泡沫紀行   作:みどりのかけら

1538 / 1541
薄い霧が水辺を這い、乾ききらぬ土の匂いを運んでいた。
私は湿った草を踏みながら、曇り空へ溶ける淡い蒼を見上げていた。


遠くで低い唸りが続き、足元の水面へ細かな揺れを落としていた。
冷えた風は袖の奥へ入り込み、眠り損ねた指先をゆっくり痺れさせた。


硝子を重ねた囲いの群れは、まだ光を持たぬ朝の底で静かに沈んでいた。
その輪郭だけが白く浮かび、凍り残る水脈のように細く続いていた。



1538 蒼軌の機関巣

湿り気を含んだ風が、白く曇る水辺からゆるやかに這い上がっていた。

浅い泥に沈む草の根を踏むたび、足裏へ鈍い冷たさが染みてきた。

 

 

灰色の空の奥で、薄い光だけが揺れていた。

私は低く並ぶ硝子の壁を眺めながら、濡れた袖口を指で絞った。

水の匂いに混じり、鉄を擦ったような乾いた気配が漂っていた。

 

 

細長い影が幾筋も地面へ伏し、春浅い土を淡く切り分けていた。

透けた板の内側には蒼い筋が沈み、凍り残った川面のように静かだった。

 

 

濡れた砂利を踏む音が、空いた器の底を叩くように響いた。

私は肩を縮め、白い息を胸の内へ押し戻した。

 

 

高く張られた線の群れは、曇天の裂け目へ吸い込まれる蔓のようだった。

遠くで小さく軋む音が続き、そのたび空気が微かに震えた。

足元には雨水が細く流れ、薄い靴底から冷えが滲み上がってきた。

 

 

硝子の囲いには淡い曇りが残り、内側の蒼さだけが深く澄んでいた。

私は掌を壁へ当て、氷片に触れるような冷えを確かめた。

 

 

乾いた風が吹くたび、細い骨組みが低く唸った。

濡れた衣の重みが膝へ絡み、歩幅が少しずつ狭くなっていった。

それでも奥へ続く薄明かりが、静かな潮のように私を押していた。

 

 

水辺の葦はまだ色を持たず、灰白の束となって揺れていた。

その隙間を抜ける風には、遠い雪の粒が混じっていた。

頬へ触れる冷たさは軽いのに、骨の奥だけが沈むように重かった。

 

 

長く並ぶ硝子は空を映さず、ただ鈍い蒼を抱え込んでいた。

私はそこに浮かぶ影を追い、浅い眠りの底を歩く気分になった。

 

 

小さな水溜まりの表面へ、細い振動が幾度も広がった。

見上げれば曇り空の裏で何かが巡り、淡い唸りだけを落としていた。

その音は耳より先に胸へ触れ、冷えた臓腑を静かに撫でていった。

 

 

崩れた石の縁には湿った苔が貼り付き、指先へ柔らかな冷気を残した。

私は腰を下ろし、濁った水の流れをしばらく眺めていた。

 

 

蒼い筋を宿した囲いの奥で、白い灯がかすかに揺れていた。

それは水底に沈んだ月明かりにも似て、近づくほど輪郭を失っていった。

私は濡れた袖を握り締め、その淡さへ息を合わせた。

 

 

風が止むと、辺りは不自然なほど静まり返った。

残された唸りだけが遠い空洞を巡り、耳の裏へ薄く貼り付いていた。

 

 

歩き続けるうち、靴底の感覚は曖昧になっていった。

冷え切った指先だけが確かで、擦れた布の感触が皮膚へ細く残った。

淡い蒼の群れは視界の奥で重なり、静かな波のように揺れていた。

 

 

浅い水路の脇には、砕けた殻のような白片が散っていた。

私はそのひとつを拾い、濡れた掌の熱でゆっくり曇らせた。

 




曇天の切れ間から零れた弱い光が、濡れた地面へ淡く広がっていた。
私は立ち止まり、泥に沈む靴底の感触を静かに確かめた。


遠ざかる唸りは次第に薄れ、代わりに水の流れる音だけが耳へ残った。
冷え切った掌には、硝子へ触れたときの硬い感触がまだ残っていた。


振り返った先で、蒼い影の群れは夕靄へ静かに溶けていた。
空へ伸びる細い線だけが微かに揺れ、凍えた春の名残を漂わせていた。
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