踏みしめる土は柔らかく沈み、その奥でまだ名を持たない夢が息を潜めていた。
道はどこから始まったのか分からず、歩みだけが細い糸となって先へ続いていた。
掌へ触れる風は冷たさよりも軽さを運び、身体の輪郭を少しずつ曖昧にしていく。
旅の終わりを知るものはなく、残されるのは踏み重ねた感触だけだった。
継ぎ接がれた夢の断片を拾うでも捨てるでもなく、その境目に足を預けて歩き始めた。
朝靄は泡の膜を重ねたように谷を包み、足裏へ柔らかな冷えを渡してきた。
砕けた夢の縁を踏むたび、薄い響きが踵の内側へ沈むのを受け止めた。
細い道は継ぎ接がれた布の目のように続き、境目だけが淡く光っていた。
掌で土を払うと乾いた粒が皮膚へ残り、忘れられた約束の重さだけが指先に宿った。
低い石列は関門の骨組みを思わせ、影だけが律儀に並び替えられていた。
胸へ触れる風圧は静かな拒み方を知り、歩幅を少しだけ細く縫い直した。
湿り気を帯びた草は脛へまとわりつき、春の匂いを遅れて滲ませた。
足音は消え、代わりに余韻だけが地面の内側を巡っていた。
割れた礎には刃ではなく影渡りの刻み目が残り、薄闇を渡す筋となっていた。
指腹でなぞるほど冷えは深まり、皮膚の裏側まで細かな震えが染みた。
空は近いのに届かず、雲は継ぎ目から白い息を漏らしていた。
肩へ積もる明るさは軽く、それでも背筋は見えない秤へ掛けられたように伸びた。
土の色は一歩ごとに移ろい、夢の断片が混ざるたび柔らかさを変えた。
足裏は違いを黙って覚え、記憶より先に身体が道順を受け入れていた。
折れた枝は誰かの痕跡ではなく、遠い決意の温度差だけを抱えていた。
その近くでは風が浅く沈み、袖口へ静かな冷気を差し入れた。
淡い水たまりは空を映さず、影だけを丁寧に抱き留めていた。
靴底を濡らす冷たさは澄み、沈黙が足首までゆっくり満ちてきた。
関門らしき輪郭は近づくほど曖昧となり、境界だけが鮮やかに残った。
額を撫でる風は薄布の感触を持ち、迷いにも似た軽さを置いていった。
砕けた夢は石の隙間から芽吹き、柔らかな緑へ縫い直されていた。
指先へ触れた若葉は温く、古い冷えを静かに押し返した。
影渡りの筋は道を横切り、踏み越えるたび脈が足裏へ返ってきた。
身体は何も問わず、その拍だけを受け継いで前へ傾いた。
乾いた風は頬を薄く削り、残響だけを滑らせていった。
気配は形を持たず、それでも衣の裾は誰かの通過を覚えて揺れた。
石垣の欠片へ掌を添えると、ざらつきの奥から微かな湿度が滲んだ。
そこには義を名乗らぬまま留まった重みだけが眠っていた。
陽は傾かず、時間だけが泡のように弾けて道へ散った。
その粒を踏むたび膝の力は静かに抜け、呼吸だけが深く沈んだ。
春の香りは甘さよりも淡い土気を運び、胸の内側へ静かな層を重ねた。
その重なりをほどかず、歩みの温度だけを確かめ続けた。
関門の向こうにも同じ空があり、しかし明るさは少し遅れて届いていた。
腕へ触れる風は境目を越えるたび質を変え、皮膚が先に旅を理解した。
振り返れば道は継ぎ目を隠し、断片だけが柔らかな泡へ戻っていた。
残された余韻は足跡ではなく、重さを失った影として地面へ溶けた。
なお歩き、夢を拾うのでなく夢に拾われる軽さを身にまとった。
春は静かな湿度のまま掌へ宿り、刻まれた影だけが次の境界へ先回りしていた。
関門の余韻は背後へ沈み、影だけが足元から静かにほどけていった。
肩を抜ける風は春の湿りを抱え、旅の重さを薄い膜へ変えていた。
拾い集めたと思っていた夢の断片は、いつしか私の足裏へ縫い込まれていた。
一歩ごとに触れる土の感触だけが、それらを確かなものとして受け止め続ける。
泡沫の世界は振り返るたび形を失い、それでも身体には温度だけが残っていた。
その温度を携えたまま、まだ見えない次の境界へ静かに歩みを重ねていった。