泡沫紀行   作:みどりのかけら

1607 / 1627
薄明は泡のように幾重にも折り重なり、私の足元だけを静かに浮かせていた。
踏みしめる土は柔らかく沈み、その奥でまだ名を持たない夢が息を潜めていた。


道はどこから始まったのか分からず、歩みだけが細い糸となって先へ続いていた。
掌へ触れる風は冷たさよりも軽さを運び、身体の輪郭を少しずつ曖昧にしていく。


旅の終わりを知るものはなく、残されるのは踏み重ねた感触だけだった。
継ぎ接がれた夢の断片を拾うでも捨てるでもなく、その境目に足を預けて歩き始めた。



1607 影渡りが刻まれた義者の関門

朝靄は泡の膜を重ねたように谷を包み、足裏へ柔らかな冷えを渡してきた。

砕けた夢の縁を踏むたび、薄い響きが踵の内側へ沈むのを受け止めた。

 

 

細い道は継ぎ接がれた布の目のように続き、境目だけが淡く光っていた。

掌で土を払うと乾いた粒が皮膚へ残り、忘れられた約束の重さだけが指先に宿った。

 

 

低い石列は関門の骨組みを思わせ、影だけが律儀に並び替えられていた。

胸へ触れる風圧は静かな拒み方を知り、歩幅を少しだけ細く縫い直した。

 

 

湿り気を帯びた草は脛へまとわりつき、春の匂いを遅れて滲ませた。

足音は消え、代わりに余韻だけが地面の内側を巡っていた。

 

 

割れた礎には刃ではなく影渡りの刻み目が残り、薄闇を渡す筋となっていた。

指腹でなぞるほど冷えは深まり、皮膚の裏側まで細かな震えが染みた。

 

 

空は近いのに届かず、雲は継ぎ目から白い息を漏らしていた。

肩へ積もる明るさは軽く、それでも背筋は見えない秤へ掛けられたように伸びた。

 

 

土の色は一歩ごとに移ろい、夢の断片が混ざるたび柔らかさを変えた。

足裏は違いを黙って覚え、記憶より先に身体が道順を受け入れていた。

 

 

折れた枝は誰かの痕跡ではなく、遠い決意の温度差だけを抱えていた。

その近くでは風が浅く沈み、袖口へ静かな冷気を差し入れた。

 

 

淡い水たまりは空を映さず、影だけを丁寧に抱き留めていた。

靴底を濡らす冷たさは澄み、沈黙が足首までゆっくり満ちてきた。

 

 

関門らしき輪郭は近づくほど曖昧となり、境界だけが鮮やかに残った。

額を撫でる風は薄布の感触を持ち、迷いにも似た軽さを置いていった。

 

 

砕けた夢は石の隙間から芽吹き、柔らかな緑へ縫い直されていた。

指先へ触れた若葉は温く、古い冷えを静かに押し返した。

 

 

影渡りの筋は道を横切り、踏み越えるたび脈が足裏へ返ってきた。

身体は何も問わず、その拍だけを受け継いで前へ傾いた。

 

 

乾いた風は頬を薄く削り、残響だけを滑らせていった。

気配は形を持たず、それでも衣の裾は誰かの通過を覚えて揺れた。

 

 

石垣の欠片へ掌を添えると、ざらつきの奥から微かな湿度が滲んだ。

そこには義を名乗らぬまま留まった重みだけが眠っていた。

 

 

陽は傾かず、時間だけが泡のように弾けて道へ散った。

その粒を踏むたび膝の力は静かに抜け、呼吸だけが深く沈んだ。

 

 

春の香りは甘さよりも淡い土気を運び、胸の内側へ静かな層を重ねた。

その重なりをほどかず、歩みの温度だけを確かめ続けた。

 

 

関門の向こうにも同じ空があり、しかし明るさは少し遅れて届いていた。

腕へ触れる風は境目を越えるたび質を変え、皮膚が先に旅を理解した。

 

 

振り返れば道は継ぎ目を隠し、断片だけが柔らかな泡へ戻っていた。

残された余韻は足跡ではなく、重さを失った影として地面へ溶けた。

 

 

なお歩き、夢を拾うのでなく夢に拾われる軽さを身にまとった。

春は静かな湿度のまま掌へ宿り、刻まれた影だけが次の境界へ先回りしていた。

 




関門の余韻は背後へ沈み、影だけが足元から静かにほどけていった。
肩を抜ける風は春の湿りを抱え、旅の重さを薄い膜へ変えていた。


拾い集めたと思っていた夢の断片は、いつしか私の足裏へ縫い込まれていた。
一歩ごとに触れる土の感触だけが、それらを確かなものとして受け止め続ける。


泡沫の世界は振り返るたび形を失い、それでも身体には温度だけが残っていた。
その温度を携えたまま、まだ見えない次の境界へ静かに歩みを重ねていった。
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