泡沫紀行   作:みどりのかけら

1761 / 1804
緑の回廊へ向かう前、空気はまだ薄い層のまま留まっていた。
湿りを含まない風が皮膚の上を通過し、輪郭だけを残していく。
遠くで水音のような気配が断続的に揺れていた。


地面は乾いた記憶を保ったまま静かに広がっていた。
歩みはまだ軽く、足裏に確かな沈みはない。
それでも奥へと引かれるような圧がわずかに滲んでいた。


光は均され、影は浅く、すべてが境界の手前にあった。
均衡のなかで、回廊の入口だけが微かに濃さを増している。
水の気配はまだ遠く、名もない予兆として漂っていた。



1761 水音が刻む緑の回廊路

緑の回廊路へ足を踏み入れたかすかに湿る気配とともに。

湿った空気が皮膚に薄くまとわりつくゆっくりと。

水音だけが奥へと細く延びていた遠くへ。

 

 

葉の重なりが光を砕き、足元へ落とす静かに。

踏みしめる土は柔らかく、沈むたび冷える深く。

緑の匂いが喉の奥で静かにほどけるゆるやかに。

 

 

水路の気配が細い線となって続くかすかに。

石の表面には長い湿りの層が残る冷たく。

指先が触れるたび冷たさが輪を描く静かに。

 

 

川辺の風は見えない圧となって流れるゆっくりと。

水面の揺らぎが空の色を細かくほどくかすかに。

足首に触れる冷気が歩みを静かに整える深く。

 

 

回廊は曲がるたびに深さを増していく静かに。

葉擦れの音が背後で薄く滲んで消える遠く。

湿度の重みが肩にそっと積もり続けるゆっくりと。

 

 

木々の隙間から淡い光が断続的に降るかすかに。

光は地面で小さな粒へと分解される静かに。

掌に残る熱が水音へと吸い込まれていくゆるやかに。

 

 

川の流れは見えない速さで記憶を削るかすかに。

足裏に伝わる石の冷えが時間を鈍らせる深く。

遠くの気配だけが水面に細く揺れている静かに。

 

 

緑の壁が歩行の軌跡をゆっくり閉じるかすかに。

湿った空間に呼吸の重さが静かに沈む深く。

水音だけが道の形を示す微かな指標となるゆるやかに。

 

 

足元の泥が歩くたびに形を変えていくかすかに。

冷たい水が靴の縁をかすめて流れる静かに。

感触が過去の歩みを静かに呼び起こす深く。

 

 

葉陰に溜まる空気が重く温度を持ちはじめるゆっくりと。

層を抜けるたび身体がわずかに軽くなるかすかに。

湿りの奥で水音が遠くへと折りたたまれる静かに。

 

 

川沿いの空気は緑の色を深く含んでいるかすかに。

足跡はすぐに湿気に飲まれて輪郭を失うゆるやかに。

それでも歩みは絶えず奥へと誘われる静かに。

 

 

水面の揺れが空の重さを細く引き延ばすかすかに。

風は途切れながらも肌に薄い圧を残す深く。

圧が歩幅を静かに均していくゆっくりと。

 

 

回廊の奥行きが光の粒をゆっくり飲み込むかすかに。

水音の反響が緑の壁をなぞり続ける静かに。

歩くたびに時間の輪郭が滲んで崩れる深く。

 

 

湿地のような空気が足首に絡みつくかすかに。

光の欠片が水面に落ちては消えていく静かに。

反復が歩みの方向を静かに変えるゆるやかに。

 

 

緑の回廊は終わりのない息を続けているかすかに。

水音が遠ざかるたびに身体が軽くなる静かに。

それは進行ではなく沈降に近い感覚だった深く。

 

 

足元の水が歩みの影を細く引き延ばすかすかに。

湿りを帯びた風が皮膚の境界を曖昧にする静かに。

曖昧さが歩く理由を静かに溶かしていくゆっくりと。

 

 

回廊の終端はまだ見えない濃さで満ちているかすかに。

水音だけが方向の代わりとして残る静かに。

残響が足裏に深く沈み込んでいくゆるやかに。

 

 

緑の回廊を抜ける瞬間、空気が薄くほどけるかすかに。

足元の湿りが遠い記憶のように軽くなる静かに。

水音だけが静かに背後へと遠ざかっていくゆるやかに。

 

 

回廊の外縁に薄い霧が漂うかすかに揺れて。

湿った風が皮膚の表面を静かに撫でるゆるやかに。

水音の奥で微かな残響が折り重なる深く。

 

 

緑の壁面が歩みの影を吸い込んでいく静かに。

足元の水が時間の輪郭を細く揺らすかすかに。

揺らぎが進行の感覚を曖昧にするゆっくりと。

 

 

回廊の空気は緑の重さを深く孕んでいるかすかに。

湿地のような地面が歩幅を静かに受け止めるゆるやかに。

水音だけが奥へ奥へと薄く延び続ける静かに。

 

 

緑の回廊の終端に淡い光が滲んでいるかすかに。

足元の湿りが記憶の底へと沈み込む静かに。

水音が遠ざかり、回廊は静止へと溶けるゆるやかに。

 




緑の回廊を抜けた後、湿りは静かに背後へ退いていった。
足元の重さは薄れ、歩幅は再び軽い空気に戻る。
それでも皮膚には微かな水の記憶が残っていた。


水音は遠ざかりながらも、断片として耳の奥に滞る。
緑の濃度は徐々に解け、空間は均質な広がりへと戻る。
境界の感覚だけが遅れて追いついてくるように揺れていた。


振り返ると、回廊は既にひとつの影の層へと変わっていた。
そこには入口も終端もなく、ただ湿りの残響だけがある。
歩みは止まらず、記憶だけが静かに滲み続けていた。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。