泡沫紀行   作:みどりのかけら

1563 / 1563
乾いた風が峡路を抜けるたび、白い砂塵が足首へ薄く絡みついた。
私は曇った空を見上げ、遠くで途切れず並ぶ蒼灰色の柱影を見つめていた。


谷には水音の代わりに冷えた反響だけが沈み、踏み込むたび地面が浅く軋んだ。
かつて空を支えていたものの気配が、湿度として皮膚へ滲み続けていた。


指先へ触れた石肌は異様な冷たさを保ち、その内部で微かな震えを抱えていた。
私は掌に残る痺れを確かめながら、影の連なりへ向かって歩き始めた。



1563 蒼銀の空路支柱アーキテクト

薄い霧を抱えた斜面を歩くたび、足裏に硝子質の冷えが滲んだ。

灰青の空は低く垂れ、遠くへ伸びる支柱列だけが沈まぬ骨格として残っていた。

 

 

柱は谷をまたぎ、乾いた水脈の上へ影を編み込んでいた。

私はその根元へ触れ、内部で眠る震えのような温度差を掌に受け取った。

 

 

風は細い金属臭を含み、頬の皮膚を浅く削ってゆく。

足首まで積もる白砂は湿り気を抱え、歩幅のたび脈のように沈んだ。

 

 

支柱の表面には曇った銀膜があり、爪先で擦ると淡い粉が浮かび上がった。

それは季節の抜け殻のようでもあり、長く閉ざされた呼気の痕にも見えた。

 

 

谷底には水がなく、代わりに透明な影だけが流れていた。

私はその上へ降り、膝に絡む冷気の重みを静かに押し返した。

 

 

空路支柱と呼ばれていたものの残響が、風向きの変化に混じって漂っていた。

誰かの歩調に似た間隔だけが地面へ沈み、姿はどこにも残されていない。

 

 

支柱群の隙間を抜けるたび、肩へ淡い圧が重なった。

見上げれば蒼銀の梁が雲と同じ色へ溶け込み、境界だけを薄く光らせていた。

 

 

崩れかけた斜路には細かな硝子片が埋まり、靴底の下で鈍く軋んだ。

その感触は乾いた骨より柔らかく、雪解けの氷より深かった。

 

 

私は指先を口元へ寄せ、冷えの味を確かめた。

鉄にも塩にも似ない感覚が舌に残り、古い雨季の記憶を曇らせた。

 

 

遠い空では灰色の膜が裂け、そこから青白い光が滴っていた。

光は地面へ届く前に砕け、支柱の側面へ薄い鱗のように貼りついた。

 

 

歩き続けるうち、背中へ沈殿した疲労が石の重さへ変わっていった。

呼吸のたび胸郭の内側で冷気が擦れ、浅い痛みだけが静かに残った。

 

 

支柱の影には微かな温度差があり、踏み入れるたび皮膚が遅れて沈んだ。

そこにはかつて留まっていた気配の余韻が、湿度として漂っていた。

 

 

斜面の途中で細い雨が降り始めた。

粒は水というより硝子の粉に近く、頬へ触れるたび微かな熱を奪った。

 

 

私は外套の裾を握り、風へ押し返されぬよう体勢を低くした。

膝裏には冷えた泥が貼りつき、歩行のたび鈍い張力を生んでいた。

 

 

谷の向こうには巨大な支柱が一本だけ傾き、空へ刺さる槍のように立っていた。

その周囲だけ空気が澄み、遠雷に似た無音の震えが漂っていた。

 

 

近づくにつれ、柱肌の内部で淡い青が脈打っているのが見えた。

私は耳を寄せ、硬質な静けさの奥に沈む鼓動の残骸を感じ取った。

 

 

指を当てた瞬間、掌へ冷たい圧が流れ込み、肩まで透明な痺れが走った。

それは拒絶ではなく、長い孤立の末に残った微かな熱のようでもあった。

 

 

空では雲が裂け、蒼銀色の光帯が柱列へ斜めに落ちていた。

影は細長く伸び、谷全体を静かな水底へ変えていった。

 

 

私はその影の中をゆっくり進み、足裏へ返る反響を確かめた。

踏み締めるたび、誰にも届かなかった気配だけが地中から浮かび上がった。

 

 

やがて支柱群は霧の奥へ沈み、輪郭だけが淡く残った。

冷えた指先には硝子粉の光沢が付着し、消えない薄明のように瞬いていた。

 

 

振り返ると、谷には静かな青灰色の風だけが満ちていた。

私は重く湿った呼吸を抱えたまま、その空白の続きへ歩き続けた。

 




霧の深まる谷間では、支柱群の輪郭だけが薄い銀線となって残っていた。
私は冷えた呼気を抱えたまま、静まり返った斜面をゆっくり下っていた。


掌には硝子粉のような光沢が付着し、拭ってもなお淡く瞬いていた。
風が吹くたび、その微光は眠り損ねた残響のように指先で揺れた。


振り返った空には蒼銀色の裂け目だけが遠く浮かび、谷全体を静かな薄明へ沈めていた。
私は誰にも届かない気配を背後へ残し、その先の曖昧な地平へ歩き続けた。
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