泡沫紀行   作:みどりのかけら

1776 / 1804
薄い灰色の光が地平の代わりに広がり、境界の位置を曖昧にしている。
足元には水とも砂ともつかぬ層が重なり、踏み出すたびに沈み方が異なる。
不確かな地面を確かめるように、ゆっくりと歩き始める。


遠くで門の影が揺れ、空と海の区別をほどいているように見える。
風は外側からではなく内側の隙間を通り抜けるようにして身体を撫でる。
呼吸の奥に冷たい湿度が入り込み、時間の輪郭を少しずつ崩していく。


残された痕跡のような温度が地表に滲み、歩く方向を静かに誘導する。
見えない流れが足首にまとわりつき、進むごとに重さを変えていく。
流れを断ち切らず、ただ受け入れながら前へ進む。



1776 海原を見守る天上の門扉

薄い潮風が皮膚の表面をなぞるように通り過ぎていく。

海辺のない海原を黙々と徒歩で横断している。

遠くの門影が揺れながら光の膜をわずかに歪ませる。

 

 

足裏に沈む湿った砂の記憶が歩くたびに重さを増す。

風は横からではなく内側から押し上げるように感じられる。

境界の曖昧な光を踏みしめながら先へ進み続ける。

 

 

潮の匂いに似た空白が喉の奥で静かに広がっていく。

見上げる門は空と海の区別を曖昧に溶かして佇んでいる。

足元の水面は歩幅の遅れを追うように静かに揺れ続ける。

 

 

白い霧が骨の周囲へ滲み込むように身体を包み込む。

声なき気配が石段のひび割れに染み込んで冷たさを残す。

重さを背中で受け止めながら歩みを止めない。

 

 

海のない海図が胸の奥で静かに展開される感覚がある。

遠い温度差が足首を締め付けるようにゆっくり流れ込む。

見えない流れが肌の表面を削るように過ぎ去っていく。

 

 

門扉の影が空の底へ沈み込み時間の厚みを歪めている。

光の粒を踏みながらも密度に足を取られそうになる。

湿った時間が膝裏に滞留し歩行の速度をわずかに奪う。

 

 

海原の奥で誰かの残響のような気配が漂い続けている。

足音のない足跡だけが地面に残り時間の層を示している。

空白を呼吸として受け入れながら前へ進む。

 

 

霧の裂け目に淡い門が立ち上がり境界の揺らぎを示す。

縁は水面よりも静かに揺れ存在の不確かさを強める。

そこへ向かう圧力を全身で感じながら歩幅を合わせる。

 

 

潮が引くたび地面の厚みが薄くなるような錯覚が生じる。

光は重さを持たず沈むように空間の底へ消えていく。

沈黙を足裏で確かめながら歩行を続けている。

 

 

門の向こうに海のない水平線が静かに伸びて見える。

空気は冷えた石のように固まり触れる感覚を拒むようだ。

境界を越えないまま進む意思だけを保ち続ける。

 

 

湿度の高い光が肩へ沈み込み重さとして残り続けている。

見えない圧が背後から押し寄せ歩行の軌道をわずかに歪める。

歩くたび時間の層を踏みしめ厚みを感じ取る。

 

 

海の記憶は砂粒のように空間を漂い視界の端に残る。

門の影が足首に絡みつくように温度を奪い去っていく。

重さを静かに受け止めながら呼吸を整える。

 

 

霧の内側で海鳴りのような気配が遠ざかり消えていく。

足元の光は水のように逃げていき掴むことができない。

それを追わずに受け入れ歩行のリズムを維持する。

 

 

門扉の奥で風が折り重なり層のように厚みを増している。

海のない波が足元を通過し身体の内部を揺らしていく。

通過を皮膚で記憶しながら前へ進み続ける。

 

 

時間の裂け目に淡い熱が残り歩くたびに揺れを返す。

足音のない風が脛を撫でて過去の感覚を引き戻すようだ。

温度差に身を委ねながら境界を見失わない。

 

 

海原の縁で光が折れ曲がり存在の輪郭を曖昧にしている。

門の内側は冷たい湿度で満ち呼吸の深さを奪っていく。

そこに足を置き続けながら重力の変化を感じる。

 

 

霧が骨の奥まで浸透し身体の内部を静かに満たしていく。

海の記憶が足裏に滲み歩くたびに感覚を揺らしている。

滲みを見ないまま歩行を続けることを選ぶ。

 

 

門影が遠くで脈打つように揺れ境界の存在を示し続ける。

足元の海は存在しないまま揺れ視界の底に幻を残す。

揺れの中心を知らぬまま歩幅だけを進める。

 

 

薄い光が地平の代わりに広がり時間の方向を失わせる。

湿った風が背中を押すようでいて実際には内側から来る。

圧力に従いながらも歩行の選択を保ち続ける。

 

 

境界の門を通り過ぎた先でも海の気配は消えきらない。

身体に残る湿度が旅の終わりを曖昧に引き延ばしている。

最後まで歩く存在として微光の中に佇み続ける。

 




門を越えた先にも海は消えず、むしろ輪郭のないまま広がり続けている。
足裏に伝わる感触は変わらず、湿った記憶の層だけがわずかに薄くなる。
振り返らず、まま歩幅を維持しながら先へ進んでいる。


光は静かに沈み、空間の奥行きだけが深くなっていくように感じられる。
風はもはや方向を持たず、全身の内側で緩やかに循環している。
境界を越えた実感はなく、ただ連続する歩行だけが残されている。


遠くで揺れる気配が薄くなり、海原の残響は時間の底へ沈んでいく。
それでも足元には確かな重さが残り、歩くたびに静かな抵抗を返す。
抵抗を確かめながら、微光の続く方へと歩き続けている。
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