泡沫紀行   作:みどりのかけら

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永遠は、触れられないものではない。

それは時に、ひとときの揺らぎの中に宿る。
誰の声も届かぬ場所で、誰にも名づけられぬ姿のまま、ただそこに在る。
私は今日も歩いていく。

風が選び、光が触れた、その一瞬のために。


0062 砂上の夢道

風は遠い記憶のように、肌の端を撫でてはすぐに消えた。

歩くたび、足元の白砂がわずかに鳴き、乾いた音を残す。

地の色は淡く、空と海の狭間で、その存在を確かめるように揺れていた。

 

潮は引いていた。

 

海は遠くへ退き、剥き出しの大地は静謐な祭壇のようだった。

そこに在るのは、砂の城、塔、獣、詩、祈り——名を持たぬ無数の形。

 

それらは誰に許しを得ることもなく、ただ並び、ただ息をしていた。

時間の理から解き放たれたように、ただ風の中で凪いでいた。

 

城の門は開かれていた。

だがその奥に続く路はなく、空を仰ぐように空虚を抱えていた。

塔の尖端は空に届かず、けれど天を想っていた。

曲線が舞い、光を繋ぎ、風の影を映していた。

 

私は歩き続けた。

砂の都市を、言葉のない言語で読み解くように。

誰が作ったのか、なぜここにあるのか。

答えはなかった。

しかし、それが意味を超えて胸を打つことだけは、確かだった。

 

波音は遠く、だが心に近かった。

砂の動物たちは、時の眠りに身を浸していた。

翼を広げた鳥は飛ばず。

首をもたげた獣は吠えず。

ただ、造られたという奇跡だけを纏ってそこにいた。

 

陽がわずかに傾き、陰が静かに伸びていた。

影は形をなぞり、別の命を与える。

見えなかったものが輪郭を得て、目に見える祈りとなって浮かび上がる。

 

掌でそっと触れてみた。

指先に伝わるのは、儚さと、確かさと、消えゆくものの温もり。

この街は風に消えることを知っている。

だが、それまでの間だけでも、美しく在ろうとしている。

 

そこには欲も名誉もなかった。

あるのはただ、在ることの誇りだけだった。

 

しばらく歩いて、砂の塔のひとつに身を寄せた。

風が吹き、砂がひと筋、頬を撫でて過ぎていった。

それはどこか懐かしく、幼い頃の夏の日をふと思わせるものだった。

 

崩れかけた壁があった。

それはまるで、誰かの夢がもう少しで覚める瞬間のようだった。

けれど、それすらもこの場所では祝福だった。

 

ここでは、壊れることが悲しみではなく、巡りの一部なのだと知る。

壊れることで、また誰かが創る。

風がさらい、海が洗い、新たなかたちがやって来る。

 

旅は続く。

 

足元にはまだ踏まれていない砂があり。

その上にはまだ描かれていない線がある。

 

私はそれを探して歩いた。

名もなき芸術たちの間を抜け、風の気配を背に感じながら。

 

ここは誰のものでもない。

けれど、誰の心にも触れる。

永遠を知らない砂が、一瞬の永遠を抱く場所。

 

その記憶は、私の内に確かに刻まれていた。

消えることを前提とした美しさが。

何よりも深く、鮮やかだった





見つけたものは、消えていくものだった。
けれど、だからこそ心を打つ。
砂に刻まれた夢は、やがて潮にさらわれる。
だがその儚さが、世界のどこかを確かに輝かせるのだ。
私はまた歩く。

静かに、ひとつの記憶を抱いて。
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