歩幅の下で地面は乾ききり、薄い振動だけが遠く続いている。
私はその揺れの方向を確かめるように、足を前へ置いた。
境目は視界の奥でわずかに折れ曲がっていた。
光はそこで一度ほどけ、再び別の密度として結び直される。
触れれば崩れる予感だけが、皮膚の表面に残る。
湿度のない風が横切り、身体の輪郭を一瞬だけ軽くする。
その軽さは進行ではなく、沈み込みの前触れのようだった。
私は言葉のない気配のほうへ、静かに重心を移した。
白い層界に足を踏み入れた。
空気は湿り、紙の匂いが重なっている。
私は徒歩のまま境目を越えた。
足裏に柔い繊維の起伏を感じる。
地面は紙と水が混ざり合う層だった。
風は薄く刃のように肌を撫でる。
白の工房界は遠くまで折り重なる。
光は乾いた霧となり輪郭を滲ませる。
歩みごとに沈む感触が深くなる。
紙霊の痕跡が壁面に浮かんでいる。
直接の姿はなく、温度差だけが残る。
私はその余白に指先の意識を置く。
白層の回廊は折れた記憶のように続く。
湿度は呼吸より遅く身体に染み込む。
視界の端で紙片が微かに震えている。
工房らしき空洞は静かに開いていた。
中には誰の気配もなく熱だけが残る。
私は入口の縁に足をかけ圧を測る。
白紙の繊維は水脈のように脈打つ。
触れれば崩れるが形はすぐに戻る。
その循環が歩行のリズムと重なる。
遠くで紙霊の残響が層を揺らす。
音ではなく圧の揺らぎとして伝わる。
私はそれを追わず、ただ足を進める。
白い谷間に湿った風が溜まっている。
そこでは時間が薄く屈折して見える。
身体の輪郭がわずかに遅れて動く。
紙層の床は歩くたびに微細に沈む。
沈みは反発せず静かに受け入れられる。
私はその柔らかさに重心を預ける。
白の工房群は霧の奥で断続的に現れる。
入口には作業の余韻だけが残っている。
私はその余韻に指を通すように進む。
紙霊の気配は熱と冷の境で揺れている。
そこに形はなく圧の偏りだけがある。
私はその偏りを避けず受け止める。
白層の壁は薄く呼吸するように揺れる。
触れれば沈黙が逆流する感覚がある。
私は手を引かずそのまま歩みを保つ。
足元の繊維がほどけて再び結び直される。
その反復は時間の裏側をなぞっている。
私はその揺らぎの中心を歩いている。
白い空洞に微かな温度の溜まりがある。
そこでは過去の圧が層として滞留する。
私はその重さに足を取られず進む。
紙霊の残響は壁面を流れる水のようだ。
触れれば形を変え、また元へ戻ろうとする。
私はその循環を横目に歩幅を一定にする。
白層の奥で光が折れ曲がり密度を持つ。
その光は視界ではなく皮膚で感じる。
私はその圧を受けながら境を探る。
工房界の底には静かな白の沈殿がある。
そこでは紙霊の痕跡が層となり堆積する。
私はその上を歩き続けるしかない。
白い風は緩やかに方向を失っていく。
時間の境目は薄く破れ重なり合う。
私はその裂け目に足を差し入れる。
白の工房界は遠ざかりながらも皮膚に残る。
紙霊の気配は薄い膜となり旅の後方へ漂う。
私はその残光を抱えたまま、徒歩のまま次の層へと沈み込む。
白層の残響は皮膚の表面に薄い膜として留まっていた。
歩むたびにそれは微かに剥がれ、また別の層として貼り直される。
私はその循環を振り払わず、ただ足裏の感触に従って進む。
境目の外側は急に湿度の密度を増していた。
空間は紙の白から灰みを帯びた透明へと移ろい、輪郭が遅れて立ち上がる。
地面は柔らかいが沈み込みは浅く、代わりに冷えが膝へ上がってくる。
遠くの層では紙霊の圧がまだ微かに反転している。
その揺れは視界ではなく、骨の内側でだけ遅れて響く。
私はその遅延を抱えたまま、次の沈黙の方向へ歩みを重ねる。
白の工房界は背後で緩やかに折れ、層の奥へ沈んでいった。
残された紙霊の気配は薄い膜となり、歩行の軌跡に沿って漂う。
私はその消え残りを振り返らず、ただ呼吸の深さだけを確かめる。
足裏に残る繊維の感触は、まだ微かに熱を帯びている。
それは記憶ではなく圧の残響として、遅れて追いかけてくる。
歩幅を変えずに進むうち、その熱は徐々に薄れていく。
次の層界の入口はすでに輪郭を失いかけていた。
境目は存在というより、温度のわずかな偏りとして広がる。
私はそこへ足を差し入れ、また新しい沈黙へ沈んでいく。