肌を撫で、塩の冷たさだけを残すのを感じた。

耳の奥では潮騒が途切れず、呼吸の間隔を揺らしている。

歩みは風に押されるまま、前へと静かに流れていった。

 

 

私は断崖の影に立ち、冷たい石の記憶が掌へ戻るのを受け取った。

岩肌には風雨の層が重なり、長い時間の重みが刻まれている。

足裏には見えない圧がゆっくりと伝わってきた。

 

 

私は唇に残る塩を舌で確かめ、海そのものを飲んだように思った。

風の粒は舌の上で溶け、記憶の気配だけが残っていく。

その塩の層が歩みの内側へ静かに積もっていった。

 

 

私は白い殻の欠片を踏み、微かな硬さが砂に返るのを感じた。

指先で拾えば、乾いた海の時間が薄く尖っている。

崩れは音もなく連なり、歩みの底へ沈んでいった。

 

 

私は海面の光が硝子のように揺れ、視界が歪むのを見ていた。

その奥には形のない透明が宿り、静かな意志のように揺れる。

光は触れられぬまま、影へと染み込んでいった。

 

 

私は海を離れ、草の匂いが風の重さを変えるのを感じた。

田の面は空を映し、鏡の上を渡るように歩みが進む。

足音だけが細く続き、広がりの中へ消えていった。

 

 

私は小さな社の前で、澄んだ空気に時間の薄さを知った。

苔むす石段は柔らかく湿り、踏むたびに静かに返る。

祈りの気配は声を持たず、風の奥へ沈んでいた。

 

 

私は細かな雨に包まれ、霧と肌の境が消えるのを感じた。

視界は白く滲み、遠い輪郭だけが淡く浮かんでいる。

衣は重くなり、雨の記憶を静かに纏っていった。

 

 

私は石畳の凹凸に足裏の記憶を刻まれながら進んだ。

石は冷たく沈黙し、音は深い地へ吸い込まれていく。

その無言の連なりが旅の輪郭を支えていた。

 

 

私は膝の奥に重みが積もり、呼吸が浅く揺れるのを知った。

それでも足は止まらず、砂と石の間を確かめて進む。

疲れは景色と同じ速度で静かに流れていった。

 




歩みの跡はすでに砂へ溶け、風が何もなかったように均していた。
足裏に残る冷えだけが、遠い海を思い出させた。


硝子のような記憶は光の粒となり、境目のない場所へ流れていく。
身体の奥には、静かな余韻だけが沈んでいた。


白い海の気配は遠ざかり、しかし消えることなく呼吸の底に残る。
私はその透明を抱いたまま、無言のまま歩みを続けた。
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