その匂いに導かれるように、名のない砂の上へ足を置いた。
風は記憶の前触れのように、肌の表面をかすめていった。
夜明けと呼ぶにはまだ早い光が、湾の輪郭を曖昧にほどいていた。
遠くで崩れる波の気配が、言葉になる前の震えとして残っている。
その震えを胸の奥に受け入れながら、歩き出す準備をしていた。
見えない誰かの気配が、湿った空気の層に沈んでいた。
触れれば消えるほどの温度差が、足元から静かに立ち上がる。
その不在の重さを確かめるように、ゆっくりと前へ進んだ。
泡沫の海岸を歩き出した朝の気配は、薄い塩の重さを帯びていた遠くまで滲む光の中で。
砂の粒は記憶のようにほどけた。
足裏に触れる砂は冷えを残し、波の遠い記憶を返してきた砂の粒は記憶のようにほどけた。
碧湾と呼ばれる入江へ向かい、ただ歩幅だけを頼りに進んだ風の向きは絶えず変わっていた。
風の向きは絶えず変わっていた。
風は内側から湿り、皮膚の輪郭を曖昧に溶かしていった肌の奥にまで湿りが染み込むように。
恋路海岸と呼ばれる場所には、言葉を失った残響だけが沈んでいた波の底に声なき響きが沈んでいた。
時間の輪郭がゆっくりと溶けていく。
潮の満ち引きは呼吸のように、見えない時間を削っていく時間の輪郭がゆっくりと溶けていく。
岩場に手を置き、冷えた表面から記憶の硬さを感じ取った指先に冷たい記憶が触れていた。
潮の飛沫が過去の輪郭を曖昧にする。
海水の跳ね返りが足首を打ち、過去の輪郭を曖昧にした潮の飛沫が過去の輪郭を曖昧にする。
湾の奥には、消えかけた温度が層のように積もっていた沈黙の層が海底に積もるようだった。
足跡は波に触れ消えていく運命だった。
砂浜に残る足跡はすぐにほどけ、誰かの気配だけを残した足跡は波に触れ消えていく運命だった。
波打ち際で立ち止まり、胸の奥に冷たい空白を抱えた胸の奥で静かな痛みが揺れていた。
思考の縁が波のように揺らいでいた。
遠くの海鳴りは薄い膜となり、思考の縁を揺らしていた思考の縁が波のように揺らいでいた。
碧湾の水面には、語られなかった恋の名残が揺れている恋の残響が水面に薄く滲んでいた。
湿度が言葉の代わりに胸へ届いた。
その揺らぎに触れ、言葉の代わりに湿度を受け取った湿度が言葉の代わりに胸へ届いた。
岩の裂け目から滲む水は、忘れられた時間の匂いを含んでいた時間の匂いがゆっくりと漂っていた。
境界は砂のように崩れていった。
それを指先で確かめ、境界が曖昧になる感覚に沈んだ境界は砂のように崩れていった。
潮騒の奥で、誰かの歩みが消えた痕跡だけが残っていた消えた足音の余韻が残っていた。
胸の内で静かに波がほどけていく。
その欠片を拾い上げ、胸の内で静かに溶かしていった胸の内で静かに波がほどけていく。
波間に浮かぶ光は薄く裂け、遠い約束の形を失っていた光は裂け目のように揺らいでいた。
歩みの奥に静かな影が沈んでいた。
その断片を見送り、何も触れずに立ち尽くしていた歩みの奥に静かな影が沈んでいた。
湾の空気は徐々に重さを増し、肌に薄い圧を残していた圧の中で呼吸が薄く揺れていた。
記憶の縁が静かにほどけていく。
その圧の中で、言葉のない記憶を静かに辿っていた記憶の縁が静かにほどけていく。
海面の揺れはやがて淡い静止へと変わり、時間が薄くなる時間は薄い膜のように消えていく。
存在の軽さが波間に揺れていた。
その境目に足を置き、存在の軽さを確かめていた存在の軽さが波間に揺れていた。
碧湾の底には、消えた恋の名残が静かに沈殿していた沈殿する恋が海底に眠っていた。
呼吸は浅く、波の奥へと続いた。
それを見上げるように感じ、呼吸を浅くして歩いた呼吸は浅く、波の奥へと続いた。
岩場の陰に残る湿り気は、過ぎた時間の手触りを保っていた過去の湿りが指に残っていた。
沈黙が深く海のように広がる。
その温度差に指を沈め、沈黙の深さを測っていた沈黙が深く海のように広がる。
潮の満ちる音なき波が、足元の砂を少しずつほどいていく砂がほどける音なき感覚だった。
消失の中で境界が消えていく。
それに身を委ね、境界の消失をただ受け入れていた消失の中で境界が消えていく。
碧湾の夕刻は薄い青に沈み、海と空の区別を曖昧にした夕刻の青が静かに広がっていた。
胸の奥で温度が微かに揺れた。
その色の中で、名もない温度を胸に留めていた胸の奥で温度が微かに揺れた。
波打ち際に残された影は、すぐに海へと吸い込まれていった影が海へ溶けるように消えた。
立ち止まる時間が長く伸びていた。
その消失を見届け、歩みを止めたまま立ち続けた立ち止まる時間が長く伸びていた。
碧湾の空には、言葉にならない恋語りの余白が漂っていた余白が海風に揺らいでいた。
夢の終わりが波間に沈んでいく。
その余白を胸に抱き、波へ還る夢の終わりを受け取った夢の終わりが波間に沈んでいく。
碧湾の名残は、すでに海と空の境界からこぼれ落ちていた。
その崩れた輪郭を背に、ゆるやかに歩みを戻していた。
風はすべてを等しく薄め、記憶の密度を静かに均していく。
足裏に残る砂の感触だけが、過ぎた時間の確かさを示していた。
それは誰のものでもない温度として、沈黙の奥に沈んでいる。
振り返らず、その温度をそのまま持ち続けた。
海鳴りは遠ざかるほどに軽くなり、やがて内側へと移っていった。
境界は消え、歩くという行為だけが淡く残されている。
その軽さのまま、次の泡沫へと向かっていた。