私は揺らぎに足を沈め、重さの所在を確かめるように進む。
冷えた空気は喉の奥で細く折れ、呼吸のたびに薄い刃の記憶を残した。
地平には麺のように伸びる白い帯が見え隠れしていた。
それは流れているのか留まっているのか判別できないまま揺れている。
私は曖昧な線へと、ただ徒歩の速度で近づいていく。
足裏に触れる大地は時折、繊維質へと変質する。
踏み込むたびに遅れて沈む感触が骨へと伝わる。
世界は完成を拒むように、常に崩れの気配を孕んでいた。
白く曇る境界の朝を、私は徒歩のまま踏み越えた。
足裏には湿った砂粒が絡み、世界の輪郭がわずかに軋む。
風は冷たく、喉の奥に細い刃の気配を残した。
遠くの低地には、霧に沈む麺状の川がうねっていた。
それは流体でありながら、時折固い筋を見せる。
揺らぎが歩行の均衡を静かに奪う。
私は呼吸を浅くし、温度の層を数えるように進んだ。
冷気は衣の隙間へ潜り込み、皮膚の記憶をなぞる。
そこには確かな痛みではなく、遅れてくる圧があった。
麺食の残響を思わせる香りが、どこからか滲んでいる。
大根の白い気配が、空気を薄く削っていた。
それは視覚よりも早く舌の裏に届く錯覚だった。
地面は時折滑らかに変質し、歩幅を試すように揺れる。
私は足先で変化を確かめながら進む。
世界は常に未完成のまま固まろうとしていた。
霧の裂け目に、細い皿のような平面が現れる。
上には白い屑が静かに積もっていた。
それは削られた時間の残滓のように見えた。
指先に触れる空気は刃物の縁のように冷たい。
触れた瞬間だけ、世界の密度が変わる。
私はそれを確かめるために掌を開いた。
足元の地層には、麺の断面を思わせる縞が走る。
模様は規則と崩壊を同時に抱えていた。
進むたびに音のない切断が繰り返される。
風は低く唸り、遠い調理場の幻影を運ぶ。
そこでは何かが削られ、整えられている気配がある。
しかし形は最後まで現れないまま消える。
私の喉は乾き、冷気だけが内部を満たしていく。
それは飢えではなく、空白に似た重さだった。
歩くほどに内側の輪郭が曖昧になる。
白い丘陵のような地形が、ゆるやかに波打っていた。
表面には細い削り跡が無数に刻まれる。
触れれば崩れるが、崩れながら形を保つ。
私は上を歩き、沈み込みの深さを測る。
足跡はすぐに霧へと溶け、残らない。
それでも歩いた事実だけが重く積もる。
遠方に薄い光の筋が走り、空を半分だけ裂いている。
裂け目から冷気が滴るように落ちてくる。
それは刃の形をした時間の漏れだった。
麺のような細い道が、地平へ向かって伸びている。
表面は濡れたように光を反射する。
私はそこに足を置くことをためらわない。
接地した瞬間、振動が骨へと遅れて届く。
世界が一度だけ締め直される感覚がある。
収縮の中で方向感覚が薄れていく。
風の中に、大根を削るような鋭い匂いが混じる。
匂いは視界を白く染め、距離を曖昧にする。
私はそれを追うように歩みを速める。
足元の地面は細い繊維へと分解されつつあった。
それは麺の束のように絡まりながら続く。
崩壊と生成が同時に進行している。
私の皮膚は冷気に晒され、境界が薄くなる。
内と外の区別が徐々に失われていく。
それでも歩行だけが確かな軸として残る。
遠くに微かな盛り上がりが見え、白い蒸気が立つ。
そこには終端ではなく、調和の気配がある。
しかし到達は常に遅れて近づいてくる。
最後の一歩の前で、世界は静かに沈黙する。
冷涼の刃は音を持たずに麺を刻み続ける。
私は切断の只中に、歩みを預けた。
麺の調べはやがて空白の奥でほどけ始める。
私は解体される静けさに足を沈める。
冷気は刃の余韻を残しながら薄く広がる。
歩みの終わりは始まりと同じ温度をしていた。
霧の底に残る大根の白は、遠い記憶のように冷たい。
私はそこに立ち止まらず、ただ歩幅だけを重ねる。
刻まれ続ける麺の音なき響きが、背後へと流れていく。
白い余韻は沈黙よりも遅く、背後で解け続けていた。
私は振り返らず、解体の温度だけを皮膚に残す。
冷涼の刃はすでに形を失い、ただ気配だけが漂っている。
麺状の地層は静かにほどけ、境界の記憶を曖昧にしていく。
歩幅の痕跡は霧に吸われ、存在の証明だけが軽く残る。
私は消失を確かめるように、再び足を前へと運ぶ。
遠くでは白い光が滲み、始まりにも終わりにも似た色をしている。
光に意味はなく、ただ温度だけがわずかに異なっていた。
私はそこへ向かわず、しかし確かに方向を知っているまま進む。