湿った空気は重く、呼吸のたびに胸の奥へ淡い冷えが積もっていった。
遠くも近くも区別のない白さの中で、足先だけが確かな地面を探っていた。
石の隙間から滲む水音が、細い糸のように途切れながら続いていた。
指先をかすめる風は冷たく、肌の上に薄い膜を残して消えていった。
歩みは遅く、沈黙だけが先へ先へと伸びていった。
白の奥にはまだ眠ったままの深さがあり、そこへ降りていく気配だけが濃くなっていた。
視界の端で揺れる影は、記憶にも似ず、ただ静かに形を失っていった。
呼吸の温度だけが、かろうじて旅の輪郭をつないでいた。
薄い雲が水面へ垂れ込み、白い光だけが静かに漂っていた。
濡れた石を踏むたび、足裏に冷えが沈み込み、乾いた息が胸の奥で細く鳴った。
高みへ向かう坂は淡く磨かれ、掌を添えると硝子に似た滑りが残った。
風は白布のように広がり、遠くの空を曖昧に隠していた。
私は肩に溜まった湿気を払いながら、淡い傾斜をゆっくり辿った。
途中で細い水の匂いが混じった。
浅い流れの脇には白砂が沈み、踏むと柔らかな崩れが踵へ伝わった。
白壁に似た面が霧の向こうで浮き、静かな殿堂の影をつくっていた。
触れれば砕けそうな明るさなのに、その奥には重い夜気が閉じ込められているようだった。
乾いた草を踏む音だけが長く残った。
耳の裏へ風が入り込み、骨の内側まで冷たさが染みていった。
私は袖を握り、足先の感覚を確かめながら歩き続けた。
白い面の周囲には、薄青い空気が幾重にも滞っていた。
近づくほど輪郭は曖昧になり、かわりに微かな熱だけが皮膚へ触れた。
細い段差を越えると、掌へ鈍い震えが返った。
石の下を水が流れているらしく、低い響きが脛へ伝わってきた。
白光は時折かすかに濁り、眠り損ねた瞳のような陰を宿した。
私は立ち止まり、浅い息を吐いた。
吐息はすぐに散り、かわりに静かな湿りが唇へ残った。
傾いた草原には白い粒が降り積もっていた。
雪に似ていたが熱を含み、指で払うと灰のように崩れた。
空の奥では淡い群青がゆっくり動き、白壁の端を鈍く染めていた。
私はその色を見上げながら、胸骨の裏に重く沈む寒さを感じていた。
歩幅を狭めるたび、靴底の硬さが足首へ響いた。
細い回廊に似た道へ入ると、風は急に浅くなった。
白い光は硝子の膜のように重なり、触れれば指先を切りそうな冷えを帯びていた。
遠くで乾いた水音が反響した。
それは崩れた夢の欠片のように途切れ、静けさだけを長く引き延ばした。
私は白面の影へ身を寄せた。
そこには雪洞に似た柔らかな暗さがあり、冷えた肩から少しずつ力が抜けていった。
湿った石の匂いが衣へ染み込み、古い夜明けを思わせた。
白い空気の底では、見えない波が絶えず揺れていた。
足を止めるたび、その震えは膝裏へ伝わり、薄い疲労が静かに沈んだ。
細かな霧が頬へ貼りつき、指で拭うと硝子片のような冷たさが残った。
私は掌を見下ろしたまま、しばらく呼吸だけを聞いていた。
やがて白壁の影はゆるやかにほどけ、空へ溶け始めた。
淡い群青はさらに深まり、水辺には静かな銀色だけが浮かんでいた。
帰り道の土は柔らかく、踏むたび微かな温みが足裏へ返った。
背後には白い残光だけが漂い、眠りきれぬ夢の殻のように静かに滲んでいた。
白い残光はゆるやかにほどけ、地平の端へと沈んでいった。
足元の土は乾き始め、歩くたびに柔らかな音だけが返ってきた。
胸の奥に残った冷えは、薄い余韻となって静かに留まっていた。
風は弱まり、空気はわずかに重さを取り戻していた。
指先に触れる温度は淡く、遠い白の記憶をなぞるように揺れた。
振り返っても境界は曖昧で、すでに輪郭は溶けていた。
沈黙の層だけが深く積もり、歩みの跡を静かに包み込んでいた。
残されたのは、確かに触れたはずの冷えと、消えかけた光の気配だけだった。