私は湿った草を踏みながら、曇り空へ溶ける淡い蒼を見上げていた。
遠くで低い唸りが続き、足元の水面へ細かな揺れを落としていた。
冷えた風は袖の奥へ入り込み、眠り損ねた指先をゆっくり痺れさせた。
硝子を重ねた囲いの群れは、まだ光を持たぬ朝の底で静かに沈んでいた。
その輪郭だけが白く浮かび、凍り残る水脈のように細く続いていた。
湿り気を含んだ風が、白く曇る水辺からゆるやかに這い上がっていた。
浅い泥に沈む草の根を踏むたび、足裏へ鈍い冷たさが染みてきた。
灰色の空の奥で、薄い光だけが揺れていた。
私は低く並ぶ硝子の壁を眺めながら、濡れた袖口を指で絞った。
水の匂いに混じり、鉄を擦ったような乾いた気配が漂っていた。
細長い影が幾筋も地面へ伏し、春浅い土を淡く切り分けていた。
透けた板の内側には蒼い筋が沈み、凍り残った川面のように静かだった。
濡れた砂利を踏む音が、空いた器の底を叩くように響いた。
私は肩を縮め、白い息を胸の内へ押し戻した。
高く張られた線の群れは、曇天の裂け目へ吸い込まれる蔓のようだった。
遠くで小さく軋む音が続き、そのたび空気が微かに震えた。
足元には雨水が細く流れ、薄い靴底から冷えが滲み上がってきた。
硝子の囲いには淡い曇りが残り、内側の蒼さだけが深く澄んでいた。
私は掌を壁へ当て、氷片に触れるような冷えを確かめた。
乾いた風が吹くたび、細い骨組みが低く唸った。
濡れた衣の重みが膝へ絡み、歩幅が少しずつ狭くなっていった。
それでも奥へ続く薄明かりが、静かな潮のように私を押していた。
水辺の葦はまだ色を持たず、灰白の束となって揺れていた。
その隙間を抜ける風には、遠い雪の粒が混じっていた。
頬へ触れる冷たさは軽いのに、骨の奥だけが沈むように重かった。
長く並ぶ硝子は空を映さず、ただ鈍い蒼を抱え込んでいた。
私はそこに浮かぶ影を追い、浅い眠りの底を歩く気分になった。
小さな水溜まりの表面へ、細い振動が幾度も広がった。
見上げれば曇り空の裏で何かが巡り、淡い唸りだけを落としていた。
その音は耳より先に胸へ触れ、冷えた臓腑を静かに撫でていった。
崩れた石の縁には湿った苔が貼り付き、指先へ柔らかな冷気を残した。
私は腰を下ろし、濁った水の流れをしばらく眺めていた。
蒼い筋を宿した囲いの奥で、白い灯がかすかに揺れていた。
それは水底に沈んだ月明かりにも似て、近づくほど輪郭を失っていった。
私は濡れた袖を握り締め、その淡さへ息を合わせた。
風が止むと、辺りは不自然なほど静まり返った。
残された唸りだけが遠い空洞を巡り、耳の裏へ薄く貼り付いていた。
歩き続けるうち、靴底の感覚は曖昧になっていった。
冷え切った指先だけが確かで、擦れた布の感触が皮膚へ細く残った。
淡い蒼の群れは視界の奥で重なり、静かな波のように揺れていた。
浅い水路の脇には、砕けた殻のような白片が散っていた。
私はそのひとつを拾い、濡れた掌の熱でゆっくり曇らせた。
曇天の切れ間から零れた弱い光が、濡れた地面へ淡く広がっていた。
私は立ち止まり、泥に沈む靴底の感触を静かに確かめた。
遠ざかる唸りは次第に薄れ、代わりに水の流れる音だけが耳へ残った。
冷え切った掌には、硝子へ触れたときの硬い感触がまだ残っていた。
振り返った先で、蒼い影の群れは夕靄へ静かに溶けていた。
空へ伸びる細い線だけが微かに揺れ、凍えた春の名残を漂わせていた。