泡沫紀行   作:みどりのかけら

1539 / 1541
薄い白光が沈む谷の底で、まだ形を持たぬ気配だけが揺れていた。
湿った空気は重く、呼吸のたびに胸の奥へ淡い冷えが積もっていった。
遠くも近くも区別のない白さの中で、足先だけが確かな地面を探っていた。


石の隙間から滲む水音が、細い糸のように途切れながら続いていた。
指先をかすめる風は冷たく、肌の上に薄い膜を残して消えていった。
歩みは遅く、沈黙だけが先へ先へと伸びていった。


白の奥にはまだ眠ったままの深さがあり、そこへ降りていく気配だけが濃くなっていた。
視界の端で揺れる影は、記憶にも似ず、ただ静かに形を失っていった。
呼吸の温度だけが、かろうじて旅の輪郭をつないでいた。



1539 白き殿の創造夢界

薄い雲が水面へ垂れ込み、白い光だけが静かに漂っていた。

濡れた石を踏むたび、足裏に冷えが沈み込み、乾いた息が胸の奥で細く鳴った。

 

 

高みへ向かう坂は淡く磨かれ、掌を添えると硝子に似た滑りが残った。

風は白布のように広がり、遠くの空を曖昧に隠していた。

私は肩に溜まった湿気を払いながら、淡い傾斜をゆっくり辿った。

 

 

途中で細い水の匂いが混じった。

浅い流れの脇には白砂が沈み、踏むと柔らかな崩れが踵へ伝わった。

 

 

白壁に似た面が霧の向こうで浮き、静かな殿堂の影をつくっていた。

触れれば砕けそうな明るさなのに、その奥には重い夜気が閉じ込められているようだった。

 

 

乾いた草を踏む音だけが長く残った。

耳の裏へ風が入り込み、骨の内側まで冷たさが染みていった。

私は袖を握り、足先の感覚を確かめながら歩き続けた。

 

 

白い面の周囲には、薄青い空気が幾重にも滞っていた。

近づくほど輪郭は曖昧になり、かわりに微かな熱だけが皮膚へ触れた。

 

 

細い段差を越えると、掌へ鈍い震えが返った。

石の下を水が流れているらしく、低い響きが脛へ伝わってきた。

 

 

白光は時折かすかに濁り、眠り損ねた瞳のような陰を宿した。

私は立ち止まり、浅い息を吐いた。

吐息はすぐに散り、かわりに静かな湿りが唇へ残った。

 

 

傾いた草原には白い粒が降り積もっていた。

雪に似ていたが熱を含み、指で払うと灰のように崩れた。

 

 

空の奥では淡い群青がゆっくり動き、白壁の端を鈍く染めていた。

私はその色を見上げながら、胸骨の裏に重く沈む寒さを感じていた。

歩幅を狭めるたび、靴底の硬さが足首へ響いた。

 

 

細い回廊に似た道へ入ると、風は急に浅くなった。

白い光は硝子の膜のように重なり、触れれば指先を切りそうな冷えを帯びていた。

 

 

遠くで乾いた水音が反響した。

それは崩れた夢の欠片のように途切れ、静けさだけを長く引き延ばした。

 

 

私は白面の影へ身を寄せた。

そこには雪洞に似た柔らかな暗さがあり、冷えた肩から少しずつ力が抜けていった。

湿った石の匂いが衣へ染み込み、古い夜明けを思わせた。

 

 

白い空気の底では、見えない波が絶えず揺れていた。

足を止めるたび、その震えは膝裏へ伝わり、薄い疲労が静かに沈んだ。

 

 

細かな霧が頬へ貼りつき、指で拭うと硝子片のような冷たさが残った。

私は掌を見下ろしたまま、しばらく呼吸だけを聞いていた。

 

 

やがて白壁の影はゆるやかにほどけ、空へ溶け始めた。

淡い群青はさらに深まり、水辺には静かな銀色だけが浮かんでいた。

 

 

帰り道の土は柔らかく、踏むたび微かな温みが足裏へ返った。

背後には白い残光だけが漂い、眠りきれぬ夢の殻のように静かに滲んでいた。

 




白い残光はゆるやかにほどけ、地平の端へと沈んでいった。
足元の土は乾き始め、歩くたびに柔らかな音だけが返ってきた。
胸の奥に残った冷えは、薄い余韻となって静かに留まっていた。


風は弱まり、空気はわずかに重さを取り戻していた。
指先に触れる温度は淡く、遠い白の記憶をなぞるように揺れた。
振り返っても境界は曖昧で、すでに輪郭は溶けていた。


沈黙の層だけが深く積もり、歩みの跡を静かに包み込んでいた。
残されたのは、確かに触れたはずの冷えと、消えかけた光の気配だけだった。
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