泡沫紀行   作:みどりのかけら

1535 / 1541
薄い朝の気配が、まだ名前を持たぬ道の輪郭を静かに浮かび上がらせている。
呼吸は冷えた透明に触れながら、ゆるやかに深さを増していく。


音のない空間がゆっくりと形を持ちはじめ、見えない流れが足元へと沈んでくる。
立ち止まるほどに、世界は静かに近づいてくる。


色づく前の沈黙が枝の間に溜まり、光はまだ薄い刃のように揺れている。
身体の輪郭は曖昧にほどけ、歩き出す前の気配だけが残る。



1535 紅葉が導く温泉幻路

紅葉の谷間に、薄い硝子の気配を感じながら足を進める。

湿った空気が肌にまとわりつき、遠くで水の音が細く揺れている。

足元に落ち葉が重なり音を吸う。

 

 

冷えた岩肌に触れる指先が、わずかな震えを残す。

流れる水の表面は硝子のように薄く歪み、光を抱え込む。

足裏に伝わる石の冷たさが、歩みをゆるやかにする。

 

 

紅の葉が重なり合い、道の輪郭を曖昧に溶かしている。

静寂は深く、足音さえも柔らかな布に包まれて消える。

空気は薄く甘く、呼吸の奥に冷えた透明が沈む。

 

 

谷の奥から滲む風が、肩に見えない重さを積もらせる。

湿り気を帯びた岩壁は、指先の熱を静かに奪っていく。

足元の土は柔らかく沈み、歩くたびに時間が遅くなる。

 

 

紅葉の影が水面に揺れ、境界の感覚がほどけていく。

空から落ちる光は細く、肌の上で静かに冷えていく。

呼吸のたびに透明な気配が胸の奥へ沈殿する。

 

 

岩の裂け目から滲む水音が、遠い記憶のように響く。

苔むした石はしっとりと冷たく、掌に微かな湿りを残す。

足を置くたびに地面が柔らかく沈み、歩幅が狭まる。

 

 

霧のような冷気が流れ、皮膚の輪郭を曖昧にする。

木々の隙間から落ちる光は、淡く揺れて指先に触れる。

湿った空気が衣の重さとなり、歩みを静かに遅らせる。

 

 

赤く染まる葉が降り積もり、地面は柔らかな層を成す。

その上を踏むと、わずかな沈み込みが足裏に伝わる。

冷えた空気が首筋をなで、呼吸が浅く整っていく。

 

 

岩肌を伝う水は細い筋となり、光を静かに抱え込む。

その揺らぎに触れると、時間の輪郭がゆるやかに崩れる。

足元の冷気が靴底を透かし、静かな痺れを残していく。

 

 

谷を満たす風は湿りを含み、衣の奥へと入り込む。

苔の柔らかな緑は、指先で触れると微かに沈む。

足音は柔らかく吸い込まれ、周囲に溶けて消えていく。

 

 

光の粒が枝の間で揺れ、静かな湖面のように滞留する。

その輝きに包まれると、呼吸の深さが自然と変わる。

冷えた空気が頬を撫で、意識の輪郭を淡く溶かす。

 

 

岩の間から立ち上る湿気が、衣を重くしながらまとわりつく。

その重さは次第に薄れ、歩みは静かな流れへと変わる。

足裏の感覚は柔らかく、地面との境界が曖昧になる。

 

 

紅葉の影が揺れながら落ち、視界に深い層を描く。

その層の奥で、冷えた風が静かに螺旋を描いている。

足元に沈む落葉が、歩くたびに微かな音を返す。

 

 

水の流れは鏡のように滑らかで、周囲の色を取り込む。

その表面に触れる空気は冷たく、指先の感覚を鋭くする。

歩みは自然と緩やかになり、時間の流れが薄く伸びる。

 

 

岩壁に染み込む水が静かに滴り、冷えた音を刻む。

その音は空間に溶け、呼吸の間に吸い込まれていく。

 




谷を満たしていた気配はゆるやかにほどけ、残るのは指先に薄く触れる冷えだけになる。
歩みの記憶は水面のように静かに沈む。


紅の影は遠ざかり、音のない層だけが内側に重なっていく。
呼吸は深くなり、境界は再び曖昧なまま静止する。


触れていたはずの冷たさだけが遅れて残り、歩いた時間は透明な薄膜となって薄く広がる。
意識は静かに遠のき、余韻だけが続く。
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